【ニュース】「九大総合研究博物館、資料・標本が散逸の危機 移転後の保存先決まらず 福岡」( 産経ニュース)
<気になっていた九大の博物館の話題です>
1.はじめに
いつだったでしょうか、今年に入ってからだったように思います。九州大学にご勤務されている先生がTwitter上で、「大学博物館の資料を含めた貴重なものをどうにかしたい」と心痛を訴えていらっしゃったことを、このニュースで、思い出しました:
その後、どうしていたのか気になっていたものの、状況は決してよくなってはいませんでした。そして、できる限り、私には何ができるのか。ニュースの内容をお伝えして、考えようと思いました。
(出典:無料の写真: 博物館, ショールーム, 展示, 岩石, フンボルト大学, ドイツ - Pixabayの無料画像 - 334197、*画像はニュースの中の九州大学の総合研究博物館ではありません)
2.「九大総合研究博物館、資料・標本が散逸の危機 移転後の保存先決まらず 福岡」( 産経ニュース)を読む
個人的には、「ああ、やっと新聞社が取り上げてくれたんだ」というのが本音でした。さっそく、内容を読んでいきましょう。
2017.6.28 07:04
九大総合研究博物館、資料・標本が散逸の危機 移転後の保存先決まらず 福岡
九州大学箱崎キャンパス(福岡市東区)の総合研究博物館で保存する資料や標本が、散逸の危機にさらされている。キャンパスは平成30年度までに同市西区に移転するが、移転先で博物館の新設予定はなく、保存方法も決まっていない。数百万点に及ぶ資料には、希少なコレクションも多数含まれているだけに、関係者は強い危機感を抱く。(高瀬真由子)
移転計画は、数年前から出ていたはずで、移転には全体計画と投入する予算を立ててから、きちんと着工するもんではないの?と記事の冒頭で私は驚きを隠せませんでした。続きを見ていきましょう。
白亜紀のアンモナイトの化石や、弥生時代を中心とした3千体以上の人骨、世界的学者が収集した鉱物や、新種の基準となった昆虫の標本。九大には、各分野の第一人者が収集し、研究に使われた資料が保存されている。
九大は100年以上の歴史をもつだけに、蓄積した資料は膨大だ。増加を続けることもあって正確な点数は分からないが、把握できているものだけで750万点に上る。これらの資料を、総合研究博物館や各学部で管理する。
博物館は平成12年、貴重な資料を、教育などに有効活用しようと、箱崎キャンパスに設置された。資料の一元管理を目的に、データベース化を進めた。さらに「開かれた大学」を実現しようと、研究成果を地域に公開する役割も担った。
たぶん、Twitterで嘆かれていた先生方の中には、鉱物学の専攻の方々もいらしたと思われます。もし、院生時代の地学系の知り合いの人たちが聞いたら、大学院の博物館部門も連れて、引き取りに来そうな資料ラインナップと数ですね。そして、17年前に「箱崎キャンパスに」この総合研究博物館が設置され、さらにDBまで作り、地域に研究成果を公開したとのこと。
「同様の博物館は九大以外の旧帝大にも設けられている」と言われています。例えば、私が大変お世話になっている、メンヘラ.jpの編集長わかり手さんが昔、「京大・吉田寮で寝ていたら右翼に襲撃された」場所から、歩いて15分以内の場所の東大路通沿いにも、文理の両分野を扱う京都大学総合博物館があります。余談として、設立順から九大は旧帝大の中では4番目の設立になりますが、京大の弟のような経緯で出来ました。
旧帝大で他に有名なのは、北海道大学(帝大の中では九大の次に設立)の北海道大学総合博物館でしょうか。こちらも、鉱物や古生物の展示は面白いですよ。
更に、旧帝大系以外では、瀬戸内海地方の展示が充実した広島大学総合博物館なんかも、あります。
話を九州大学のほうに戻しましょう。
博物館のある箱崎キャンパスは30年度までに伊都キャンパスへ全面移転する。
しかし、移転に際して、博物館や収蔵資料をどうするかは白紙状態だ。関係者によると、新たな保存施設を建設するにも、費用のめどが立っていないという。
今後、大学内の検討委員会で対応を協議する。博物館側は、全学部の共有スペースを活用し、資料の一部を保存する案などを、選択肢の1つとしている。
博物館のある担当教授は「温度や湿度管理を必要とするデリケートな資料も多い。仮置きであったとしても、きちんと保管できる場所でなければならない。調整は難航すると思う。移転は迫っているのに、お先真っ暗だ」と打ち明けた。
平成30年って、西暦にして2018年ですよね?伊都キャンパスへの全面移転まで、半年、もう切ってますよね?でも、「博物館や収蔵資料をどうするかは白紙状態だ」って、「新たな保存施設を建設するにも、費用のめどが立っていない」って、どういうことですか?
というわけで、Twitter上で本日、拾った設備に適切で十分な資金を使えないのは、旧帝大系の国立大学にもあるというのは、今回の九大の総合研究博物館の件で、ある意味、露呈したといっていいのではないでしょうか。それから、「博物館のある担当教授は「温度や湿度管理を必要とするデリケートな資料も多い。仮置きであったとしても、きちんと保管できる場所でなければならない。」というのは、真実であり、切羽詰まって頭を抱え込んでいる中で、産経の取材に答えたというのが事実なのでしょう。
こちら【2017.6.1_0126更新:目次】よく知られていない学芸員の話+ミュージアムのあれこれ - 仲見満月の研究室の諸々の記事でも書きましたが、文化財、自然科学の標本、鉱物資源等の種類に限らず、博物館の資料って、適切な調整環境のもと、管理しないと劣化が激しくなるものも含まれています。そういった管理があって、初めてミュージアムって、地域貢献ができるようになると思うんです。
厳しいことを、何にも事情を知らない外野が口をはさむと、「どうして、お金もないのに、他の都合でキャンパスの移転を決めたのかな?」という言葉が頭に浮かびました。きっと、移転プロジェクトについて、総合研究博物館の細かい事情も含めて、お金の使い方のできる人物がいなかったと思われます。それか、総合研究博物館を維持するなら、別の施設の整備不足を引き換え条件にするしかないくらい、本当にお金がなかったか。
九大には、日本昆虫学会や日本古生物学会など、複数の学会や機関から、資料を適切に保存するよう求める文書が届いた。いずれも資料の学術的価値の高さを指摘し、散逸を防ぐよう要望している。
過去には、他の博物館に資料を譲るケースもあった。適切に管理できる団体に譲渡するのは一つの手段だが、「知の蓄積」が、九州外や海外に流出する結果も招きかねない。
鉱物の展示を手掛けてきた同大大学院助教、上原誠一郎氏(鉱物学)は「博物館には、鉱物を見学に、米国や日本各地の研究者が訪れる。資料は授業でも活用している。一度失うと二度と手に入らないものばかりで、散逸は絶対に防ぎたい」と語った。
鉱物資料の中核は、明治から昭和期に、九大教授だった高(こう)壮吉氏が収集した。質・量ともに優れ、日本の三大鉱物標本に挙げられるという。
学術的資料は、単に保存するだけでなく、系統立って収集・整理されているかが重要となる。今はほこりをかぶっていても、研究内容の変化によって、再評価されるケースもある。
移転という一大プロジェクトの中で、貴重な資料を失ってはならない。
「日本昆虫学会や日本古生物学会など、複数の学会や機関」の方々、「資料を適切に保存するよう求める文書」を九大に届けている場合じゃないですよ?文書を書けるなら、九大の総合研究博物館が新しく建てられるよう、寄付金を集める運動をリードするとか、して下さい!と言いたくなりました。ここの資料的価値を認めるなら、なおさら、金策に助力してほしかったです。
今回、ニュース記事を読んで、私が言いたいのは「とにかく、早くお金を集めて、移転先の伊都キャンパスに適切な新しい施設を建てられるようにしてください」ということでした。
3.最後に
もし、九大の総合研究博物館に集められた鉱物をはじめとする、様々なコレクションの散逸を防ぐなら、次の記事:
で紹介したように、クラウドファンディングでも、
のSPECの一環で行った寄付金集めや、学内自販機の売り上げの一部でもいいから、お金を関係者で集めて、一刻も早く、資料管理に適切な保管室を備えた、新しい施設を建てられるようにしてください。もう、これしか言うことはありません。
なお、国立大学法人によって、外部資金の獲得は、だいぶ緩やかになっていたように思います。どなたか、福岡県だけでなく、篤志家の方々、九州大学の総合研究博物館のキャンパス移転にともなう窮状に対して、支援の手を差し伸べてあげて下さい。