仲見満月の研究室

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大学を辞める際の退学と除籍の違い~荘司雅彦「学費未納だと「退学」もできない !? 」 (アゴラ/ Yahoo!ニュース)~

<退学と除籍はどう違うの?> 

1.除籍と退学に関する以前の記事について

以前、私は「【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~ - 仲見満月の研究室」の記事のなかで取り上げたアカハラで心身を病んだ息子について、Yahoo!知恵袋に対処法を相談する親御さんの質問を紹介しました。その対処法のひとつに、大学院を辞める方法がありました。日本の多くの大学院では、院生が自分で辞めることを決めて、退学関係の書類を書いた後、指導教員が認める形で判子なり署名なりをもらわなければ、退学できないことは、既に上の記事に書きました。

 

もうひとつ、大学院を辞める方法には「除籍」というものがあることも書きました。退学と除籍の違いについては、辞めた後の就職活動という観点から、

アカハラにせよ、他の志望進路が見つかったにせよ、自主退学の場合は、きちんと自分で辞めると決めたことになります。一方の授業料等を納付せず、除籍になった場合は語弊を恐れずに言えば、大学院を辞める意志があるとは言え、在学期間中に納めるべき金額のお金を大学院側に支払う義務を果たさなかった結果、大学から籍を除かれたという形となり、おそらくですが、就職活動をする時、自主退学よりも除籍のほうが印象は悪いと思われます。

【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~ - 仲見満月の研究室

ということを書きました。

 

自主退学と除籍について、当時は大学・大学に納付金を払うというシステム上から、自主退学のほうが除籍よりも印象がようのではないか、と書きました。今回、そのあたりの違いについて、弁護士の方が最近の判例に詳しい解説を寄せられ、その問題を指摘なさていたので、紹介させて頂きたいと思います:

headlines.yahoo.co.jp


f:id:nakami_midsuki:20180429181911j:image

 

 

2.荘司雅彦「学費未納だと「退学」もできない !? 」 (アゴラ/ Yahoo!ニュース)を読む

 2-1.学生からの「退学」の届け出に対する大学側からの「除籍」には大きな差がある

オンライン記事の導入部には、札幌地方裁判所で2017年12月26日において、

  1. 国立大の法人の学生が「退学届け」を提出
  2. すると、「大学側が学費未納を理由として「除籍処分」」にした
  3. それに対して、「学生側が同大学法人を相手に争った」

という案件の判決が出たことが書かれていました。

 

判決は、荘司さんによると、「本件運用を根拠に授業料の未納のある学生からの退学、すなわち在学契約の解除を認めないとすることは許されないというべきである」ということです。私の理解としては、学生のほうからの在学契約解除、すなわち「退学届け」を認めなさい、と札幌地裁が判断したということ。それほどまでに、学生側からの「退学」と、大学側による「除籍」は、荘司さんの伝える判決理由を引用すれば「退学が学生の身分に重大な影響を及ぼすことからすれば、本件運用が学生に及ぼす不利益の程度は看過することができ」ないような、大きな差があることが窺えます*1

 

 2-2.退学と除籍の違いとは? 

大きな違いがあることは分かったものの、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。ひとつのポイントが、荘司さんのオンライン記事を読み、私が考えた言葉を使ってありていに言えば「社会通念的」に「学歴になるか、否か」 ということだと思われます。より具体的には「退学と除籍と、履歴書の学歴欄に書けるのは、どちらか?」ということです。先に結論を言うと、社会通念上、退学または中退は学歴になるが、除籍は書くと印象が悪くなるため、書けないことが多いでしょう。

 

荘司さんが学生時代の友人の下宿にいた人の話によれば、「大学中退も立派な学歴」であり、この弁護士自身は、外交官の経歴においても「やたらと「中退」が多いのを不思議に思った」ようです。この退学の種類があり、

退学には、学校側による退学処分と自主退学がある。

 

前者の退学処分は、犯罪行為等を行った場合等の一種の懲戒的なものであるのに対し、後者は在学契約を学生の方から(将来的に)解除するものだ。

学費未納だと「退学」もできない !? --- 荘司 雅彦(アゴラ) - Yahoo!ニュース

という、2つの種類です。前者の場合は、報を犯したという「事実」が絡み、学歴欄には書くと印象が悪くなるタイプの退学だと思われます。例えば、今の団塊世代で、大学に通われていたころの話が描かれた『ノルウェイの森』等の作品には、学生運動に参加していた学生たちが、就職活動を気にしているのを冷めた目で登場人物が見ている場面がありました。そういった学生のなかには自分が運動参加で退学処分になることで、就職する時、採用側に悪印象を与えるのを恐れていたと思われます。退学処分による「中退」とは、そういった意味で学歴欄には書きにくいタイプの「中退」なのではないでしょうか。

 

荘司さんが聞いた学歴になるタイプの「中退」とは、どちらかというと、後者の自主退学のことを指すのではないでしょうか。ちなみに、私の以前に書いた先のブログ記事で言う場合の退学は、自主退学のことを指します。

 

一方の除籍とは、どのようなものなのか、オンライン記事の続きを読んでみましょう。

多くの大学では、未納の学費を支払うまでは自主退学を認めず「除籍処分」にしている。

 

「除籍」というのは、その大学との関係性を抹消されるようなもので、先の「大学中退も立派な学歴ですよ」にすら該当しなくなる。

 

就職等の際の履歴書に「○○大学除籍」と書かれていれば、「中退」よりもはるかにイメージが悪くなるだろう。

 (学費未納だと「退学」もできない !? --- 荘司 雅彦(アゴラ) - Yahoo!ニュース

除籍というのは、私が先述したように「在学期間中に納めるべき金額のお金を大学院側に支払う義務を果たなかった」人に対して、という懲罰的な色が濃く、除籍処分とは学生側を「その大学との関係性を抹消されるような」関係に置く処分だとと考えられます。

 

俗に言われていた「大学中退はハクがつく」というのは、こういった背景によるものが大きいのではないでしょうか。懲罰的な色の濃い「除籍」では、聞いたほうにはよい印象は与えられず、学歴にハクはつかないということは、私には納得がいきます。

こういった中退と除籍を世の作家が持っているのかは不明ですが、オンライン記事によると、五木寛之さんは「当初早稲田大学を抹籍(「除籍」と同義)されたが、後年、作家として成功後に未納学費を納めて抹籍から中途退学扱いになった」そうです。

 

 2-3.荘司雅彦の指摘する、中退および退学と除籍に横たわる問題

以上のような違いのある退学と除籍ですが、荘司さんは、次のような問題を指摘しています。

 

すなわち、犯罪を犯した人物であっても学費さえ納めていれば(先述のような)ポジティブな印象もある「中退」になるのに対し、非行行為を一切していない人物が学費を払っていないだけで「除籍」になるというのは、大変な「アンバランス」である。というところに問題がある、と。

 

続きには、「大学も経営努力が必要な時代なので、学費未納に厳しく対処するのは理解できる。…」、「各人によって評価は異なるだろうが、「除籍」で脅して(貧乏な学生から)学費を徴収しようとするのは、いやしくも最高学府の行うことではないと私は考える」と、荘司さんはご自身の考えを述べていらっしゃいました。

 

 

3.仲見が考える大学院における退学と除籍の問題点~まとめ~

荘司さんが取り上げておられたのは、国立大学法人と学生の間の「在学契約をめぐる「退学」を大学側が認めるべきか、否か」というケースでした。そこには、退学(中退)と除籍の大きな違いが潜んでいることを解説され、2-3に書いた問題を指摘し、お話を締めておられました。

 

退学と除籍について、大学院を辞めたい院生がいた場合、もうひとつ問題があります。それは現在の日本において、辞めたい理由は何であれ、きちんと学費を払っていても、大学院でその院生の責任を持つ立場の指導教員が退学を書類で認める意思を示さなければ、辞めたい院生の自主退学は極めて困難だということです。

特に、大学教員側が妨害的に退学関係の書類に判子を押すことや署名をするのを拒めば、能動的に大学院を辞める手段は、学内の相談室に申し立てたり、訴訟を起こすことを除けば、来学期の学費納入をしないでおき、大学側からの除籍処分を待つくらいしか、ないでしょう。学歴上、退学を希望する院生にとって、除籍処分を受けるというのは、現在の社会通念上、以後のキャリアを考えればマイナスを背負いすぎ、あまりにもリスクが大きいと思われます。

 

今回、紹介しました壮司さんの指摘する問題点とは異なりますが、大学院でハラスメントのようなトラブルが発生した場合、指導教員が認めなくても、院生の意思だけで自主退学をできる制度が必要だと、私は考えております。荘司さんが解説された退学と除籍の違いを念頭に、院生の退学方法について、少しでも考えて頂けましたら、と思います。

 

おしまい。

 

 

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*1:荘司さんの伝える判決理由の全文はこちら:

授業料を納付するまで退学を認めない本件運用が学生の在学契約の解除権の行使を制限するものであることは明らかであるところ、退学が学生の身分に重大な影響を及ぼすことからすれば、本件運用が学生に及ぼす不利益の程度は看過することができず、また、当該制約をすることに合理的理由があるとは認められない。したがって、本件運用を根拠に授業料の未納のある学生からの退学、すなわち在学契約の解除を認めないとすることは許されないというべきである。

学費未納だと「退学」もできない !? --- 荘司 雅彦(アゴラ) - Yahoo!ニュース

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