仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

弁護士の解説にみるアカハラ発生の背景~「終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察」(弁護士ドットコム)

<本記事の内容>

1.はじめに

テレビ、新聞、そしてオンラインニュースでは珍しく、アカデミック・ハラスメントについての判決で、先月末に報道されたことがありました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

関西地方の元院生が、指導教員に「信頼関係」の喪失を理由に、研究指導の中止とフィールドワークをやめるよう言われたことを、大阪地裁がアカデミック・ハラスメント(アカハラ)と認定した裁判です。大阪地裁は、学内の相談室についても相談を受けたにも拘わらず、適切な対応をしなかったとして、大学側に合計90万円の支払いをするよう、判決を出しました。

 

このアカハラ裁判を受けて、WEBメディア『弁護士ドットコム』では 、アカハラ問題を考える上でのポイントを、原告代理人を務める谷真介弁護士にインタビューしていました:

www.bengo4.com

 

今回は、弁護士の谷さんのインタビューを紹介しながら、アカハラの発生する背景に就いて、見ていきたいと思います。 
f:id:nakami_midsuki:20180504200345j:image

 

 

2.「終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察」(弁護士ドットコム)に見るアカハラの背景

 2-1.あげにくい声とその背景~アカハラの発生する本質的なところ~

そもそも、アカデミック・ハラスメントとは、どういうものなのか。谷さんによると、

アカハラは大学などの学内における研究上、教育上の上下関係を背景にして行われる嫌がらせや不利益を与える行為をいいます。簡単に言えば、パワハラやセクハラ、マタハラ等のハラスメントが学内で行われる場合です。

終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察 - 弁護士ドットコム

だそうです。裁判所では客観的な証拠がなかればハラスメント認定されないそうですが、ハラスメントというものは密室で行われることが多く、証拠が残りにくいものとされています。弊ブログで繰り返していますが、ハラスメントの被害かな?と少しでも感じたら、証拠を取りましょう!やり方は、「ある理系院生のアカハラとの「たたかい」を振り返る~第一部まとめ~ - 仲見満月の研究室」に一部、まとめております。

 

アカハラの問題の背景にある大きなものとして、谷さんは、まず、次のように話されています。

「また、アカハラ事案の特徴に、大学内、特に大学院生以上の研究の途につく場合、指導を受ける教授の地位は絶対的である点があります。教授に嫌われてしまうと、論文が通らなくなるなど、研究者としての道が事実上閉ざされます」

終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察 - 弁護士ドットコム

そう、指導する大学教員が「絶対的」な権利を持ち、指導を受ける院生側にとっては、職業研究者になる上で、「生殺与奪権」を握られています。この「生殺与奪権」を握られていることは、アカハラの起こる本質的なところだと私は考えております。その背景とは、「指導教員に嫌われてしまう」と、論文の掲載を通じた研究業績をあげることが不可能になることが1つ。『弁護士ドットコム』のオンライン記事とは順序が前後しますが、「研究の分野では異動等はほとんどなく、院生等が大学を移って研究を続けることも容易ではないため、師弟関係に終わりが」ない故に、師匠側が無意識のうちに弟子を「自分の好きにしてしまえる」危険があることが1つです。

 

谷さんが言うように、労働者であれば、部署異動や配置転換によって、「運良くハラスメントが終わる場合があります」。しかし、日本の多くの大学では、弊ブログで書いてきたように、よほどのことがない限り、指導を受けている側の院生等の側から指導教員の交替を申請したり、大学院を退学する手続きを自分だけで取ったりすることは、非常に難しいのが、現実です。また、辞められたとして、卒業・修了して指導教員の管理下を離れたとしても、新しい大学院を受験するには、元指導教員の推薦書類が必要になることがあります。このように、日本では、研究機関を離れても継続する師弟関係の前提が、大学院を辞めたり、移ったりする時にも組み込まれていて、アカハラが断ち切れない遠因となっているのではないでしょうか。

 

以上のような背景があるため(か)、谷さんが指摘するように、

指導教授から理不尽な指導や嫌がらせがあり、その証拠があったとしても、我慢せざるを得ないのです。このように不当なアカハラを受けた場合に、被害者が立ちあがることには数々の壁が

終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察 - 弁護士ドットコム

存在しています。そういったことがあって、「アカハラは相当数存在すると思われますが、裁判になる等表面化する件数が少ないのには、こういった背景事情があり」、「本件では、これらの壁を乗り越えて被害者が立ち上がったことだけでも画期的なのです」ということでした。

 

 2-2.相談を受けた大学側の対応と裁判について

2-1のようなアカハラの起こる背景が当たり前のようにあることに加え、ハラスメントの相談室や窓口があったとしても、谷さんは、相談や申し立てが「放置」されることがある、と指摘します。「放置」は、近年、調査委員会を立ち上げる等、調査を行い、大学側が対応することが増えていますが、そこにも問題があるとおっしゃいます。

アカハラが社会問題となり、本件の大学のように、アカハラについて被害者の申告があれば相談に乗ったり、学内で調査を行う制度を具備したりする大学も増えてきました。

 

これは一見すばらしいことのようですが、いわば身内が審査を行うため甘くなりやすく、本件でも、原告の相談は相談員に放置され、またその後の調査委員会の結論は『教授の行為は不適切だがアカハラとまではいえない』としてアカハラは認定されませんでした」

終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察 - 弁護士ドットコム

 

弊ブログでも、アカハラに関する案件を今まで複数、紹介してきました。 その実例は、

naka3-3dsuki.hatenablog.com

の「2.アカハラの具体事例~これって、アカハラではありませんか?~(2018.3.25_1810更新)」や、「5.アカハラに遭ってしまった・疑いをかけれた時の対処法(2017.7.19_1240更新)」にリンクした拙記事にまとめてきました。各オンラインニュースで報道された件、私が個人的に見たり聞いたりした件(オンライン含む)など、様々ですが、そのなかには大学側の対応に対して「対応やアカハラ加害者への処罰が不十分だったり、甘かったりするのではないか」という声がネット上で出ているものもありました。

 

2年ほど前に比べて、アカハラは報道されるようになり、谷さんが言うように社会問題として徐々に認識されつつあるのでしょう。それでも、やはり、大学側は構成員であり、アカハラをしたとされる教職員に対し、不十分な対処や処分に留まることが少なくないと思われます。言い換えれば、不十分な対応や処分というのは、大学の組織としてチェック体制や監視や懲罰のシステムが機能していないことを指します。

 

だからこそ、件の関西地方の元院生は「裁判という手段を選んだ」です。谷さん曰く、「学内の制度が機能していなかったことが司法で断罪されたのです」。

 

 

3.最後に

本件裁判について、原告代理人の弁護士・谷さんは、どうしても時間がかかってしまうことが問題だと指摘されています。「学生や院生には通常、裁判に時間や労力はかけられ」ない。だから、

アカハラをなくすためには、本件の大学のような学内機関ではなく、専門の第三者機関が早期にかつ適切に判断、対処できる仕組みが必要である

終わらない師弟関係で「アカハラ」が深刻化…賠償命令出た「関西大訴訟」から考察 - 弁護士ドットコム

とおっしゃいました。

 

この第三者機関の活用については、国のほうで河野太郎議員(現外務相)が「現場の声」を聞いて、文科省等にはたらきかけたことがありました。それとは別のところで行われた「反アカハラ運動」では、「学内ではなく外部に,専門のカウンセラーや人権問題を専門とする法曹関係者らからなる中立的な機関を新たに設けるべき」という考えた示されていました(運動は現在、終了)。結果、河野議員(当時)が伝えたところでは、

アカハラに関しては、6月19日、21日に行われる国公私立大学の教務連絡協議会で、第三者機関の活用に関する説明を行うことになっています。

文科省としても今後、踏み込んだ対応をしていく予定です。

(2017.4.3付、お花見中の研究者の皆様へ | 衆議院議員 河野太郎公式サイト

と報告がありました。経緯は「【2018.3.25_1810更新:目次】アカデミック・ハラスメント(アカハラ)に関する記事まとめ(外部記事含む) - 仲見満月の研究室」の「6.アカデミック・ハラスメント対策に向けて~「反アカハラ運動」と国の動き~(2017.7.19_1240更新)」 にまとめましたので、お読み頂けたらと思います。その後の動きは追い切れていませんが、機会があれば、また弊ブログで取り上げるかもしれません。

 

おしまい。

 

 

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