仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

院卒者の「契約的結婚」~『逃げるは恥だが役に立つ』中の院卒者の生き方②~

〈今回の目次〉

1.『逃げるは恥だが役に立つ』の導入と本記事のテーマ

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回は上にリンクしている記事①の続きになります。今月から始まった新ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」を足掛かりに、主に院卒者の生き方を考えてみるのがテーマ。

 

本ドラマの原作は、月刊女性漫画誌に連載中の群像劇です。この物語は、無職の文系院卒者で臨床心理士の資格を持つ森山みくりが、ひょんなことから家事労働者として派遣された年齢が一回り上の津崎平匡と同居するところが序盤。そこから、家事労働をみくりがする代わりに、津崎が衣食住の面倒を見るという、外向きは「結婚」することにした二人は「契約結婚」を企みます。でも、実態は住民票をみくりが津崎の自宅住所に移し、津崎が世帯主になるという入籍はしない「事実婚」。見方によっては、「偽装結婚」?

ドラマ版第二回の放映された今週18日、2人は両家顔合わせの会をセッティング。話はここから始まります。果たして、2人は「事実婚」を承諾してもらい、バラ色の生活を始めることができるのでしょうか?と

 

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(「幸せに包まれる男性」のイメージ画像:モデル:大川竜弥氏。この男性は、ドラマ版「逃げるは恥だが役に立つ」の出演者ではありません)

 

今回は録画組・ネット視聴組等、まだ見ていない人のために、ドラマ版のネタバレはここまでにしておきます。 

 

前回は主人公・みくりの経歴にある心理学専攻の院卒者の就職について、特にカウンセリング業務を担う職業を中心に、考えてみました。今回は、この作品の重要なテーマである「契約結婚」、より厳密にいえば入籍しない「契約的事実婚」を起点として、ここでは、実際の院卒者や研究者に存在する、目的や利害の一致を含む法的な結婚である入籍、場合によっては結婚当事者が義両親と養子縁組を行う事例を含めた「契約的結婚」について、少し考えてみたいと思います。間に私のツイートを挟みつつ、話を進行させてください。

 

 

2.現実世界の「契約的結婚」とは?

仲見満月@文系院生関連のお仕事募集中 on Twitter: "@naka3_3dsuki 森山みくりさんは研究は続けていないけど、研究者の生き方を考える上で、ヒントになるキャラクターだと思います。契約的結婚(事実婚含む)は利害の一致が先です。が、目的の為に努力する同志意識のもと、信頼を築け、本人たちが合意すれば、問題ないかと考えています。"

 

そういうツイートを、ドラマ版第1回の試聴の折り、しました。それでは、現実世界の契約的結婚とは、どのようなものだったのでしょうか?婚期関係を結ぶというのは、様々な状況、当人と姻族同士の思惑が複雑に絡み合うケースがあり、その実態がはっきりと第三者には見えないことが多いかと。そこで、今回は私が「これは、契約的結婚があったんじゃなかろうか?」と邪推したその分野の大家の方々について行ったツイートを中心に、まとめます。

 

 2-1.結婚して夫が妻の実家の婿養子となるパターン

それでは、この大家の一族とは?次のツイートで書きました。

 "@naka3_3dsuki つまり、こういうこと。(中略) あとは、養子縁組ですね。東洋学者だと、 まず、中国史の貝塚茂樹(自身は次男で婿養子、なお中国文学者の小川環樹は四男)。"

まず、この小川家の兄弟がいるんです。貝塚茂樹は古代中国考古学を専攻した、その道の大家。ちなみに、四弟の小川環樹は婿養子にはなっていない模様(上のツイートは誤字・脱字訂正。人物については、Wkipedia情報)。

@naka3_3dsuki 貝塚茂樹実弟で、三男の湯川秀樹ノーベル物理学賞受賞者)も婿養子に。彼ら兄弟の父親で地質学者の小川琢治も、婿養子。養子の例としては、中国文学者の青木正児の四男で、中国文化史の中村喬先生も、中村家へ養子に。以上、ウィキペディア情報。

貝塚茂樹の三弟・湯川秀樹は医師・湯川玄洋の次女湯川スミと結婚して婿養子となり、小川姓から湯川姓になります。彼ら兄弟の父親・小川琢治は、「1891年 東京での学資が続かなくなったため、元紀州藩士小川駒橘(旧姓長屋、横浜正金銀行勤務、横浜在住)の婿養子となる。20歳の時、小川姓となる」。小川家の親子二代の関係をまとめると、以下のとおり。

@naka3_3dsuki 先の小川家の方々は父親・小川琢治(婿養子)、次男・貝塚茂樹(婿養子)、三男・湯川秀樹(婿養子)。長男の小川芳樹(冶金学者)と三男の小川環樹(名前訂正、中国文学者)の2名以外、親子二代で婿養子率が凄い。この時代を調べると、まだまだ、こういう一家、ありそう。

いやはや、親子二代で婿養子になってはるとは…。ちなみに、五男の小川滋樹(ますき)は第二次世界大戦で戦死だそうです。男兄弟5人というのは、この時代、兄弟姉妹の数としては、まあまあの数だそう。まだまだ医療が発達していなかった時代で、ちょっとした病気で、子どもは成人前に亡くなっていたことがよくあったそう。その一方で、この小川家のように、何人もが成人以降も生き残った家もあるわけです。

@naka3_3dsuki 兄弟が多いと、実家は学資不足になるわけで、スポンサーを探し、婿養子になり、学問を続けると。スポンサーは、優秀な人材を迎え入れられるので、互いの利害は一致していたのかも。お見合い結婚は、こういう時、メリットがあるのかも。

優秀な人で、年配者から気に入られると、今も上司や偉い先生からお見合いの話が来るというのは、本当です。私の先輩の尾頭ヒロミ姉さんの一人に、実際、縁談が来ました。そういうわけで、研究や仕事に没頭していて、出会いがない!自分の趣味・嗜好を受け入れてくれる人が欲しい!という方は、次の記事をご参照のこと。

 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

さて、もう一度、この契約的結婚の本記事での定義を確認しましょう。

@naka3_3dsuki 私の言う契約的結婚は、法律の制度上、入籍はします。ただし、利害一致や目的の了承の上での婚姻関係を結ぶということ。婿や嫁が義両親と養子縁組を行うことも、含みます。そこに、恋情の有無は、横に置いておいて考えるよ。と。

 ネットを徘徊していたところ、利害の一致や互いの目的達成より前に、どうやら恋愛関係が先にあって、後で付き合っていた恋人が名家の跡取りだった?!さあ、結婚、どうしよう?というパターンもあたようです。

@naka3_3dsuki 結婚成立において、主力が縁談の行き来、お見合いだった時代のモデルを想定しているのです。偶然、付き合ってた彼女や彼氏が、名家や家業を継続するため、婿入り・嫁入りと、それぞれと養子縁組ケースも、知っているので、恋愛ありきも含みます。冷泉先生の結婚とか?

この冷泉先生というのは、冷泉為人先生です。Wikipediaの冷泉為人先生のページによると、

冷泉家第24代当主冷泉為任および布美子夫妻の長女貴実子と結婚し、旧華族で伯爵家の上冷泉家を継ぐ。冷泉勝彦を名乗っていた時期もあるが、上冷泉家歴代当主の通字に合わせるため、のち正式に為人と改名。

とのこと。いつだったか、ミニ番組の冷泉先生のインタビューを見ていたら、もともと、商家出身だったらしい先生は、その後、付き合っていた女性が冷泉家の長女だということが分かり、結婚の話が出た際、ご自身の実家で「どうするんだ?婿入りするのか?」とご両親と話し合いが長引いたっぽい、と記憶しています。最終的に、冷泉家に婿養子に入ることとなったそうですが、ご自身が家業を抱えた家の出身だったためか、後継者の問題がゴタゴタした模様・・・。実のところは、私には分かりませんが。

 

そういうわけで、契約的結婚の婿養子、一筋縄ではいかないこともあるんでしょうね。

 

 2-2.結婚して妻が夫の実家の跡継ぎとなるパターンはあるのか?

さて、婿養子のパターンを紹介してきましたが、逆に妻が夫の実家の跡継ぎとなるパターンは、殆ど聞いたことがありません。

@naka3_3dsuki 形式的な婿入り・実際にする婿入り養子縁組は、嫁入りのそれより多いと思います。アグレッシブな彼女のプッシュによる、形式的な嫁入りなら、漫画『彼氏彼女の事情』くらいしか、知りません…。あとは、旅館や料亭の経営でしょうか?

このツイートをした後、政治学の博士号を持ち、結婚後は国際基督教大学に非常勤講師に行い、後に国連の諸機関で職を務めた、緒方貞子氏を思い出しました。正確には政治家だった夫(この人は銀行家)の実家の跡取り的なポジションではありません。しかし、自らが首相や外交官の政治家を輩出した家の出身であり、そういった出自が夫の緒方家との婚姻関係を招いた。そう考えた上で、やはり彼女の研究活動が知られるようになったこと、そこから国連の諸機関へ活動の場を移していったことには、出自はもちろん、夫の実家の影響も多少はプラスに働いていたのではないでしょうか。

 

あと、研究者ではありませんが、医者としてのドクター志望者で、アグレッシブな女性が主要人物である漫画作品を紹介したいと思います。

彼氏彼女の事情 21 (花とゆめコミックス)
 

 

 @naka3_3dsuki ちなみに、漫画『彼氏彼女の事情』の主人公も、嫁入り先に医学部進学の費用を出してもらっていたような、気がします。

何を隠そう、私がこの漫画をパラパラしたのは、大学受験の勉強ストレスで胃炎に耐えられなくなり、通っていた胃腸科クリニックの待合室でした。優等生で人当たりよいけど野心家でアグレッシブな女子高生・雪野と、複雑な家庭環境で育った男子高校生・総一郎の2人が、周囲を巻き込みながら恋愛関係となり、成長してゆく物語(ですよね?)。パラパラ読んだものの、クリニックで発見した時は連載が続いていた段階でして、長すぎて2巻以降に手が伸びなかった記憶があります。最近、電子書籍版で最終巻を購入し、読んだところ、総一郎の子どもを妊娠した雪野は実家に挨拶に行った上で、彼の親族に、

 ・子どもを産んだ後、医師になります

 ・だから、費用を援助してください

と言い放ち、どうやら若いころに医師を目指していたおばさん(総一郎の養母?)に気にいられた様子。ラストでは、総一郎の父親の病院で形成外科医として勤務している姿が描かれていました。あっぱれ、雪野さん!最終巻を読んでいると、総一郎と真剣に対峙していたらしきことが分かり、彼女自身の成長もあるでしょうが、タフそうだなと感心しておりました。

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(イメージ画像:自らの力で結婚までこぎつけるほど、周囲を変えていった雪野は、まさにこんな印象)

 

そういうわけで、女性の研究者や医師にも、無意識的に、あるいは積極的に夫(あるいは自身の実家)の家の背景を、自らのキャリアのプラスにする、あるいはしようとすることは環境と本人次第でできそうだと言えそうです。

 

 

3.まとめ

そもそも、こういう記事を書こうと考えたのは、今月16日の以下のイベントに出席したことがきっかけでした。

kyoto-academeia.sakura.ne.jp

日本近代文学の研究者・荒木優太氏が、自ら在野研究者として大学以外で研究を続けるため、先達の紹介(詳細は『これからのエリック・ホッファーのために: 在野研究者の生と心得』東京書籍、2016年)とご自身の実践を中心に、お話をされました。先達の紹介の中で、(自立もありだけど)経済的に家族を頼ってもいいんだということを、ご著書をもとにお話をされていて、「ならば、「契約的結婚」のことも書きたい!」という気持ちになったのです。要は、荒木氏に触発されたんです(そして、乗っかりました)。

 

荒木氏はお話の中で、大学には所属はしなくとも、学会や研究会、読書会には参加して、関連する紀要やジャーナルは読んで、批評を受けつつ、研究を続けていくことの重要性を主に話されました。そういった活動のためにも、生活を経済的に維持していくのは大切だとも、仰っていたと思います。学資が尽きる前に、衣食住が尽きたらいけないぞ!と。

 

最後に、本記事で喋っていたことを次の2つのツイートで閉じたいと思います。

@naka3_3dsuki そういうわけで、学問を続けつつ、少子化解消にはスポンサーになってくれそうなお家の方とお見合い。交際してみて、愛を育みつつ、研究やりたいから援助してください!養子になりますから!という方法も、現在の日本では有効かもしれません。

 

 @naka3_3dsuki 偉大な学者を出しつつ、学資の確保には、スポンサーの家族や親族とお見合い婚で、養子になる!いかがでしょうか?

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