仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【'18年2月の話題】「春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ」(中島恵、 Yahoo!ニュース個人)

<さてはて'19年はどうなる?>

1.はじめに

今回は、「2018年度が終わるまでに、その年にあったけど、話し損ねたテーマを取り上げよう!」という、思いつきの企画です。本記事では、「中国の旧正月こと"春節"、2018年はどんな感じだったんだろう?」と、次のYahoo!ニュース個人を読みます↓

news.yahoo.co.jp

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース、'18.2.18公開)

 

この中島恵さんのニュース記事を読むと、日本以上に年配の方々の皆婚意識が高く、両親や親族に結婚をするように言われれることに疲れたアラサーの人たち。春節前の移動にともなう混み合いを不安に思って帰省を取りやめる働き盛りの人たちがいて、近年の中国も日本と変わらない悩みを抱える若い世代の存在に気がつきます。

 

今回は、一年前の2018年の春節を背景に、昨今の中国が抱える人々の「悩み」について、考えていきます。読者の皆様には、ご自身が年末年始をお過ごしの地域や、関わっている文化圏のお正月に引きつけ、近い感覚でお読みくださったら、と思います。

 

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2.「春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ」(中島恵、 Yahoo!ニュース個人)~2018年の旧正月を振り返る~

  2-1.中国の年越し文化について~年夜飯・新年の挨拶状・紅包~

中島さんによると、2018年の春節には、

  • 各家庭では、昨夜は「年夜飯」という大みそかのごちそうを家族で食べる
  • 中国版のSNS、ウィーチャットでは年賀の挨拶状や紅包(お年玉)が飛び交う

といったことがあったそうです。オンラインニュースを読むと、日本の読者の方には、「年夜飯って何?」という疑問が頭に浮かびそう。最初に少し、中国の年越し文化についてお話をさせてください。

 

まず、”年夜飯”はその年の最後の日(≒大晦日)の夜に食べるごちそうのこと。2013年の年夜飯の事情を書いた記事「春節に復活した手作り「年夜飯」ますます高まる中国の食の安全志向 | 莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見 | ダイヤモンド・オンライン」で、日本に長く住む作家・ジャーナリストの莫邦富さんの言うことによれば、

春節というと、多くの中国人にとっては大晦日の夜の食事が大事だ。家族全員が団欒してその食事を楽しむ。この食事は「年夜飯」と呼ばれる。年夜飯は単なる家族の会食という域を大きく超える存在だ。多くの人がそれを家族の幸福の形の一つと見る。だから、この年夜飯に間に合うように、長距離の移動をも辞さずに遠いところから駆けつける。

春節に復活した手作り「年夜飯」ますます高まる中国の食の安全志向 | 莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見 | ダイヤモンド・オンライン

という、中国の人たちには、この大晦日の食事会が大変な意味を持つイベントであることが分かります。

 

続きによると、この年夜飯は改革・開放時代より前は家庭で作っていたものの、「所得事情が好転するにつれ、約20年前から、年夜飯をレストランないしホテルでする傾向が広がり、自宅の手料理による年夜飯は大都市部ではほとんどなくなっ」っていました。しかし、莫邦冨さんがダイヤモンド・オンラインに寄稿した2013年の冬には、

この手料理による年夜飯は上海などの大都市でひそかに復活したという知らせが届いている。

 

 一番大きな原因は食品の安全問題だろうと思う。安全な食事をしたい。レストランの味に飽きた。食事を作る楽しみがたまらない。こうした理由が手づくり年夜飯の復活につながったようだ。

春節に復活した手作り「年夜飯」ますます高まる中国の食の安全志向 | 莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見 | ダイヤモンド・オンライン

という動きがあった様子。

 

こうした年夜飯には、

  • 帰省した家族で会食するもの
  • 年越しシーズンに食べるもの
  • 手作り→作ってもらったものを食べるといった形態の違いがあること

といった点において、昨今の日本におけるお節料理の習慣に近い感じがしました。 

 

続いて、「年賀の挨拶状や紅包(お年玉)が飛び交う」という習慣については、「中国でも年賀状やお年玉手があるんだ!」と思った日本の方も、少なくないでしょう。年賀状は”新年卡”とか”贺年卡”とか、複数の呼び名があります。中華圏の人たちにも春節に合わせた挨拶状に対して、最近はフリー画像の素材がダウンロードできるサイトがあるようで、毎年、どんな柄のものを出すか悩む人もいそうです。

 

お年玉を”紅包”とも呼ぶのは、赤や黄色のポチ袋にお金を入れて渡す風習があるからでしょうか。中島さんの別記事では、中国語だと"圧歳銭(ヤースイチエン)"と呼ぶとあって、私にはこちらのほうが馴染み深い名前です*1

香港では”利是”(ライシーと発音)と呼ぶもので、日本のように家族や親戚に渡すだけでなく、2013年の香港では「ポケットティッシュのごとく、いろいろな人に配らなければいけないという、変わった慣わし」だったようで*2、私は調べていたら怖くなりました...。最近では、アリペイやウィーチャットペイによる電子決済サービスの普及が進みに進み、Yahoo!ニュース個人によると、紅包もスマホひとつで送れてしまう時代。中国のIT事情に詳しい山谷剛史さんによると、紅包に合わせたキャンペーンが各企業で実施され、近年では「紅包大戦」の激しさになってきているそうです*3。すごい!

 

日本以上に家族や親戚との結びつきを重視するといわれる中国。こうした年越し文化は、年末に集まった人同士の結びつきを強める効果があるものでしょう。ただ、2010年代も末にさしかかった2018年には、20~30代の若年世代にとっては「負担」になることも出てきたようです。

 

 2-2.「結婚しなさい」の言葉が嫌で帰省したくない

中島さんのオンライン記事に戻りましょう。2018年の春節には「なぜか故郷に帰らない、という中国人もい」たそうです。その一人、「上海に住む20代の男性会社員」は、仕事を理由に帰省しなかったことに関して、自身の苦い思いを次のように語りました。

  • 福建省に住む両親から、結婚、結婚とプレッシャーをかけられるから
  • もう28歳になるので、そういわれるのはわかるが、上海では日本と同様、28歳でも結婚していない人は大勢いる
  • 自分ももっと遊びたいし、仕事も大変である
  • 帰省しない自分は、中国的にいうと大変な親不孝者なのは自覚があるが、なんとかプレッシャーから逃れたい気持ちが大きい

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュースより再構成)

 

ちょっと前までの中国人は皆婚意識が強かったらしく、この「田舎に住む彼の両親は50代後半」くらいの世代にとって、「結婚と出産は何よりの親孝行だ。親戚も大勢いて「結婚」「結婚」の大合唱」になるそうです。例えば、日本語学校で働く日本語教師の著者たちの日常を描いたコミックエッセイの『日本人の知らない日本語 2』には、行事で出かけた広島県厳島神社へ遠足に向かったエピソードが、まさにそれを象徴するものでした。拙記事「日本語教師を目指す人への本紹介②~蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語』シリーズ:前編~」によると、「中国人留学生たちが、独身の海野凪子先生に縁結びの祈願をしようと絵馬に願い事を書くシーン」があり、東アジアをフィールドにしているジェンダー研究者・瀬地山角先生によれば、中国では皆婚意識が強いという指摘が次の本にあると紹介したと思います(どうやらひと昔前の韓国も):

 

2018年の中国都市部には、中島さん曰く「都市に住む若者との世代間の意識のギャップは大きく、彼のように板挟みに苦しむ若者は中国には非常に多い」ということ。昨今の北京や上海で親が子の結婚相手を探す「代理婚活」が珍しくないようで*4、こういった結婚に対する世代間の考え方の違いが如実に出ている気がします。日本でも地域や人集団によって、結婚や出産をするように「圧力」をかけられる独身者の話はありますが、それは2018年春節の中国都市部の若年世代にとっても、近い状況だということが窺えます。

 

 2-3.「民族大移動」でグッタリはウンザリなことも

帰省しない人たちが挙げる理由のひとつには、人口15億人を超える中華人民共和国における大規模な帰省ラッシュがあります。いわゆる「民族大移動」と俗に呼ばれるもの。2000年代後半の春節シーズンに、私は大学の実習で広東省広州駅の前を通りかかったことがありました。鉄道やバスを待つ間、大荷物を持って佇む人たちで広場が埋め尽くされ、真っ黒になるような光景は、圧巻でした。

 

年末年始の帰省ラッシュは、日本だと、新幹線が全車両ギュウギュウになるだとか、高速道路が何キロ渋滞だとか、ニュースで報道されます。新幹線の移動をした私は、毎年、狭い空間に長時間、閉じ込められて移動するだけで、けっこうなストレス。そういうわけで、尋常ではない混み具合の大晦日が近づくと、非常に憂鬱です。そうした交通機関の事情は、中国は日本以上のレベルのようで、「北京に住む25歳の女性」は、

「鉄道も飛行機もものすごく混むんですよ。風邪でせき込んでいる人や、ものすごくうるさい人、大量の荷物と着ぶくれした子どもや赤ちゃんの泣き声……帰省の移動を想像するだけで、頭がクラクラしますよ」と話していた。

彼女の場合、鉄道でも飛行機でも、どちらでも移動できる中距離の帰省だが「どちらで帰っても、帰省チケットの予約は争奪戦。春節過ぎてからの帰省なら、ぐっと安くなるのですが、大みそかの夜には実家にいなければならないので、ずらして取ることができないんです」と、半ば泣き顔

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース

で、帰省を取りやめたそう。 「大晦日には年夜飯を一族で食べるんだ!」という中国では、人口が15倍以上。それだけ、鉄道でも飛行機でも帰省チケットの競争率は高くなるのは、想像に難くありません。

 

 2-4.合計60万円を超えることもあるお土産も負担に  

北京在住の女性が帰省を嫌がるのには、別の理由があります。それが、

 「おみやげをたくさん買っていかなくてはいけないので、とても苦痛。最近ではネットで買って、田舎に送付することもできますが、この出費がバカになりません。ボーナスが吹き飛びます」

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース

という理由。中華圏では、贈り物のやり取りが、お互いのその時の経済状態を知る指標となるようで、同じくらいの経済力の人たちと無理のない付き合いをしているところもあるんだとか。詳しくは、次の井上純一さんの本に説明を譲ります:

 

 

が、中島さんによると「メンツを重んじる中国人の間では「気持ち程度の手みやげ」は許されない」ということで、贈り物の土産も豪華になりがちなんだそうです。日本に住む中島さんの友人の中国人男性(50代)はこう言います。

問題は帰省に必要な費用が高額なことだ。彼のおみやげリストを見せてもらったが、母親、妻の両親、弟や妹の家族、親戚に渡す家電製品や靴、化粧品、日本円の現金など、総額60万円ほどだった。

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース

改革開放の時期以降に生まれ、一人っ子政策の世代に比べると、兄弟姉妹の多い年配の方は親戚の人数は、ハンパではない人数でしょう。お土産に加えて、男性には

帰省中にホテルで親戚一同で食事する際には「自分は長男だし、日頃ご無沙汰しているから、全部の食事代を払うことになるでしょうね。 

春節なのになぜ帰省しない? 春節恐怖症に陥る中国人のホンネ(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース

といった中国滞在時の家族の費用を慣習上、たくさん負担する不安がつきまといます。

 

贈り物と並んで、前近代の中国においては、節目の行事で食事を提供したり、費用を負担したりすることは、財力を示すことに繋がるそうです。財力は、持っている人の社会的な力を示す分かりやすい指標であり、すなわち、ビジネスにおける信頼性の担保に繋がっていることが考えられる、と。見栄を張って、ここぞという時にお金を出すということは、少なくない利益があるというわけ。春節に帰省中の食事代を負担するというのも、現代においては、おごる人に「甲斐性」があって、頼もしさを示す意味合いが認められるでしょう。

 

ただ、頼もしさを示すには負担が少なくないわけで、この男性が「今の中国では10人でごちそうを食べたらいくらになるのか……頭が痛いです」と苦笑いしていた」時の気持ちは、推して知るべし、だと思いました。

 

 

3.最後に

上に見てきたように、中国の春節帰省は2018年において、中島さんが言うように「日本人以上に大変なイベントになっている」のです。古い時代の価値観と相対するというのは、現在を生きる人たちにとって少なくない苦労をともなう。そういった事情は、どこでも変わらないものだと、今回のニュースを取り上げて認識しました。

 

中島さんの書いた記事から一年たった2019年の春節は、さてはて、どうなるのか?個人的に思いますに、現在の中国は色んな意味で、まだまだ過渡期にあるのではないでしょうか。たとえば、行事の簡素化が進むと、一方でその反動が起こり、その時の世情と相まって新たな形で何かしらリバイバルする。そんなことが起こり得る可能性を考えつつ、本記事を閉じさせて頂きます。

 

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。おしまい!

 

 

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*1:参照:「もうすぐ春節 中国人の子どもが受け取るお年玉の金額は、いくら?」(中島恵) - Y!ニュース。"紅包"と"圧歳銭"の違いは、現地の人に聞いたり、過ごしてみたりしないと、分からなさそうですね。

*2:参照ページ:中国のお年玉「利是」事情! | 香港ナビ

*3:参照:中国の伝統的お年玉「紅包」がITトレンドを前進させる - ZDNet Japan

*4:上海の代理婚活については、こちらを参照:上海のお見合いは「親が代理で」「傘で」やる :: デイリーポータルZ

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