仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

東アジアの人々の高学歴ワーキングプア~春原憲一郎『「わからないことは希望なのだ」』の日本語教師の雇用問題より~

1.はじめに~本記事で取り上げる本の紹介~

本ブログでは院卒者について、日本だけでなく東アジアでは、特に文系は就職が厳しいということを何回か、書きました。しかし、その詳しい事情について、具体的な文献やデータを挙げ、説明する機会がありませんでした。様々な文献を読み、紹介できるものを探していたところ、次の対談集を見つけました。

 

 本書は、1980年より「(財)海外技術者研修協会で技術研修生への日本語教育に従事し、国内外問わず多くの地域で、日本語教育環境の企画開発及び教師研修に携わって」きて、2016年現在はNPO日本語教育研究所の理事をされている春原憲一郎氏が、聞き手となった対談集。春原氏に話をかけるのは、現代日本の抱える問題について、いろいろなフィールドで多文化共生をめざし、第一線で活動に取り組んできた15人。

 

その15人の中には、今の日本が抱える貧困問題を取材し、本に執筆し、発表してきた作家・雨宮処凛氏との対談があります。彼女との対談では、日本国内の各地域にある日本語ボランティア教室を入口として、そこで"ボランティア"として無給で日本語を教える院卒の日本語教師、彼らの持つ資格や学歴の陳腐化、さらにその「陳腐化」は日本留学から帰国した東アジア各国の学生にも起こっていることを、春原氏は指摘しています。

 

今回は、この春原氏と雨宮氏の対談(特にp.210~211)から、本書の刊行された2010年当時の東アジアの院卒者のワーキングプアの状況について、見ていきたい。話の起点とするのは、日本の大学だと人文化学系の学部・大学院の日本文学・国文学、日本語(教育)学、そして日本語教師の養成講座や専門学校で養成される日本語教師。すなわち、ここでは院卒者といっても、文系院卒者のワーキングプアのことを話題の中心とすることを、ここで先におことわりさせていただきます。そして、毎度で申し訳ありませんが、私の駄弁りも挿入されます。

 

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2.春原憲一郎と雨宮処凛の語る東アジアの高学歴ワーキングプア日本語教師を起点に~

 2-1.日本語教師の雇用問題と日本人の高学歴者の事情

本項では、まず、日本国内の日本語教師の待遇と雇用形態から、詳しく見ていきます。春原氏によると、国内に日本語教師は3万人近くおり、その5割はボランティア、4割弱が非正規雇用で、1割だけが正規雇用とのことです。雨宮氏言うとおり、「9割が非正規雇用とボランティア」なのです。このような日本語教育に携わる人たちというのは、春原氏の話では「いろいろな資格を取ったり大学院に行ったり海外に教育実習に行ったり」した人が多いと。皆が資格を持つせいで、自分の資格が陳腐となり、その資格の価値は繰り返し落ちていく。そういうことが、ここ30年間キープされてきたと春原氏は指摘しています。

 

確かに、本記事執筆者の私の周囲でも、日本語教師の資格と持った修士卒者たちが就職先を探すと、月収数万円ほどの非正規雇用の枠しかないこともありました。それは国外でも同じようで、韓国や台湾で職探しをしている修士卒の日本人たちも「我々は、安く買いたたかれてしまっているようだ」と、こぼしていました。

 

話し手の雨宮氏の周りでも、高学歴で留学期間が長い人ほど「「日本に帰国してからまったく仕事がない」」状況になるそうです。「スキルアップのために留学」したのに、「帰国したら新卒じゃない人間は」日本での就職活動において標準的な新卒枠から漏れてしまい、「損なことになってしまっている」という。

 

私が思うに、文系の新卒者を日本の企業が欲しがるのは、若くて伸びしろを持つ、どの方向にでも教育しやすい人材だというのは、よく聞きます。そのような意味では、文系の修士卒者で留学から帰って来た人材は、日本の企業としては伸びしろが少なく見えがちで、育てにくく感じて、敬遠されがちなのかもしれません。

 

 2-2.東アジアから留学生の学位と帰国後の就職活動

さらに、聞き手の春原氏によると、日本にやって来た留学生たちも、就職活動で損をしているそうです。 春原氏の経験では、次のような事態が起こっていたそうです。

特に中国、韓国、台湾などの東アジアでは、日本以上に学歴志向が強くて、受験競争が激しい。そうすると、日本に来て学位を取っても、実はそういった地域からは大勢の人が来日しているから、帰国してもそれじゃつぶしがきかない。そういった学歴をめぐるグローバルな陳腐化が起きている気がします。 

そこで、あるのは日本で学部を卒業後、欧米の大学院に入学して、より高位の学位取得をめざす東アジアの留学生の存在です。本書は2010年の刊行ですが、私が院生やっていた2010年代初めは、アメリカに留学していた先生方のお話では、富裕な東アジアの子女は、日本になど来ず、欧米の大学を直接目指すようになっていたとのこと。

 

そういうわけで、特に文系の院卒者は高位の学歴を留学してまで取得することが、母国での就職に結びつくどころか、逆に就職に不利になることが多くなっているのです。

 

 

3.まとめ

さらに、雨宮氏の情報では、

留学して高学歴でも非正規雇用、というのは、イタリアやスペインなども同じような状況だと聞いています。

ということで、欧米のほうでも高学歴ワーキングプアという問題はあるようです

 

こうした高学歴ワーキングプアの問題に対しても、待遇や雇用のあり方を変えていく活動に雨宮氏は長い間、関わっています。

外国人労働者の場合は、学歴云々の以前の問題。中国人研修生のケースでは一年間一日も休みがなく、ユニオン(労働組合)に相談したら、その翌日に強制帰国させられた等、生き死にの話になるそうです。日本人の若者中心のユニオンでは、高学歴ワーキングプアが多いらしく、院卒の非常勤講師は月収で12、13万円という例もあると。

 

ユニオンの活動や要望をまとめると、

 ・派遣やフリーターと正社員との福祉や給与といった待遇面での格差をなくすこと

 ・非正規雇用されている人たちを正社員にすること

の2つになります。本書の刊行から6年が経ちますが、企業によってユニオンの要望が達成されたか否かは、差が出てきていると私は現在、考えています。

 

本ブログで、今まで様々な文系院生の就職事情について、記事にしてきました。今回、春原氏と雨宮氏の対談を通じて、日本語教師を中心として、日本を含む東アジアの文系院卒者の就職問題について、現実問題としての高学歴ワーキングプアの話をいたしました。雨宮氏が伝えるように、また現在の日本で実践されているように、ユニオンを組織し、雇用側や政府、社会に対して高学歴ワーキングプアの問題を伝えていくことは、少しずつですが、効果があると思われます。

 

こうしたユニオンでの活動に加えて、私は草の根的な方法で何か動きを起こせないかと考えております。今のところ、具体的なメディア展開や話し合いの場所の提供など、実効性のあるアイディアは、出せていません。「草の根活動」について、本ブログで記事を書き続けて、皆様からもご意見をいただき、何かしらの形にしたいと思っております。

 

本記事は、ここで終わりです。もし、「草の根活動」でアイディア、情報などをお持ちの方がいらっしゃいましたら、本ブログのPC版画面の右サイドメニュー「POST」にて、メッセージいただけたら幸いです。

 

<草の根的活動の例:Q&AのSNSで院志望者の相談にのる活動>

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