仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

非常勤講師の未開講と労働問題~「今年から講義」の大学で「履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いません…」(Togetter)

<今回の内容>

1.はじめに

新学期が大学で始まって1週間、発生してくる問題には、履修登録者ゼロによる「未開講問題」があります。授業を履修登録する人がいない場合、その年の該当科目が開講されないことがあり、その授業担当の大学教員にとって、頭が痛くなるようです。

 

特に、博士学位を取得後、あるいは取得を控えながら、各大学で非常勤講師として講義を受け持つ契約をして、キャリアの教歴、生活をしていくための給与を得ている研究者にとっては、深刻です。履修登録者がいない場合、大学側との雇用契約んだ後、開講しないという決定によって、教歴を失う以上に、非常勤講師に給与が支払われなくなることがあるからです。限られた時間のなかで、研究を続けて査読論文の業績をあげつつ、キャリアと生活のために非常勤講師をするというのは、心身ともにハードなこと。人によっては、新たな大学で授業を担当する代わり、他の長期的な仕事を断ざるを得ないことがあるそうです。

 

このあたりの話は、詳しい事情が話されることは珍しいものでしたが、昨日15日、関西のある大学で科目を新たに担当することになった方が、開講問題に直面し、そのことにどう対応するか、 といった経緯がTogetterにまとめられました:

togetter.com

現在、問題に遭った非常勤講師のNさんによると、周囲の尽力で、未開講から開講へと動き出しているそうです。Nさんは、その後のご自身のTwitterで、未開講問題は「日本の多くの大学に広く見られる非常勤待遇の問題」としてご指摘されていました。今回は、上記のTogetterまとめを中心に、非常勤講師の未開講問題がどういったものなのか、 見ていきたいと思います。

 

なお、Nさんと大学側の動きが現在進行形で進んでおり、センシティブな部分があると判断して、本記事のなかでは、関係する方や団体の名前はアルファベットで表記させて頂くことに致しました。ご理解のほど、よろしくお願い致します。
f:id:nakami_midsuki:20180416173533j:image

 

 

2.非常勤講師の未開講問題~「今年から講義」の大学で「履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いませんと連絡がきた」(Togetter)~

 2-1.Nさんが新たに担当することになった科目と未開講になった経緯など

複数の大学で非常勤講師をしていた、音楽家でアーティストのNさん。今年度から、新たに関西のHN大学で、マルチメディア系の科目を担当することになっていたようです。HN大学の昨年までの同分野の科目や、Nさんが別の大学で担当していた同分野の科目では、十数人以上は受講生がおり、Nさんが担当していた科目は評価は上々でした。それ故、今年度のHN大学でNさんのマルチメディア系の科目の履修登録者がゼロ、かつ他の担当者の同分野の履修登録者もゼロだったことは、教務課や他の大学教員も原因が分からなかったとのこと。

 

そういった背景があり、Nさんにも、大学側にもこのマルティメディア系の科目が未開講になる可能性は、予測できなかったと考えられます。Nさんは、「初回講義の2日前」にTogetterまとめのタイトルどおり、HN大学から「契約解除し給料も一切支払いません」と連絡を受けました。新たな科目を担当するためにNさんは、

3カ月前から準備してきて、前期のスケジュール組んで他の仕事も断り、名刺なども作ったあとに、こちらに全く非がないまま大学都合で一方的にクビ。やるせない。

今年から講義の契約した大学で履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いませんと連絡がきた - Togetter

と、言われています。 契約解除について、Nさんにリプライをした方は、

  • 契約金やキャンセル料の支払いはないのか?
  • 法的に問題はないのか?

といった質問をされていました。14日深夜、15日になったばかりの頃のNさんのツイートによると、授業の準備をしに、アプリの動作確認のために大学へ行った時にかかった交通費だけは払ってもらえること除き、「他は何もない」と大学側に言われたようでした。

 

今回の未開講問題を受け、Nさんは15日0時台のツイートで、前年の同分野科目の受講者数状況から想定外となった上、「前期のスケジュールを押さえておいてドタキャンで給料も払いませんという契約内容は厳しすぎですね」と仰いました。そして、非常勤講師である自分に生活があることを考え、新学期にならないと開講可能か分からないという、賭けが必要な契約のところとは、新たに授業担当のお話を頂いたとしても、お断りする気持ちが強い、といったようなことを言っておられました(今年から講義の契約した大学で履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いませんと連絡がきた - Togetter参照のこと)。

 

 

未開講にともない、非常勤講師が新たな大学と契約を結び、科目を担当する時、「新学期にならないと開講可能か分からない」というのは多くの人にとって、ギャンブル状態にあるでしょう。現在の日本において、不安定な雇用状態にあり、少ない収入の研究者にとって、研究業績に加えて、複数の大学や短大等で教歴をつけることは、安定し、任期のないポストをゲットする鍵になります。特に、採用枠が減っているとされる人文・社会学系の分野では、非常勤で担当できる科目を得られるだけでも運がよい、という状況だと聞いたことがありました。

 

そういったキャリアと給与を欲する立場の弱い人にとっては、「新学期にならないと開講可能か分からない」状況にあったとしても、今までは給与の支払いとキャリアがつかないリスク、授業準備に費やした時間とコストを無駄にするリスクを背負ってでも、非常勤で科目を担当する契約をせざるを得ませんでした。Nさんが指摘するように、未開講に絡む非常勤の待遇問題は、我が国の多くの大学にとってよくある話と言ってよいのです。

 

 2-2.未開講になった時の対処や確認すべきこと他

未開講問題に直面したNさんに対して、Twitterユーザーたちは、様々な対処法やチェックすべきことをリプライにあげていきました。具体的には、どこに相談したり、他の大学では未開講になったら給与はどうなるのか、また授業担当の契約書に違法な部分はないのか、といったことです。

 

   その1.相談すべき団体

ある方は、大学の教職員組合があれば、待遇問題として相談してみることを挙げていました。大学によりますが、私の知っている範囲では、ある程度の規模の大学には教職員の労働組合のような団体があって、非常勤講師の待遇問題に取り組んでいるところもあるようです。一度、非常勤先や学会、出身大学の先生方にお聞きして、信頼できる組合を探してみてもよいかと*1

 

  その2.他の大学で未開講になった例

上記のTogetterまとめに挙がった別の大学では、未開講になった場合、「本学だと、解職は給与の2/3を支払うことになっています。他大学は1/2のところ」があったようです。この給与の2/3を支払うというもののほか、解職の際には「非常勤講師規定などで普通は定めて」いるとのことで、契約する際に渡された書類や冊子の確認をすべきだと、Nさんへのリプライにありました

 

ほか、アメリカの州立大学で非常勤をしている人の話では、

全く同じことがありました、それでも大学側はなんの手当もださず、授業初日の2週間前に言い渡されました。大学側からは非常勤はそういうことが起こるの前提でみな働いてるのよと言われて終わりでした。

今年から講義の契約した大学で履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いませんと連絡がきた - Togetter

とのことです。

 

  その3.契約書を確認し、違法なところを探して大学側に対応を求める等

ハラスメントに関する記事内定取り消しほか、 トラブルに遭った時の対処として、最も重要なことが、契約に関する書類や冊子の確認をすること。そして、労働に関する法規に照らして、違法なところがあれば、契約の条項を無効にできるらしきことが、Togetterまとめの各リプライで指摘されています。

 

既に挙がっているポイントは、

  • 履修者がゼロだと不開講になる、初回授業分の交通費支給は、契約の書類等に書かれていなかったか?
  • 不開講手当については、規定がなくても、「労基法上の休業手当として平均賃金の6割を要求することができる」…「関西圏非常勤講師組合で、過去にも不開講手当として補償された交渉結果」をサイトに記載しているはず
  • 非常勤講師は個人事業主に該当する為、このケースでは下請法違反となるから、速やかにその申告を行うべし

 今年から講義の契約した大学で履修登録者が0だから、初回講義の2日前に契約解除し給料も一切支払いませんと連絡がきた - Togetterを再構成)

等です。Togetterまとめについたコメントでは、

  • 法に抵触するような内容の契約書は無効
  • 契約書の内容はあくまでも「法律の範囲内なら有効」ゆえ、労基法や下請法に違反した内容ならその部分は無効である

といったことが書いてありました。

 

また、Nさんの他のツイートへのリプライ、Togetterのコメントには、昨年度まで十数人以上いた受講生が今年度になって急にゼロになったことは不自然だという指摘が挙がっています。その原因として、

  • カリキュラム改定時期の勘違いや、非常勤講師に充てる予算が土壇場でつかなくなった等の大学側の問題をおしつけている
  • PC入力する履修システムの場合、バグが発生して履修登録ができなくなっていた

等、大学側の不手際があった可能性が言われています。 カリキュラム改定時期に関しては、シラバス編成の作業をしている事務職員の方から、先生宛ての伝言で修正依頼の電話を私が受けた時があり、少なくとも前年度の1月には始まっているようです。履修システムのバグは、人間が動かしている限り、可能性はあります。非常勤講師に充てる予算が土壇場でつかなくなったというのは、「日本の研究職雇用の諸問題と法をめぐる話~着任予定者の内定取り消しに関するtogetterまとめを振り返る~」の話題に言及した、某国立大学の某野球チームファンの大学教授の方のツイートで、次年度の予算がギリギリでつく・つかないが決まることがあり、内定取り消しがあり得ることが示唆され、非常勤講師についても大いにあり得ると考えられます。

 

 2-3.小結

大学側の事情がどうであっても、今回のNさんがされたように、初回講義の2日前に契約解除をして、給与をまったく払わない、という対応は理不尽です。もし、同じような問題に直面した方がいらっしゃれば、上記のようなポイントをおさえ、大学側と交渉したり、対応を求めたりすべきでしょう。

 

 

3.最後に

今回は、関西の大学で非常勤講師をしているNさんに起こった、新年度の履修登録者ゼロによる未開講問題を取り上げ、経緯や事情、当事者がすべき行動などについて、Togetterまとめを中心に、見てきました。現在、Nさんは周囲の協力を得て、何とか授業が改稿できる方向に状況が変わりつつあるようです。Nさんのお仕事がうまくいくことをお祈りしております。

 

最後に、Nさんに起こったことは、日本の学術業界では珍しくなかった(ない)ことであり、そういったケースに不幸にもぶつかったら、(容赦なく)雇用側に対応を求め、然るべき金額を法に基づいて請求してよいことを、重ねて申し上げます。

 

おしまい。

 

 

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*1:先のTogetterまとめには、こちらの団体が挙がっていました:

http://www.hijokin.org/

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