<理工系の研究機関の多い愛知県と接する自治体>
1.はじめに
先々週末、巷でピョンチャンオリンピックが始まる頃、私の心を激しく揺さぶったニュースがTwitterに流れてきました。最初の配信版のグラフにはネット上のあちこちでツッコミが入ったり、タイトルの変更にともなって内容が書き換えられたり。現在では、色々と信憑性に問題のあるオンラインニュースですが、リンクを貼り付けておきます:
ついでに、2018年2月20日正午ごろの現行版、記録の為、転載しておきます。
日本企業、博士使いこなせず? 採用増で生産性低下
日本経済研究センター分析
科学&新技術
2018/2/11 20:39 日本経済新聞 電子版
日本企業が博士号取得者の採用を増やすと、逆に生産性が下がるとする分析を日本経済研究センターがまとめた。一人前の研究者とされる博士人材は、海外企業では即戦力への期待も高いだけに意外な結果となった。日本では、企業が終身雇用制などに縛られて人材を使いこなせていない可能性や、大学で企業の研究現場で役立つ人材が十分に育っていないことが考えられるという。
総務省や日本経済新聞社の調査から分析した。全社員に占める博士号取得者の割合が増すと、1人当たりの売上高などにあたる労働生産性が低下していた。2000年代の大半で同じ傾向だった。
同センターは(1)企業の現場で適切な役割が与えられず、博士人材の専門能力が生きていない(2)提案力や構想力が乏しく、企業の応用研究に対応できる博士人材が大学で育っていない――などとみている。日本企業の雇用制度では優秀な人材が定着しにくく、大学の研究教育環境も世界に劣るとの見方もある。
日本では毎年、1万5000人を超える博士号取得者が出ている。博士号を取得しても就職できない「ポスドク」が社会問題になるなか、人材の活用策が改めて議論になりそうだ。
現行版ではグラフが消えてしまっているので、ここで詳細な分析は難しいですが、要は増えてきた博士人材を使いこなせていないから、日本の企業の中には生産力が低下しているところがある、ということなんでしょうか?総務省や日経新便の調査からの分析では、労働生産性の低下について云々と書かれていますが、信じてしまう企業もあるのではないでしょうか。
ネット上では、上記のオンラインニュースに対し、「博士たちは根拠を示して、反論しておかないと、日本の企業では博士採用に消極的な企業が増える!」という懸念を示した研究者がいました。それも一理あるでしょうが、特に若年世代の博士号取得者は、有期雇用のポスドクや大学の非常勤講師のかけ持ちをし、不安定な労働状況で、エビデンスを探してまで、反論している時間的・体力的な余裕はないと思います。
それよりも、博士人材の支援事業やエージェント企業を探して、伝えるほうが建設的ではないでしょうか。そのようなわけで、今回はフォロワーさんに教えて頂いた、浜松市の取り組みを紹介致します。ざっくり書くと、この自治体は、東海地方の研究機関や地元企業と組んで、博士人材と企業をマッチングさせる取り組みをしています:
2.「博士人材の就職支援へ 浜松市がマッチング事業」(中日新聞)から分かること
この取り組みは、来年度から始まる模様です。長いので、適当にニュースを途中で切りながら、コメントしていきます。
2018年2月14日
博士人材の就職支援へ 浜松市がマッチング事業
大学院の博士課程で学ぶ学生や博士号を取得した研究員(ポスト・ドクター、通称ポスドク)の就職を支援しようと、浜松市は二〇一八年度、学生、研究員と市内中小企業とのマッチング(お見合い)事業を始める。市産業総務課は「同様の取り組みを他の自治体で聞いたことがない」としている。
同課によると、国は科学技術立国を目指し、任期付き研究員を増やす「ポスドク一万人計画」を一九九六年に打ち出した。しかし、就職先を広げられず、現状は定職に就けない若手研究員が増えている。
研究員から大学教員になれるのは一割程度といわれ「ポスドクは教員ポストの約束がない不安定な雇用待遇。経済的にも恵まれていないため、民間への就職を望む人も少なくない」と担当者。ただ、民間就職は担当教授のつてを頼るのが一般的で、企業情報も少なく門戸は狭い。
浜松市がマッチングさせようとしているのは、「学生、研究員」と「市内中小企業」です。浜松市は人口80万程度の政令指定都市であり、静岡県西部では規模が大きい自治体です。西は愛知県東部の豊橋市、長野県飯田市と接し、市内に静岡大学などの国公立大学、浜松学院大学など私立大学、合わせて6つの大学があります。戦国時代は浜松城が築かれ、徳川氏と縁の深い城下町となり、江戸時代は東海道の宿場町として栄え、近代には産業振興の博覧会が開かれ、戦後は本田技術研究所をはじめ、様々な企業が拠点を置く商工業都市となりました。また、海に接し、海外からの労働者が多い自治体でもあります*1。
浜松市は静岡県内では規模が大きく、交通の重要な場所に位置し、商工業が発展してきたことから、市内に営業所や工場、研究所を置く企業が集まっています。そこに、不安定なアカデミックポストではなく、民間就職を目指すポスドクに目をつけ、浜松市の産業総務課は、博士人材と地元の中小企業との「お見合い」を企画するに至ったのでしょう。
浜松市の取り組みが珍しいというのは、中日新聞が伝えるように、今まで、日本の大学や大学院の理工系で民間就職をするには、指導教員の紹介が一般的だったからです*2。博士人材向けエージェントが出てきた昨今であっても、私の身近では、研究室の卒業生や研究部局の教員を経由して、民間就職する人もいると聞きました。ほか、漫画『理系クン』のN島クンの場合は、たしか大学院OBのいる企業での説明会が採用の一次試験になっていたようです*3。「企業情報も少なく門戸は狭い」というのは、あながち、間違ってはいないのでしょう。