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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

授業で使う教材の話~大学・大学院の教科書をめぐる問題~

11月中旬に入って、本にまつわる話題でお送りしております。今回は、大学や大学院の授業で使う教科書にまるわる話です。長い説明が続くため、目次を用意いたしました。

1.今回のテーマについて

本日のTwitter上で、おそらく現役大学教員と思われる方が、

 ・今の学生にはお金がないのが分かる。

  →授業で教科書を指定するのも躊躇してしまう。

というようなツイートをされているのを見ました。実は、以前にも似たようなツイートを私は何件か、見かけたことがあり、その中には「昨今の学生は、新書1冊でも高くて変えないから、教材をプリントにしてほしい、という人もいる」といった「嘆き」ともとれる、言葉を発しているツイートがありました。

 

先日、次の記事で「学術書は高いんだ」という話と、「学術書よりも、一般向けの簡単な内容を新書として出版できれば一人前の研究者」ということを書きました。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

この学術書、そして新書は大学・大学院の授業において、教科書として使われる書籍なのです。今回は、こうした教科書類について、受講生の立場、それから元ティーチング・アシスタントの経験をもとに、話をしていきたいと思います。

 

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2.教科書の価格に関する問題~受講生の側~

 2-1.学術書の教科書

まず、私が文系学部生だった頃、今から十数年前の授業を例に、話をしていきたいと思います。入学したての頃、受講していた東洋学の専門科目に、入門ゼミというものがありました。その授業では、中国を中心とした東アジアの歴史概説、哲学・文学・歴史学・考古学等の人文科学分野の学問的な違いなど、先生が講義を行い、2年次以降の中国哲学&文学、東洋史学、朝鮮・韓国語学といった専攻・コースへの橋渡しを行う内容を学びました。

 

その東洋史学担当の先生が入門ゼミで指定されたのが、この本↓ 

中国歴史研究入門

中国歴史研究入門

 

本ブログの「中国史研究をする人へのスタンダードな入門書」によると、「分厚くて、4000円近くもする手の届きにくい値段」だったと記憶しております。値段として、学術書では低価格帯に入りはします。しかし、今より景気が上向きだったというリーマンショック前の当時の学部生にとっても、正直、本屋で見かけても手に取ったところで、そのまま、レジに向かえるような、優しい価格ではありませんでした。

 

それで、どうしたかというと、私は学内で募集していた日雇いバイトに運よく採用され、その時の日給の一部で買いました。ゼミ生には、勉強のためには本にお金を惜しまずに買ったり、言い方は悪いですが教科書代をケチって買わなかったり、古書店に出るのを待って買ったり、受講生それぞれでした。

 

 2-2.入門書・新書の教科書

入門ゼミと同じ1年次、2年次くらいまで一般教養の科目、および教職をとっていたので他専攻の専門科目を、私は受講していました。入門ゼミと同様、学術書を教科書に指定される先生方もいらっしゃいました。その一方で、学術書よりワンランク低価格で、おそらく学部生を対象にテキスト使用の目的で作られた入門書(レーベルで言うと○○選書クラス)を教科書に指定される先生方も出てきました。この入門書は、1500~2000円の価格帯で、一般文芸書ほど。先の学術書よりは手を伸ばしやすいですが、それでも、学部生には十分、高かったように思います。ちなみに、入門書を教科書指定にする場合、講義概要において、学術書は参考書・副読本の位置づけがなされていたと思います。

 

同じ時期、新書を教科書に指定する先生方もいらっしゃいました。例えば、課題レポートや学術的な報告書の書き方を学ぶ「アカデミックライティング」の授業だと、次の新書が教科書に指定されました。

大学生のためのレポート・論文術 (講談社現代新書)

大学生のためのレポート・論文術 (講談社現代新書)

 

 手元に持っているこの本は、価格が680円(税別)で、当時は消費税が5パーセントでしたので、税込み価格は714円。これが当時の新書価格として、最低ラインでした。

この714円、当時の学部生の物価感覚に置き換えると、一日のうち、低価格ですが一食分の値段に相当します。どういうことかというと、まず千円札を払うと、286円のお釣りが返ってくる。このお釣りの額であれば、大学の学生食堂で開催されていた朝食バイキングで一食は食べることができた値段です(大学によって開催なしだったところあり)。

つまり、一日分の食事を我慢すれば、まだ新書一冊買える感覚だったのです。

 

 2-3.大学図書館の利用とコピー屋

新書は何とか買えていた。でも、学術書や高めの入門書が必要な場合、どうしようか。そんな学部生が向かう先が、大学図書館です。先生方によると、授業で使う新刊の学術書が出るたび、蔵書に入れてもらうように頼んでいる方もおられるそうです。さて、学術書の教科書は値段が高めです。大学図書館に入ってる数にも限りがある。ツワモノの学部生は借りたら安いコピー屋さん(キンコーズより安いお店が学生街に出店しているケースがある)で、ひたすらコピーして、もとの本は返却します。コピーした紙の束は、ダブルクリップでとめたり、フラットファイルに穴をあけて綴じたりして、授業に持っていきます。そして、次の学生が借りてコピーすると。

 

いくらコピー代が安くても、当時も、そして今も、人力で紙を捲ってのコピーで、時間はかかる。その時間をアルバイトに充てて、教科書を買ったほうが安いこともあります。それに気が付いた私は、2000円台の教科書を買うのに、冷静に電卓をはじき出しました。結果、買ったほうが安い場合もあり、それ以降、ぜったい欲しいもの以外では、教科書買うのにも電卓叩くようになっていました。

 

  2-4.そして2010年代の状態

リーマンショック後、不景気は学部生たちの生活を直撃しました。バイトをしても、生活費を賄うのすら、厳しい学生も出てきました。

そして私の邪推では、ここ数伝は新書一冊でも税込みの最低価格は800円台。高いものでは、1000円台のものも増えているように思います。それでも、学生には2~3食分くらいの価格の新書は、一日分の食事を我慢すれば一冊は買える本もあります。でも、空腹で頭痛がしたり、注意力散漫でバイト中に危ないことが起こる危険があったり、健康面では非常によろしくありません。

 

2010年代の頭、私は院生となり、ティーチング・アシスタント(TA)で大講義の準備やスライド作成等、先生の手伝いをしていました。初回の授業の時は私も受講するのですが、指定の教科書を先生が発表すると、授業終了後に「どこで買えますか?」、「値段はどのくらいですか?」と受講生が質問に来るんですね。指定の教科書には、発売当初は2000円くらいだったものが、絶版となった現在の古書店では4000円と2倍以上の値段がついていることもあり、事情を知っているTA側としては、けっこう心が痛いのです・・・。 

 

 

3.教員側のジレンマと教科書指定の事情

 3-1.教員側のジレンマ

そういうわけで、教科書を指定する・しないは、先生方にも頭の痛い問題だというのは、私も理解できます。そうは言っても、自分専用の教科書があると、ページにアンダーラインを引いたり、書き込みをしたり、勉強で工夫ができる利点があります。頭に授業の内容が残るような、効果的な勉強をするなら、教科書はあったほうがいいとは思います。

 

先生によっては、「一日分、食事を我慢して買いなさい」と仰る場合もありますが、資金確保ができても、そもそも、絶版になった本では古書店で売り切れてしまうと、その後は入荷しないケースがあるわけです。特に、発行部数自体が少ない学術書は、古書店に入荷した時点で即売り切れになることが多い。

 

そうこうしているうちに、私のいた大学院では、学部生との合同講義で、先生が文献のコピープリントを指定するのが主流となりました。実は、絶版になった学術書を、授業で使いたい先生のご希望によるところが大きかったのです。

授業準備では、先生がお持ちの学術書を渡され、必要なページをしてされると、TAがコピー室で受講生数の部数を刷って綴じるよう複合機で作業。大講義だと、200部もの束をマチつき紙袋に入れ、トコトコ歩いて、大講義室に運んでおりました。

 

ちなみに、私の学部時代の授業で、印刷教材を配布される先生方はおられました。それは講義概要、つまりレジュメの場合が多かったように思います。何かの文献をコピーして配布される先生はいらっしゃいましたが、せいぜい、多くて6ページほどで、補助的なコピープリントでした。

 

 3-2.教科書指定の事情

そもそも、なぜ教科書の指定が行われたのでしょうか。

その一つの理由にに、学問の最前線にある研究を授業に取り入れたいという、教員側の事情が考えられます。分野によっては、日進月歩で定説が塗り替わっていくところはあるわけで、常に新しい知識と技術を学生に教え、人材を育てなければならない分野があるのです。

 

もう一つの事情は、もともと特定の大学や授業で教科書として出版し、学生に売ることを前提として作られる入門書が作られるという、商業的な背景があるようです。実際、教科書目的で使う入門書の取りまとめ役になっていた先輩の話では、特定の学術団体と出版社が企画を練り、一定の需要が見込まれる場合、教科書向けに入門書を新たに作るというケースがあるそうです。その場合、価格についても話し合われ、学生が手に取りやすく、かつ、出版社にも利益の出るように価格設定が行われるとか。

 

だいたい、このような事情が私の周囲には、ありました。

 

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4.最後に

以上、大学・大学院の授業で使われる教科書をめぐる問題をについて、主に価格の面から話をしてきました。

大学の授業で使う教材に関して、教科書に次いで使われることの多いプリント、レジュメの印刷に関しては、また別の問題があります。具体的には、誰が印刷代を出しているのか、という大学・大学院の全体を纏める組織から、どの学部や院の研究科・学府等に予算を割り振っていくか、といった運営の話とも繋がってくると思われます。こちらの印刷代に関しては、情報があつまっていないので、書けるようになったら別記事でお話ができればと考えております。

 

長くなりましたが、今回はここで締めさせていただきます。ここまで閲覧くださいまして、ありがとうございました。

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