仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「リスクを知ったうえで文系大学院に進もうか」

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 人文科学系の大学院に進学するのはリスキナーなことではあったが「なんとかなる」という根拠のない算段のもと、わたしにとっていつの間にか、息を吸うこととミャンマーに関わることは、同じくらい当たり前で、大事なことになっていた。

 そうして進学した直後に、難病を発症した。調査は中断し、大学院は入って早々に休学せざるをえなかった。

(出典:大野更紗『シャバはつらいよ』(ポプラ文庫 お9-3)2016年、p.206)

 

 最初の段落に、研究者気質の匂いがプンプンしております。執筆者は、大野更紗氏。大学でとった通年の「アジアの人権」の授業課題で、日本在住のミャンマー人の難民にインタビュー したところから、ミャンマーの難民問題に関心を寄せるようになり、このテーマで卒論を書いちゃった。その上、大学院に行っても研究でこの問題に取り組むぞ!お-!という感じで進学しちゃった元上智大学国語学部フランス語学科の大学生で、「ビルマ女子」(先輩たちの命名)の大学院生である。

大野更紗氏を尊敬してしまうのは、研究でタイの難民キャンプに行く前、ちゃんと資金を得るためにしかるべきところに申請書類を出し、研究助成金をゲットして行ったこと。つまり、「なんとかなる」と言いつつも、事前にきちんと資金援助を得る方法を調べて準備をし、フィールド研究を始めているところなのである。

 

その後、大野氏はタイの渡航先で原因不明の体調不良に襲われ、帰国せざるを得なくなった。タイと福島の病院を診察で回り、東京の大学病院で検査を受け続け、自分の調査でアポとって、とある医師に会いに行き、難病を発症したことを突きとめる機会を得る。その後、大学病院こと「オアシス」(大野氏命名)に入院し、闘病生活を続けるものの、七転八倒。他の患者、難病患者をサポートする福祉の専門家(ワーカーさんたち)とのやり取りを通じて、病院の外に部屋を賃貸し、「シャバ」へ出て行く。

(以上のより詳細な経緯については、次の作家デビュー作に詳しい:

大野更紗『困ってるひと』(ポプラ文庫)2012年

 

大野更紗氏は、氏自身が非常にパワフルで興味深い研究者なのだが、彼女については別に記事を立てて、著書を通じて魅力を語りたいと思う。

 

今回の記事のテーマは、タイトルにある通り、「リスクを知ったうえで文系大学院に進もうか」ということ。具体的には、上の下線部に示した大野氏のように、事前にきちんと文系(文学、哲学、歴史学等の人文科学を含む)大学院に進学するリスクを調べ、思考をめぐらし、進学の覚悟が決まったら、進学に備えようということである。

 

さて、ご自身も文系大学院 に通っておられた方で、今も細々と研究をされている、私の先輩一人が昔、こんなことを言っておられた。

 

「文系の大学院に行くのは、自殺するようなものだ。社会に適応できないような、

 変わった奴が集まる場所だぞ。不景気な世の中なのに、雇ってもらえない方向に

 経歴を重ねることになるぞ(*注)」と。

 

この先輩は、いつも歯に衣着せぬ物言いをなさる上、言葉が乱暴なことが多い。言われた当時の私は一瞬にして、体が固まってしまう感覚に襲われた。しかし、今振り返って、ここ最近、私が書いてきた記事を思い浮かべると、文系院生を取り巻く現実としては確かに的を射ていると思う。

 

だがしかし、私は考える。もし、院進学希望者が考えに考え抜いて、それでも進学したいというのなら、「死ぬほど、探究したいことがある」という気持ちを持っていることなのではなかろうか。そういう意味で、冒頭に引用した大野氏の最初の段落は、リスクを覚悟してはいるけれど、それでも知りたいことのために進むという、研究者気質丸出しな文章なのだ。

 

知りたいことがある。追究してみたいことがある。だったら、それを職業にするという道で取り組んでいこうと1ミリでも考えるなら、きちんと情報を収集し、リスクを知ってさえも大学院に進みたいというなら、進めばいいじゃないか。私はそう考えている。

 

という考えに則って、地球のどこかにいる日本語が読め、日本の大学院に進学したいという気持ちを持っている「誰か」に向けて、この記事を書いている。まら、昔、情報へのアクセス方法を知らず、苦しさに対し、どうしていいかわからなかった院生当時の自分への悔いが今、私を突き動かしている。

 

これを読んでいる「誰かさん」へ、宛てて一言。

「 さぁ、いつまでの立ち止まってないで、PCを開いて調べよう。

 服を着て、人に会って話を聞きこう。

 こうやって行動して、リスクを知ったうえで大学院に進もうじゃないか」 

 

 

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*注:下の記事で紹介したように、文系分野でも、地理や心理学、考古学等の比較的理系よりの手法を用いる学問は、文学、哲学、歴史学よりは就職口がみつかりやすいことがある。おいおい、こうした細かい分野別の就職事情を別記事で扱う予定。

 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

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(*2016.7.18追記)

今回の記事を書くきっかけになった、チェコ好きさんの文章です。有料200円の記事ですが、一読の価値はあると思い、リンクを貼らせて頂きました。

 

note.mu

 

「自分は論文書く代わりに、ブログで考えたことを披露するだけで満足だ!」

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チェコ好きさん、文筆家の北条かや氏のように「note」等の自分で書いた記事を販売できるサイトにアップして、細々とした収入を得る。こうした方法で考えを整理し、ジャーナルに投稿し、伝手が見つかればイベントに出るといったほうが、博士課程にいるよりもストレスが少なく、現実的に安定して長く研究が継続できるでしょう。

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