仲見満月の研究室

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【ニュース】「研究者夫婦、一緒に雇用します 九大、リケジョ確保狙う」(朝日新聞デジタル)~それと「週末家族」な研究者たち~

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<九大の「配偶者帯同雇用制度」と週末家族な研究者たち

1.「研究者夫婦、一緒に雇用します 九大、リケジョ確保狙う」(朝日新聞デジタル)の紹介

今週7月27日の朝日新聞デジタルで、九州大学のこんな取り組みが報道されていましたよ:

www.asahi.com


研究者夫婦、一緒に働けます 九大、優秀な教員確保狙う

2017年7月27日09時08分

 

 九州大学(福岡市)は25日、研究者の夫婦を一緒に正規雇用する「配偶者帯同雇用制度」を始めたと発表した。教員の生活の質を高め、優秀な教員を確保するのが狙い。米国ではスタンフォード大学など13大学に同様の制度があるが、国内では初めてという。

 対象はノーベル賞を受賞する可能性があるなどとする選考基準を満たした研究者と、その配偶者。公募がない場合でも、研究者の所属部局が配偶者の所属について調整し、通常の選考基準を満たせば配偶者を採用する。

 九大が2009~13年に着任した女性教員38人を対象に調査したところ、既婚者26人中15人は研究者と結婚していた。さらに、この15人のうち12人が配偶者と離れて生活していた。子どもがいる場合、一人で子育てしながら研究する女性が多いという。

研究者夫婦、一緒に働けます 九大、優秀な教員確保狙う:朝日新聞デジタル

 

この「配偶者帯同雇用制度」は、「研究者の夫婦を一緒に正規雇用する」ものであり、選考基準は、ノーベル賞を受賞する可能性がある、とすると、基本的には理系の研究者夫婦なのでしょうか?例えば、ノーベル文学賞フランツ・カフカ賞可能性のある文学者でありアーティストの一面を持つ研究者、それから難民支援や国際機関で外交関係の実践研究の仕事をして来た社会学系の研究者は、対象外なのでしょうか?

 

Twitter上の反応としては、夫婦が同じ部局と研究室にいると、他の大学教員や研究職員が気まずくてたまらない、とか、その部局長に配偶者がいる場合、片方の配偶者がまるで虎の威を借る狐のように威張って、配属研究室の院生にハラスメント行為をするのではないか、といった懸念を示した方々がいました。一方で、いくらなんでも、夫婦セットで同じ部局や研究室に配属することはなく、学部や大学院の部局は分けるといった采配は九大側はするだろう、というツイートをなさっている方もおられました。

 

 研究のレベルが「ノーベル賞」レベルというのは横に置いておいて、注目すべきは、ニュース記事の

 九大が2009~13年に着任した女性教員38人を対象に調査したところ、既婚者26人中15人は研究者と結婚していた。さらに、この15人のうち12人が配偶者と離れて生活していた。子どもがいる場合、一人で子育てしながら研究する女性が多いという。

研究者夫婦、一緒に働けます 九大、優秀な教員確保狙う:朝日新聞デジタル

 という部分です。

 

実は、もとの記録を4年前に私が書いた次の記事:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

にあるように、大学教員同士の夫婦をはじめ、家族に職業研究者がいる場合、配偶者の一方が単身赴任となり、その単身赴任したほうが週末や連休に子どもたちのいる自宅に返ってきて過ごす、という一種の「週末家族」の生活をしている家庭は多いようなのです。

 

そういわけで、第2項では大学の先生たちと子育て - 仲見満月の研究室の「週末家族」の実例を紹介させて頂きます。

 

 

2.「週末家族」な研究者家庭の例

さっそく、先の記事から実例を抜き出してみましょう。なお、実例のほとんどは、記事の記録を最初に書いた4年前が基準となっております。

 

 2-1.ママさん教授のE先生:

学部時代、私の周囲には、たとえばママさん教授が何人かおられました。その1人、ゼミでお世話になっていたE先生は、近畿の大学に移った時、お子さんを連れて引っ越して来られた人でした。出身地が東北のほうで、ご実家も旦那さまも関東暮らし。ご両親や旦那さまに来てもらうことも、難しい日もあったとおこと。

土日に授業が入った時、上のお子さんの小学校もお休みで、野外実習に連れていらっしゃることもありました。現在、E先生は東海の大学に移られ、旦那さまも大学を移られ、ご家族で一緒に生活されてるそうです。

大学の先生たちと子育て - 仲見満月の研究室

このE先生のお話では、近畿地方の大学に来られる前は、関東にご夫婦と幼児のお子さんの3人で集合住宅に住み、E先生は関東の大学で非常勤講師を掛け持ちし、旦那さまは関東の大学で正規の専任講師だったようです。上に書いたように、E先生が講師として近畿地方に幼稚園にお子さんが上がる年に合わせて、赴任。赴任先の近畿の大学で教授まで昇進された頃、お子さんは小学校高学年になられていらっしゃったようです。九大の「子どもがいる場合、一人で子育てしながら研究する女性が多いという」パターンですね。

 

妻のE先生とお子さんが近畿にお住まいの時代は、旦那さまが関東の大学で平日勤務され、週末になると、旦那さまが新幹線と在来線を使って、週末を近畿地方で過ごされる生活が7年ほど続きます。時たま、旦那さまが週末の学会等で来られない時もあったり、また関東からE先生のご両親(東北から関東圏に移住済み)が京都観光にこられた際に泊まっていかれたり、そういった時期もあったそうです。

 

私がE先生のゼミに所属した学部3年次の終わり、E先生が東海地方の大学に赴任されることが分かり、E先生のゼミ生たちは、移動先を探して慌てました。実は、E先生ゼミと主専攻の東アジア文化のゼミに所属していた私は、主専攻のゼミ一本となり、他のゼミ生たちも移籍先が見つかり、E先生の旦那様も東海地方の別の大学に転職されることとなりました。その後、私が学部4年生の夏に院試勉強に追われていた頃、ご夫婦とお子さんの3人の生活を東海地方でスタートされ、出張で行かれた名古屋のひつまぶしは、おいしかった、という近況報告を残暑見舞いのお返事で頂きました。

 

 2-2.パパさん先生の地理学Y先生の場合: 

地理学のY先生の場合、もともと奥さまと近畿にお住まいで、大学にもご夫婦で勤めていらっしゃいました。専門が都市地理学ということで、数年前に奥さまが関東に単身赴任の形で大学に移り、Y先生は1歳のお子さんを育てている状況を説明し、現代の家族形態と人の動きを都市の交通網と結び付け、講義をなさっていました。現在も、引き続き、大学で教壇に立たれています。

大学の先生たちと子育て - 仲見満月の研究室

先のニュース記事で報じられた「子どもがいる場合、一人で子育てしながら研究する女性が多いという」ケースと逆で、夫のY先生がもともと夫婦で住んでいた近畿地方にお子さんと残り、奥様が関東地方の大学に単身赴任される形となりました。Y先生は、私の通っていた大学の学部に、電車を乗り継いで非常勤講師として来られていました。その後、ときたま、私の通っていた大学、それから進学後の大学院で研究会がある場合、お子さんを抱っこひもで背中におぶって、連れてこられたり、もう少し成長された時は手を繋いでキャンパス内を歩かれて一緒に来られたり、イクメンというより、Y先生自身がメインの保護者、という雰囲気を出されておられました。

 

構内でお会いした際は、挨拶をする時もあったのですが、私が大学院を出た後は交流が絶えてしまい、家族の形態がその後、どう変化したのかは分かりません。受けた講義のでは、実際に奥様とY先生とお子さんが会えるのは週末だけでしたが、平日はSkypeのビデオ通話で話をしていて、家族としての時間をどう皆さんで確保するか、実験的なこともされていたようです。

 

 2-3.小結

地理学のY先生からは突っ込んだお話は聞きませんでしたが、ママさん教授のE先生は、割と日々の子育てのことをお話して下さいました。印象深かったのが、「7年くらい、夫と別々で住んでいたから、今度、また同居することになると、生活スタイルや時間のペースが合わなさそうで、面倒かもしれない」という一言でした。おそらく、片方の親+子どもたちだけの暮らしが数年単位で続くと、この生活の形やペースが固まってしまって、親の転職や転勤等にともなって、もう片方の親との生活のスタイルを再構築し直さないといけない、ということをE先生は厄介に感じられたのかもしれません。

 

 

余談として、私の育った家庭も同様の働く片親+子の生活スタイルでした。父は都市圏の残って通勤生活、私は喘息やアレルギーのせいで生まれた都市圏に住めず、母は私を連れて母の親戚のいる西日本のある片田舎に引っ越しました。そこで仕事を見つけた母と私は同じ家に住み、時々、やって来る母方の祖母や親戚の人たちと高校を卒業するまで過ごすこととなります。

 

E先生、それから私の母や親戚の女性達は、バリバリと仕事をこなし、昇進していくタイプの人が多かったです。特に、私の母は生活スタイルに子育てを自分に都合のいいように組み込み、流れるように家事をこなし、出勤していく人でした。有能な人だったんでしょうけれど、連休に父が母と私の住む家にやって来ると、父の生活ペースに母は乱されてしまい、几帳面な母が父にイラついて怒鳴る、といった場面を成長期に私は何度か目撃しました。

私の両親は、都市圏に住んでいた頃から、几帳面な母が父にイラついて怒鳴ることがあり、その衝突を避ける意味で、父の単身赴任と母が自分の親族のいる地方で仕事をしつつ、私を育てるのがベターな解決策だったのかもしれません。

 

家族や家庭の生活の形は、たくさんあっていいと思います。実際、紹介した「週末家族」のスタイルをとっている家庭には、研究者以外の友人や知人もおりましたから。ただ、注意して頂きたいのは、九大の「研究者の夫婦を一緒に正規雇用する「配偶者帯同雇用制度」」のような制度を見つけて利用し、今まで、それぞれの世帯で各々のペースで生活をしていた人たちが、一つ屋根の下、新たに生活を始めようとした場合、生活のスタイルの再構築がうまくいかないと、新たに大きな負担や問題が生じてくることが考えられます。

 

 

4.最後に 

3-3を受けて、全体のまとめをします。今回、九大が発表した「研究者の夫婦を一緒に正規雇用する「配偶者帯同雇用制度」を研究者同士の夫婦が利用し、九大に赴任しようとしたら、選考に通るように準備することと合わせて、お子さんたちの通う学校等もまるっと含めて、家族みんなでどのような生活スタイルを構築するか、プラン二ングが鍵となってくるのではないでしょうか。これは、E先生やY先生のように、夫婦別々の場所で仕事を持ち、子育てと生活をしてきたカップルだけでなく、今まで夫婦と子どもたちが一緒に暮らしてきた家族であっても、夫婦の所属先のおおもとが九大一つになるわけです。そのあたりの職場のことも考慮して、住む場所や新しいライフスタイルについて、考えていく必要があるでしょう。

 

そのあたりの実生活のことも含めて、九大のほうでは「配偶者帯同雇用制度」を利用する夫婦、カップルをサポートできるプランが今後、考案・実施されれば、九大には優秀な人材が目を向けるようになるでしょう。

 

ところで、私の生い立ちのお話のおまけとして、几帳面、もとい何でもデキる母のもと育った私は、父親の役目をも負う形となった母とぶつったり、庇護を受けたり、時に依存したりを繰り返して、成長しました。発達障害の傾向を含めて、己の人生を振り返ると、私の性格の形成を考えると、やはり「母」と「父」の役割をする人物は別々にいてくれたほうが、今よりも情緒の安定した自分になれていたのかもしれない、と頭に思い浮かべてしまうことがあります。このあたりについては、また別の機会にお話しする予定です。

 

世界中には、様々な地域でいろいろな家族の形があります。九大の「配偶者帯同雇用制度」に応募される方については、ここに書いたライフスタイルや家族の個々人の性格や特性、相性も含めて、どのような新しい生活を九大での仕事を含めて構築するのか、ぜひ、家族の構成員の方々と話し合って、プランをいくつか、出されてみて下さい。

 

おしまい。 

 

<今後に私が研究者のライフスタイルを考える上で読んでみたい本>

 

 

 

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