仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

2026年1月10日までに読んだ本~伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』など4冊~

1、はじめに

こちらのブログでは、新年あけましておめでとうございます!昨年は、仲見満月のここのはてなブログや、同人誌・ZINEを読んでいただき、ありがとうございました。今年も、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。

 

さて、年末の2025年12月31日までに読んだ本は、触れて記事の編集ができる情報端末の関係で、noteのほうにまとめました↓

 

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2025年12月31日までに読んだ本〜辻村七子『博士とマリア』など7冊〜|すみっこ書店@仲見満月の分室

 

今回は、帰省先で読んだ本を中心に4冊。主に、ミステリや殺し屋小説のエンタメ系作家で有名な伊坂幸太郎の本をレビューいたしました。どうぞ、お楽しみください。

 

 

2、2026年1月10日までに読んだ本~伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』など4冊~

 2-1、伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』

1冊目は、伊坂幸太郎が得意とされる、複数の人物の視点の物語が交錯してゆくタイプながら、どこか幻想的な雰囲気のある長編です。

 

 

本書は、福島県猪苗代湖で開かれるライブフェス「オハラ☆ブレイク」のリーフレットに2015年から連載された、連作短編集です。

 

物語は、失言することもある社会人になりたての男と、小人の世界にいる元いじめられっ子がスパイに助けられたことからなった少年の諜報員とのエピソードが交錯することで、進行する伊坂幸太郎の作品によくあるストーリー。社会人になりたての松嶋は、謝罪が得意で社内で重宝される門倉課長や、残業時にマグカップでゴキブリを捕まえた天野さんとの交流を通じて、社会人として成長してゆきます。

 

一方、少年のスパイは自分を助けてくれたエージェント・ハルトと共に、猪苗代湖の周辺にあると思われる敵の研究施設に何度もアタックをしかけ、逃げ切ったり、捕まったりを繰り返す日々。そのうち、突如現れた扉を開くと––。ここから、スパイ2人は、現実世界の日本にやって来て、とあるCEOに拾われ、ゲームの実況プレイで生計を立てることになりますが、元の世界へと帰ることを忘れませんでした。松嶋は、天野さんと結婚し、スパイ2人と出会うことで、彼らを小人の世界への扉へと向かわせることに。

 

各エピソードの合間には、実在するアーティストの楽曲歌詞が使われることがあり、読者には「この曲、全体的にはどんな雰囲気のものなんだろう?」と興味をわかせてくれる存在になるかもしれません。巻末の著者インタビューでは、伊坂氏は「オハラ☆ブレイク」の運営側から依頼され、小説家である自分を知らない人が読んでも楽しめるように、若い社会人の青年の話を入れ、そこへ自分らしくスパイの話を混ぜ込んだと話しています。日本の松嶋と小人世界の少年スパイの2人の視点から、両者の話の軸が交わることでストーリーが展開されるのは、伊坂幸太郎らしくも、どこか猪苗代湖のまとう幻想的な雰囲気もあって、帯にあるように、「現代版おとぎ話」といえるでしょう。殺し屋による犯罪小説やミステリの多い伊坂作品の中では、初心者にも読みやすい作品には入るかも。書店で見かけたら、ぜひ、お手に取ってみてください。

 

 2-2、伊坂幸太郎『仙台暮らし』

本書は、2006年あたりから、2011年の初夏あたりの『仙台学』に連載された伊坂幸太郎のエッセイに、東日本大震災のボランティアに移動図書館で来ていた男性たちがモデルに成った書き下ろしの短編小説「ブックモービル」が収録された本となります。「〜が多すぎる」シリーズから、震災後の仙台をめぐるエッセイまで、その時に仙台で暮らしいた著者の気持ちがぎゅっとまとまっています。

 

 

特に面白かったのは、「映画化が多すぎる」のところ。伊坂作品を原作にした映画は『ゴールデンスランバー』等、中村監督によって撮られています。仙台が舞台の作品の多い伊坂作品ゆえ、それらが原作の映画の撮影となると、ロケで仙台市内に渋滞が発生。また、あまり明るい作品は少なく、犯罪にまつわる話が多いです。そのため、伊坂幸太郎は自分の映画にまつわる話をする人々に聞き耳を立て、「ごめんなさい」と恐縮するところは、面白かったです。

 

震災ボランティアに来て、移動図書館のブックモービルの手伝いをする原田の話「ブックモービル」は、彼がスリであることを隠して活動しているところに、スリルを感じました。ある日、他所からやって来た腰の低い映画監督を、ブックモービルの主・渡邊さんが案内する時、監督が住宅街で「このあたりは被害が少ないですね」と言い続けたことに、渡邊さんが最後にキレ、映画監督に殴りかかって返り討ちにされるシーンがありました。イライラしていた原田は、映画監督を止めるフリをして、彼の腕時計と財布をスリます(怒りの矛を納めた渡邊さんから仲直り後、腕時計と財布は原田から返却)。そこは、読者の私からすれば、少し気持ちのよいところでした。

 

伊坂幸太郎には珍しいエッセイですが、ぜひご一度ください。

 

 2-3、伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

仙台市内でコンビニ強盗の未遂事件を犯した伊藤は、善人の顔をしながら残酷に人を痛ぶるのを快楽とする警察官の城山に逮捕される。2人の乗ったパトカーが事故を起こした矢先、伊藤が次に意識を取り戻すと、彼は知らない荻島へ渡っていた。

 

 

仙台の先の牡鹿半島の南に位置し、150年も外界と交流のなかった荻島には、ペンキ屋で世話焼きな日比野、伊藤を島に連れてきた商社マンこと轟、真実と真逆のことしか言わない画家の園山。そして、予言ができて喋れる案山子の優午など、変わった面子がそろっていました。そんな伊藤が島へやって来た翌日、優午がバラバラにされ、「殺されて」いるのが発見されます。しかも、頭部は誰かによって持ち去られた様子。その出来事は、刑事の小山田が言うように、島で事件が起こり出す前触れに過ぎませんでした。果たして、誰が優午を「殺した」のか?

 

本作は、案山子の優午「殺し」を中心とした謎をめぐるミステリであると共に、仙台の牡鹿半島の南にあって歴史的に流刑地に囲まれた架空の荻島が舞台のファンタジーでもあります。実際、作中で、伊藤自身が数々の出来事に「ファンタジイ?」と自問する場面が出てきます。そういう意味では、伊坂幸太郎のデビュー作となった本作は、ファンタジー色の強いミステリと言えるのではないでしょうか?

 

印象的な人物としては、伊藤の同級生であり、にこやかな顔で、剃刀を入れたハムを犬に食わせようとするようとしたり、道を並んで歩くカップルに体当りして交通事故に遭わせて悲劇を生んだりするのが好きな、温厚そうな面の皮を被った残虐な警察官の城山が登場します。彼は、警察官の権限で、伊藤の部屋を捜索した際に彼の元恋人の静香を突き止め、彼女を廃人にしようとする計画を練る。そこへ轟が現れて、伊藤が島にいることを告げると、城山は拳銃を向けて、轟と静香を暴力で支配し、荻島へ渡ります。荻島に到着した後、彼らは1軒の平屋に立ち寄り、そこには島の「秩序・法律・処刑人」と呼ばれる、美髪の青年の桜がいました。彼の埋めた桜の種の箇所を、城山か踏みつけたことが発端となり、城山は拳銃で桜に股間を撃たれ、悶絶しながら退場します。

 

城山の存在とエピソードは、主軸とはずれた位置にありますが、伊藤たちの荻島のストーリーとは違い、物語に緊張を生む仕掛けとなっています。まあ、こんな警察官には誰も会いたくないと思います。

 

2025年で25周年を迎えた作家の伊坂幸太郎ですが、その記念すべき第一作。文庫本で450ページを超える大作ですが、ファンタジー要素のあるエンタメ系ミステリとして、楽しめておすすめです。ぜひ、ご一読ください。

 

 2-4、青山美智子『お探し物は図書室まで』

4冊目は、久しぶりに読んだ青山美智子さんの錬作短編集です。

 

 

東京都内と見られる、とある小学校の隣にあるコミュニティハウス。そこには、エクセルを習いに来た転職しようか心揺れる20代の服飾店員や、アンティーク店の経営を夢見るリアリストの家具メーカー勤務の男性。それに、デザインの専門学校卒後に就活に失敗したニートな三十路の青年など。彼らは人生や仕事に迷った末に、コミュニティハウスの図書室のレファレンスカウンターで、お餅みたいな雰囲気の女性司書の小町さんに、一考の契機となる1冊を薦められます。

 

本書は、互いに登場人物がリンクする連作短編集です。特に、リアルな描写が秀逸だと感じたのは、40歳の元雑誌編集者で子育て中につき、資料部門へ「左遷」された女性社員のお話。彼女の勤務する万斉社には、育休制度を利用したことのある社員はいませんでした。そのため、9時から5時で勤務しやすい資料部の部署へ彼女は異動に。子供好きな夫は、相変わらず出張が多く、家事や育児は妻の女性に偏りがちです。娘の双葉ちゃんは、イヤイヤ期に突入しており、ほぼ女性はワンオペで家事と育児に対処することになっています。

 

そんな中、小町さんに薦められた月がテーマの本をヒントに、彼女は転職活動を開始。老舗の文芸出版社に、書類選考で落とされた所へ、共に仕事をしたことのある男性が、欠員の出た文芸部門のあるメイプル書房を紹介してくれました。そこの役員や現場の社員との面談で、転職の決まった女性は、職場に子供を連れてこれたり、その子供たちに本の感想を聞けたりする、育児に優しい職場に恵まれることに。私は、かつて仕事をしていた時、仕事のやり方や自分の人生の進路に激しく悩んでいた時期がありました。その記憶が、女性の育児による仕事のやり方の悩みと自分のキャリアパスの悩みとが重なり、涙を流しながら、読み進めたのでした。

 

本書は、最初は表立って推薦図書にはしないけれど、レファレンスという、一種のカウセリング的な行為を通じて、小町さんが様々な図書室利用者の抱える悩みや問題に寄り添い、それが彼らに転機を与える事になります。私自身、図書館司書になったら、小町さんのようなハッとするような選書ができるかな?と不安ですが、一度、彼女のような司書さんにレファレンスしてもらいたい。本書は、そのように読者が思わされる名作ではないでしょうか?

 

 

3、おわりに

1月の第2週は体調を崩しており、なかなか、本を読み進めることができませんでした。読んだ本は、1冊目から3冊目まで、小説とエッセイを合わせた伊坂作品に加え、久々に青山美智子さんの連作短編集を加えた4冊。

 

伊坂さんは、私が高校生の時くらいにデビューされ、2000年代から同時代的に今までずっと話題の作家だと思います。昨年の2025年に、デビュー25周年を迎えられ、

 ・『楽園の楽園』

 ・『天気とパズル』

 ・『さよならジャバウォック』

の3作が刊行されました。そのうち、上から2冊目までを購入しております。

 

彼の作品は、ミステリから殺し屋の登場する犯罪小説を中心に、人間模様が交錯する長編が1つ。まったく繋がりのない人々の寓話やおとぎ話のような短編作品集が1つ。この2つのタイプが特徴として挙げられるのではないでしょうか?ほかに特徴を挙げるとすれば、他の作品に登場した人物が、別の作品に関りを持っているという、伊坂作品同士のリンクが楽しめることがあるでしょう。特に、初期の作品はそのことが『月刊ダ・ヴィンチ』の伊坂幸太郎の特集で指摘されており、読者がそれをワクワクしながら読み進められるようになっています。

 

一方、青山美智子さんの作品も、初期の作品では、『木曜日にはココアを』に登場する保育園児の拓海君が、『猫のお告げは樹の下で』に小学生となって登場している。というように、よく読むと、登場人物がリンクしていることがあります。読み進めていくうちに、私はこのような登場人物がリンクしている伊坂作品や青山作品のようなミステリや人間ドラマ的な作品が好きなんだな、と感じるようになりました。

 

この正月に、伊坂作品をたくさん買い込んで、積読山を高くしてしまいました。青山美智子さんの作品も、読んでいないものがいくつかあります。年明けは、それらに加えて、「イヤミスの女王」とされる湊かなえさんの作品も読んでいこうと考えています。引き続き、お付き合い戴けたら、幸いです。おしまい!

 

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