仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【2017.8.4_1315リンク切れ確認済み_報道】「山形大の学生が自殺、遺族が提訴 アカハラで処分、助教の研究室所属」(山形新聞)等について考えたこと

<本記事の内容>

1.はじめに~今回の山形大での学生自殺と日本における「アカハラ自殺」報道の現状について~

先週の半ば、私のTwitterのタイムラインに、山形大学で学生が自殺し、その学生の研究室の助教が「アカハラを理由に停職処分を受けていた」のが学生の自殺前だったというニュースが、まず山形新聞で流れてきました:

yamagata-np.jp

 

山形新聞のオンライン記事のアイキャッチを見た瞬間、心が弱っていた私は目に手を当てたくなりました。

 

しばらくして、冷静になった私は、次のことを思い出しました。実は、大学・大学院の構成員の自殺の件が、きちんとニュースとして新聞に出てくるだけでも、非常に不謹慎であることを承知で申し上げると、「奇跡」に近いことだということを。

 

昨年12月、メンヘラ.jpに掲載頂いた「「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp」の「1-1.日大生の連続「アカハラ自殺」を起点として~報道内容のあらまし~」で書きましたように、

大手のテレビ局や新聞では目立った報道をされることが少ないものの、インターネットで検索していると、筆者が読んだ限りでは、アカハラが背後にあったと思われる学生の自殺のニュースが、あまり有名でない雑誌のWeb記事、研究者生向けの自己啓発書等にポツポツと出ていることがありました。冒頭の日大ほか、国立大では旧帝大*1、私立大では関東の有名な学校法人の名前を目にしたことがあります。つまり、国立大・私立大関係なく、アカハラの犠牲になる学生は存在するということです。

 

(中略)日本の大学には悪い意味で風通しのよくない閉鎖的な体質のところが存在すると言わざるを得ません。学生の自殺があったとしても、遺族の求めた調査や事実確認の求めに応じない大学が他にもあることは、否定できません。今回、残念なことに、このような黙殺の姿勢を日大がとったことにより、学生の自殺がより広くて大きな場所で報道されることの妨げとなったうえ、隠蔽されてしまったと考えられます。

「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp

といった、アカデミック・ハラスメントが背景にあったとみられる学生や研究職員の自殺が特に大手の新聞で報道されにくい現状があります。

 

しかし、山形大の学生の自殺は、後半で取り上げますが、大手の読売新聞のオンライン記事として、報道もされていました。山形新聞よりも、時期に関する記述が詳しくなっています:

(*2017.8.4_1315リンク切れ確認済み)

www.yomiuri.co.jp

 

本記事では、まず山形新聞のニュース記事を読み、不明なところを読売新聞のオンライン記事で補いながら、今回の山形大で起きた学生自殺までの経緯について、報道で分かる範囲で追い、これまで弊ブログで取り上げてきたアカハラによる教員処分のケースと比較します。その後、私が調べられた限り、山形大学のサイトにあった「キャンパス・ハラスメントの防止について|国立大学法人 山形大」の

の内容を読み、学生の行ったと思われる訴えから、ハラスメントによる助教の処分までの流れを簡潔に追い、どのような手続きが行われたのか、書き出しを試みました。

 

f:id:nakami_midsuki:20170728180959j:plain

なお、私が2017年7月29日にこれを書くまでに調べた限りでは、山形大学の公式サイト内に今回の件に関する告知やページは、見つけられませんでした山形新聞のオンライン記事を読まれた方がTwitterでツイートされた情報でも、山形大学の公式サイトには、学生の自殺やハラスメントによる助教の処分に関するページは、見つからなかったそうです。

 

本記事を執筆したのは、当たりを強くされたり、なじりやそしりを受けたり、実験や研究作業を妨害する行為が続いたりする等、それらが「ハラスメント」となって、心身を「すり減らし」、自らの命を散らしてしまうほどに苦しむような、学生や教職員の方々を一人でも減らせたら、と私が考えたからです。

 


2.2つの新聞から読む取れる「山形大学の学生アカハラ自殺」の経緯と他のハラスメント事案との比較

 2-1.2つの新聞から読む取れる「山形大学の学生アカハラ自殺」の経緯

さっそく、 山形新聞の報道内容を見ていきましょう。なお、時間の経過にともなうオンライン記事の削除を考慮して、その全文を記録目的で転載させて頂きますこと、どうか、ご理解下さい。

 

山形大の学生が自殺、遺族が提訴 アカハラで処分、助教の研究室所属

2017年07月25日 08:01

 アカデミックハラスメントを理由に停職処分を受けた山形大助教の研究室に所属していた学生が、助教に対する処分前に自殺していたことが24日、山形新聞の取材で分かった。学生の遺族は大学側に損害賠償を求めて山形地裁に提訴している。

 

 関係者によると、この助教は工学部に在籍。大学は昨年10月31日、40代の男性助教が相手の意思に反する要求などアカハラに当たる行為をしたとして、停職1カ月の懲戒処分とした。

 

 発表によると、この助教は研究室に所属する学生複数人に対し、以前から長時間の説教、口を利かないなどの言動を繰り返し、自らが望む行動を強要した。助教は処分を受け入れたという。

 

 大学は処分発表の際、学生の自殺には触れていなかった。助教アカハラが発覚した詳細な経緯も明らかにしていない。

 

 同大は山形新聞の取材に対し、「現時点でコメントはできない。大学の主張は裁判で明らかにする」としている。

山形大の学生が自殺、遺族が提訴 アカハラで処分、助教の研究室所属|山形新聞

 

学生が亡くなるまでの経緯について、上記の山形新聞の記事をもとに整理を試みましたが、学生の自殺した具体的な時期や、遺族の提訴に関する情報が詳しく窺えません。そのため、読売新聞の記事で情報を読み、経緯を詳しくまとめてみようと思います。

 

学生自殺、遺族が大学提訴…アカハラ助教停職

2017年07月26日 17時28分

 山形大学術研究院の40歳代の男性助教の研究室に所属していた学生が、自殺していたことが分かった。

 

 助教はその後、学生らへのアカデミック・ハラスメント(立場を利用した嫌がらせ)を理由に停職処分を受けた。遺族は大学側を相手取り、損害賠償を求めて山形地裁に提訴。25日に第1回口頭弁論が開かれ、原告と被告双方の代理人は弁論後、取材に対し、「裁判で主張を明らかにする」と話した。関係者によると、学生は2015年頃に自殺。助教は、研究室の学生らに対して長時間説教したり、不機嫌な態度を示したりし、自分の望む規範や行動を強要することを日常的に繰り返したとして、昨年10月31日に停職1か月の懲戒処分を受けた。

 

 同大は処分公表時に学生の自殺について言及しておらず、この日も「事案の詳細についてはコメントしない」(広報室)とした。

(学生自殺、遺族が大学提訴…アカハラ助教停職 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)、*2017.8.4_1315リンク切れ確認済み

これら2つの新聞記事を比較して、今回の「アカハラ自殺」の一連の経緯を次のように整理いたしました。 

  • 時期不明:山形大の「工学部に在籍」する「40代」の男性助教は、「研究室に所属する学生複数人に対し、以前から長時間の説教」したり、「口を利かないなどの言動を繰り返し、自らが望む行動を強要」した(読売新聞によると、助教は、これらの行為を「日常的に繰り返していた」)
  • 2015年ごろ:この助教の研究室に所属していた学生が自殺した
  • 2016年10月31日:山形大は助教が「相手の意思に反する要求などアカハラに当たる行為をしたとして、停職1カ月の懲戒処分」を下し、この「助教は処分を受け入れたという」(*なお、両新聞ともに山形大学は「処分発表の際、学生の自殺には触れていなかった。助教アカハラが発覚した詳細な経緯も明らかにしていない」とのこと)
  • 2017年7月25日:「学生の遺族は大学側に損害賠償を求めて山形地裁に提訴」しており、この日に「第1回口頭弁論が開かれ、原告と被告双方の代理人は弁論後」、読売新聞の取材に対し、「裁判で主張を明らかにする」と話し」た

 

続いて、人物についての情報をまとめておきます。

 

男性助教は工学部に在籍し、その研究室に自殺した学生が所属していました。よって、学生は山形大学の工学部の学部生だと考えられます。

 

また、両方の新聞の取材で分かるように、山形大学側が今回の事案について詳細なコメントをしないと言っており、いつから学生が状況から「ハラスメント行為」を、どの程度の期間継続して受けていたのか、といった情報は読み取れません。

 

 2-2.他のハラスメント事案との比較

今まで本ブログでは、様々な理系の研究室や院生、学部生に起きたアカデミックハラスメントについて、取り上げてきました。名古屋大学鳥取大学(いずれも理系)の大学教員による具体例を挙げた次の記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

の「2ー3.教員→学生のアカハラ」の共通点を引用して、今回の山形大学の事案と比較してみました。名古屋大学鳥取大学それぞれのハラスメント行為については、上記のリンク先基準で見て頂くとして、ここではハラスメントの起こった両大学が、ハラスメント行為のあった時期から、どのくらいの時間を置いて、該当の大学教員に処分を下したのか、まとめたところを引用します。

 

名古屋大学のケース、そして鳥取大学のケースのそれぞれで、注目して頂きたいのは、アカハラが起こってから処分が下るまでの期間です。名古屋大学の場合、「准教授は平成26年から27年にかけて」行われたハラスメント行為に対して、処分が下されたのはこの平成29年4月24日で、最後の行為から約2年後。鳥取大学の場合は、「平成27年の夏」からのハラスメント行為について、「昨年3月、学生が卒業前に大学の窓口に相談して発覚」ということで、平成28年3月に発覚して、アカハラ行為から約2年後の平成29年3月29日付けで処分が下っています。つまり、どちらのケースでも、ハラスメントが行われ始めてから約2年後に処分が下っていることになります。

 

ハラスメントについては、院生時代、研究室の先生方からお聞きしたことによると、「ハラスメントがあったと報告があった」と部局の会議に挙がることはありますが、会議自体では真偽が先生方も判断できないそうです。おそらく、その報告を審議するために時間が調査委員会が立ち上がり、調査が実施されて処分が決定するまで、時間がかかるのは現在の大学のシステムでは、仕方がないのかもしれません。

 

「書籍『ハラスメントの事件対応の手引き』の読書メモ」と関連情報まとめ - 仲見満月の研究室

 

重要なことは、「つまり、どちらのケースでも、ハラスメントが行われ始めてから約2年後に処分が下っていること」であり、学内でハラスメント報告が行われた後、「部局の会議に挙がることはありますが、会議自体では真偽が先生方も判断できないそうです。おそらく、その報告を審議するために時間が調査委員会が立ち上がり、調査が実施されて処分が決定」し、下されるまで約2年の時間がかかるということです。

 

今回の山形大の「アカハラ自殺」では、報道内容から分かる情報をもとに、仮に学生が自殺した2015年以前に何らかの形で大学側の相談室等にハラスメントの訴えや報告があったとします。大学側が調査を始めた後、学生が自ら命を絶ってしまい、それから後も継続して調査が進められ、山形大学は2016年10月31日に「アカハラに当たる行為をした」と判断を行い、 助教に処分を下しました。

 

助教のハラスメント行為に対する訴えが、具体的にいつの時期に行われたかは不明ですが、先の名古屋大・鳥取大の件と比べて考えると、おそらく処分のあった2016年の2年前、2014年ごろだと推測されます。学生の自殺後ではありますが、助教にハラスメント行為があったと判断され、処分がなされたことを勘案すると、山形大学ではハラスメント行為の訴えや報告を受ける部署を持ち、それらに対して調査を行い、調査結果をもとに判断をして、必要があれば該当人物に処分を行う、というアカハラに対する制度を持っていたと言えるでしょう。なお、山形大学のハラスメント防止のシステムなどについては、詳しく後で見ていく予定でいます。

 

私の個人的な邪推になりますが、その学生はハラスメント行為があったと大学側に訴えた時点で、心身ともに傷ついており、それまでに訴える準備のプロセスで精神的にも肉体的にも消耗してしまっていたのでしょう。大学側のハラスメント調査と状況への処分を待っている間に、精神的・身体的な限界を超えてしまい、命を断ってしまったのかもしれません。

 

亡くなった学生の片が、どうか今は安らかな状態でいらっしゃることを、心よりお祈り申し上げます。

 

 

3.山形大学の「キャンパス・ハラスメント」に対する制度

第3項では、山形大学ハラスメント防止に対するシステムや制度について調べ、今回のハラスメントに対する処分決定まで、どのような手続きが踏まれたのか、調べていきたいとおもいます。

 

 3-1.公式サイトの「キャンパス・ハラスメントの防止について」のページ

山形大の公式サイトを閲覧し、「ホーム > 大学紹介 > 情報公開 > コンプライアンスに関する取組み 」のルートで進むと、キャンパス・ハラスメントの防止について|国立大学法人 山形大学というページにたどり着きます。このページは、学内でのハラスメント、サイト内で言う「キャンパス・ハラスメント」に対する山形大の取り組みや、ハラスメントを受けた際に取るべき行動や、その後のプロセスについて説明している場所です。

 

こちらのページのハラスメントの防止についてのメニュー一覧を眺めていると、大学のハラスメント根絶の取り組みや、ハラスメント防止のためのガイドライン、相談員対応マニュアル等が公開されていました。このページを見る限りでは、山形大学は学内のハラスメントに対して、防止や対応に積極的に取り組んでいるという印象を受けると思います。

 

この第3項では、今回の事案において、ハラスメントを受けていたとされる学生が、実際に大学側に用意されていた制度の中で、どのようなことができたのか。具体的にメニュー一覧の中から、次の二つの選択肢を選んで、内容を紹介いたします。

 

 3-2.「もし、ハラスメントにあったら」を読む

まず、「もし、ハラスメントにあったら|国立大学法人 山形大学」の内容を見ていきましょう。このページに設けられている項目は、以下のようになっていました。

(1)ハラスメントを受けた時の基本的な心構え

(2)相談窓口

  ■相談員の配置

   学内の相談窓口

   学外の相談機関(無料です)

  ■相談の方法――相談は直接の面談だけではなく、手紙・電話・ファックス・電子メールなどでも受け付けることになっています。

  ■相談は、相談者本人ばかりではなく、相談者の依頼を受けた友人等の第三者を通じて行うこともできます。

  ■虚偽の申立の禁止――相談者は、相談員への申立てにおいて、決して虚偽の申立てをしてはなりません。

 (3)相談員

 (4)キャンパス・ハラスメントに関する相談

 (5)不利益取扱いの禁止

 (もし、ハラスメントにあったら|国立大学法人 山形大学より再構成)

 

項目を見ていると、 「(1)ハラスメントを受けた時の基本的な心構え」に始まり、

  • 「(2)相談窓口」では相談員の配置が学内に配置されていること、学外の相談機関についても紹介されていること、相談方法の具体的な手段、虚偽申し立ての禁止の注意
  • 「(3)相談員」では「相談者のプライバシーを確実に守ることを義務付けられていますので安心して相談してください」と、相談者に呼びかけていること
  • 「(4)キャンパス・ハラスメントに関する相談」では、

・本人が相談できる状態にないときは、その依頼を受けた第三者が相談することができます。また、匿名で相談することもできます。
・相談は1回で終わる必要はありません。何回でも相談できます。また、相談員が相談内容を確認するために、数回にわたって相談を受ける必要がある場合もあります。

 (もし、ハラスメントにあったら|国立大学法人 山形大学

  と、相談をする際に注意する点が書かれていること

  • (5)不利益取扱いの禁止」では、

・ハラスメントの相談、申立、調査への協力を行ったことについて、不利益な取扱いを受けることはありません。また、被申立人が申立人に報復することは、禁じられています。
・不利益な取扱いを受けたり、報復を受けたときは、直ちに相談員に相談してください。これらの行為は懲戒処分の対象となります。

(もし、ハラスメントにあったら|国立大学法人 山形大学

というように、可能な限り、相談者が「安心してハラスメントの相談をできる体制を山形大学はとっていますよ」というメッセ―ジが伝わってきます。

 

しかし、実は内容をとばした(1)には、「そういうことをハラスメントの現場にいて、気がついた人が加害者に注意したら、注意した人にハラスメントが飛び火したり、ひどくなったりする恐れはないのか」とツッコミを入れたくなる部分がありました。それは、上から三つ目のハラスメントの被害者を発見した人の対応に関するものです。

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上から一つ目の項目については、「ハラスメントが「いつ・どこで・誰から・どのようにされたか」などについて記録し、そのことを証言してくれる第三者を得ておくことも大変重要です」という行動については、今まで本ブログで、ハラスメントを受けた人が加害者に処分を下すように大学側に訴える過程において、証拠や記録を集めておくことを重要事項として言ってきたので、私も同意見です。

なお、証拠集めや記録の取り方は、次の記事をご覧ください。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

「(2)相談窓口」について補足するとすれば、掲載されている学内と学外の両方の期間や窓口で相談しておくことが、後々、加害者や大学側と「戦う」時に、牽制となることがあるでしょう。

 

(4)・(5)のコンプライアンスに関しては、相談員や相談室が本当に相談内容を外部に漏えいしないかは、フォロワーの水無月さんのされた次の方法をご参照ください:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

色々な情報を私が加えてしましましたが、山形大学のハラスメントの相談窓口を安心して利用するとしても、大学の公式ページに、相談する準備として、証拠や記録をとっておくことが書かれており、そこはしっかりしているという印象を受けました。しかし、相談前の段階で、ハラスメントにより心身を病んだ学生が「もし、ハラスメントにあったら」のページを読んだら、「相談の準備だけで、さらに疲労してしまいそう…」と負担になることを感じて、相談をやめてしまう可能性があります。

 

外部に向けたハラスメント防止に取り組む姿勢をアピールするページとは別に、在学生や教職員向けに、もう少し、とっつきやすく、相談者向けに敷居を下げた内容の案内ページを設けても、よいと感じました。

 

  3-3.「ハラスメント申立てに対する対応」を読む

この度の「アカデミックハラスメント自殺」その事案における要である「ハラスメント申立てに対する対応」を読んでいきましょう。項目と重要と思われる情報を抜き出し、並べていきます。と、ほぼ全部の情報を引き出すことになりました。

 

ハラスメントの申立てに対する対応

 (1)相談記録の作成・送付
■相談者が、ハラスメントとして申し立てて、それに対する対応を希望した場合には、相談員が所定の「相談記録」(規程第17条第3項に規定する別記様式1)を作成します。  
※匿名での申立ても可能です。

(中略)

■「相談記録」には、以下の内容が記載されます。

  1. 被申立人との関係
  2. 問題とされる言動の内容(いつ、どこで、どのように)
  3. 相談者が、問題とされる言動をキャンパス・ハラスメントと考える理由
  4. 相談者が希望する対応
  5. 他の関与者(目撃者、証人等)
  6. 他への相談(誰かに相談しているか)
  7. 事案の取扱い上、特に注意を要する点

■相談員は、申立てを行う者(以後「申立人」という。)又はその依頼を受けた代理人の承諾を得た後、当該事案を管轄する各部局の「キャンパス・ハラスメント対策委員会 (以下「対策委員会」という。)」に相談記録を送付すると共に、相談記録を送付したことを「相談記録送付通知書」(規程第17条第3項に規定する別記様式2)により、全学の「キャンパス・ハラスメント防止委員会(以下「防止委員会」という。)」委員長に送付します*2

 

(2)対策委員会又は特別対策委員会での対応
■ハラスメントの事案として取り扱うことの適否の判断

  • アカデミック・ハラスメントや、パワー・ハラスメントの申立てには、ハラスメントの事案として対応するよりも、教務上又は労務上の問題として処理することが適切であり、有効かつ迅速な対応ができるものが含まれていることがあります。そのような事案については、適切に処理し得る委員会等に当該事案の処理を依頼する場合があります。(中略)
  • 相談記録が各部局の対策委員会に送付された場合であっても、当該対策委員会が他の部局の対策委員会で対応すべき事案であると判断したときは、防止委員会を介して、他の部局の対策委員会に対応を依頼することになります。
  • ハラスメントへの対応の主眼は、ハラスメントによって害された就労・修学環境の維持、回復にあります。従って次のような申立ては、ハラスメント事案としての処理には馴染みません。

    ・被申立人に対する損害賠償を目的とする申立て
    ・被申立人の行為が名誉毀損等の犯罪行為または民法上の

     不法行為であるという申立て
     (ただし、犯罪行為や不法行為がハラスメントの一部を構成

      する場合がありますが、そのような場合には、ハラスメント

      として対応することになります。)
    ・もっぱら被申立人の懲戒処分等を目的とした申立て
     (もちろん、ハラスメント事案の調査の結果、処分を必要と

      するという判断に至ることはあります。)

 

■対策委員会又は特別対策委員会における対応

 1) 事案の調査

対策委員会又は特別対策委員会は、申し立てられた事案の事実関係等を調査する必要があると判断した場合には、調査委員会を設置して調査することができます。

 2) ハラスメントの認定等

対策委員会又は特別対策委員会は、調査委員会の調査結果等に基づき、ハラスメントの認定の要否、ハラスメントであるとの認定の適否、就労・修学環境の改善のための措置の要否及び必要な場合における措置の内容、その他当該事案を処理するために必要な措置等について判断します。

 3) 調査に当たっての対応

申立ての内容、申立てに関する客観的な事実関係等に照らし、就労・修学環境の維持・悪化を防止するために、対策委員会又は特別対策委員会が必要であると判断した場合には、申立人と被申立人とを引き離し、両者の関係を一旦解消させることがあります。
なお、申立人と被申立人とを引き離し、両者の関係を解消させる措置は、事案の処理の最終的な措置としても行われることがあります。

 4) 調査・認定に基づく対応

対策委員会又は特別対策委員会が下記の対応を行うに当たっては、申立人がどのような対応を希望しているかということを十分考慮して行います。

 

 ■ハラスメントであると認定されなかった場合

  1. 申立人への説明 ハラスメントと認定されなかった理由を申立人に説明します。
  2. 被申立人への通知 ハラスメントであるとはいえないが、被申立人に注意を喚起すべきであると判断したときは、その旨を被申立人に通知します。

 ■ハラスメントであると認定した場合

  1. 注意 被申立人の行為がハラスメントに当たることを被申立人に通知し、再びそのような行為を行わないように注意します。
  2. 調停 申立人と被申立人との関係について調停が必要な場合、以下のような調停を行います。

   ・申立人に対する被申立人の謝罪表明
   ・就労、修学環境の回復、改善


※調停が不調になった場合
調停が不調となった場合は、対策委員会等において、申立人の就労・修学環境を回復、改善するために、必要な措置を行います。


  3.排除 申立人と被申立人の関係をそのまま維持すると就労・修学

    環境の回復、改善が不可能な場合は、両者を分離する措置です。

    なお、申立人を保護するため、必要な場合、緊急措置として調査

    終了前に行われることがあります。

 

5) 対応に要する期間
対策委員会又は特別対策委員会の対応は、対応を開始したことを「対応開始報告書」(規程第18条第3項に規定する別記様式3)により、防止委員会委員長に報告しなければなりません。対策委員会又は特別対策委員会の対応は、相談記録が送付されてから、原則として2ヶ月以内に行うこととされています。2ヶ月を超える場合には、超えた時点で、防止委員会に「相談経過報告書」(規程第18条第4項に規定する別記様式4)により報告するとともに、申立人にも事情を説明しなければなりません。

6) 対応に付随する措置
ハラスメント行為の内容が本学の諸規則に照らし、懲戒に当たると判断された場合、職員については「国立大学法人山形大学職員の降任、解雇及び懲戒に関する規程」及び「国立大学法人山形大学における懲戒処分の指針」に従い、学生については「山形大学学則」に従い、懲戒処分に付されることになります。

7) 対応の終了
対策委員会又は特別対策委員会における対応が終了した時点では、「対応終了報告書」(規程第18条第5項に規定する別記様式5)により、防止委員会委員長に報告しなければなりません。

 

ハラスメント申立てに対する対応|国立大学法人 山形大学

 

情報量が多すぎて、私は頭が混乱しております。 最後に「山形大学における「キャンパス・ハラスメントへの対応概念図」」が掲載されていますので、読者の方で、対策委員会の位置づけや、組織の関係で頭が混乱してしまった場合は、概念図を見ながら「ハラスメントの申立てに対する対応」のプロセス全体を再度、確認されるのがよいかもしれません。

 

最初の方の手続きでは、

■相談員は、申立てを行う者(以後「申立人」という。)又はその依頼を受けた代理人の承諾を得た後、当該事案を管轄する各部局の「キャンパス・ハラスメント対策委員会 (以下「対策委員会」という。)」に相談記録を送付すると共に、相談記録を送付したことを「相談記録送付通知書」(規程第17条第3項に規定する別記様式2)により、全学の「キャンパス・ハラスメント防止委員会(以下「防止委員会」という。)」委員長に送付します。

ハラスメント申立てに対する対応|国立大学法人 山形大学

というように、「管轄する各部局の「キャンパス・ハラスメント対策委員会 」だけでなく、「全学の「キャンパス・ハラスメント防止委員会」の委員長に送付するところは、大学全体をまとめる側の組織にも、ハラスメントの報告を上げることになり、申し立ての記録を全学組織に残すという意味では、大切だと思いました。また、下線部のように代理人を立てて、申し立てができるケースが想定されていることは、心身が衰弱しており、プロセスに従って動けない申立人がサポート者を置いて、「戦える」ところに大学側の想像力の幅が窺え、安心しました

 

(2)対策委員会又は特別対策委員会での対応」で、「1) 事案の調査」から「4) 調査・認定に基づく対応」を経た後、「■ハラスメントであると認定されなかった場合」と「■ハラスメントであると認定した場合」の対応がとられます。その過程において、きちんと調査対象の基準が細かく規定され、申立人の就労や就学の環境改善の防止について、以下のように明記されています。

2) ハラスメントの認定等

対策委員会又は特別対策委員会は、調査委員会の調査結果等に基づき、ハラスメントの認定の要否、ハラスメントであるとの認定の適否、就労・修学環境の改善のための措置の要否及び必要な場合における措置の内容、その他当該事案を処理するために必要な措置等について判断します。

 3) 調査に当たっての対応

申立ての内容、申立てに関する客観的な事実関係等に照らし、就労・修学環境の維持・悪化を防止するために、対策委員会又は特別対策委員会が必要であると判断した場合には、申立人と被申立人とを引き離し、両者の関係を一旦解消させることがあります。
なお、申立人と被申立人とを引き離し、両者の関係を解消させる措置は、事案の処理の最終的な措置としても行われることがあります。

 ハラスメント申立てに対する対応|国立大学法人 山形大学

 

注意すべきところは、続きの「■ハラスメントであると認定されなかった場合」の対応です。

2.被申立人への通知 ハラスメントであるとはいえないが、被申立人に注意を喚起すべきであると判断したときは、その旨を被申立人に通知します。

ハラスメント申立てに対する対応|国立大学法人 山形大学

被害者である申立人と加害者である被申立人が以降、直接、会うことがなかったとしても、既に申立をした時点で両者は「紛争状態」にあるわけです。その状態で、委員会の判断により、被申立人に注意をした場合、申立人と被申立人の間は更に悪化してゆくことになる恐れがあります。

 

山形大学の今回の事案では、工学部の推定・学部生と助教の間に起こったことだとすれば、学生が自殺せず、生存していた場合、ハラスメントの起こった大学をトラウマに感じて、辞めたいと希望した場合、手続きによっては学部生のため、退学届を提出し、山形大学を離れることができるでしょう。

 

しかし、例えば理系の研究室に所属し、指導教員からハラスメントを受け、研究室を辞めたり、大学院を離れたいと希望する院生の場合、日本の大学院では、退学届や関係書類に指導教員のサインや印鑑が必要となることが多いのです。そのあたりの背景と事情、および退学が容易にできなくて苦しむ保護者と院生の相談例は、次の拙記事に書きましたので、本記事では説明を割愛いたします。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

「ハラスメント申立てに対する対応」を読んで、申し立てプロセスを俯瞰した印象は、山形大学がハラスメントの対応に力を入れており、公式サイトにプロセスを細かく明文化し、それに基づいてハラスメントに対処しようとしているという点は、好印象でした。その一方で、不安な点がありました。もし、心身の調子が悪い申立人に、代理人が付いたとしても、長い手続きを経るなら年単位の時間が必要でしょう。名古屋大・鳥取大の実例のように、ハラスメント認定に2年、もしくはそれ以上の時間がかかるとすれば、申し立てる側にとって、「紛争状態」の長期化で精神的・身体的にはダメージが蓄積され、申立人でなくとも、代理人や支援者たちも心身を病んでいく恐れがあります。

 

 3-4.小結

 以上、山形大学の公式サイトにある「キャンパス・ハラスメントの防止について」、

の内容を読み、もし、今回の事案の学生がハラスメントを訴え、何かしらの対応を大学側にしてもらうなら、既にある山形大学の規定に沿って、相談できる場所や、申し立てる際のプロセスを概観し、検討を行いました。

 

山形大学の相談窓口は私が読んだ限り、相談者にとっては信頼でき、安心して頼ることができそうだという印象を受けました。また、ハラスメントの申し立てについても、ところどころに問題はあるものの、申し立てからこのような委員会に報告を上げて調査が行われ、ハラスメント認定の判断が行われるのか、詳細に手続きのプロセスが明文化されている点は、よい印象でした。

 

ただし、申し立てからハラスメント認定まで、年単位で対応が長期化してしまった場合は、3-3で指摘したように、申し立てる側にとっては「紛争状態」が長引くことになります。すなわち、申し立て側には心身にストレスが蓄積されていき、消耗戦となることで、申し立て側の健康が悪化するリスクが高まるでしょう。

 

そのような消耗戦の途中で、件の学生は身体も精神も病んでしまった可能性が考えられます。そして、ハラスメント処分が下る一年ほど前の2015年ごろ、自らあの世へ逝くことになってしまったのかもしれません。

 

 

4.ハラスメント被害者や支援者に必要なのは医療的なケア~山形大の事案を通じて考えたこと~

第3項で見てきたような、相談窓口の利用とハラスメントの申し立てを自殺した学生は仮に行い、大学側の委員会の判断を待っている間、心と体を病んだと思われる学生は、2015年ごろ、自分で命を絶ってしまった。その後、助教がハラスメント行為を行ったと判断し、昨年10月末に下された。そして、読売新聞が伝えるように「遺族は大学側を相手取り、損害賠償を求めて山形地裁に提訴。25日に第1回口頭弁論が開かれ」た。 

 

今回の「学生のアカハラ自殺」に対して、このような一連の流れを私は、自分で調べた情報を組み合わせて「描きました」。本記事は、あくまで私個人の私的な「邪推」に過ぎません。

 

しかし、今回の事案を通じて、ハラスメントと戦う被害者や申立人に対して、周囲ができることは何だろうか、と考えました。私にとって、アカハラについて書いた記事の原点である、冒頭の「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jpの「3.深刻で困難なことを抱える人への応急処置」に書いたことを振り返ると、「3-2.メンタル面の不調は学外の医療機関を頼ろう」ということが、まず挙げられます。要は、ハラスメントを受けて、いろいろ限界に来ている人を身近に見つけたら、専門的にケアを行っている医療機関に繋げましょう、ということです:

 心の健康状態が臨界点に達し、身体にも不調をきたしている方です。そういった方は、学内のカウンセリング施設を飛ばして、なるたけ早く、学外の専門の医療機関に繋いでもらってください。学内の診療所を訪ねて、心療内科や精神科のクリニック、病院、身体に不調のある人は該当の専門クリニックについて、受診できるところを紹介してもらうのもよいでしょう。

もし、自分一人で動けない状態でしたら、お友達や後輩、呼べる人に来てもらって、タクシーを呼んでもらって付き添いで診療に向かう。または、救急車を呼んでもらって運んでもらうことをしましょう。(中略)

 

健康状態が悪ければ、恥ずかしいという気持ちは封印しておいて、誰かの助けを借りて専門機関に行こうよ、ということです。

 (「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp

 

そうは言っても、心身がいろいろと限界にきている人への細かな対処法に困ったら、

 プロが教える自殺対策 身近な「死にたい」にどう向き合うか」の記事を読まれてください。この記事は、『こころの科学』第186号の特集内容をまとめたもので、「死にたい」という「極限状態」の人と現場で向き合ってきたプロの人たちのことが、簡潔に分かるようになっています。「死にたい」と考えてはいなくても、極限になるまで弱ってしまった人が周りにいたら、どのような医療機関や団体に繋いだらよいのか、というヒントになる

 「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp

 と考えております。

 

本記事では、自ら逝ってしまいそうになっているほど、「病んでしまった」人を見つけるサインを示した本を最後に紹介します。

 

単行本の紙書籍は、2002年に出版されています。ある意味、衝撃的なタイトルもさながら、真っ赤な表紙が書店で目を引くデザインですが、内容は統計や実例の詳細な調査データををもとに、「逝き方」によって様々な方面にどのくらいの損害賠償請求が行くとか、保険金額はいくらになるとか、具体的な「コスト」の算出に基づく、ノンフィクションの作品です。

 

沢山の「逝き方」の実例がレポートされていると同時に、その中に出てくる「逝ってしまった人」、それから、逝こうとした人の心理状態、逝こうとしている時の健康状態や身体の症状など、丁寧に書かれています。つまり、「この人、最近、こんな行動をとったり、身体にこんな症状が出ていたりするから、休ませないとヤバいかも」というサインをキャッチする上で、参考になることが書かれてているとも言えるでしょう。

 

 

以前、脱出された「黒いラボ」の大学運営視点での「それから」を考える~「ブラック研究室を抜け出せ!脱出に成功した事例3つとアドバイス」(リケジョゆうきの活動記)~ - 仲見満月の研究室で紹介させて頂いた、リケジョゆうきさんのブログ記事の名づけて「ブラックラボ脱出記」に出てくる学生たちは、心身ともに割とタフであり、周囲の協力も得られた上、幸運が重なり、苦難から逃げ切ることができたと思います。

 

ハラスメントの長期戦で2年以上、かかってくると、タブだった人もさすがに弱ってくることがあります。ハラスメントを受けてきた人、それからサポートしてきた人たちも、心身が弱ってくるでしょう。もし、先の雨宮処凛さんの本に出てくるような行動や、健康状態の人たちを周囲に見つけたら、まだ精神的に余裕がある人が捕まえて、できるだけ早く、専門の医療機関に繋いであげてください。

 

どうか、本記事が、心身を「すり減らし」、自らの命を散らしてしまうほどに苦しむような、学生や教職員の方々を一人でも減らせることに、役にたちますことを願い、閉めさせていただきます。長々とここまでお付き合い、ありがとうございました。

 

 

<テーマ目次>

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

5.続報が出ました

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

*1:岡崎匡史によれば、時期は不明だが、東北大学の院生が、博士論文の提出を二度拒否され、自殺した事件があったという。また、岡崎氏は「この事件ほどで名はないにしても、多くの大学院の水面下において「アカハラ」が起こっている。」と指摘する(岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』(ディスカバー携書)、54頁、2013年。

*2:

”※ 以下の場合には、「相談記録」は、直接全学の「防止委員会」に送られます。

  1.  相談された事案が複数の部局にかかわり管轄の対策委員会が不明の場合
  2.  全学の相談窓口や学外の相談機関に相談した場合
  3.  学長、理事、監事が当事者となっている場合
  4.  申立人が管轄する対策委員会以外での取り扱いを特に希望する場合

※ 「相談記録」の送付を受けた防止委員会は、適切な対策委員会に申し立てられた事案への対応を依頼するか、「特別対策委員会」を設置して、申し立てられた事案への対応を依頼します。防止委員会が直接申し立てられた事案に対応することはありません。

※ 防止委員会の役割は、申し立てられた事案への対策委員会又は特別対策委員会における対応の進捗状況を把握し、適切かつ迅速な対応が行われるようにすることにあります。

ハラスメント申立てに対する対応|国立大学法人 山形大学)”

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