仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

過去と物語の世界を「旅する」こと~ゲームの観光的な側面を #FGO と #アサシンクリードオデッセイ で考える~

<ゲームで行く、日常的に行けない場所>

1. まえがき

自分がブログに書く記事のテーマで、今月最後に課すお題は、Twitterで言っていた「FGOと観光」です。FGOとは、TYPE-MOONの人気ゲームのFateシリーズのスマホRPGFate/Grand Order』のことを指しています。

 

このFGOって、どんなゲームなのか?CMで見かけ、公式サイトにもあるキャッチコピーは、第一部が「それは、未来を取り戻す物語。」、第二部が「それは、多くの未来に打ち克つ物語」です。坂上秋成氏は自著『TYPE-MOONの軌跡 』(星海社新書) *1

本作のキーワードの「人理」とは、地球上で最も栄えた種となった人類が、これからも自分たちを「より強く繁栄させるための理」として、求めた理です。FGOの舞台は、

西暦2015年、魔術がまだ成立していた最後の時代です。人類史は、人理継続保障機関カルデアによって、百年先までの安全を保障されていました。ところが、近未来観測レンズであるシバによって観測されていた未来が消失し、計算の結果、人類は2017年で滅びるということが証明されてしまったのです。

(『TYPE-MOONの軌跡 』(星海社新書)、p.210)

 

混乱が起こるなか、近未来観測レンズに観測できない領域が発見されました。カルデアの研究者たちは、その領域が人類滅亡の原因と推測し、「霊子転移(レイシフト)」による時間旅行を行って、その修正を試みます。

 

研究者たちは、歴史上の偉人や神話などの物語の著名な登場人物たちを「英霊」として召喚する「英霊召喚システム・フェイト」を使用して、英霊をサーヴァントとして呼び出し、そのマスター候補たちを過去の時代へ送り込もうとしました。しかし、突然の事故によって、カルデアのスタッフとともに、マスター候補者の多くが重症・重傷を負います。唯一、難を逃れた主人公が、同機関の研究員のマシュ・キリエライトが管制室の火災で動けなくなっていたところを救出したところ、マシュはあるサーヴァントに憑依され、「デミ・サーヴァント」として戦闘力を得ました。主人公とマシュ(たち)は、2004年の冬木市にレイシフトし、異常を修正します。

 

カルデアに一行が戻ると、ある事実が判明していました。それは、何者かが人類史のターニングポイントにつくった「特異点」と呼ばれる異常を見つけ、人理においてそれらを修復しなければ、2017年より先の人類の未来は消失してしまうということでした。主人公とマシュ(たち)は、残ったスタッフの支援を得ながら、7つの特異点へと「レイシフト」するころで、人理修復を目指す「時間旅行」、つまり聖杯探索(グランドオーダー)へと赴くことになったのです。

 

前提となる情報は、書いている私にとって、非常に濃いものでした。ユーザーによっては、上記の難しい設定や、初期の不安定な動作、戦闘シーンの一部スキップができないといったこともあってか、途中離脱した人もかなりの数、いると聞いたことがあります*2

その一方で、FGOは、サーヴァントについての学術系の出版物、彼らを扱たメディア作品等にベストセラーを生み出し、その影響は一時的かもしれませんが、私はそこに凄まじい効果を感じました。坂上氏によると、2017年11月の時点で、1000万以上のダウンロードが記録されているそうで、その人気ぶりが窺えます。

 

FGOの人気はどこにあるのでしょうか?今回は、FGOにおける時間旅行を鍵に、ゲームの観光性について、少し考えてみたいと思います。 

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2.ゲームの観光性を #FGO で考える 

スマートフォンを操作することで、ユーザーは、主人公を通じて人理修復の「時間旅行」を行い、作品内で展開されるストーリーを奈須きのこ特有の濃密で長いテキストで追い、時にマスターとして、マシュや他のサーヴァントと力を合わせて敵と戦います。第一部については、日本では2017年度までに配信され、先月、台湾版で「最終特異点」に配信が「突入」されたそうです。その第一部の「特異点」は、以下のとおり。

 
坂上氏は、主人公とマシュたちがこれらの場所にレイシフトを繰り返し、「人理を守るため」の「旅」を行うことについて、特にマシュが特別な意味を見い出していたと指摘していました。それまで、カルデアを出たことのなかったマシュにとって、この戦いの「時間旅行」は、
気楽な旅行という意味ではなく、すでに過去となった場所へ出向き、未知のものに出会い、土地の人々と交流する中で、人間の在り方を学ぶような(同書、p.213)
「観光」の側面を持っている、と。言い換えれば、FGOの持つ魅力とは、ユーザー自身が主人公一行を通じて「世界の理を正しながら、同時に「観光」的に歴史へ触れることを楽し」む*3点にあると、私は考えました。
 
ゲームをプレイすることは、我々ユーザーにとって、自分たちの生きる現実世界に繋がる過去の世界や、神話や伝説、小説といった「物語」の中を、旅することでもあります。その舞台がゲーム制作側によって作られた虚構の世界であったとしても、日常的には行けない場所に、時空を超えて移動し、その土地で生きる人々や神々、そのほか様々な種族たちに触れ合い、会話をするというのは、プレイヤーにとっては楽しいものでしょう。
 
こういったゲームの持つ観光性については、古代ギリシャの神話の研究家で、NHK文化センター等で講師をされている藤村シシンさんのツイートから窺えます。藤村さんは、お仕事でUBIソフトから発売予定のゲーム「アサシンクリードオデッセイ」の宣伝ツイートで、古代ギリシャ勢から見た楽しみポイントを伝えています。そのツイートの一部は*4

といった感じ。現在のギリシャ現地では見ることはできませんが、ゲーム内では、かつてそこに存在した狩りを司る女神の像とその聖域があり、プレイヤーはプライアブルキャラクターを通じて、その場所を歩き、見ることができるんです!宣伝ツイートのお仕事が始まる前には、今はそこにない建築物のほか、

といった「激アツ」な気持ちを訴えるツイートがありました。そう、現代人たるユーザーやプレイヤーが、現実世界に生きていると日常的には行って見ることができず、その時空の場所でないと会えない、その場所でその時間にいないとイベントに参加できない、という不可能なことを、仮想のゲーム世界で「実現」できるようにしたのが、げ―ムの観光的な魅力の1つだと思います。FGOにしても、10月5日に発売予定の「アサシンクリードオデッセイ」にしても、です*5

 

 

3.最後に

話をFGOに戻しましょう。マシュは主人公たちと一緒に、特異点に移動し、戦いを重ねるなかで、あることを学びます。坂上氏はこうまとめています。マシュは、

グランドオーダー——多くの苦難と出会いを繰り返す「旅」であり「観光」―—の中で、多様な人間の生き方を見てきました。そこには辛く悲しい生を送る人もいたけれど、その全てに意味があったのだと彼女は考えるようになったのです。

(同書、p.216)

マシュが「時間旅行」と闘いで得たこの考えは、第一部の終盤の展開に深く関わってくるもののようです。私はFGOプレイヤーではないものの、この先のストーリーを知っていますが、ここでのネタバレは控えさせて頂きます。気になる方は、実際にプレイされたり、ネットで調べたりしてみてください。

 

ここで、観光の別の側面について、少し、触れておきたいことがあります。

 

観光とは、本記事で述べてきたことを振り返れば、外から現地に来た側にとって、訪れた場所で未知のものを見聞し、娯楽として楽しむ要素があるといえるでしょう。一方で、その場所で暮らす人々(や信仰されている神々、さまざな種族)にとって、外からやって来たものは、必ずしも、気分のいい存在(ばかり)ではありません。

あるフィールド研究者は、院生だった私に対して、ある地域の集落に行き、参与観察された時の写真を見せながら、「観光は時として、「見る暴力」を持つことがあります」と、仰いました。その言葉を授業で聞いた私は、その人集団の生活が映されたスライドを見ながら、「外部から来た人たちに、見せ物にされ、娯楽として「消費」される可能性を考えると、気分のいいものではないな」と、冷静に考えました。

 

こうした観光の側面につきましては、ツーリズムにおいて、様々な研究が出ているようです。本記事では文字数の関係で紹介はできません。もし、バーチャルなゲーム世界においても、観光との関係から研究があれば、読んでみたいと考えていますので、ご存知の方がおられたら、ご一報ください。

 

おしまい。

 

<本記事の参考文献>

 

TYPE-MOONの軌跡 (星海社新書) 

 

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*1:TYPE-MOONの軌跡 (星海社新書) 

*2:このゲームについては、「 FGOの戦略「今FGOを楽しんでいないユーザーのことは、捨てる。」が話題に - Togetter」で、まとめのタイトルにある運営姿勢が批判されています。坂上氏は、TYPE-MOON側はコアなファン10万人に届く感覚でFGOの仕事をしていることを書いていました(『TYPE-MOONの軌跡 』、第7章ほか)。そういった開発・運営側の背景を考えると、「それでいいのかな?」と感じる一方で、TYPE-MOONの始まりを思えば、妙に納得してしまいました。

*3:同書、p.214

*4:面白そうなゲームなので、埋め込みさせて頂きました

*5:余談としまして、藤村さんによると「こんな感じで、毎週月曜20時頃に #古代ギリシャから見るACオデッセイ を投稿する予定です(他の時間にもあるかも)。10月5日の発売日まで、神々も人々も御心麗しくあれ!(藤村シシン9/8神戸NHK on Twitter: ")」ということです。アサシンクリードの他のシリーズ作品については、藤村さんがプレイした時のツイートのまとめが公開されていますので、気になる方はご覧になってはいかがでしょうか:

togetter.com

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