仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

学術書や学位論文などの「あとがき」や「謝辞」から分かること(’18.2.22、02:54追記)

<今回の内容>

  • 1.はじめに
  • 2.「あとがき」や「謝辞」から分かること
    •  2-1.著者である研究者の「人間性」が垣間見える
    •  2-2.分野ごとの研究者の歩んできたキャリア情報が読み取れる
  • 3.最後に
  • 4.(’18.2.22_0254追記)エンタメ的論文の読み方の本

1.はじめに

先週末、Twitterを眺めていると、研究者の方々の間で、新書に謝辞があるものは信頼してもよい、とか、入門書だからこそ、註釈の付け方を学部生が学ぶためにつけてほしい、といった議論がありました。前者の話に関しては、本を出すのにお世話になった編集者や、校正を担当した院生へのお礼を述べることは、著者がその著作に責任を負っている証左になり、一定の信用を置いてよい基準になる、といった見方をしている方が、ツイートなさっておられました。私も、おおむね、それぞれの要望や見方には、賛成しています。

 

また、わざわざ、「謝辞」という項目を設けなくても、「あとがき」の中に、お世話になったお礼の言葉を入れておられる方は多いです。商業出版だけでなく、卒論から博論まで、謝辞を入れられる方は、多いようです。そこで、本記事では研究者の著作の「あとがき」や「謝辞」から、何が分かるのか?私の独断と偏見のもと、少しまとめてみようと思います。

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並木陽『 #斜陽の国のルスダン 』を読む~この小説で知った中世グルジアとその周辺+聖ゲオルギウスと国旗の話~

<今回の内容> 

  • 1.はじめに
  • 2.『 斜陽の国のルスダン 』の歴史的背景
  • 3.物語のあらすじ
  • 4.個人的な感想
  • 5.余談:ギオルギの名前について~聖ゲオルギウスとグルジア現国旗のこと~

1.はじめに

11月半ば、ちょうど、一ヶ月前に読了した歴史小説がありました。Twitterで粗筋と歴史的背景、個人的な感想を連続して呟きました。ちょうど、2月に出す予定の同人誌で扱うテーマと近い地域が舞台だったこともあり、レビューを収録しようか?別冊付録を用意して、南カフカスコーカサス)の紹介をする本にレビューを収録しようか?といったことを考えておりました。

 

しかし、より多くの方に本書のことを知って頂くには、公開記事で書くのが最もいいという結論に至り、今回、レビューすることに致しました:

 

 

2.『 斜陽の国のルスダン 』の歴史的背景

この『 斜陽の国のルスダン 』のお話が展開する地域は、グルジア。下に示した地図画像(上方が北)では、現在のトルコが位置する小アジア半島の東の付け根、それとロシアにはさまれた、南コーカサス地方の西南に位置する国で、赤色の枠で囲った範囲です。本書のあとがきで、著者の説明にもあったように、現在は国際的な国名として、「ジョージア」と2010年代半ばに変え、日本政府も「ジョージア」と呼んでいるそうです。しかし、歴史的にはグルジアと呼称されていた期間が長く、私も著者にならって、グルジアと呼ぶことに致します。

 

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さて、物語は、グルジアの13世紀が舞台。歴史的な背景を少し調べたところ、まず、ポイントとして、主要人物の一人・女王ルスダンの二代前の王で、彼女の母親に当たるタマル(タマラ)女王の時代が中世のバグラティオニ朝グルジアの最盛期だったことが、ストーリーに影を大きく落としています。タマル (グルジア女王) - Wikipediaによれば、父王ギオルギ3世の、娘であり、父王によって共同統治者とされ、若年のころから国の政治に関わり、ギオルギ3世の没後、単独でグルジア史上初の女王に即位します。

 

王配としては、最初の夫、ロシア人アンドレイ・ボゴリュブスキー大公の息子ユーリー(ギオルギ)を迎えますが、この夫の謀反を事前に知り、抑えこみ鎮圧した後、離縁。次の夫には、オセット人(本書作中では将軍だった)ダヴィト・ソスランと結婚。ソスランとの間に、息子ゲオルク(のちのゲオルク4世、本書作中のギオルギ光輝王)、そして娘のルスダンで本書の主人公をもうけます。

 

反発する者を抑え込む政治的手腕に加え、対外政策にも積極的なタマル女王は、積極的に遠征を行い、現在のアゼルバイジャンを版図におさめ、更にトルコ領エルズルムを配下に加え、南カフカスを統一したといってもよい領域にグルジアを広げました。更に、

タマル (グルジア女王) - Wikipediaの「軍事・外交」によると、

1204年、イタリアのヴェネチア商人の策謀によって第4回十字軍がコンスタンティノープルを占領し、東ローマ帝国が没落した際には、タマルは皇帝一族が現トルコ領内に建てた亡命政権トレビゾンド帝国の建国を援助している。

(タマル (グルジア女王) - Wikipedia)

そうです。トレビゾンド帝国の初代皇帝について解説したアレクシオス1世 (トレビゾンド皇帝) - Wikipediaによれば、その母親はグルジア王女のルスダンとされています。タマル女王の親族が東ローマ帝国(後継の国はビザンツ帝国とも呼ばれる)に嫁いでいた縁もあったのでしょう。この女王は、トレビゾンド帝国の建国後も、少なくない力を及ぼしていたようです。

 

文化的にもタマル女王の時代は、黄金期に当たるとされます。ショタ・ルスタヴェリの残した有名な長編叙事詩『豹皮の騎士』は、この女王に捧げられたとされています。その死後、タマル女王はキリスト正教会の聖人に列せられ、現在のグルジアの「50ラリ紙幣に肖像が使用されている」とWikipediaには、記されています。

 

さて、本書2つ目のポイントは、この中世グルジア最盛期のタマル女王が崩御した後、物語がルスダンの兄で、タマル女王と共同統治の経験もあったという、ギオルギ王の時代に始まることです。母親の女王が最盛期だったということは、次世代からは国が傾いていくのは必然的なことでした。外敵の遠征者との戦いで斃れた兄王を継ぎ、作中で即位したルスダン女王の時代には、まさにグルジアは斜陽を迎え、また兄王の庶子と彼女の息子という、2人の「ダヴィド」が「外敵の遠征者」を後ろ盾に、後継者争いをするといった、内政にも問題を抱えることとなりました。

 

こうした最盛期のタマル女王の後、兄ギオルギ王の残した「外敵の遠征者」への対処と、後継者問題を抱えた、ある意味、「重い荷物」をルスダン女王は、自分の時代にどうにかしていかなければ、なりませんでした。物語は、そのルスダンについて、王女時代から亡くなる寸前までを、駆け足で見ていく作品だと私は認識しました。

 

それでは、物語の紹介と個人的に感じたことを、書いていきます。

 

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【近況報告】博柴(はくしば)プロジェクト進行中と年明けの文学フリマ京都の話

こちらのエントリ記事で、デビューした、職位が博柴(はくしば)の仲見ケン君です:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

ケン君を我が研究室の看板犬として起用する「博柴プロジェクト」。現在進行形で、着々とグッズ化を果たしております。例えば、年明け1月21日の第二回文学フリマ京都ノベルティに登場する予定です。制作途中のイラストの一部を、ちらっと切り取って、今回はお見せ致しますね↓

 

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初お披露目の時は、スタンダード・カラーのブルーなアカデミックドレスでした。ですが、季節によって学位帽やアカデミック・ガウンの色が変わったり、企画によって服装が変化したり、これから、様々な衣裳に変化していくでしょう。

(公式キャラクターに関する設定として、犬好きな里親の仲見満月が、飼った初代柴系雑種犬イワンコ(仮名)に果たせなかったものとして、色んな服を二代目柴系飼い犬のケン君に施そうとしている。という思惑があります…)

 

ところで、年明けの文学フリマ京都の科学ニュースの新刊・冬号について、少しだけ、お知らせです。特集は「ノーベル賞と科学者たち」(仮)です。ちょうど、12月10日あたりから、授賞式が始まり、受賞者の動向をニュースで、ノベルティのイラストを描きながら、聞きました。冬号の内容は、

  • 受賞者の賞金は、いくらなのか?増えたり、減ったりはあるのか?
  • 受賞者にはその後、若手育成や継続的な資金調達のため、財団や基金を設立している人がいるけど、その運営はうまくいっているのか?
  • 今回、話題となったノーベル医学・生理学賞をしそうな、準研究者の紹介

といった、ノーベル賞に関する、ざっくばらんな話題をチョイスしました。

 

加えて、秋号に続き、動物に関するニュースや、寒い季節に買って飲みたいホットドリンクにまつわる科学のお話を加えています。いろいろ、ぎゅっと詰め込んで、本文56ぺージほどの予定です。B5サイズ継続で、今回は詰め込み過ぎて、イベントの頒布予価700円でお高めとなりました。ということで、新刊の冬号をお買い頂いた方には、上記画像の全体を使った、博柴(はくしば)・ケン君のノベルティグッズをご用意しております。

 

また、既刊の科学ニュース、人文・社会系ニュースの秋号につきましては、

の2つのネット通販ページで扱っているものについて、第二回文学フリマ京都で引き続き、頒布いたします。

 

文学フリマ京都のWEBカタログ編集ができるまで、もうちょっと、時間がかかりそうです。また、そちらが編集できるようになり次第、順次、弊ブログでもお品書き等、公開していこうと準備中です。しばらく、お待ち下さい。

 

おしまい。

 

 

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