「正直、引越しと心配事が半端ない」かもしれない任期付き大学教員の家族の話(はてな匿名ダイアリー、'18.7.4、17:03追記)
<転勤族と「週末家族」>
- 1.はじめに
- 2. 「正直、引越しと心配事が半端ない」かもしれない任期付き大学教員の家族の話(はてな匿名ダイアリーより)
- 3.最後に~研究者とその家族だって「人間なんだ」~
- 4.('18.7.4_1703追記)補足:転勤族のパートナーの「無力化」について
1.はじめに
Twitterで日々、流れてくるアカデミックな世界に対する思いやニュースに対して、しばらく、お休みさせて頂こうと思ってました。しかし、ここ2週間以内に起きた事件を聞いて、「少しでも、何かできれば…」と思い、所感を受け止め、別の「こういうことを聞きたかったの!」という「誰か」に向けて、届けられるものがあればと思いました。
歩みは遅いですが、少しずつでも書いて、何かを蓄積していければ、と。
2. 「正直、引越しと心配事が半端ない」かもしれない任期付き大学教員の家族の話(はてな匿名ダイアリーより)
さて、今回のテーマは、これまでも様々な面から取り上げてきた、大学教員の勤務先移動(異動)とその家族の生活に関するお話です:
(任期付き大学教員の家族の所感)、2018.6.26_16時台付け、はてな匿名ダイアリー)
実は、大学教員はキャリア上、任期のない正規雇用や専任の先生も、大学や研究機関を移ることは珍しくありません。私個人は、大学教員も転勤族にといえば、そうだと捉えています。例えば、下の記事:
の「2.「週末家族」な研究者家庭の例」に書いたように、研究者同士の夫婦の場合、お互いの勤務先が新幹線で片道1時間以上かかる距離のケースは、私が知っている範囲で数件あります。お子さんがいる場合、片方の親がバタバタしながら手元で育てているケースもありました。私の院生時代にお世話になった講座の先生にも、「週末だけ家族のいる地方宅に帰って過ごされる」という方はいらっしゃいました。
初めての任期なしポストから退職まで、20年間で5回、所属大学を移った先生も知っています。配偶者の方が仕事を、お子さんが学校を移れない場合、大学教員のほうが単身赴任するという選択肢が取られていることは、少なくないでしょう。家族も、大学教員も、大変なんです。
ところで、今回の書き手である「ますださん」は、任期付き(だいたい3年)で、非正規に該当すると思われる大学教員(国公立大学)の妻とのこと。どうやら、ますださん自身は研究者ではなく、配偶者の次の仕事が決まるよう、研究者向け求人サイトの求人要項に合わせて書類を送付したり、お子さんの学校や夫の任期に合わせて、時間に融通が利きやすく、すぐ辞められるパートの仕事をされていたり、日々、お疲れな様子が文章から窺えます。おそらく、夫は「特定助教」や「特任講師」、「特任准教授」といった名前のつく職を転々とされているのではないでしょうか。
ますださんの引越しと心配事にまつわる苦労を箇条書きにして、みました。
<引越しにまつわる苦労>
- 公募求人のタイミングが合わないと「移動したばかりだったりしてそれすら逃してしまう」
- 新しい職場が決まり、引っ越しでも、その費用は「満額出ない」上、状態の悪いぼろい「官舎は数年待ちの状態で空きがないことも多く」、賃貸の住宅を借りることが多い
- 敷金・礼金あたりは自腹で、「家賃補助も夫のお小遣い程度の額」であり、引っ越し代も最低額しか出ず、「春に引っ越したら大赤字」(転勤先で知り合った企業勤めの転勤族との待遇の違いに驚く毎日、こっちは毎回の引っ越し費用に怯えているほど)
- このままだと、定年まで、ヤドカリ状態のままになりそうで、そろそろ、落ち着きたい
<心配事や苦労>
- いつも3年単位で各地を転々とし、常に職探しをしており、「次の仕事が決まるまでは迫って来る任期を意識しない日はない(任期満了に怯える日々)
- 幼児の頃は「もちろんワンオペ育児」で、子が成長すれば、「転勤先のよく知らない土地のよく知らないコミュニティに積極的に入って」いき、子がいじめられないよう、学校のPTAや地域の活動にも積極的に加わるようにしている
- 本当は引越し代金のために働きたいけれど、子育て、学校や地域の活動をするためにはパートしかできないけれど、再就職の難しい年齢になってきているのが心配でもある
最後に、
国公立の大学で任期付きの研究職を転々としてる教員の家族はこんな感じです。食べられているだけましなのかな、というレベルで、この先任期なしの仕事にありつけるまでこのままだと思われる。
結婚相手としてどうかと言われると正直、いろいろしんどいです。
という言葉でエントリ記事が締めくくられていて、任期付き大学教員の人には、けっこう、ずしっと重いパンチが入りそうな感じです…。
「しんどい」というのは、「苦しい」、「つらい」と同じようなニュアンスですが、「泥のように、重たいものが身体にへばりついている感じ」の良きに使われることがあって、疲れて動きづらい時にも使われますから、ますださんには「もう、引越しはしたくない。ヘトヘトに疲れたし、動けない。むしろ、この土地に落ち着きたい」といった気持ちが表れているような気持ちにもなります。
最後の「結婚相手としてどうかと言われると正直、いろいろしんどいです」については、若年世代の任期付きポストにいる方には、かなり鋭く切り込むような一言ではないでしょうか。
以前、拝読した、社会人女性の方(作者)と理系大学教員のエッセイ漫画『オタクと研究者-まとめ- 』には、今回のますださんと同じような体験談が出てきます。任期付きの職を転々とする彼氏に対し、結婚へ向けて準備をしていた作者が「先の見えない研究者の人と結婚するって、こんなに大変だったんだ」というような一言を呟く場面がありました。突然、遠距離になって不安になったり、結婚式の会場が決まって準備をしていたところに彼氏が大学を移ることになって、会場をキャンセルしたり…。結婚準備をしているほうとしては、振り回されっぱなしになり、忍耐強さが求められます。(なお、上記の漫画同人誌のメインは、今回、取り上げたことがテーマではないことを、申し添えさせていただきます)
より深刻なのは、ツイートで指摘されていた方の言うとおり、任期付きアカポスのパートナーにくっ付いて、各地を転々とすることになった場合、配偶者は安定した正規職に就き、働きにくい状態になるということ。「大手小町」の相談者には、社会人女性らしき方が、任期付き研究者の交際相手との結婚について、自分の仕事上のキャリアを諦めなければ一緒に暮らし、家庭を築けないと悩む方が数人いました。逆もまた然りです。
こういった苦悩の結果、研究者家庭では「週末家族」という形態がベターな選択肢として、取られていることは否めません。「どうしても、毎日、一緒に1つの屋根の下で、家族みんなで暮らしたい」という夢を抱いても、若年世代の大学教員は安定したポストを得たら、次のキャリアを考えると、同じ地域内の場所に転職先を見つける必要があり、それもそれで、なかなかハードです。家族には家族の思い描いているやりたいこと、キャリアがあるわけです。漫画家のヤマザキマリ先生のように、夫の希望で海外赴任に付いていくため、漫画執筆用のスキャナやプリンタ、PCを自分で抱えて、イライラすることもあるでしょう。
3.最後に~研究者とその家族だって「人間なんだ」~
もっとも、こういった話は、「転職は他の業界の人にとっても珍しくないではないか」と仰る方もおられると思います。
「研究者は熾烈な競争を勝ち抜いても、任期付きだろうと、そうじゃなくなっても、落ち着けないところは、他の業界と変わらなくて、しんどいんだ」
ということを書いて、本記事を締めさせて頂きます。
職業研究者だって、その周りの家族だって、みんな、人間なんですよ、と。
おしまい。
<研究者の日常生活やその不安に関する最近の更新記事>
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4.('18.7.4_1703追記)補足:転勤族のパートナーの「無力化」について
関連する話がTogetterに出ていたので、リンクさせて頂きます:
本記事のますださんが書いていた不安や苦労について、共通する話や、より具体的な実例が出ています。
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