仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

三宅香帆『30日de源氏物語』を読む~平安中期と令和の狭間~

<目次>

1、はじめに

 1ー1、現代語訳の源氏物語への倦怠感

2024年の大河ドラマ「光る君へ」と、FGO紫式部&清少納言が弊カルデアに召喚できたことで、平安時代の文学作品を読み漁るようになった、仲見満月です。2025年度に入り、主に長らく読んでいた角田光代訳の『源氏物語』(河出文庫、2023~2024年)ですが、伊勢物語枕草子の漫画や現代語訳を読むうち、積読気味になってきています。それらの文学作品の合間に、角田源氏をポツポツと読み進めてはいました。

 

だがしかし、3巻終わりの「玉鬘」から、4巻初めの「初音」あたりで、六条京極に光源氏の手に入れた六条院の広大な邸宅と元々所有していた二条院の邸に、妻たちや養女、経済的に援助していた女性たちを住まわせたあたり!そこらへんから、食傷し始めてしまい、読むのを気だるく感じるようになってきています。

 

特に、六条院で初めて迎える新春がテーマの「初音」では、正月のうちに光君が最初に六条院の各女君のもとへ、次に二条院の引き取った後から面倒を見ている2人の女性で、仏道に励む空蝉と、学問をして過ごす末摘花のもとへ、目まぐるしく移動しては会話するのを繰り返すようになると、ストーリーについていけなくなりました。ここで、パタン!と4巻を一度、閉じることに……。

 

 1ー2、『30日de源氏物語』を手に取ってみた

正直なところ、源氏物語は大まかな流れについて、はてなブログで紹介した2冊の漫画で把握していることもあり、現代語訳で全帖を読み通すのが精神エネルギー的にたるみを感じてきました。そんな困った私が手に取ったのが、今をときめく文芸評論家であり、京都大学大学院博士前期課程で国文学を専攻された三宅香帆さんの本書です↓

 

 ●三宅香帆『30日de源氏物語亜紀書房、2024年

 

この『30日de源氏物語』は、「『源氏物語』を読んでみたいのですが、どの現代語訳がおすすめですか?」と尋ねられ、基礎知識がないうちから現代語訳を読むので、果たして本当にこの物語の魅力が伝わるのだろうか?と著者が悩んでいたことに、端を発しています。現代語訳を読むには、まず、前提となる基礎知識を頭に入れるため、入門書が必要だろう、と。

 

そう悩んだ三宅香帆さんは、よさそうな入門書を自分なりに探しますが、しっくりくるものが見つからない!ならば、自分が書いてしまえばよいのでは?と考えた末、できた三宅香帆流の源氏物語の入門書が本書です。

 

それで、本書はどんな内容なのかというと。三宅香帆氏が「はじめに」で曰く、

  " 本書は、30日を通して、『源氏物語』のエピソードを全体的に見ていきます。
源氏物語』の主要なキャラクターや、エピソードを紹介することはもちろん、私は「この話のどこが面白いのか」を紹介することにこだわりました。

 

 古典の授業で『源氏物語』を読んでも、いまいち面白さがわからないのは、やっぱり文法の説明に終始してしまって「どこを面白がればいいのか」についての解説がないから。しかしそれは仕方ありません。面白がり方まで教えていては、いくら古典の授業時間があっても足りませんから。


 しかし本書では、私が『源氏物語』を読んでいて、「紫式部は天才だ!」と思う理由や、「源氏物語は、神!」と思う理由について、愛を叫びながら解説しました。


 『源氏物語』はやっぱり面白いし、すごい物語です。千年以上前に誕生したなんて、信じられない。その理由を解説していきます。"

(本書、p.4~5)

とのことです。

 

 

2、三宅香帆『30日de源氏物語』を読む~平安中期と令和の狭間~

 2ー1、30日で源氏物語を読むためのスケジュール

ここで本書の使い方ですが、表紙カバー裏の見返しによれば、「1日10分から始められる源氏物語入門書の決定版!」となっているようです。具体的な1日10分で読み進めるためのスケジュールは、目次によると、こんな感じ。


 ・1日目☆人物が分かれば物語がわかる
 ・2日目☆恋愛は三角関係で読む
 ・3日目☆人は身分が9割?
 ・4日目☆平安の恋は恋にあらず
 ・5日目☆実際にあったゴシップネタも物語に
 ・6日目☆平安時代と令和の恋愛はちょっと似ている
 ・7日目☆和歌を見ればキャラがわかる
 ・8日目☆紫式部の筆力が冴える描写
 ・9日目☆貴族社会のうわさ拡大速度はSNS並み
 ・10日目☆怨霊は男の罪悪感
 ・11日目☆「結婚=幸せ」幻想をほどく
 ・12日目☆人物のキャラはぶれない 
 ・13日目☆一途な人は幸せに
 ・14日目☆自己肯定感も関係性のカギ
 ・15日目☆女性の運命に容赦なし……
 ・16日目☆人物の呼びかけから、千年前の読者が見える
 ・17日目☆デリカシーの感覚はだいたい今と同じ     

 ・18日目☆イケメンがモテないとき
 ・19日目☆光源氏は爺さん∕婆さんキラー
 ・20日目☆文科系男子と運動部男子の勝敗
 ・21日目☆源氏の親切に下心
 ・22日目☆物語の急展開に要注意!
 ・23日目☆インスタ映えする、恋の始まり
 ・24日目☆手に入らない理想のエンドレス・ループ 

 ・25日目☆恋愛は何のためにあったのか
 ・26日目☆女性は悪い男が好きなのか問題
 ・27日目☆友達でいたい女子と恋人になりたい男子問題
 ・28日目☆みんな大好きーふつうの女の子ハーレム

 ・29日目☆愛の陰にコンプレックスあり
 ・30日目☆正しさから離れて読む

 

以上より、予定一覧を作ってみました。ザーッと眺めた限りでは、本書は、三宅香帆さんによる令和の人の目線で読み解く源氏物語の入門書、という印象を受けました。もちろん、この物語の書かれた平安中期の政治・社会背景から、当時の人の頭の中まで、詳しい解説はされていると目次に並ぶ節のタイトルから窺えます。

 

しかし、9日目の「貴族社会のうわさ拡大速度はSNS並み」とあるように、当時、貴族のうわさは仕えた女房や下男たちの口コミにより、あっという間に京都、果ては国司のいる地方まで広まっていました。更に、狭い貴族社会ですから、貴族たちは世間体について、SNSのある令和の人並みか、それ以上に気にしていた様子。そんなことが本書の前から、角田光代訳を読むだけでも分かるのでした。

 

長い前置きはさておき、本格的に本書の内容に入っていにたいと思います。

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