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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

精神を病み、体が丈夫だったが故に不幸となった女王~ホセ・ルイス・オライソラ『女王フアナ』~

レビュー 伝記 映画

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

先日、上の記事を書いていて、スペインが南イタリアを支配していたことから、トラスタマラ家スペインの女王フアナの伝記を読んだことを思い出しました。

 

ホセ・ルイス・オライソラ/宮崎真紀 訳『女王フアナ』(角川文庫)角川書店、2004年

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〈文庫裏の解説〉

時は大航海時代。イサベル女王の二女フアナは、政略によりハプスブルク家王子フェリペのもとへと嫁いだ。若く、見目麗しい二人は激しく恋に落ちる。子に恵まれ、幸せな家庭が育まれたのも束の間、歴史は不幸にも彼女を悲劇へと導いてゆく――――。
母の死、父の策略、夫の私欲と浮気……激動する世相のなか、フアナは妻と女王の狭間で翻弄され、夫を深く愛するがゆえに精神を病んでしまう。
〈狂女王〉と呼ばれ、城に幽閉されてもなお女王として気高く君臨したフアナ。数々の逸話を残す伝説の女王の知られざる生涯を、スペイン屈指の作家が描く衝撃の伝記。

 

本文は260頁。巻頭に映画「女王フアナ」(後述)のシーン集、スペイン画家たちのフアナを題材にした絵画、フアナ中心の三世代スペイン王家の系図、巻末に年表。スペイン女王の伝記として、コンパクトにまとまり、一般の人でも読みやすい文庫になっています。

 

私がこの本を選んだのは、タイトルに「狂女王」と入ってなかったこと、筆者が男性らしきことでした。フアナの伝記はほかにも何冊か出ていましたが、奇怪な伝説を集めた印象を受けるものだったり、筆者が女性としてフアナに肩入れした先入観があったりで、なかなか、読む気になりませんでした。

 

この本を古本屋で手にとった瞬間、史料を材料に使いながらも一般読者が読みやすい伝記構成に引かれ、購入。一応、筆者の経歴を読んだところ、専門家と組んで著書を出したくらいの作家のようでした。ちなみに、絶版本みたいです。復刊してほしい!

 

中身は、フアナの生涯を軸にした当時のスペイン政治史です。イギリスはヘンリー7世から8世の時代、フランスとアラゴン(統一スペインの主力王国の片方)が南イタリアをめぐって争いを繰り返し、ハプスブルク家は統一スペイン王家とのダブル婚姻によってヨーロッパに影響力を増そうとしていた、そんなルネサンス期の政治舞台から、フアナ女王時代を切り取って描いています。

 

カトリック両王」の称号を得るほどある意味、敬虔だったイサベル1世とフェルナンド2世がスペインからユダヤ人を追い出す過程だけでなく、追い出した後の結果を記録したり、宮廷内の人物が王家世継ぎのために怪しい異民族の術師を召していたり、当時の政治背景を撮るカメラの切り替わりが気持ちいいほど、鮮明です。


ヨーロッパに加え、大航海時代としてスペインが征服していった中南米統治の様子も長いページを割いて、違和感なく組み込まれていました。

少し歴史学かじっていた者として、最後に使った参考文献リストがついていたら嬉しかったかなと。ここだけ、残念でした。もし、重版するなら翻訳者の使ったものでもいいので、参考文献リスト、付けてください!と言いたいところ。


また、この本を読んでいて痛烈に印象に残ったのは、フアナの体が丈夫すぎだことです。本を読んだ限り、フアナが不幸に見える原因は、彼女の体が頑丈であり、感情的で無茶な行動に走っても、壊れない体を備えていたことなんじゃないかと。子供を6人生んで、しかも75歳まで生き続けていたわけで、その間、息子のカルロス1世が退位し、フェリペ2世が即位しているわけです。管理されていた健康状態とはいえ、もともと体力がなければ、当時の医療技術や衛生環境を考えると、こんなに長生きできないはず。

 

フアナ一人を通して、カスティリャアラゴン両方王家の血脈はカルロス1世、フェリペ2世に受け継がれ、統一スペインはかろうじてまとまりを持っていた側面があります。父のフェルナンド2世の生前の動きから、アラゴンよりもカスティリャがスペインの主導権を握っていた向きがありました。そのため、アラゴン2世は、どうしても政治的にカスティリャ王家の血を引く娘のフアナを生かしておく必要があったのです。

 

周囲も下手に罪をでっち上げて処刑すれば、コルテス(当時のカスティリャの議会)へ政治的に付け入る隙を与えることになります。父の死後、フアナが女王として生かされ続けたのも、ハプスブルグ家からの介入を牽制する効果を狙っていたのかもしれません。フアナだけ、ハプスブルグ家の血が入らず、カスティリャアラゴン両方の王家の血を受け継ぎ、スペイン国内に残っていた王族だったから、生かしておくだけでも価値はあったと考えられたのでしょう。

 

なお、フアナの病みぶりには諸説あり、狂ったふりをしていたと言ってる研究者もいます。ただ、フアナがもし狂ったふりをしていたなら、プライドが木傷つきすぎていたと思うので、本当に精神を病んでいたたのではないかと思います。、

あと、一言。系図を見ると、フアナの長女の名前が違っています。作中で少しだけ出て来るのはレオノールで、長男のカルロス1世の姉に当たります。イサベルが二人いるで、そこは絶版前に訂正をしてほしかったところ。

 
それにしても、理性的で偉大だとされた母親のイサベル女王が夫の浮気に耐え、フアナの半分くらいの年齢で亡くなったことを思うと、感情的で夫の浮気をとがめ続けたフアナは、当時の女性王族としては人間的に生き生きとしていたのではないでしょうか?

 


最後に映画「女王フアナ」の紹介です。

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長いフアナの生涯を、夫フェリペとの結婚から死別までを中心に構成し、映したもの。頼む、新婚ホヤホヤの二人を映すなら、18禁にして欲しいと思いました…。

 

印象的なのは、感情的に振る舞い、為政者としてふさわしくないと主張し、統一スペインの実権を握ろうとしていたフェリペと議会を一括し、女王として紅い衣装に身を包んで玉座へ登場したフアナ。かっこよさに、痺れます。また、文庫には登場しませんが、フアナの従者である幼馴染の側近スペイン騎士アルバロがいい味出してます。

文庫にはあまり出てこない話として、祖母イサベルの精神的な錯乱がフアナにも隔世遺伝してのではないか?ちょっと、気になっているところです。

 

読了:2011年8月中旬)

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