仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

学術研究や研究者養成のほうから見た「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版…とその問題~」(Togetter)

<まとめ記事に入れられなかったこと>

1.はじめに

昨日、9月4日の台風21号による被害が大きかったことが報道されました。

特に台風が直撃した関西各地では、JR京都駅の天井が落下する、関西国際空港が広範囲の浸水で3千人以上の方が閉じ込めらる、道路を走行中のトラックが横転する、建物の屋根が壊れて飛んで行く、といった被害が伝えられています。

仲見と同居人たちは、自宅で過ごし、無事でしたが、一緒にニュースを見ていたところ、研究活動でよく行っていた関西の大学の建物に木が直撃して崩壊し、授業で見学に行った寺社の建物が崩れ落ち、私は心痛がひどかったです。被害に遭われた方々が一日でも安心して眠り、生活できる日が来ますことを、心よりお祈り申し上げます。

 

さて、2日に作成を開始した次のTogetterのまとめ記事を、作成に関するご報告もかねて、今回は取り上げたいと思います:

togetter.com

まとめ記事の告知は、2日に「【おしらせ】Togetterまとめ「【随時更新】若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版のシステムとその問題~」の作成 」で行いました。その後、ご許可を頂いた方の新たなツイートを組み入れ、項目を立て情報を整理する作業を続け、3日目の本日、まとめ記事は4ページに達しました。作業を進める過程で、まとめ者として私なりに問題全体を眺めて結論(項目参照)を出したこと、閲覧者の利便性を考えてページ数を増やさない判断をし、5日の12時半ごろ、一旦、更新を終了させて頂くことに致しました。

 

発言使用のご許可や、それぞれの立場で学術出版に携われた方のお話を伺い、たくさん、助けていただきました。この場で改めて、ご協力の皆さま、それから閲覧して頂いた方々に、感謝申し上げます。ありがとうございした!おかげさまで、たくさんの方が見て、質問やご感想、ご意見を下さいました*1これらの「コメント」に対する回答については、Q&Aの形で【当まとめに届いた質問やコメントへのお返事、学術論文の基礎知識や最近の問題】に並べておりますので、そちらをご覧ください。

 

f:id:nakami_midsuki:20180905132834j:plain

 

 

2.まとめ記事「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版のシステムとその問題~」の構成と本記事で書くこと

せっかくですので、項目一覧を載せておきます。

 

<項目一覧>

  1. 論文集の出版事情と「自費出版」
  2. こうした学術出版の事情に対する反応
  3. 現場の方が見た学術出版①:日本史史料研究会から
  4. 現場の方が見た学術出版②:出版社の中の人から
  5. 現場の方が見た学術出版③:研究者の著者の方から
  6. 本まとめに対する反応
  7. 研究者が論文集を商業書籍で出す背景①(印刷・製本のみの同人誌的な冊子との違い、紙で本を出す意義など)
  8. 研究者が論文集を商業書籍で出す背景②(①の補足:若手研究者の研究業績づり・アカポス就活事情との関係、論文のオンライン公開や図書館側の事情ほか)
  9. 区切りとしてまとめ者による「結び」
  10. 【当まとめに届いた質問やコメントへのお返事、学術論文の基礎知識や最近の問題】
  11. 【関連ニュース】プリントオンデマンドの話

 

まとめ記事の作成の途中では、議論が盛り上がり過ぎないよう、公開範囲を段階的に広げていくことをしました。それから、今回のまとめ記事のテーマと主旨がぶれないよう、手を加えていき、更新一旦終了にしています。ところどころ、私のツイートがたくさん入っている箇所がございますが、「こういう説明が必要だろう」と考慮して、Twitterで呟いたことを適宜、挿入いたしました。感情を吐露している発言や、弊ブログのリンクもありますが、どうか、ご寛恕のほど宜しくお願い申し上げます。

 

この記事では、今回のまとめ記事を私が作るなかで、

  • 問題が複雑化して、閲覧者の脳内が混乱するため、入れられなかったこと
  • 自分が分野的に関わった経験から、言いたかったこと

などをピクアップして、話していくことに致します。

 

そして、まとめ記事の作成期間中、英明企画編集の「中の方」より、ご案内を頂きいて4日に参加してきた「本の売り方ーブックフェア」(版元ドットコム西日本& まちライブラリーの主催)で、勉強してきたことについても、触れたいと思います。関西にある版元で、学術出版にも携わられた方々が登壇され、現場の様々なお話をお聞きしました。著者の方と一緒に本をアピールする方法を考えて取り組み、まちの書店やオンラインの流通の実績の積み重ね、各地のブックフェスタでの売り方などなど。丁寧に、地道に、そして確かな信念を持って、お仕事をされていることが伝わってきて、エネルギーを受け取れたと思います。詳しい内容のお話は、各版元の公式サイトでご報告があるかと存じますので、ここでは私の挙げたトピックにちょっとずつ、絡める形で触れることにしました。

 

ここは、仲見満月が執筆管理人のブログです。主に文系の職業研究者や大学院生のサポートから出発した活動をしてきた者として、書きたいことをを書かせて頂きます*2

 

ちなみに、アイキャッチ画像に竹簡(?)をもってきたのは、まとめ記事を作成時期に、「「紙の本」か「電子書籍」かの話を聞くと、二千年前の巻物VS冊子のシェア争いがあったのを思い出す」みたいなこと、藤村シシンさんがツイートされたのを目にしたから、です。巻物は開く時、ガタガタうるさそう。質量面では、電子書籍や冊子のが勝ちそうです。と考えるうち、「音と重たさでは、中国古代も、すごそう」ということで、竹簡(?)の画像を採用しました。あと、書いてある内容は、ネット検索の結果、『論語』の一節だそうです*3

 

 

3.誰のための学術出版であるのか?~学術出版の形、伝える形のこと~

 まとめ記事の項目では、主に関係があるところは、

の3つです。誰に、どういう目的で出版物を出すのか、については、

  1. 著者としての研究者…特に若手はアカポス就活で必要な研究業績をつくる目的、単一掲載の論文では見えなかった問題を論文集に束ねて「見える化」する目的、研究継続の資本を得るための経済活動として成果物を得る目的(特に人文系の産学連携を含めて、その成果を出版物で出すことが多い傾向あり)
  2. 読者としての研究者…自分が研究を進めるために情報や着眼点を得る等の目的
  3. 図書館…発行物の収集・管理・保存、情報の集約、利用者が必要とする情報を閲覧できるように資料を提供する目的ほか
  4. 読者としての一般の人…学術世界と接点は薄めだけど、漫画やゲーム、小説、舞台やテレビドラマを作ったり、出演したり、またはメディア作品を読んで、見て、楽しんで、理解を深めて仕事をする目的や、作品の元のストーリーや人物のことを知ること自体が目的

の4つが考えられると、ひとまず、私は例を挙げました。

 

ある版元さんのお話では、出版業とは「思想」を幅広く、広い層に届けることだと、言っておられました。それに対し、1~3は限定的な需要にピンポイントで出版し、必要に応じて届けられるという観点から、プリントオンデマンド(POD)が合っているといいうことになるでしょう。

 

以前、2の立場にいた私は、アマゾン経由で、平凡社東洋文庫のオンデマンドのサービスを利用したことがあり、「オンデマンドって、高い本でも、欲しい人には届くシステムで、いいなぁ」という経験をしました *4。まとめ記事の末尾「【関連ニュース】プリントオンデマンドの話」にPODの話を入れたのも、そういった個人的な経験があったからです。それから、1の著者としての研究者にとって、書き直した博論を出版したい場合、PODのシステムはやり方次第で負担が軽くできるとか、いくつかメリットがあるようです。何か「思想」を伝えるため、書籍を作る場合、パッケージ化する段階と仕事が必要不可欠です。それをどうするかは、PODは「広く届ける出版業」と変わらない大切なことではないでしょうか。

といった感じで、個人的には、いろいろと期待はしたいサービスという感じ*5

 

3との関連で欲しい人に本を届けたり、学術出版で専門書を残していたり、ということは、特に人文系の領域では重要ではないでしょうか?大学図書館だろうと、公立図書館だろうと所蔵スペースは有限で全部の本を所蔵はできませんし(国会図書館は地方の人には遠い)、年々、どの図書館でも図書購入予算が減らされている傾向にあります。そういうわけで、2や4の目的で学術系の本を読みたい人が、手に取れるように出版して(紙で)残しておく意義はじゅうぶん、あると私は考えました。

 

それと並行して、1に書いたように、研究成果をお金に変えて、生活、それから研究を続けるための活動資金が得られようにしていく仕組みも、考えていかないといけません。何も、研究業界に限った話ではありませんが、つまり、興味を持ってくれる人たちを増やすことが、その第一歩だと認識しています *6

 

4日のイベントのお話のように、登壇された版元では、著者の方と色々とアイディアを出しあって、本の内容をお話する講演会を開かれたり、作品を劇に仕立てて全国に営業したりして、たくさんの人たちに本とその内容を届ける努力をされていらっしゃいます。本の中身を本以外の形で広めていく活動は、本よりも、動画や音声、参加型の媒体に親しんでいる層に購買者を広げるとともに、書籍の魅力を伝えるという意味で、大切だと私は考えました。それでね、「本の売り方ーブックフェア」に参加して、登壇者の方々が言っておられたように、直接、顔を合わせて会うということは、楽しくて、エネルギーが生まれるんですね。私、元気を頂きました。

 

大手版元には、研究の成果物が一般の人たちにも読んでもらえる企画を考えて頂き、その「体力」でもってして、ドカッとヒットを飛ばしてもらい、研究者を元気にして欲しいです。 その資本力と規模で、幅広くPR活動をしてもらって。よく知られるようになると、それはそれで、反響が大変なことになってくるでしょう。その時は、しっかり、対応して頂けたらと思っています*7

 

誰の何のための学術出版かと、その形と伝える形は、幾層にも重なったことではないでしょうか。やり方、取り組む人たちは、1つではなく、並行して多重的に続けること。そういう意味でも、みんなで「やっていきましょう」!だと考えています。

 

 

4.助成金の申請書類作成や論文集の編集作業等による雑務労働の問題~研究室や講座等のスタッフが手伝わされることがある~

メインの学術出版のほうの話の次は、雑務労働のお話です。院生時代、ボス先生たちが論文集の出版をやるからと、院生だった私は、学術書を出す時、特に若年世代の人達が巻き込まれ、下手すると自分の研究時間やエネルギーを奪われる経験をしました。今回のまとめ記事とは関係は薄いかもしれませんが、弊ブログで扱ってきた重要問題のひとつとして、取り上げます。

 

院生やポスドク、それから研究室や講座のメンバーが本を1冊出すのに、無償や低賃金の労働を半ば強いられる問題があります。出版助成の書類作成や、校正作業をしました*8そのそのあたり、どんなことが私の身近で起こっていたのか、という話は下の目次記事に収録した各記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

のほか、「学生に手伝いや長時間の雑務労をさせることで生じる問題」について触れた各記事をお読みいただくと、実例が出ています。

 

特に、論文執筆や野外調査、アルバイトを抱えて多忙な院生、ポスドクたちが駆り出されることが、私が院生だった頃の大学院ではあり、正直、しんどかったですけど、下っ端の研究室メンバーは断りにくかったり、「自分の研究を優先しろ!」と先生に言われても、言われる頃には編集作業で疲弊して、進まない自分の研究が辛くて、とても戻れない精神状態だったり、しました。

(もちろん、その時の作業で身につき、役立っているスキルや知見もありますが…)

 

ここで問題になっている出版物は、研究室主宰の大学教員たち、研究会等の団体で出す共著の論文集が一部、それに当たります。編纂過程の校正や校閲、出版社へのデータ原稿の送付など、出版物編集の中心にいる大学教員の周りの人達が協力をする場合があり、特別な研究プロジェクトで出す成果としての論文集等でない限り、協力した人たちには、私の聞く範囲では十分な謝金が出ないように思います(出ていても、依頼している大学教員側のポケットマネーのことがある)。謝金が十分に支払えないことは、プロジェクト進行の助成金を申請し、管理する際の制度の問題と深く関係するため、ここでは詳しく触れませんが、次の記事が関連していますので、リンクを置いておきます:

科学研究費のざっくりした仲見の理解による大枠と出版助成部門の話 - 仲見満月の研究室

 

各種関連記事も、お読みいただけると、幸いです。  

 

 

5.最後に

だいたい、書きたいことは、書けました。いかがでしたでしょうか?

 

実は、まとめ記事を作成していた後半、いわゆる「ト●●モ本」絡みの話題が流れて来ました。そちらはそちらで、複雑で難しい問題ですが、本記事では取り上げません。陰謀説とか、歴史書のもとになった史料の真偽問題とか、あのあたりについては、9月の新刊同人誌の関連テーマ記事で話をしました:

note.mu

気になる方は、買ってお読みいただくと、私が研究者として、どうそのあたりを考えていたか、分かるかもしれません 。

 

最後にもう一度、「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版のシステムとその問題~」のまとめ記事作成で、考えて出した結論を再び、出します。

結論。学術出版の問題は、学術・研究業界に絡む様々な背景やカテゴリーのものと多重的に合わさっている。まず、問題構造の整理が先ではないでしょうか?と。

https://twitter.com/naka3_3dsuki/status/1036894307146334208

その問題構造を整理し、見直す一助としても、本記事が役に立てば幸いです。

 

おしまい。

 

 

<重要な関連記事>

2-3.終盤(第7・8章)の内容」のところで、研究者が本を出すために、出版社や編集者と知り合うための方法や、企画の出し方が書かれていたので、次の記事で紹介しました↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

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ブロトピ:読書に関するこんな記事

*1:9月5日の14時台の時点で200以上の共有ツイート、はてなブックマークは18件ほど、Facebookの「いいね」は37件がありました。

*2:Togetterまとめでは、一応、私は「まとめ作成者が色々と好きなことを書いたら、問題意識を持ってくださっている方々を分断してしまうかもしれない」と  控えていました。ですが、ここでは書きます!

*3:そういえば以前、在野研究者で、版元の「中の人」が、『論語』、お好きだとインタビューで仰ってました。一方、個人的に私は『韓非子』がストレートで、好きです。

*4:平凡社東洋文庫のオンデマンド」 (仲見満月の研究室 、http://naka3-3dsuki.hatenablog.com/entry/2013/02/09/234443)参照。

*5:思いました

*6:本を作る時、文字組や装丁の依頼、そこで発生してくる搾取の構造とか、本記事の別項で書いた研究者側の人手が足りないとか、謝礼を払えない研究プロジェクトのお金の問題とか、少しずつ変えていく必要のある部分はたくさんあります。そのあたりは、別記事と繋げられたら、繋げて考えたいと思います。

*7:そのあたりの具体的な話は、次のところで書きました:【本を研究者が出すのに仲見が考えたこと~これからの「やっていきましょう」のひとつに~

半分、チラシ裏みたいな感じで書きました。「研究者だって、人間だ!」ということは、忘れないで欲しいと思い出して、まとめています。続きは、Twitterと同様に、リンク先のメディアの当アカウントのタイムラインに移動して頂くと、スレッド全体を読むことができます。お気の向いた方は、全体を読んでみてください。

*8:まとめ記事のツイートで、あるエディタさんが出しておられた助成金の取り方に対する、嫌悪感。煩わしさに私も苦しみましたが、まとめ記事の問題を考える上で、取り方は知っておいたほうが、議論はしやすいと思い、詳しそうな本を出すだけ、出しときます: 

いろいろと興味深いです

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