仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

#ろんぶ~ん 「新たな学問「 #仕掛学 」とは?」...“歩きスマホ”はなくせるのか?の回と補足('18.12.13放送、 #Eテレ )

<論文を紹介するバラエティ番組のこと>

1.はじめに 

「2018年度が終わるまでに、その年にあったけど、話し損ねたテーマを取り上げよう!」という、企画の第2弾です。

 

今回は、論文を紹介することで、学術研究の世界に触れるEテレの番組「ろんぶ~ん」の「仕掛学」の回↓

www4.nhk.or.jp

ろんぶ~ん「 新たな学問「仕掛学」とは?「仕掛け」の力で“歩きスマホ”なくす?」、'18.12.13放送分)

 

番組をよく知らない方に説明すると、主役である「論文」は、オープニングで、

 

論文【論文】

学術研究の成果を書き記した文(広辞苑、第7版)

 

研究者たちが情熱を燃やし、人生をかけて生み出した知の結晶である。

 

と説明されます。その続きには、番組の主旨があり、分かりやすいので引用しますと、以下のとおり。

 

しかし、論文はあくまで「自分の論」。もしかしたら、間違っているかもしれない。後にあっさり覆されるかもしれない。

 

それでも人々は真理に近づこうと論文を書き続けてきた。

 

その論文を今宵、一緒に噛みしめようではないか!

 

ろんぶ~ん!

 

渋めの石澤典夫アナウンサーの声で、古代ギリシャ古代ローマを思わせる石像がヒゲメガネをかけ、真面目に論文執筆に励むアニメーションで番組は始まります*1。司会者は、お笑い芸人・タレントのロンドンブーツ1号2号の田村淳さんで、論文や研究の内容を他の出演者と共に見ていきます。

 

この回のゲストは、新たな学問「仕掛学」の提唱者・松村真宏さん。大阪大学大学院の経済学研究科にご勤務。一体、どんな研究室で、松村さんが取り組む「仕掛学」とは、一体、どんな学問分野なのでしょうか?本記事では、そのあたりを中心に番組を振り返りつつ、簡単に触れられただけだった松村さんの論文などについて、補足する形で紹介してみようと思います。

 

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2.ろんぶ~ん 「新たな学問「 #仕掛学 」とは?「仕掛け」の力で“歩きスマホ”なくす?」の回の振り返りと補足  

 2-1.松村真宏の「仕掛学」とは?~論文「仕掛学概論」とその実例~

番組スタッフが大阪大学の松村研究室を訪ねると、そこにはバスケットボールのゴールが付いたゴミ箱(ワイヤーのくずカゴ)が待っていました。 実は、このゴミ箱は仕掛学の実践例のひとつです。松村さん曰く「バスケットゴールが付いていると、ついゴミを投げ入れたくなる仕掛け」。もとは、AI(人工知能)のデータ分析をしていた研究者だったが、7年前に新たな学問の仕掛学を立ち上げました。

 

映像はスタジオに切り替わり、司会者が出演者・テリー伊藤さんを様々な「仕掛け人」として、紹介。 ここで、第1の論文が紹介されます。それがこちら↓

 

松村 真宏 「仕掛学概論 :人々の人々による人々のための仕掛学」(「<特集>仕掛学」、『人工知能学会誌』28巻4号、2013.7、p.584 - 589)

 

この論文は、田村淳さんが指摘するように、仕掛学の大枠を解説するものです。人工知能学会のジャーナルに発表され、上記のリンク先から無料でダウンロードでき、少し最初のほうを読んでみました。概論の冒頭には、

  • 仕掛学とは著者の造語であり、その前身には「フィールドマイニング」の語があること
  • フィールドマイニングは、「見えているのに見ていない、聞いているのに聞いていないフィールドの魅力に気付かせるための方法論であり、「仕掛け」により人の意識や行動を変えるというアプローチを取る

とありました。

 

松村さんが仕掛学の言い出しっぺとなるきっかけは、番組の序盤にも紹介された天王寺動物園の筒の仕掛けで、論文にも紹介されています。これは、竹のような筒が設置してあり、通りがかる子どものぞいてしまい、熱帯にすむ鳥の模型が見られるというもの。この仕掛けが優れているのは、望遠鏡みたいな形状によって「普通の人ならの『のぞけるな』と想像がつく」ことと、高さが子どもの顔の前ぐらいに設置されていることで、前を通るとのぞきやすくなっていること、の2つです。説明書きなしに、形だけで仕掛けが成立しているところが、シンプルでよい!と。

 

「仕掛学概論」の「2.仕掛けの定義と特徴」には、まず、仕掛けの定義として

  1. 具現化したトリガである
  2. 特定の行動を引き起こす
  3. 引き起こされた行動が課題を解決する

の3つが挙がっています。番組によると、この定義にはまる仕掛けとして、次の3つあります。

  • ゴミを入れると、「ヒューン、ドン!」と長~い落下音が出るゴミ箱(スウェーデンの街角)で、この仕掛けをしない普段より2倍の量のゴミが集まった
  • エスカレーターとセットである公共スペースの階段のほうの利用を増やそうと、階段にピアノ式の鍵盤を設置して、段を踏むと音が鳴る仕組みで、楽しみながら健康にも貢献する一石二鳥の仕掛け(スウェーデンの街角)
  • 大学病院の入口には、イタリアのローマにある名所「真実の口」*2を模した仕掛けがあり、ついつい、口に手を入れるとセンサーが反応して、手に消毒用のアルコール液を出してくれる(大阪大学医学部附属病院)。

最後の「真実の口」は、松村さんが実際に考案したものです。病院の入口にアルコール液を置き、ポスターを掲示した時よりも、「真実の口」を置いたほうが、利用率が40倍に増えた、という効果をご本人が番組内で説明されました。

 

このように、松村さんの「仕掛学」の対象は、人の言動を起こす引き金となり、その結果として課題が解決する仕掛け。ゴミの回収率アップしかり、階段および病院の消毒用アルコール液の利用率アップしかり、です。

 

この論文にある仕掛けは、研究対象のごくごく一部のようで、また、論文は基礎工学畑出身の松村さんの説明が専門的なもので、分かりにくい方もおられると思います。より気軽に「仕掛学」のことを知りたい方には、漫画を入れてとっつきやすくした次の本が出ています。シカケムシを案内役で、さーっと読める内容で、手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

 

 2-2.「仕掛け」の力で“歩きスマホ”はなくせるのか?~ゼミ生の挑戦~

さて、松村さんには「よい仕掛け」という考え方があって、

  1. 誰も嫌な思いをしない
  2. 強制されずについやってしまう
  3. 仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる 

の3つの条件が、番組中盤でフリップに掲げられました。先の音の出るゴミ箱だと、仕掛ける側は「ゴミを散らかしてほしくない」目的でいるけど、仕掛けられる側のゴミを捨てる人は「音が出て楽しい思いをしたい」目的が、3つ目の条件に当てはまります。そういった「興味を持ちそうな別の入口を利用して」、課題解決に繋げるのが、松村さんのいう仕掛け。

 

番組の中盤からは、松村さんのゼミ生による、

  • 使うとゴトゴトと音がして、節約を促す三角形のトイレットペーパー
  • 2種類のソーセージの試食で、おいしかったほうに投票してもらうアンケート式の仕掛けで、試食する人を増やす試み

の紹介がありました。

 

そうした取り組みの中には、松村さんの元教え子で、田縁正明さんの「指向性スピーカーを用いた歩きスマホ防止策「おしゃべりスマホ」」(『エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集』、2016.11)の研究もあります。 今回の2本目の論文著者・田縁さんは、松村さんと同じ丸いフチの眼鏡をかけてていたころを、司会者にツッコミを入れられつつ、登場。論文を読んだ司会者は、「音をスマホに飛ばして、歩きスマホをやめさせるのかな?」といった発言から、話は、歩きスマホはしている人だけだく、している人にぶつかられたり、ぶつかられそうになった人の割合のデータが出され、田縁さんの「おしゃべりスマホ」のアイディアへと変わっていきました。

 

田縁さんは、スマホが「歩きスマホをしちゃだめ」と注意すること、アプリのインストールやスマホの設定を考えたりしなくても、「おしゃべりスマホ」を実践できる方法を考案します。それは、指向性スピーカーを使いう方法です。具体的には、歩きスマホ中の人に向けて実験者が「警告音声」を飛ばし、あたかもスマホ自身が「歩きスマホ、発生中!ブーブー」と警告をしゃべっているような効果を出すもの。これは、一般的に使われている全方位型のスピーカーにて、指向性スピーカーの「音の広がる範囲を一方向に制限し、それを向けられた人にしか音が聞こえにくい」というはたらきを利用した仕組みによります。実際の実験では、道に止められた自転車のかごに指向性スピーカーを設置し、歩きスマホをしている人を指向性スピーカーで「狙い撃ち」!その様子が番組で伝えられました。

 

実験では、普通の全方位型のスピーカーも用いて、歩きスマホを中止した結果を出しました。それによると、

  • おしゃべりスマホ…中止人数:11/39人、中止率:28.2%
  • 全方位型のスピーカー…中止人数:18/39人、中止率:46.2%

と、おしゃべりスマホが、全方位型のスピーカーに負けてしまったそうです。田縁さんによると、実際は、歩きスピードが早いと音が合わない人がいたり、音が届かない範囲に歩きスマホの人を見つけた場合は指向性スピーカーでは限界があったり、といったことが分かりました。合わせて行ったアンケートによると、

  • 「歩きスマホを止めようと思ったか?(心理的効果)」では、7段階中、おしゃべりスマホが5程度、全方位型のスピーカーが6.5くらいの結果
  • 「注意されて不快だと思ったか?(嫌悪感)」では、7段階、おしゃべりスマホが2.5程度、全方位型のスピーカーが4.5くらいの結果

となり、おしゃべりスマホのほうが嫌悪感が少ないこと判明。

 

ここで松村さんの「よい仕掛けとは何か?」を振り返ると、1つ目に「誰も嫌な思いをしない」が出ています。田縁さんが重視したのは、「仕掛けには人に不快な思いをさせない公平性」。そういう文脈において、おしゃべりスマホは「あなたにだけ聞こえますよというメッセージを送るほうが不快な思いをしない」・させないスタンスを持つ仕掛けになると考えていらっしゃいました。よりピンポイントで注意ができれば、不快さは減っていくということで、そこまで研究データを分析することで、仕掛けによる社会問題を解決していけるのではないでしょうか。

 

田縁さんは、このほか「小鉢ガチャ」なる学生食堂での仕掛けの研究もされているそうです。気になる方は、次のリンク先で1ページ目が読めますので、どうぞ:

www.jstage.jst.go.jp

 

 

3.むすび 

このように、仕掛学は非常に実践的な分野で、現在、この分野の研究や取り組みは他大学にも広がっていきました。

 

たとえば、番組終盤で紹介されたのが、東北学院大学の郷古学さん(工学部情報基盤工学科の教授)による「テーブル上の物体の片づけを促すためのロボット振る舞い」(『人工知能学会論文誌』32 巻 5 号、2017 )の研究があります。郷古さんの研究のミソは、机の上の片づけが苦手な人に対し、PCのマウスサイズのロボットを机の上に置き、ロボットが机上の道具を落下させ、苦手な人が道具を片付ける回数を増やすことで、片付ける人の意識を改善させるということ。片づけが苦手な私は、道具を落としていくロボットを見て、とても不快な気分になりました。「松村さんの提唱する「仕掛学」の論文として、郷古さんの研究は、どうなのだろうか?」とも思います。そして、発達障害者のライフハック本の著者・借金玉さんの「神棚式の聖別法」のほうが、私には実践しやすそうかな、と。松村さんが言うように、生活習慣の改善の仕掛け必要ですが、私には郷古さんの研究に申し越し改善の余地がありそうに感じました。

 

エンディングが近づく中、テリー伊藤さんは反省を促されたようで、頭が痛くなったそうです。司会者は「生活の見直しを促すというのが、NHKによる今回の仕掛けだったのでは?」とコメントしたところで、この回は終わりました。

 

さて、新しい分野の仕掛学は、果たしてを大枠ではどの分野に分類されるのでしょうか?「仕掛学概論」ほか、投稿された論文のジャーナルを出しているのが、人工知能学会だから、人工知能学の分野?それとも、人の行動を変えるということから、行動○○学の属する心理学や経済学?番組ではもう少し、そのあたりも掘り下げて欲しかったところです。個人的には、大枠でビジネスや生存学にも属しそうな気はします。

 

なお、番組に出演された松村さんによる仕掛けの作り方、世界中の仕掛けの実践例について、知りたい方は次の本が出ています。よりビジネス向きの実用書といったところでしょうか。ご興味のある方は、本記事と合わせてご覧になってみてください。

 

以上、新しい「仕掛学」を取り上げたEテレの番組「ろんぶ~ん」の振り返り、補足でした。

 

おしまい。

 

 

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*1:ちなみに、石澤アナは、同チャンネルの「ねほりんぱほりん」のナレーター、および番組内ニュースの牛澤さんとしてもお馴染みの方、いらっしゃるんじゃないでしょうか?

*2:映画『ローマの休日』でお馴染みの、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会壁面にある彫刻。大理石に彫られたトリトンが口を開いた像で、「嘘つきが開いた口に手を入れると食べられて抜けなくなる、という言い伝えで知られる」もの。参照:真実の口(シンジツノクチ)とは - コトバンク

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