仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

自民党の大学無償化&出世払い式案に反対する財務省VSそれを通したい与党

<今回の内容>

1.はじめに

「大学無償化&出世払い式を通したい与党」と、それに反対する財務省。今週に入ってから、両者の対立が出てきました:

univ-journal.jp

digital.asahi.com

今年、いちばんホットで、大学生、大学院生に関わる大切なお金の問題です。

 

今回は、これまで追ってきた「大学無償化&出世払い式を通したい与党」に反対する財務省に関するニュースと、それでも通したい与党のニュースを各々、キャッチしました。紹介しながら、この「国に借金する」ことで高等教育機関に通うことについて、考えてみたいと思います。

 

f:id:nakami_midsuki:20171109132825j:plain

 

 

2.「安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明」(大学ジャーナルオンライン)を読む

2017年11月6日

安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明

大学ジャーナルオンライン編集部

 安倍政権が掲げる大学教育の全面無償化について、財務省は財政制度審議会で反対の意向を表明した。このままでは定員割れや赤字経営の大学に対する単なる経営支援になりかねないとし、無償化を低所得者層の子どもに限定するよう求めている。

 

 財務省が財政制度審議会に提出した資料によると、日本の教育に対する公財政支出OECD経済協力開発機構)加盟国で最低水準と指摘されることに対し、教育支出に占める公財政支出の割合を在学者1人当たりで見ると英国の34%に次ぐ32%で海外に比べてそん色のある状況でないと指摘した。

(安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明 | 大学ジャーナルオンライン)

 私は自民党案に対して、「貸し倒れ」の危惧を次の記事で指摘しました。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

財務省のほうは、「財務省は財政制度審議会で反対の意向を表明した。このままでは定員割れや赤字経営の大学に対する単なる経営支援になりかねない」と、あくまで国全体で数ある国内の各大学の経営から見た意見をもって、反対しております。

 

更に、今回の財政制度審議会に財務省が提出した資料によれば、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準だとされてきた「教育支出に占める公財政支出の割合」は、日本の場合、「在学者1人当たりで見ると英国の34%に次ぐ32%で海外に比べてそん色のある状況でない」ということも言っています。ちなみに、英国は他のEU諸国と異なって、大学は学費を学生が払う国だと聞いたことがあります。しかも、結構お高い負担になるんだとかで、財務省が出してきたデータは、英国と日本は教育支出を30%台にしかしない国だ、という読み方もできるものでしょう。

 

 そのうえで、大学進学率や学位保持率も国際的に見て高水準にあるとし、負担軽減は真に支援を必要とする低所得者層の子どもに絞るべきだと主張。全面無償化は高所得者層の子どもに受益が及び、格差解消につながらないとした。同時に、無償化が赤字経営の大学を支援するだけに終わらないよう制度設計すべきとも訴えている。

(安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明 | 大学ジャーナルオンライン)

財務省の言う「負担軽減は真に支援を必要とする低所得者層の子どもに絞るべきだと主張」することについては、進学を希望する子どもに対し、「何とか将来、仕事としてやっていけそう」という広い意味での「適性」のある分野を探す進路のバックアップを高校までで行う政策とセットにしてほしい。そうしないと、安定した職に就けなかった人が再び、貧困に陥ってしまい、格差解消につながらないと思います。

 

 授業料を国がいったん肩代わりし、卒業後に本人の収入に応じて返済してもらう出世払いの仕組みは、親の所得を問わずに適用することを想定しているため、格差解消に懸念があると主張した。卒業後の年収を追跡する事務が煩雑になることから、実現の可能性にも課題があるとしている。

(安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明 | 大学ジャーナルオンライン)

こちらの問題については、上記リンクのNHKニュースに関する記事で詳しく書いたので、お読み頂けたらと思います。

 

 大学の特色ある取り組みへの特別補助額は2016年度、定員割れの私立大学で166億円に達し、2012年度に比べてほぼ倍増している。このため、経営改善が認められない大学には補助を廃止するよう求めた。

 

論文情報:【財務省】財政制度分科会(平成29年10月31日開催)資料一覧

(安倍政権の大学教育全面無償化、財務省が反対を表明 | 大学ジャーナルオンライン)

定員割れの私立大学への出資と「経営改善が認められない大学には補助を廃止するよう求めた」ことについては、おそらく、国立大学が私立大学を傘下におさめて経営してゆく、という別の話題と関係していると思われます。こちらの私立大学の再編に関する、別のエントリ記事をご参照下さい:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

3.「大学授業料「出世払い」案を了承 自民本部 財源に課題」(朝日新聞デジタル)を読む

財政制度審議会で財務省に反対をされたにも拘わらず、それでも「大学授業料「出世払い」案を自民党本部が了承してしまった模様です。詳細を見てみましょう。

 

大学授業料「出世払い」案を了承 自民本部 財源に課題
根岸拓朗 2017年11月8日11時55分 

 

 自民党教育再生実行本部(馳浩本部長)は7日、大学など高等教育の負担を軽減するための方策として、政府が授業料を肩代わりし、学生が卒業後、年収に応じて支払う「出世払い」制度の案を了承した。保護者の所得に関係なく政府が肩代わりをするため、幅広い層の学生を支援できるという。ただ、制度開始のためには巨額の財源が必要となるなど、課題も多い。

 

 自民党は先月の衆院選で「真に必要な子どもに限り高等教育の無償化を図る」と公約に掲げ、消費税の増税分の使い道として授業料の減免措置や給付型奨学金の拡充を挙げた。ただ、こうした制度の恩恵を受けられるのは所得の低い家庭の学生に限られる。出世払い制度は政府内でも検討されているが、教育再生実行本部は案を岸田文雄政調会長に出し、党全体で議論を進めたいとしている。

(大学授業料「出世払い」案を了承 自民本部 財源に課題:朝日新聞デジタル)

上のNHKニュースのエントリ記事に引用したオンラインニュースにあった、他の案はどこいったんでしょうかね…。「保護者の所得に関係なく政府が肩代わりをするため、幅広い層の学生を支援できる」とは言いますが、自民党教育再生実行本部は、卒業後に心身を仕事で壊して、安定的に返済できなくなる人がたくさん出てくる可能性を考えたほうがいいと思います。

 

 今回の案は、オーストラリアの「高等教育拠出金制度(HECS(ヘックス))」をモデルにしている。対象となるのは大学や専門学校、大学院などの学生で、国立大の授業料に相当する年約54万円と、入学金として約28万円を補助する。また、私大の授業料に足りない分は無利子奨学金を追加で借りられるようにする。大学側にも「教育の質の保証」のための取り組みを求め、制度の対象とする大学のしぼり込みも検討する方向だ。

 

 学生は卒業後、一定の年収に達すれば「高等教育貢献費」として政府への支払いを始める。案では納付開始の年収として「250万円」「300万円」など複数のケースを示しているが、「課税所得の9%を納付」で計算すると年収300万円で月8400円、年収400万円で月1万3千円ほどになる。正規雇用で標準的な収入があれば、約20年で納付を終える想定だ。

 (大学授業料「出世払い」案を了承 自民本部 財源に課題:朝日新聞デジタル)

オーストラリアのHECSについては、次の記事で、豪日の大学状況の比較を交えながら、紹介しました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

「国立大の授業料に相当する年約54万円と、入学金として約28万円を補助する」案についても、先日のNHKニュースのところで既出情報なので、とばします。

 

続きの自民党が考えている「返済金の回収の見立て」ですが、大学などの高等教育機関を出ても、正規雇用になれなず、なれても傷病を患って退職し、社会保障制度の枠組みで生きている人が、この国にはたくさんいます。その時点で、「「課税所得の9%を納付」で計算すると年収300万円で月8400円、年収400万円で月1万3千円ほどになる。正規雇用で標準的な収入があれば、約20年で納付を終える想定」は、非現実的に近い話ではないでしょうか?

 

また、今回の朝日新聞デジタルのオンライン版での新情報は、解説図が出ている次の箇所だと思われます。 

 制度を維持するには、利用者の所得を把握する必要がある。案ではマイナンバーを利用するとしており、具体的な回収方法は今後、検討する。また、制度を始める時には2兆円前後が必要になるという。自民党内では「国債を発行してでも将来への投資をすべきだ」との意見もあるが、実現までのハードルは高い。(根岸拓朗)

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  (大学授業料「出世払い」案を了承 自民本部 財源に課題:朝日新聞デジタル)

「返済金回収」側の国は、「出世払い方式」を利用した人に対して、就職後の収入を 知るために、大学時代にマイナンバーを登録する、と。マイナンバーと言えば、国から与えられた個人ごとの番号であり、その番号を通じて個人の履歴情報や年収などを知るための重要なものです。その個人情報を引き出すマイナンバーを政府に「差し出す」ことが、借金の担保になるイメージをしてしまいました。私は「そうか「出世払い方式」とは、個人情報を担保に学生が学資を借金する方法になること。そういうことだったのか」と、ものすごく悪い方向に考えてしまいました。

 

下手をすると、納付金の「返済」が滞った人に対する社会的な「扱い」が低くなり、「人権って、そういう人には適応されるの?」といった事態にならないか、恐れを抱きました。

 

 

4.最後に

財務省については教育現場も見てほしいこと、より自民党教育再生実行本部には今の日本の財源と雇用状況や社会保障といった全体的な状況のデータを冷静に見極めて、もっと別の案を採用してほしいと願います。

 

特に、自民党の「出世払い方式」のマイナンバーを担保に、大学時代の授業料などの納付金を就職後に返済してゆく案は、その「返済者」の経済状況を国が把握し、「返済」が滞れば猶予を与えるなどのプランも同時に話し合っておくべきです。

 

それでなければ、「返済」できなくなった人は、中国史の前近代王朝で制度上にありましたが、身分はく奪され、官によって競売対象となる公の奴婢となる。今の日本で言えば、他の社会保障制度が使えない上、社会的にも非難・中傷を受ける扱いを受ける、非常に立場の厳しい身に置かれざるを得えない可能性があります。

 

財務省にしても、自民党にしても、もう少し、国民に寄り添い、大学側の事情に耳を傾けてほしいものだと感じた話題でした。

 

おしまい。

 

 

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