仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【ニュース】「目指すは30万点!自由に利用可能な古典籍もある国内最大「新日本古典籍総合データベース」が試験公開」(Japaaanマガジン)

<豆腐料理の江戸時代版クックパッドも「源氏物語」もあるよ>

1.はじめに

2017年5月の第3日曜日、母の日。ですが、私は昨日に入ったニュースで、TOKIOがDASH海岸の仕事でラブカを釣り上げた報道に、心を一瞬、奪われました:

TOKIO城島&山口“幻の古代サメ”捕獲 『鉄腕!DASH!!』で再び超貴重生物を発見 | ORICON NEWS

もう、十数年、TOKIOの活動を見たり、聞いたりしていますが、農業といい、大工や建設とその周辺の技術といい、食材調達のために日本あちこちに出かけ行ってはもらう・釣る等から調理技術まで、その情熱とひたむきさは人を動かしまくっています。Twitterでは、とことんやり抜く姿勢は、非常に研究者向きではないかという指摘が出ていました。また、身につけたその技術は、「株式会社TOKIO」という商業方面でやっていけそうなものを感じておりました(実際は、そう簡単に食べていけるわけではないのでしょうけれど…)。

 

一方で、その姿はアジア各地の王朝の君主たちが、権力者の地位を失っても、他の職の技術で生きていけるよう、例えば、オスマン帝国の歴代スルタンは職業訓練を受け、メフメト2世の園芸趣味は、一説に庭師としての訓練の影響とされていたと聞いたことがあります。そういったエピソードと、なぜか、私の中で結びつくところがありました。なぜでしょうね?不思議なものです。

 

その時代ごとに、安定して需要のある技術を身につけ、使いこなせれば、とりあえず生計を立てられる可能性はありそうです。2010年代後半の現在だと、コンピューターサイエンスがその技術分野のひとつに入るでしょう。関係のある職種・SEについては、どんな人が文系だけどSEになれるのか?~『文系女子だけど新卒でSEやってます』をもとに高校数学が欠点な人間が考える~ - 仲見満月の研究室で紹介しました。

 

その技術は、人文科学の分野においても欠かせないものになってきています。そのひとつが、例えば、「国文学研究資料館が中心となって進めているプロジェクト「歴史的典籍NW事業」」の中の、「日本語の歴史的典籍データベースの構築」です:

mag.japaaan.com

 

 

2.「新日本古典籍総合データベース」について

先のJapaaanマガジンのニュース記事によると、歴史的転籍データベースの構築が進み、

kotenseki.nijl.ac.jp

と題した「ウェブ上で閲覧できるデータベース」の試験公開が開始されたとのことです。

 

f:id:nakami_midsuki:20170514171941j:plain

(画像出典:新日本古典籍総合データベース)

 

 2-1.「新日本古典籍総合データベース」の概要

このデータベースの概要は、ニュース記事で次のように説明がされています。

 

この「新日本古典籍総合データベース」は複数の機関が所蔵する古典籍の情報や、その高精細画像を一度に検索できるデータベースとして開発が進められているもの。

 

なんと約30万点もの日本語の歴史的典籍を画像データ化して、既存の書誌情報データベースと統合することを目指しています。この計画の実施にあたっては国内20大学のほか、海外の大学・研究機関とも連携して進められています。

(目指すは30万点!自由に利用可能な古典籍もある国内最大「新日本古典籍総合データベース」が試験公開 | 歴史・文化 - Japaaan)

 

日本の古典籍について、私は全くの素人です。ただ、東洋学の方面でも漢籍を画像データ化し、データベースが進んでいます。私がお世話になったことがあるのは、例えば、東京大学 東洋文化研究所 漢籍善本全文影像資料庫が挙げられます。東大の東洋文化研究所のほか、日本では他の大学でも漢籍のデータベースが構築され、公開されているところもあったと記憶しています。

 

古典籍の画像データ化をオンライン上で公開することのメリットは、研究対象の古典籍が所蔵されている場所まで、研究者が時間とお金をかけて行かなくても、ネットに繋がったPCがあれば目的の古典籍を一目で確認できるところです。例えば、ある古典の本について、研究している人がいたとします。その本と同じタイトルの本であっても、バージョンの違いによる本文の文章内容や文字の移動、掲載されている挿絵や画像の質の違いによって、研究上、必要なその古典籍の複数のバージョン、つまり、複数の版本を調べないといけないことがあるんです。古典籍って貴重なものだと、所蔵されている図書館や資料館等の施設が限られているケースがあって、下手すると、Aという版本の1ページだけを確認するために、海外渡航をすることだってあり得ます。

 

今回の「新日本古典籍総合データベース」は、古典籍を所蔵する施設の少ない日本国内の地域に住んだり、また日本語の歴史的典籍を扱う海外に在住したりする研究者にとって、非常に助かるツールになるのではないでしょうか。特に、「約30万点もの日本語の歴史的典籍を画像データ化して、既存の書誌情報データベースと統合することを目指」しているということで、これまでにかかっていた、あちこちの図書館や文書館を飛び回る時間は省けそうです。

 

国文学研究資料館が中心となって進めているプロジェクト」の中身の一部であり、「この計画の実施にあたっては国内20大学のほか、海外の大学・研究機関とも連携して進められてい」るとのこと。高い研究の質に支えられた古典籍の情報、および高精細画像がベースになっていると考えれ、データベースとしての信頼性と画像の質は、高いと思われます。

 

 2-2.「新日本古典籍総合データベース」の古典籍タイトルと試験公開版の仕組み

ニュース記事の伝えるところでは、このデータベースに含まれている古典籍には「江戸時代のベストセラー「豆腐百珍」や、「源氏物語」など、知られた名称の書籍もデータベースに追加されて」いるそうです。ちなみに、「豆腐百珍」とは、「天明2年(1782年)に出版された料理本。100種類の豆腐料理の調理方法を解説している」もの。ニュース記事の豆腐百珍」の画像には、「簑でんがく」や「繭でんがく」について書かれた部分が見えます。

 

豆腐百珍」は、豆腐料理に特化したクックパッドといったところでしょうか?

 

また、今回の試験公開版では、「フレンドリーに古典籍に触れられる仕組みが導入されて」いるということで、通常のテキスト検索のほか、

  • オススメキーワードやピックアップコンテンツからも書籍を探れる
  • 歴史的資料の検索データベースとしては珍しく「アクセスランキング」なども設けられる予定

だそうです。どうも、togetterやはてな等のネット上のポータルトップを彷彿とさせます。漢籍のデータベースも探すと、こんな親切で使って楽しくなりそうなシステムのところって、あるんでしょうか?

 

続けて、ニュース記事には以下のようなことが書かれていました。

 

さらにこのデータベースで公開されている国文研所蔵の資料に限っては、指定のクレジット表示をするだけで誰でも自由に利用が可能。改変して利用することも可能なライセンス(CC BY-SA 4.0)で公開されています。国文研所蔵資料以外の利用方法はこちらから確認できます。

(目指すは30万点!自由に利用可能な古典籍もある国内最大「新日本古典籍総合データベース」が試験公開 | 歴史・文化 - Japaaan)

 

自由に利用が可能って、その範囲は商業用でもいいんでしょうか?学術論文や本を執筆する際は、データベースの文献についても、他の参考文献や引用文献と同様に、出典元を示すのがルールとなっていますが、クレジットも含めて、出典表記はどうしたらいいんでしょうか?など、私には疑問符がだらけです。

 

 2-3.小結

「新日本古典籍総合データベース」については、分からないこともありますが、最も便利なところは、「複数の機関が所蔵する古典籍の情報や、その高精細画像を一度に検索できるデータベース」と言う点です。先にも近いことを言いましたが、

 

このような歴史的資料は様々な機関が所蔵しており、研究に必要な資料を探す際にはどうしてもそれぞれの機関が公開しているデータをひとつづつ調べていく必要があります

目指すは30万点!自由に利用可能な古典籍もある国内最大「新日本古典籍総合データベース」が試験公開 | 歴史・文化 - Japaaan

 

しかし、このデータベースのように一括して検索できるものができると、日本文学や日本史以外の様々な分野でも、研究が進むと考えらえます。

 

 

3.最後に~実は漢籍も登録されている模様~

以上、駆け足で「新日本古典籍総合データベース」の試験公開版のニュースを見ながら、時に漢籍を使った者の立場でコメントをしてみました。

 

そうそう、漢籍といえば、日本のゲームや漫画、アニメーションでも題材になることの多い「三国志演義」の言葉で検索すると、このデータベースで検索すると、ヒットしました。書誌を見たところ、「三国志演義」が「読まれるもの」として形がととのい、活字の本として出版されてすぐの明代後半のバージョンと思われます。おそらく、ヒットしたもののなかには、日本では貴重だった漢籍として、どこかで大切に保管・保存されていたものもあったのではないでしょうか。

 

ちなみに、東アジアでの「三国志演義」の受容については、次の本の第9章に詳しく書かれていますので、ご覧ください:

三国志演義」以外にも、中国からもたらされ、現在の日本に残っている漢籍はけっこうあるようです。なかには、特定の中国古典作品の日本での受容や使われ方について、研究されている方々がいらっしゃいます。

 

そういうわけで、「新日本古典籍総合データベース」は、東洋学の分野においてもお世話になる人がたくさんいそうです。いや、データベースを構築できるような、コンピューターサイエンスの分野は、すごいなぁと実感しました。

 

「新日本古典籍総合データベース」には、更なるバージョンアアップを期待しております。ということで、本記事の本編は、ここで終了です。

 

 

ここからは、冒頭のTOKIOやアジアの王朝君主たちの「食べていくための技術」と関連した、与太話です。

 

もし、現代アジアに前近代的な君主政の国が今も続いていたとして、「権力者」として失業した時に備え、TOKIOオスマン帝国のメフメト2世のように、生きていくための技術を身につける訓練があったら、君主たちは何を学ぶでしょうか。私はコンピューターサイエンスのプログラミングの技術を身につけて欲しいと思います。特に、東アジアでは、皇帝や王には、古典の教養を身につけることが必須だった時代もあります。

 

Ifだらけの妄想話ではありますが、「現代アジアに前近代的な君主政の国」で革命が起き、IT技術を持つ君主が失業しても、ひょっとしたら、どこかから技術者としてオファーがあるかもしれません。そして、かつて身につけた古典知識を生かして、「新日本古典籍総合データベース」のような、古典籍のデータベースの構築に関われれば、大いに力を発揮するかもしれません。

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