【メモ】映画『アマデウス』を見ました~それと時代背景を知るための本『「怖い絵」で人間を読む』~【 #FGO 関係】
1.はじめに
先日、次の記事でお知らせしましたように、弊サークル「仲見研」では、来月の3月10日のTYPE-MOON作品オンリーの同人誌即売会に向け、新刊を出します↓
その'19年3月の春号では、FGOの影響から見た学術出版の世界を特集。その中には、学術的な専門性の高いサリエーリの新版伝記↓
の話題にも触れています。書き下ろしのあとがきでは、絶版になった旧版と新版の「ざっと読み比べレポ」をお送りしていますので、お楽しみ頂けたら、幸いです。
今回は、FGOと学術出版の特集号を作る上で、見たり読んだりした作品について、少し書いておこうと思います。その作品は、映画版の『アマデウス』↓
です。
本記事では、この映画について所感を記録しておきたいと思います。ネタバレにご注意ください。
2.映画『アマデウス』の内容と所感
旧版の伝記によると、音楽家としてのサリエーリが世界的に再び知られるようになったのは、どうも映画版『アマデウス』が1984年に公開されたことが契機となったようです。
その後、2018年4月の日本では、FGOに史実のサリエーリに戯曲『モーツァルトとサリエーリ』等による後世のイメージを加えたサーヴァント「アントニオ・サリエリ」が登場!それを機に、映画版『アマデウス』の円盤がオンライン通販サイトでベストセラーになり、復刊投票に結びついて新版伝記が2019年の1月に発売されました。
映画版『アマデウス』の円盤は、私が確認したところ、
・通常版
・特別版
・ディレクターズカット版
という風に、内容の異なるバージョンがあります。さらに円盤規格としては、それぞれDVDとBlu-rayで出ているもの、出ていないものがある様子。
最近、私が見たのは三つ目のディレクターズカット版ですが、まずは短めで見やすいストーリーに編集された通常版を見るのをおすすめします。ディレクターズカットで追加されたと思わしき場面は、見る人によっては、ギョッとするものもあるかもしれません。
(作中でハプスブルク家の音楽家だったサリエーリに、モーツァルトの妻であり、仕事の斡旋を頼みに行ったコンスタンツェとのやり取りのシーンは、精神的なダメージがありました…)
映画のあらすじは、ハプスブルク家の神聖ローマ帝国の宮廷で音楽家をしていたサリエ―リが、若くて奇抜ながら、才能溢れるモーツァルトに出会い、嫉妬から彼を死に追い詰めてしまったというもの。その経緯について、晩年、サリエーリとされる老人が精神病院の個室で神父に語ります。
老人とモーツァルトが出会った最初の頃は、帝国の音楽の政治的な背景が覗けるものでした。宮廷では、皇帝ヨーゼフ2世の趣味を反映してか、音楽家の職にはサリエーリを含めて、イタリア出身者が名を連ね、そこにドイツ語圏のオーストリア出身らしきモーツァルトがやって来る、と。モーツァルトの発言は物議を醸しながらも、「フィガロの結婚」が上演され、とりあえず成功に近い形となりました。(ただし、ヨーゼフ2世があくびをしたことで、上演期間は短期に終わった)
史実上のヨーゼフ2世は、ドイツ語を国語にしようと大学の教科に口を出したり、ドイツ・オペラを民衆演劇のレベルを引き上げようとしたりと、そういったことをしていたようです。個人的にはイタリア趣味が強く、民衆向けにの文化政策には、ドイツ語のものを強化しようとしていたということでしょうか。
さて、作品の舞台はオーストリアですが、ヨーゼフ2世やサリエーリ、モーツァルトらが話すのは、基本的に英語。作中で上演されるオペラも、役者は英語を基本的に話しているようです。どうやら、作品内ではオーストリアのドイツ語が英語に置き換えられていたような設定。
ただし、サリエーリとその周りでは「グラーツィエ」とか、「シニョール」とイタリア語の単語を発していることから、外国人としての特徴が強調されていたように感じました。新版伝記によると、史実上のサリエーリは亡くなるで流暢なドイツ語が話せなかったようです。イタリア語を発するのは、そういった外国人らしさを視聴者に伝える演出なのでしょう。
『アマデウス』におけるモーツァルトは、トム・ハルスが演じており、奇抜で下品なキャラクターが強調され、しかも落ち着かない性質。笑い方は、口を大きく開き、高い声で「アッハハッ!」と歯をむき出しにし、相手を不快にさせるという意味で、ハルスの演技力の高さは素晴らしい!ちなみに、ハルスはピアノや指揮のレッスンを受けており、一説には作中で最もまともな指揮法をとっているのは、彼だとか。
サリエーリを演じるエイブラハムについては、モーツァルトに尊敬されながらも、綿密に情報収集を行い、裏から彼を死に追いやる、難しい役どころ。精神病院の個室で訪ねてきた司祭に対し、「モーツァルトが憎かった。彼に才を与えた神が憎かった」と語るものの、終わり方のせいでしょうか。私は見ていて「果たして、彼はサリエーリなのだろうか?サリエーリのふりをした別のピアニストなのでは?」と疑うような、キャラクターに見えました。語り手なので、仕方ないのかもしれません。
意外と個性を発揮したのが、ジェフリー・ジョーンズ演じるヨーゼフ2世でした。姿が実際の肖像画にあるヨーゼフ2世そっくりな上、けっこう好き放題なことを言って、仕える音楽家たちを振り回すイメージ。オペラのリバーサルを訪れたら、役者の踊りに迫力がなくて「つまらない」と感じ、同席した音楽家に伝える。すると、それは皇帝自身がバレエを禁止したためであり、ヨーゼフ2世は、ただちに音楽家を通じて、オペラでバレエを
復活させることにしたのでした。オペラのストーリーについては、史実上では「ハッピーエンド愛好家」だったと聞いたことがあって、このあたりは詳しく知りたいところです。
3.『アマデウス』の時代背景を知る本~中野京子『「怖い絵」で人間を読む』(NHK出版)~
映画版『アマデウス』を見ながら、私は映像から見えてくる時代背景が気になっていました。そんな中、ヨーロッパの王侯貴族の肖像画を時代ごと読み解く興味深い、次の本を再読し始めました:
著者は、様々な絵画の歴史的な背景を解説する著作で知られる、中野京子さんです。特に「怖い絵」の絵解きで有名な方で、同書もその一冊に当たります。
この『「怖い絵」で人間を読む』では、前半から中盤にかけて、17~19世紀のハプスブルク家の皇族や縁者の描かれた肖像画を通じて、各時代のヨーロッパの歴史が語られています。女帝マリア・テレジアのところでは、勢力を増すプロイセンに対抗するため、長年の敵国フランスのブルボン家と縁組みを画策する経緯が詳しいこと、詳しいこと。女帝は最初、息子ヨーゼフ2世に、フランスの老王ルイ15世の娘を娶らせようとします。しかし、息子は自分より歳を重ねた女性を妻にするのは嫌だと言い、母帝は娘のうちの一人を老王の孫(後のルイ16世)に嫁がせることにしました。
君主は世継ぎが残せなければ、隣国に戦争をふっかけられ、国家存亡の危機となる。そんな当時のヨーロッパですから、妃を迎えるにあたり、ヨーゼフ2世が歳を重ねた女性を嫌がったのは仕方ないと思います。さて、マリア・テレジアは、複数いた娘をブルボン家に連なる王侯貴族にも次々と嫁がせます。最初、ナポリ王に嫁ぐはずだった九女が病で亡くなり、フランス王家に嫁がせるはずだった十女が繰り上がりでナポリ王のもとへ行くことになりました。残ったのが末娘で、十一女のマリー・アントワネットでした。
十分なお妃教育のされないまま、この末娘は政略結婚でフランスへ輿入れ。やがてフランス革命の中、断頭台へ送られて人生を終えることになります。同書では、ギロチンにかけられる直前の元フランス王妃の様子について、画家のダヴィッドか残したスケッチが出されます。ここらへんの絵解きで語られる王妃としての自覚の芽生えは、FGO第1部の第1章「邪竜百年戦争 オルレアン」にて、主人公たちに助力するライダーのマリー・アントワネットのストーリーにも絡むもので、私にはグッとくるものがありました。
フランス革命から、ナポレオンの登場までの期間は、映画『アマデウス』でいうなら、ヨーゼフ2世にサリエーリが仕えていた時期と一部、重なります。このあたり、映画とFGOの両方を把握している人は、同書で時代背景の知識を入れると、それぞれのストーリーが立体的に繋がって、さらに面白くなるかと思います。
4.最後に
以上、映画『アマデウス』を見ての所感、および同作品の時代背景をより知れる本の紹介でした。本記事で、映画のサリエーリと生きた時代にご興味をお持ちになられた方は、新刊同人誌の'19年3月の春号で触れている、『サリエーリ 生涯と作品 新版』をよりお楽しみ頂けるのではないでしょうか。
そうそう、中野さんの『「怖い絵」で人間を読む』は、後半にイヴァン雷帝を題材にした絵を読み解く章があります。また読み終えたら、レビューしたいところ。私は同書の電子書籍版を読んでいますが、ページ別の絵画を見比べることを考えると、紙書籍版のほうがよいかもしれません。そのあたりも含めて、別記事を立てられたら、と考えました。
今回はこのあたりで、おしまい!