数学者、それは「数系」究極の学問の追究者?!~ヨッピー「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた」(アイエンジニア)より~
<本記事の内容>
- 1.はじめに~数学やっている人は「ヘンテコ」なのか?
- 2.数学者・千葉逸人先生のインタビューに見る数学者と数学
- 3.数学者を取り巻く諸問題~応用からその楽しさ、就職状況まで~
- 3.まとめ
- <関連記事>
1.はじめに~数学やっている人は「ヘンテコ」なのか?
2017年の2月に入って、はや数日。3日は節分で冬が終わる日、4日は立春ということで、旧暦上、季節の節目として重要な日が続きました。節分の3日には、呪力があると言われた豆を撒き、邪気を持つ(またはその象徴である)鬼の目にぶつけて潰して追い払ったり*1、一節には、鬼に撒いた豆を数えさせ、家に近づけないようにするとか、聞いたことがあります。数を数える鬼の癖を利用した、一種の邪気払いのような意味がありそうです*2。
さて、そうした冬から春への節目となる3日から4日にかかる夜、Twitterには次のようなツイートが連続して、私のTLにあがっていました。
豆だと高々有限の時間で数え終わってしまうから、来年からは豆の代わりに自然数を撒こう(提案) https://t.co/1pu2MMdUj5
— AM2tian (@m24kmc) 2017年2月3日
「実数の個数」と同じ数(濃度)の豆を置くことは不可能だけど、[0,1](実数の区間)の象徴として羊羹を置き、それを無限に切り分けて数えてもらうことを提案したい。 > RT
— すかいゆき / 藤原惟 (@sky_y) 2017年2月3日
何やら、数学の問題が設定されそうな気配のあるツイート。後で、2つ目のツイートをしたフォロワーのすかいゆきさんにお聞きしたところ、現代数学の「基礎」にあたる「集合論」という分野のお話だそうです。そもそも、ある意味では邪気の象徴であり、人間を超越した存在である日本の鬼たちに、人間の生み出した数学の「集合論」という考えに基づいた作戦は、通用するのでしょうか?日本の鬼だって、何千年も生きているか、世代を重ねていたら、その長年の経験と知識の蓄積で、「自然数豆まき」作戦も突破されかねない気がしたのです…。
それはさておき、私の周辺の数学に関わっている方々は、家族や親族、友人・知人を含めて、駅の時刻表や料金表など、数の並びを眺めていると、勝手に頭の中で数え始めたり、計算を始めたりと、私の理解を超えた頭の使い方をしている人がいます。以前、教育関係の職場にいたとき、裏紙用のコーナーの余った数学のプリントをもらってきたことがありました。その紙を持ち帰り、買い物のメモにしてお遣いを頼んだところ、家族の一人が裏面の 数式に気がつき、解き始めた時には正直「こういうヘンテコな人たち、面白いな~」と、好奇心が先に出て観察してしまったほどでした。
数学に関わっている人、もっと狭い範囲の意味では数学者に対するこうした「ヘンテコ」、漢字の言葉にすれば「変人」といったイメージは、どうやら今を時めくwebライター・ヨッピー氏も聞いていたようです。ここで、数学者に興味のわいたヨッピー氏は、ビールと下ネタばかりのツイートを発する数学者・千葉逸人先生にインタビューをすることになったのでした↓
私にとっても、数学者の人たちへの興味は尽きません。ヘンテコな人が好きなので、今回は上のヨッピ―氏による千葉先生へのインタビューをとおして、数学者と数学の姿を明らかにしたいと思います。
2.数学者・千葉逸人先生のインタビューに見る数学者と数学
2-1.千葉逸人先生の紹介
さっそく、ヨッピー氏の記事から、千葉先生がどんな人なのか、見ていきましょう。
<千葉逸人(ちば はやと)先生の経歴>
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 准教授。京都大学物理工学科という、工学系出身の珍しい数学者でもある。著書『これならわかる工学部で学ぶ数学』(プレアデス出版・新装版)は、名著として高く評価されているようだ。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
インタビュー冒頭に挙がっている、取材前の千葉先生のツイートを見てみると、北大出張では、毎回、飲み会でウン●好きな先生と尻好きな先生の会話にアットホーム感を覚えたり、「天使の輪」(ビールを一口飲むごとに残る泡のあと)やら、ご自身の靴下とパンツの洗濯ルーティンやサイクルやらで数学的思考を発揮したり、下ネタとお酒すら数学的に分析していっている人のようです。
ヨッピー氏は「大丈夫か、この人。」と心情を吐露していますが、私の周囲の「ヘンテコ」な数学関係者たちに比べれば、序の口です!「大丈夫だ、問題ない!!」
普段、千葉先生がされているのは、「研究と学生向けの講義、それと大学の運営」であり、このインタビュー時は「この東京大学で院生向けの集中講義をするために福岡から出張で来てるんです」とのことでした。誘われて、千葉先生の授業に出てみたヨッピー氏、講義に参加して2時間後、1ミリも分からず、もはや「無」の境地に達していたようです。
2-2.千葉先生を通じて見る数学者の姿
授業後、ゴールデン街の居酒屋に移動し、再び、千葉先生へのインタビューが始まります。
その1.「数学は24時間やってます」
まず、1週間のスケジュールを確認しにかかった取材者のヨッピー氏は、
講義は週に2回、3コマあるんですけど、午前中に授業や会議がない日は徹夜で数学したり酒飲んだりしますね。(中略)
(数学の研究は) 24時間ですよ。(中略)
いや本当に。歩きながら数学やって、ご飯食べながら数学やって、酔っぱらって数学やって、寝る前に数学やって、夢の中で数学やって、目が覚めたらその続きをやるっていう。朝起きて「よーし、じゃあ今から数学やるかー!」ではなくて、常にやってるんですよ。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
という千葉先生の返答に、驚きの連続の様子。
さらに、筆記用具なしで、頭の中に無限の広さの黒板が存在し、その黒板で数学をやってしまうという千葉先生の返答に、聞き手は「なんかとんでもないやつに話を聞いているぞ」と、ビールの手が止まらない。
その2.「金縛りにあっても数学の問題は解いています」
更に、聞き手のヨッピー氏の理解を超えたのは、就寝中に金縛りにあっても、それ用の問題を頭の中に用意しておいて、金縛り到来後、動く脳みそ使って取り組むという行動でした。千葉先生曰く、金縛りは科学的に解明されているから、怖くないし、寝たままでも数学できるから好機ととらえて、頭の中で問題を解いてしまうんだとか。
「わけがわからん。」と感想をもらす聞き手は、数学を寝ても起きても続けている千葉先生に、ノイローゼにならないか、尋ねます。が、千葉先生は、
いや、むしろ最高じゃないですか。好きなことやってお金もらえるなんて、こんなに素晴らしいことはないですよ。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
と平然と言い放ちます。
その3.没頭してしまうとほぼ全裸やパンツ一丁のこともあります(その他、変わった特性あり)
少し、インタビューが先に進みますが、「数学者には変人が多いのか?」という、これまたド直球な質問を聞き手がしてきます。千葉先生は「本当ですよ」と答えたあと、よく聞く事例を出します。それが、数学に没頭してしまい、ほぼ全裸だったシカゴ大学教授・加藤和也先生のお話。加藤和也先生は、街を歩きながら数学に夢中になっていたら、両脇から警察官に捕まり、自分の姿に気がついたそうです。
ちなみに、千葉先生もほぼ全裸で数学に取り組んでいることがあるそうです。一応、「自分は全裸である」ということを自覚しつつ、やっているそうです。このほぼ全裸か、パンツ一丁で数式を大学の駐車場で解いたり、大学近くの空き地で解いたり、という先生方の存在は、たまに私も聞いたことがありました。つまり、数学関係者には、珍しい話ではないということのようです。
続けて、千葉先生が挙げたのは、「漢字が書けなくて有名」な日本出身のアメリカの大学に行った数学者の話。修士論文を提出した際の書類で自分の名前が間違っていたり、
講義中に「座標」という漢字が書けなくて、悩んだ末に「ザヒョー」ってカタカナで書いたんですけど、今後は「ザヒョー」の「ヨ」の横棒が右向きか左向きかわからなくなって悩んでたっていう。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
ことがあったり…。他の人よりも一点の能力に非常に優れている人は、どこかの能力にハンデがあると聞いたことが、 この「漢字が書けない」というのは、漢字圏の国で日常生活を送る段階から、なかなか、苦労が多かったんじゃないかと思います。
(*「漢字が書けない」などの識字に関する脳の特性は、アルファベットを使う文化圏に移動することで、日常生活に支障がなくなるケースもあるんだとか。要は、こういった脳の特性は、文化に負うところが大きいとも言えそうです)
こういった情報が千葉先生から提出されたことに対し、ヨッピー氏は、
めちゃくちゃ面白い。やっぱり数学に全部突っ込んでるから、他のことができなかったりするんですかね。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
と捉えています。そう、数学者は面白くて、(数学の問題に関しては、何を言っているか分からないこともありますが)、魅力的な人が多いんですよね。千葉先生によると、ほかにも数学者の逸話がゴロゴロ出てくるそうなので、気になる方は、調べてみて下さい。
2-3.数学ってどんなことをする学問なのか?
寝ても起きても、数学やり続ける千葉先生に、ヨッピー氏は「数学って、なんなんですかね……?」とストレートな疑問をぶつけます。千葉先生は、数学というものは「終わりのないRPGみたいなもの」と、数学をゲームに例えて説明します。新たな計算法や公式=RPGの「すごく強い武器」とすると、
公式=「どうのつるぎ」によって様々な問題を解く=敵をばんばん倒せる
↓
「どうのつるぎ」で倒せない敵=新たな問題が登場する
↓
「はがねのつるぎ」のようなもの=新たな公式や解法を作って、また敵を倒す
↓
「はがねのつるぎ」で倒せない敵が登場する
↓
新たな敵をやっつける方法をみんなで考える
という作業を永遠に繰り返すのが、数学なんだそうです。
ヨッピー氏がまとめると、「フーリエ級数」などの公式はRPGのなかの「めっちゃ強い武器」であり、また「ポアンカレ予想」などの「ミレニアム懸賞問題」といった懸賞金のかけられた難問題=非常に強力な敵だそうです。こういった強敵である難問を倒す武器をみんなで作り、それを作るのを数学者たちは目指している、というのが千葉先生の答えです。
3.数学者を取り巻く諸問題~応用からその楽しさ、就職状況まで~
3-1.数学の理論は応用できて実用的であることと数学者を取り巻く環境
数学者の生態、数学とな何か、という序盤の疑問が終わりました。後半の頭は、Twitterで募集した質問に、千葉先生が答えていくコーナーです。最初は、こちら↓
【質問1】
最先端の数学は、最先端の応用科学の数十年後、数百年後に位置する良くも悪くも数学という学問の特性ですが、数学者として「現在よりも進歩しすぎている」というもどかしさをどう考えてますか?(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
この質問に対して、千葉先生は、次のような答えをされました。
・最新の数学の理論は絶対に後で役に立つ
・千葉先生は(珍しく)工学出身の数学者であり、工学上の問題を数学的に解く感じの応用を考えるのも好き
・工学も含めて、数学とその他の学問分野との間を埋めるのも大事だと考えている
・数学的なアプローチで解決することって、かなりあるので、数学は抽象的だからこそ、応用が利く
・抽象的で応用の利く数学の地位は、アメリカでは必然的に高いが、この点においては日本は遅れている
最後の日本における数学の地位については、もう少し、詳しく説明をされています。千葉先生曰く、日本は基礎科学を経済的に支援する背景がないことと、数学を応用されることに恥を感じているような考えの方も多いそうで、千葉先生としては、もっと、数学を応用して欲しいそうです。
ここから、アメリカの数学者を取り巻く環境の話題になります。数学だけではありませんが、アメリカでは研究する人と教える人が分かれており、研究する人は研究に専念できるようです。ついでに言うと、大学の広報や会計などの事務的仕事と先の研究者たちについては、分業体制がとられていると、私は聞いたことがあります。千葉先生によると、日本の大学教授は、事務仕事が多く、各種組織の長に据えられることもあり、かつ授業も受け持つため、忙しくて研究どころじゃなくなるんだとか。
研究と教育のポストが兼ねられているというのは、日本の大学や研究機関の特徴のようなので、数学だけではありません。千葉先生がおっしゃるように、この兼業は当たり前すぎて、変えていくのは非常に難しいと私も考えております。
3-2.「【質問2】数学を突き詰めて、何を目指しているんですか?」
Twitterユーザーからの質問その2が、この見出し。千葉先生は、ズバリ、最終的には自己満足であると言い切ります。別に、世界を救うために自分たちはやっているわけではなく、知的好奇心だけでやっている人が多いそうです。人死ぬとき、いい数学人生が過ごせたと思えれば、最高なようです。
ところで、インタビューの記事タイトルには「天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた 」とありますが、本人は頭は良かったものの、天才タイプではないと生い立ちを振り返っておられます。模試でも一番ではないし、数学オリンピックで金メダル取ったり、ということはないものの、1つの問題について、ひたすら考えるのが好きだった模様。公務員だった父親含む、親御さんと京大で入学試験の合格発表を確認後、その夜に宿で加法定理の新たな証明を思いつき、それに取り組んでいたら、親御さんに受験終わったのに頭がおかしくなった、と思われたそうです。
そこまで数学にのめり込むということは、さぞかし千葉先生にとって、数学は楽しいんだろう!と考えたヨッピー氏は、数学の楽しさを尋ねます。それに対する千葉先生の返答は、「美しいんですよね」の一言。この美しいというのは、私の周辺の数学関係者からも頻繁に聞く言葉ですが、私にはさっぱり理解できないことでした。聞き手も「数式が美しいってこと?」と尋ね返しています。千葉先生のお答えは、
うーん、この世の全てには数学が隠されてるんですよ。いま座っている椅子も、構造計算とかですね。ビールの泡の流れ方もそうです。現実にある難しい問題には、絶対に美しい数学が隠れてるんです。それを見つけた時の喜びがすごいんですよ。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
というもの。こういう表現をされると、我々の生きている世界を構成するものは、すべて数学によって成り立っている、と私は考えてしまいました。ヨッピ―氏が「遺跡を発掘している人みたいですね」というのは、言い得ていて、おそらく、数学者たちは数学によってこの世界の構造を数で表そうとしており、きちんと数で構造を説明できれば、数学は「美しい」といえるんでしょう。本記事のタイトルにも入れましたが、数学とは、理系学問の中でも、まさに数を使って世界を表す「数系」究極の学問だと、私は認識しました。
3-3.数学者になる方法と数学専攻の人たちの進路事情~博士号と就職の話~
その1.数学者に向いている人とは?および博士号の取れやすさについて
そろそろ、終盤ということで、数学者に成る方法と、数学専攻だった人たちの進路事情が出てきます。
まず、数学者に向いている人はどういう人なのか?という聞き手の質問に、千葉先生は「24時間やってても、苦にならないレベル」の数学愛のある人と答えられました。この一日中取り組んでいるというのは、ほかの学問にも言えることだと考えると、現役の研究者の皆さま、いかがでしょうか?言い換えると、気がついたら自分の専門のことを考えている、ということでもあるんでしょう・
「生半可な気持ちでやれないんですね」というヨッピー氏の発言に、
修士まではなんとかなっても、博士号取るのがめちゃくちゃ難しいんですよ。論文の問題の設定も自分でしなきゃいけないので、まず「いい問題に出会えるか」っていうのもありますし。3年かかっても博士号取れないなんて話、ザラにありますから。
(「数学者は変人ばかり」って本当? 天才数学者・千葉逸人先生に聞いてきた | i:Engineer(アイエンジニア)より)
というお答えの千葉先生。そうそう、理系学問であり、どちらかというと「理系の中の理系」と言えそうな数学も、千葉先生のお答えのとおり、博士課程では論文の問題設定から自分でしないといけず、その問題に出会えるか、そうでないかで博士号取得までの時間が大きく変わるそうです。私のいた文理総合系大学院にも、数学の研究室があり、私と同期の博士院生タカダ氏(仮名)は修論直後に、運よく自分でよい問題を発見したようで、国際的な学術ジャーナルにその問題に関する論文を投稿し、掲載されたようです。その問題を解き続けることに4年を費やし、博士号を4年目に授けられました。
その2.数学専攻の人たちの進路事情
博士号取りにくいかも?と察知したのか、聞き手は「それで路頭に迷ったり、「数学じゃ食えない」って諦める人も多かったりするんですか?」と質問します。ここは、私も非常に気になるところで、それ単体の純粋な数学専攻の人は、理系分野の中でも、地学ほどでなはいものの、「食べていけない」ということを、あちこちから聞いていたからです。
千葉先生の答えは、「食えないとか路頭に迷うっていうことはないと思いますよ。」とのこと。数学専攻だった人が、研究の道を諦めたとしても、
・院卒で金融系に行く人は多い
・高校の先生や高専の先生になる人がいる
そうです。ちなみに、私と同期のタカダ氏は、教員採用試験を受験したり、研究者向け求人サイトの「JREC-IN」で大学教員以外にも求人検索の幅を広げて採用試験を受けたりして、今は高専の数学担当の教員をしています。このインタビューの冒頭にも出てくるのですが、千葉先生が挙げた以外にも、ヨッピー氏の知人で「京都大学を中退後、現在は優秀なエンジニアとしてゴリゴリ最前線で働いている方」もいるそうです。つまり、「3-1.数学の理論は応用できて実用的であることと数学者を取り巻く環境」でも書きましたように、数学という応用できる学問的背景があれば、ヨッピー氏が言うように、「IT系のエンジニアだと、AIとかビッグデータとかをやろうと」している企業や団体から、数学やっていた人は、引く手あまただと考えられます。
その3.大学などの研究職は道がかなり険しい模様
ただし、千葉先生のように、大学・大学院やその他の研究機関のポストを得て、教授を目指すというのは、かなり厳しいようです。それ以前に、ガチの数学系(例えば理学部数理学科の数学専攻等)に進むと、周囲の優秀さに圧倒されてしまい、数学者になるのを諦めることになっていたかもしれない。京大工学部の物理工学科出身の千葉先生*3は、このように振り返ります。周囲に比較対象となる人間がいなかったので、研究者として数学が続けられているそうです。
ちなみに、千葉先生は「数学者への道のり - 京都大学 工学広報」によると、大学院からは情報学研究科数理工学専攻で純粋数学にひたり、九州大学の研究者のページでも、学位は「情報学」となっていました*4。数学者とはいえ、いろんな分野を渡り歩いてきた中で純粋数学を学んできたという方のようです。確かに、数学の応用を考えそうな経歴です。
そんな千葉先生は、「食うために数学やる」みたいな数学を就職の手段だと捉えるスタンスだと、厳しかったと述懐されています。数学に愛を持てないと、その研究職のポストを得ることは、厳しいということです。
千葉先生の先の話で触れられましたが、大学院で周囲の優秀な人たちに圧倒されるというのは、実は私、経験済みの感覚でした。たとえ、その研究テーマが好きでも、24時間も考え続けられるほどではなかった私は、修士卒で研究の道を諦めたくても、研究分野とその周辺で自分が好きで続けられそうな形の仕事を見いだせないと、覚悟なしに、ズルズルと研究職のポストを狙い続けるしかないのか?と、高学歴ワーキングプアに陥ることを意識しながら、墜落してゆく・・・。そういった暗い気持ちになる院生は、私以外にもいたでしょう。件のタカダ氏は、研究職のポストから幅を広げつつ、持っていた高校の数学教員の免許で高専に職を得たのです。
このあたりの大学や研究機関で奉職する道は、数学だけでなく、ほかの理系分野、さらに目指すのが厳しい文系分野にも言えると私は考えました。
聞き手のヨッピー氏が「生きるために数学をやるんじゃなくて、数学をやるために生きる、って感じなんですね。」というのは、まさに他の分野の研究者にも当てはまると思います。特に、研究職を得られるような人の一部には、確かにその分野研究のために生きる、というほど好きな人もいらっしゃるようです。
3.まとめ
そんなこんなで、2時間ほどでインタビューが終わりました。私がインタビューを通じて、再構築した数学者のイメージは、やはり、数を使って世界の構造を表すという、「数系」学問の求道者でした。数学に対しては、それ単体ではよくわからない数と記号が並んでいるように見えるけれど、そこに他分野との接続があると、その数と記号の並びは意味を帯びてゆき、数学者じゃなくても、何かが立ちあがってくることをつかむための学問、というイメージを抱きました。ただ、この数学のイメージは、千葉先生という、工学出身の数学者の言葉を通した、特別なイメージなのだと言えそうます。
就職に関しては、研究の道は数学を24時間取り組めるほどでないと、進んでゆくことは厳しいことが分かりました。また、たとえ研究の道を諦めても、応用が利く分野ゆえ、金融機関やIT系で食べていく道があり、教える道では高校や高専などの学校教員の進路があることが分かりました。
まとめとして、数学やっている人は、外から見ると「ヘンテコ」な行動をしているように見えても、そこには他の分野と同じで、この世界を理解しようという研究活動に勤しんでいる結果とすれば、私のいた東洋学ほか研究分野と別段、行動の意味は変わらないと言えるでしょう。ただ、その行動の意味を理解できない周囲の人たちから見れば、「ヘンテコ」に見えるというだけのこと…。まあ、その「ヘンテコ」に魅了される人たちも、広い世の中には存在しているということです。
まとめに達したところで、今回は終わりです。ここまで、長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
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*2:未確認のため、情報を求めています。