仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

PODと学術出版に関するニュース~「文系研究者向け出版支援サービス「アスパラ」...が展開開始」(hon.jp)~

<今回の内容>

1.はじめに

学術出版は、様々な事情と問題を抱えおります。特に、人文・社会系の学術分野においては、著者の研究業績を示す出版物として、その成果を残す形、少数ではあるだろうけれど読みたい人にどう届けるか、問題はきりがありません。そのあたりの話は、先週9月の初めにTogetterでまとめ、このブログの記事「学術研究や研究者養成のほうから見た「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版…とその問題~」(Togetter) - 仲見満月の研究室」で書けなかったことを補い、お話を致しました。

 

それらの各記事でも触れ、少数の需要に適していると思われるプリントオンデマンド(POD)という出版方法がございます。先に触れたまとめ記事「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版のシステムとその問題~【更新一旦終了】 - Togetter」の終盤では、大日本印刷DNP)および丸善&ジュンク堂グループが、オンライン書店honto.jpを通じて、PODに力を入れ、サービス拡大をしていくことをお伝えました*1。PODの概要と仕組、強みなどについては、上記のまとめ記事をご覧ください。

 

今週に入って、PODと学術出版の新しい動きについて、ニュースをキャッチしました。今回はそのニュースを紹介したいと思います。 

 

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2.「文系研究者向け出版支援サービス「アスパラ」と、理系研究者向け出版支援サービス「近代科学社DIGITAL」が展開開始」(hon.jp DayWatch)の紹介

ニュースの1つは、hon.jpでオンライン配信された、文系研究者向けの出版支援サービス「アスパラ」に関するものです↓

hon.jp

(2018年9月12日付、hon.jp)

 

私は「アスパラ」って何だろう?と思いました。まず、ニュース記事の頭に出てくる「インプレスR&D」とは、ITやコンピュター関係の分野でPODに携わっていた出版社です。周りのSEやプログラマの方の話では、来月8日に第5回を迎える技術系の即売会「技術書典」に出展したサークルさんの本をPODで出し、一部では商業流通させているところと聞きました。

 

その「インプレスR&D」が、日本語処理や関連の書籍、辞書などを得意とする「イースト株式会社」、および、「学術書・専門書の電子書籍の利活用を促進させるために生まれた」という「株式会社マイクロコンテンツ」が業務提携を行い、「主に文系の研究者が学術書や専門書を1冊から出版できる支援サービス「アスパラ」の開設」を発表したそうです*2異体字の多い古今の漢字のデジタル上での扱いに頭を悩ませたことのある私としては、日本語処理のシステムや、あまり自分の接したことのない分野の本を考えると、学術書・専門書を電子書籍にする方面に強い企業が協力し、「文系研究者向け出版支援サービス」の「アスパラ」が生まれたとなれば、歓喜しないわけにはいきません!

 

この「アスパラ」のブランドサービスの仕組み、出す本の具体的な仕様、価格について、ニュースをもとに情報を箇条書きにしました。

  • このサービスは、「少部数しか見込めない専門的な分野でも出版ができるよう、注文に応じて印刷・製本するプリントオンデマンド(POD)と電子書店で本を流通させるサービス」である
  • メリットは、「在庫を持たないデジタル出版」であり、「いつでも改訂が可能で、絶版もない」
  • 「ISBNコードも付与される」
  • 紙版判型は、横組だと「B5判、A5判、四六判」で、縦組では「A5判、四六判」となる
  • 本の頁数は「100ページから300ページ程度」を想定
  • 「小売希望価格は相談の上」決定されるが、目安として「200ページで2000円程度が想定されている」

(以上、文系研究者向け出版支援サービス「アスパラ」と、理系研究者向け出版支援サービス「近代科学社DIGITAL」が展開開始 – hon.jp DayWatchをもとに再構成)

 

本記事冒頭で触れたまとめ記事を通じて、私は、主に人文・社会系(ここでは文系とほぼ同義)の学術出版では、「誰に、どういう目的で出版物を出すのか」が問題となるように考えました。「誰に、どういう目的で」のパターンは、

  1.  著者としての研究者…特に若手はアカポス就活で必要な研究業績をつくる目的、単一掲載の論文では見えなかった問題を論文集に束ねて「見える化」する目的、研究継続の資本を得るための経済活動として成果物を得る目的(特に人文系の産学連携を含めて、その成果を出版物で出すことが多い傾向あり)
  2. 読者としての研究者…自分が研究を進めるために情報や着眼点を得る等の目的
  3. 図書館…発行物の収集・管理・保存、情報の集約、利用者が必要とする情報を閲覧できるように資料を提供する目的ほか
  4. 読者としての一般の人…学術世界と接点は薄めだけど、漫画やゲーム、小説、舞台やテレビドラマを作ったり、出演したり、またはメディア作品を読んで、見て、楽しんで、理解を深めて仕事をする目的や、作品の元のストーリーや人物のことを知ること自体が目的

学術研究や研究者養成のほうから見た「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版…とその問題~」(Togetter)

の4つがあるでしょう。 

 

「アスパラ」のサービスでは、4つの「誰に、どういう目的で」のほぼすべてに対応することが可能だと思われます。特に1の「著者としての研究者」にとって、商業流通の出版物に付いていることの多いISBNコードを付与され、自著を出版できることは、「研究継続の資本を得るための経済活動」を満たしやすくなると言う意味でも、「アスパラ」のサービス出現は大変助かると私は考えました。

 

さらに、このサービスで出される出版物は、目安として「200ページで2000円程度が想定されている」ことが、購入者にとっては魅力です。まとめ記事のほか、複数の拙記事でも書いていたように、200ページくらいで低価格帯の書籍でも3000~4000円台はします*3。この「200ページで2000円程度」というのは、一応、一般向けの文芸書を含み、学術出版物としては手に取りやすい価格とみて、よいのではないでしょうか。

 

学術出版といえば、出版にかかる資金の調達方法が気になるところです。そのあたりの話については、

  • 「出版に必要な協力金はコースによって」違う
  • 「原稿点検不要で誤字脱字の指摘程度」のAコース:30万円~
  • 「法令点検や出典引用チェックなどを行う」Bコース:50万円~
  • 「未完成原稿の編集プロデュースを行う」Cコース:80万円~
  • 「印税はPODが希望小売価格の15%、電子が希望小売価格の20%だが、コースによっては割合が前後」する

(以上、文系研究者向け出版支援サービス「アスパラ」と、理系研究者向け出版支援サービス「近代科学社DIGITAL」が展開開始 – hon.jp DayWatchをもとに再構成)

といった話が出ていました。

 

最も高いCコースであっても、100万円を切っています。これまでの人文・社会系の学術出版にかかっていた金額で、私が院生時代に聞いた論文集1種の金額200万円(300ページ台、ハードカバーでB5サイズ)に比べると、だいぶ安いと感じました。

 

ほか、「インプレスR&D「NextPublishing」」では、近代科学社とともに「8月に、理系研究者向けの類似出版支援サービス「近代科学社DIGITAL」を立ち上げている」という話がニュース記事に出ています。

 

 

3.最後に

以上、 文系研究者向け出版支援サービス「アスパラ」のニュースを紹介しました。個人的には、残る課題としては、学術出版物の信頼性の一部を担っていた、既存の出版社の高いブランド力を、「アスパラ」が乗り越えていくことがあると認識しています。このサービスに関わっている会社は、実は人文・社会系の紙書籍では、あまり聞いたことのないところで、私が知らないだけだとは思いますが、頑張ってほしいです。

 

こうしたPODと学術出版に関連するニュースとしては、もうひとつ、自費出版の需要に対応し、少数出版のサービスに力を入れようとしているアマゾンに関するものがあります:

www.sankeibiz.jp

 

PODサービスと学術出版の話題を追うため、そろそろ、次の本を捲り始める必要を感じています。

 

 

それは別の機会で触れたいということにして、今回はこのあたりでおしまい!

 

<関連書籍>

 

 

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*1:詳細は、件のまとめ記事の「【関連ニュース】プリントオンデマンドの話」をご覧ください。

*2:インプレスR&Dのサイトの記事はこちら「イースト、マイクロコンテンツ、インプレスR&Dが業務提携 主に文科系の研究者が学術書、専門書を1冊から「紙の出版」も「電子出版」も出せる 出版ブランド「アスパラ」を開設 | インプレス R&D

*3:例えば、「東洋学では、関西大学東西学術研究所研究叢刊の本が、この価格帯に入る」と思われます。一部、この価格帯には博士論文をもとにした論文集も含まることがあるとか。より詳しいことは、【2016.12.2追記】Why academic books are very expensive ?~研究成果としての学術書の出版とその問題~ - 仲見満月の研究室をご覧ください。

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