仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

学術書や学位論文などの「あとがき」や「謝辞」から分かること(’18.2.22、02:54追記)

<今回の内容>

1.はじめに

先週末、Twitterを眺めていると、研究者の方々の間で、新書に謝辞があるものは信頼してもよい、とか、入門書だからこそ、註釈の付け方を学部生が学ぶためにつけてほしい、といった議論がありました。前者の話に関しては、本を出すのにお世話になった編集者や、校正を担当した院生へのお礼を述べることは、著者がその著作に責任を負っている証左になり、一定の信用を置いてよい基準になる、といった見方をしている方が、ツイートなさっておられました。私も、おおむね、それぞれの要望や見方には、賛成しています。

 

また、わざわざ、「謝辞」という項目を設けなくても、「あとがき」の中に、お世話になったお礼の言葉を入れておられる方は多いです。商業出版だけでなく、卒論から博論まで、謝辞を入れられる方は、多いようです。そこで、本記事では研究者の著作の「あとがき」や「謝辞」から、何が分かるのか?私の独断と偏見のもと、少しまとめてみようと思います。

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2.「あとがき」や「謝辞」から分かること

 2-1.著者である研究者の「人間性」が垣間見える

例えば、今までの弊ブログのエントリ記事では、

naka3-3dsuki.hatenablog.com

で、理系クンことN島氏が修論の中に、恋人で文系学部生だった著者・高世さんの名前を出していたことがありました。

 

2人はおそらく2歳差で、高世さんの学部卒業とN島氏の修士修了の時期が重なっていたと思われます。高世さんは卒論を書き終え、入社まで数か月の長期休みを手にし、卒業旅行に彼氏と行きたいと希望しますが、多忙だったN島氏は、それどころではありませんでした。そんな彼氏は、

論文のリテイクをくらい、落ち込み続ける彼氏を励ます著者。(中略)

 

そうこうしているうち、修士論文&学会ざんまいが終わったN島氏。にこやかにワインを楽しみつつ、食事を二人で楽しみます。忙しい彼氏の役に立たず、むしろ邪魔だったという著者に、N島氏は修士論文の原稿をノートPCで見せながら、「精神的援助」をしてくれたお礼に修論末尾の「謝辞」に、彼女の名前を入れたことを告げます。彼曰く、二人で会っていた時は研究のことを忘れられて気分転換になったし、何よりも全く会えなくても別れ話が出ずに彼女が我慢してくれていたことが、執筆の一番の支えになったと答えます。

大学院生や研究生・研修生の出てくる漫画_理系編その3(理工学編)~高世えり子『理系クン』:後編~ - 仲見満月の研究室

という理由で、 「謝辞」に彼女の名前を入れたのでした。出典元のエントリ記事には、このエピソードから、理工系院生の彼氏とうまく付き合っていくヒントがあると書きました。

 

もう一つは、次の親が学位論文を書いた例です。次のエントリ記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

では、父親の水田孝信さんは博士論文の読み聞かせを娘の要望でした際、「謝辞」のなかに娘さんの名前が入っていたことで、娘さんが大喜びするエピソードがありました。

 

学術書や学位論文など、分析方法や考察といった項目を設け、科学的な手法で新たな知見を導き出すような、書き方の本文では、その著者が著作を書いたり、実験を重ねたり、史料を探索したりする中で、もがき苦しんだ思い出や、すらすらと執筆が進んだ時の歓喜は出てきません。それに対して、「あとがき」や「謝辞」は、著者のお世話になった方々への感謝という気持ちが出てきます。

 

そのほか、「あとがき」や「謝辞」は、本文で出せなかった著者自身の感情だけでなく、人間関係、執筆途中で発生した出来事が書かれていることがあり、次のような観点から見ると、人間としての著者を知る情報が詰まっています。

卒論、修論、そして博論(博士論文)の末尾には、分野関係なく、お世話になった人たち、団体に向けてお礼を述べるための項目として「謝辞」を設けることがあります(設けないこともある)。貴重な文献を見せて下さったり、助成金やバックアップをしてくれたり、そういう人や団体にお世話になった場合は、必ず「謝辞」を書いて、どういうことでお世話になったのかとお礼の言葉を載せます。論文によっては、ちょっとしたエッセイ並の長さになることがあり、筆者の人間味や交友関係、その分野の研究生活を把握することができ、非常におもろい興味深い項目でもあります。

 (大学院生や研究生・研修生の出てくる漫画_理系編その3(理工学編)~高世えり子『理系クン』:後編~ - 仲見満月の研究室) 

 

そういうわけで、先行研究が分厚い論文集で、読んでいるうちに内容が高度すぎて、頭に入って来なくなったら、「あとがき」や「謝辞」を読んでみても、いいかもしれません。少し、気分転換になれば、いいでしょう。

 

 2-2.分野ごとの研究者の歩んできたキャリア情報が読み取れる

「あとがき」や「謝辞」を読むと、どういったタイミングで著作を書き上げ、その過程で著者がどんな経験をどこで積み、誰に本文の何章を書くヒントをもらい、どこから必要な文献や資金の提供を受けたのか、といった情報が詳らかに出てくることがあります。

 

例えば、先日のTwitterで触れた、井波律子先生の次の2冊の新書:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

naka3-3dsuki.hatenablog.com

では、中国の五大小説について、編集部の方も交えて行った読書会をきっかけに、担当編集者の人が上記の新書2冊をまとめるきっかけを下さった、といった経緯とお礼の言葉が「あとがき」にあったと思います。

 

例えば博士論文や修士論文を商業出版したものだった場合、 その学位論文を書くに至るまで、

  • 自分は学部生の時にどんなゼミでどの先生に指導を受け、何に興味を持って大学院に進学しました
  • 大学院のどの課程で、どこの国の政府奨学金を受けることになり、どこの大学や大学院で留学生活を送り、留学中はどの先生に指示しました
  • 帰国後、提出した学位論文を「出版せよ」、あるいは「出版しませんか」と声をかけた恩師や知人がいた

といったような、著者のこれまでのキャリアで研究の本を書くきっかけを与えてくれた人たちの名前を挙げて、謝辞を述べていることがあります。こういった「あとがき」や「謝辞」では、著者の人脈とともに、読者はその学術分野で職業研究者をしていくキャリアのモデルを獲得することができるでしょう。

 

もし、職業研究者の道を歩もうか、と考えている学部生や、修士課程の院生がいたら、卒論や修論を書くついでに、興味のある分野の学位論文をもとにした出版物の「あとがき」や「謝辞」を読み比べてみては、いかがでしょうか?できれば、自分と年齢の近い著者の著作を読むと、より近い時代の職業研究者のキャリアのモデルを知ることができるかもしれません。

 

獲得したキャリアのモデルの場合や、分野によっては、茨の道で、読者の学生には過酷すぎ、「これは無理だ」と思われるケースもあるでしょう。「あとがき」や「謝辞」は、後生の人たちがその進路をどのように歩むべきか、といった道標にもなり得る。私は、そのように考えています。

 

 

3.最後に

以上、「あとがき」や「謝辞」から分かることは、著者の「人間性」(人間臭い部分)や、後生の人には道標となり得るキャリア情報といったことでした。

 

他には、かつて博論を書いた経験から私が言えることは、「あとがき」や「謝辞」にお世話になった人たちの名前を出すことで、宣伝になったり、読者へ先達の研究者を「紹介」したりする情報伝達の媒体になるということでした。名前を出す場合は、人数が少ない場合、許可をとる必要が発生することもあって、面倒くさいと感じる著者もいて、「あとがき」や「謝辞」は省略されている学位論文もあります。あるいは、お世話になりすぎた人が多すぎて、書ききれない時も、面倒くさいらしいです。

(あと、気恥ずかしいかったり、照れくさかったりすると後輩が言っていました)

 

そのような時は、お礼を言いたい人たちの所属団体の名前を出して、「●●学会の方々には、大変、お世話になりました」とか、大学院の先輩方、同期の仲間たちとか、そういった書き方があります。そういうわけで、私は「あとがき」や「謝辞」に団体名や人間関係のカテゴリーにまとめて、書くこともありました。

 

「あとがき」や「謝辞」の部分について、長々と書いてきました。もし、学術書や論文集を読む機会がありましたら、あとがき」や「謝辞」も読み通してみては、いかがでしょうか?

 

おしまい。

 

 

4.(’18.2.22_0254追記)エンタメ的論文の読み方の本

2017年11月末、発売された本に変わった論文を読んで楽しもう!という、一風変わった本が出たのを知りましたので、追記いたします↓

 

本書は、日本語学で博士課程まで行き、芸人活動をしながら、関東地方の大学で非常勤講師をしている、 バリバリの学者芸人・サンキュータツオ氏が、さまざまな分野の学術論文を読み、「何か、おかしいぞ」と感じたものを紹介している書籍です。目次に、

  • 「猫の癒し」効果
  • 「なぞかけ」の法則

 などの論文テーマを見た瞬間、腹筋が崩壊しそうな予感に襲われました。また、文庫版の本書では、コラムに「論文とはどんなもの?」、「研究には4種類ある」といった、駆け出し研究者の心がくすぐられそうな話題が載っています。

 

先行研究の文献読み過ぎや、リジェクト論文の書き直しで頭がこんがらがったら、読んでみると思わぬアイディアが浮かぶかもしれません。

 

 

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