撮影メイキング・コメディ?!映画『 #カメラを止めるな! 』~芸術家としての日暮監督と「絵仏師良秀」~
<タグは #カメ止め金ロー で!>
1.はじめに
先週3月8日に放送された『カメラを止めるな!』。Twitter実況をした後に、録画を見返していたら、ゲラゲラとテレビ放送時よりも笑ってしまいました。様々なことを想起させてくれる作品でしたので、本記事にレビューをまとめておこうと思います。
Amazonビデオでも配信されているようです。すでに視聴された方は、この記事を読んだ後、もう一度、ご覧になるのも一興かもしれません。
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まだ、ご覧になっていない方は、ネタバレにご注意ください!
2.映画『カメラを止めるな!』のストーリー
主人公は、映像作品の監督をしている日暮隆之。日暮監督は、テレビ番組の再現映像、カラオケの背景映像を中心に、「速い・安い・質はそこそこ」の作品で知られるクリエイターでした。ある再現映像を撮影した直後、彼のもとに新設予定の「ゾンビ・チャンネル」から仕事が舞い込みます。プロデューサーたちは、ゾンビ映画の専門チャンネルの開設記念として、放送するゾンビがテーマのドラマ番組制作の企画を提案し、次のようなことを説明しました。
- ドラマの設定は、山中の建物にやって来たグループがゾンビ映画を撮り始めるが、撮影中にスタッフから本物のゾンビが出てしまい、出演者たちは生存を目指して戦うことになる
- 撮影は、30分程度のノーカット中継で行うことにする
この仕事を受けた日暮監督は、出演者やスタッフたちとの打合せ、リハーサルの段階でギスギスしたものを感じながら、準備をすすめます。撮影当日、交通事情のせいで出演者2人がロケ地に到着できなかったことをはじめ、様々なトラブルが発生していきました。年配の女優役には、ドラマ台本を趣味の感覚で100回ほど読んでいた妻の晴美が、ドラマ内のゾンビ映画の監督役は日暮監督が、それぞれ、代役をつとめることに。
役柄に入り込んでいった日暮夫婦に、主演のイケメン俳優とヒロイン役の女優、撮影スタッフ役の出演者たちは困惑しながら、アドリブや、その場にいた日暮監督の娘・真央の臨機応変なアイディアで撮影を乗り切りました。
ドラマ中継がエンディング・クレジットがで終わった後、ゾンビ・チャンネルのプロデューサー・笠原は、にこやかに撮影終了を告げるのでした。熱演しすぎて、晴美の壊したクレーン・カメラなどを残して…。
3.本作に対するコメント
3-1.この映画の構造とジャンルについて
特徴のひとつが、あちこちで指摘されている「二段構えの構造」になっていること。本作の前半40分ほどが、まるまる、作品内のドラマ「ONE CUT OF THE DEAD」本編の展開に充てられています。後半は、「ドラマ撮影の前日譚(作品のタイトル映像を含む)→当日の撮影裏側のバタバタ劇→中継終了までの撮影メイキング的なひとつの作品」が成立しています。私がTwitterで実況している時は、「入れ子式の構造」のようだと言いました。しかし、どちらかというと、
- 前半は1つのゾンビドラマの作品
- 後半は、ゾンビドラマの撮影メイキング・コメディというべき映像作品
と捉えたほうが分かりやすそうだと考えました。
言い換えると、前半のドラマ撮影の種明かしを後半で行うことで、『カメラを止めるな!』の作品全体がコメディ映画として完成しているといえます。
実際、本作を見ていると、山中の廃屋で撮影する時、どんな道具を持ち込み、どういうふうに使って、出演者をゾンビに仕立てているのか?屋上で、ゾンビを斧で倒す時、飛ぶ血しぶきは「そうか、ホースから血のりを飛ばしていたんだ」と気づきました。この映画は、撮影の裏側がよく分かる作品で、映画DVDの特典にあるメイキング映像や、音楽アーティストを追ったドキュメンタリーが好きな人には、おすすめしたいです。
当ブログで紹介してきたメイキング系の映画なら、『メットガラ ドレスをまとった美術館』があります。ミュージアム特別展の裏側を追ったドキュメンタリー映画で、次のレビュー記事に詳しくまとめましたので、ご覧ください:
このほか、本作はゾンビ映画との関連で語られることが多いようです。そのあたりは、
の著者の岡本健先生が、日本におけるゾンビ人気の観点で本作を考察されているWEBコラムがあります。合わせて、お読みください:
3-2. アーティストとして描かれた日暮監督~『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」との比較~
もうひとつ、本作で面白かったのが、日暮監督がドラマ内で監督役の代理をすることになり、そこでアーティストとしての面が出てしまっている点です。食べていくため、日々の仕事は、テレビ番組の再現映像やカラオケの背景映像が中心の日暮監督。「ONE CUT OF THE DEAD」も、撮影前の段階ではそつなく、スタッフ同士の調整をしながら、全うしようとする姿勢が見えます。中継の当日、ドラマ内で俳優が来れなくなったことで、学生時代に舞台に立ってい日暮監督は、監督役を自分ですることになりました。
その様子は、主演者2人に取りたい演技をしろと言ったり、スタッフに「これは俺の作品だ」と詰め寄ったり。どうも、「ONE CUT OF THE DEAD」では、日ごろ押し込めていた「芸術家」としての本音が出ているような印象を受けました(撮影の裏側に戻ったところで、古沢プロデューサーに肩をつかまれ、冷静な状態に戻されますが)。
このほかにも、日暮監督は「撮りたいシーンのためには、なりふり構わなくなっている」ところが見えました。そのシーンについて、私が実況したコメントはこちら↓
カメラを持って、逃げ続けるスタッフを撮る監督、宇治拾遺物語の「絵仏師良秀」を想起させる。危機一髪のところ、もはやスタッフ、監督スルーしてます。#カメ止め金ロー
— 仲見満月👻委託@4/14 #技術書典6 【か20】 (@naka3_3dsuki) March 8, 2019
宇治拾遺物語の「絵仏師良秀」とは、仏画を仕事にしていた男性・良秀に起きた出来事を通じて、ある意味、アーティストのあり方を考えさせられる物語です。
そのあらすじは、こんな感じ。ある日、隣からの出火が原因で良秀の家は火事に遭ってしまい、迫りくる火から彼は逃げ出しました。家には、依頼仕事で描いていた仏画に、良秀の妻子が残されていましたが、彼はそれらのことを認識することなく、家の向かい側に出て、燃え続ける自宅を眺めています。お見舞いに来た人々が「大変ですね」と声をかけるも、良秀は気が動転した様子はありません。「どうしたんですか?」と人々が尋ねれば、自宅の火事を見たことで、良秀は今まで絵画背景の炎が拙いことに気づき、得をしたと答えました。立ちっぱなしで燃え盛る自宅を見続ける彼に、人々は「あきれたものだ。良秀にはよくない物が憑りついたんじゃないのか?」と口にします。それを聞いた良秀は言い返します。
「どうして霊がとりつくことがあろうか。(いや、ない)。長い間、不動尊の(背景の)炎を下手に描いていたのだ。今見ると、(火は)このように燃えるのだったなあと納得したのだ。これこそもうけものだよ。この道(絵を描く職業)で生きていくならば、仏様さえうまく描き申し上げていれば、100軒1000軒の家もきっと建つだろうよ。お前たちこそ、これといった才能もお持ちでないから、物を惜しみなさるのだ。」
そう言って立ったまま、絵仏師は笑いました。その後、彼の描いた仏画は「よじり不動」として、人々の支持を得たとのことでした。
自分だけ火事になった自宅から逃げ出した後、仕事で描いた仏画に妻子の心配をするより、実際の炎の様子を見て、自分の絵の技術の拙さに気づき、ずっと立って燃え上がるのを観察している。見舞いに寄って来た人たちに色々と言われても、仏画の技術向上のため、良秀は火事を見続けている。現代人の私からすれば、「妻子を助けることをしないのは、人道的にはどうなんだろうか?」という彼の精神性は、この物語を高校古文の授業で習う際、授業担当者は芸術家としてのあり方をポイントとして指摘するのではないでしょうか。少なくとも、私が高校生の時、古文の先生は指摘していたと思います。
映画『カメラを止めるな!』に話を戻しましょう。撮影当日、様々なトラブルにみまわれる現場で、日暮監督は役に入り込みながら、いや監督役ゆえか、トラブルをストーリー展開に組み込みながら、撮影を進めようとしていました。何が何でも、撮りたいシーンを入れ、ノーカットでドラマを中継してやる!前半と後半を続けて見てみると、冒頭の再現映像を撮っていた時とは違う、アーティストっぽい日暮監督の気持ちを感じました。
監督とは別の方向で、ある意味、芸術家(役者?)らしい精神性を持つ人物といえば、本作の中で監督以上に役に入り込んでしまい、トラブル続きで女優業を引退していた妻の晴美がいます。「ONE CUT OF THE DEAD」内で、晴美はゾンビと闘おうと暴れ、機材を破壊してしまいました。彼女は、趣味で身につけた護身術を駆使し、スタッフの羽交い絞めをすり抜け続けたため、クライマックス直前、夫とスタッフに〆られて気絶させられます。作品のために妻を〆た日暮監督については、絵の技術向上目的で燃え盛る家に妻子を置き去りにした良秀よりは、人道的な対処ではないかと(比べるのは不適切でしょうが)。
4.最後に
以上、映画『カメラを止めるな!』のレビューでした。大まかなストーリーを紹介した後、作品の構造とジャンル、および主人公の日暮監督が芸術家としては『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」 を想起させることにコメントし、まとめさせて頂きました。
本作は冒頭で紹介したAmazonビデオのほか、各種円盤が出ているようです。
また、公式スピンオフ作品もあるようですので、合わせて視聴すると面白そう!
kametome-spinoff-hollywood.com
個人的には、撮影のメイキング自体をストーリーに組み込み、コメディにしてしまった本作は、映像制作業界に対して、ちょっとした批判にもなっている気がします。そのあたり、読者の皆様はどうお考えなのか。よろしければ、ご意見・ご感想など、お寄せください↓
おしまい。
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