仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【'18.4.26_1845続報】大学の授業で使う学術書等の教材と電子化に関するメモ~「九大図書館の78冊ごみに 一部裁断、電子書籍化か」(日本経済新聞ほか)~

<必要だと感じたので、仲見なりのメモを残します>

1.はじめに

昨夜、「#研究室ごはん を考える~お手軽自炊でコスパもよし?!パスタな #ラボメシ 編~」の続編に備えて、冷凍食品の食べ比べレポをTogetterで検索していたところ、非常に痛ましい「事件」が、ある大学とその図書館で起こってたことを伝えるまとめを目にしました:

togetter.com

まとめのタイトルは、「大学図書館から図書館員を通さずに持ち出し裁断機でメッタ斬りにして電子書籍化して捨てたというタチの悪い事件が発生」です。裁断された「図書館の本、寮のゴミ捨て場に捨てられ」ていたようです。ツイート主の方は、本が捨てられていたゴミ箱のある寮のドミトリーリーダーのようで、大学側から聞かされた情報には、「犯人もわからない上に被害総額がひどすぎ」、本は「基幹教育のばっかり」だったようです。大学図書館には盗難防止用の装置がったにも拘わらず、本が館外に持ち出されたことが窺え、それ故にツイート主の方は図書館員の方に再発防止のために参考人として呼ばれたとのことでした。

 

Tgetterまとめをざっと読んだ後、ネット検索で調べたところ、この事件と思わしき出来事を報じニュース記事がいくつか、出てきました。他に同様の出来事がなかったか、できる範囲で調べましたが、九大図書館のことしか出てこなかったため、本記事ではTogetterにあった事件は、九大図書館に関連するものだと仮定して、扱かわせて頂きます。ごめんください。:

www.nikkei.com

headlines.yahoo.co.jp

 

朝日新聞日経新聞のオンライン記事で事件の概要を読み、院生時代に自分で買った学術書の電子化をしていた経験学部の授業で補助業務をしていた時に教材の価格や利便性を考えたことを思い出し、どうしても書いて残しておきたいことがありました。そこで、本記事では上の日経新聞のニュース記事を中心に、事件で起こったことに説明を加えつつ、自分の過去の経験から、今後はどう対応すべきか、メモとしてまとめておこいうと思います。 

f:id:nakami_midsuki:20180421172652p:plain

 

 

2.事件の概要と本の裁断について~「九大図書館の78冊ごみに 一部裁断、電子書籍化か」(日本経済新聞ほか)~

 2-1.事件の概要について

まず、日経新聞のオンライン記事で概要を確認します。なお、引用部分につきまして、および以後は削除・変更の可能性がありますこと、どうか、ご理解下さい。

九大図書館の78冊ごみに 一部裁断、電子書籍化か
九州・沖縄 社会 2018/4/20 21:58

 九州大学伊都キャンパス(福岡市)のごみ捨て場に、大学付属図書館の蔵書78冊がごみ袋に入れて捨てられていたことが20日、同図書館への取材で分かった。大半は理科系の講義で使う教科書類。うち36冊が裁断されており、図書館側は学生が盗んだ本をばらばらにしてスキャンし、電子書籍化した可能性があるとみて調査している。

 

 ほかに約100冊の所在が分からなくなっており、学内調査終了後に警察に被害届を出すことを検討するという。

 

 図書館側によると、清掃員が3月26日にキャンパス内にある学生寮のごみ捨て場で、衣類などと一緒に袋に入った状態で見つけた。ほとんどが同キャンパスにある伊都図書館2階で貸し出されていた。いずれも盗難防止のための磁気テープがはがされており、館内から無断で持ち出すためとみられるという。

 

 裁断された36冊と付属CDが抜き取られた3冊の計39冊の被害総額は約10万700円相当。

 

 付属図書館の宮本一夫館長(60)は「学生による犯行の可能性が高い。犯罪行為だということを認識してほしい」と厳しく指摘した。

〔共同〕

九大図書館の78冊ごみに 一部裁断、電子書籍化か (写真=共同) :日本経済新聞) 

 

大筋で事件の内容は、先のTogetterまとめでツイート主の方が書いておられたことと一致していると、私はみました。まとめで、被害にあった「基幹教育のばっかり」の本は、日経新聞では「大半は理科系の講義で使う教科書類」という部分に当たると考えられます。事件の起こった九大の伊都キャンパスには、工学部、理学部、基幹教育院の部局があり(九州大学 - Wikipediaを参照)、伊都図書館で損壊され、持ち出されて廃棄された本には、これらの理系部局の教育に関する資料が中心であったと推測できます。

 

 2-2. 本の裁断と館外への持ち出しについて

被害に遭い、廃棄されていた本の状態は、各新聞の写真にもあるように、

というものだったようです。

 

以前、図書館学の授業で先生が話したことでは、多くの図書館では本の盗難防止のため、1冊1冊に磁気テープを貼っているそうです。貸し出し手続きを経ず、図書館の出入ゲートを通れば、磁気テープが反応して、ブザーが鳴るシステムとのことでした。

 

別の授業の話では、磁気テープについて教えてもらったことがあります。図書館に入る本は、事前に専門の業者が引き取り、一度、カバー、くるみ表紙を外して、背表紙を綴じられた本の「のど」側で剥がして、「のど」のところに磁気テープを縦辺に沿って貼ります。磁気テープを容易に剥がせないよう、元のように組み立て製本してから、図書館に入れるそうです。

 

そして非常に残念なことに、「自炊」の知識が手軽に得られやすくなった現在なら、比較的、どんな人でも今回の事件で本を裁断して、磁気テープを剥がしてから館外に持ち出すことは可能だと思われます。

 

今回の事件では、日経新聞のリンク先の写真にあるように、背表紙だけ見つかった本があることから、おそらく本を裁断した人物は、磁気テープが本に貼られてる位置を知ってる人だったことが窺えます。図書館学の授業で習うほか、盗難防止システムの知識は、調べようと思えば、現在はやり方次第でインターネット検索で簡単に得られると考えられます。

 

同様に、本を裁断して電子化する「自炊」の方法がhouTubeなど、動画で公開されていて、一般の方も簡単に情報を得られます。知識に加えて、ある程度、手慣れてしまえば、市販の工具や文房具や、コンパクトな機械を図書館に持ち込み、背表紙(のど)側とページ側を館内で短時間のうちに切断し、磁気テープを剥がせるのではないでしょうか。その後、盗難防止ゲートが鳴らないようにして、館外へ持ち出すことは不可能と考えられます。

 

情報技術の発達した現在では、インターネットを介すことで、所持している紙書籍の電子化の方法は、誰でも容易に調べることができ、被害に遭う本は増えていく恐れがあります。

 

 

3.今回の事件と大学の授業で使うが学術書等の教材について思うこと

九大図書館で被害にあった本の種類は、

3冊は付属のCDが抜き取られ、残る39冊はそのままの状態だった。理系の教科書や入門書が多く、英語教材もあった。
ゴミ袋から九大図書館の蔵書78冊 背表紙だけの本も(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

そうで、Togetterまとめのツイート主が言うように、「基幹教育」の授業に関わる教材であったことが分かります。更にまとめの「本がなくなった年月的に4年間かけて行われてたらしいです〜」という情報から、長い期間、計画的に行われたことであったことだと推測されます。

 

私は院生時代、学部生向けの授業のアシスタント業務をしていたことがありました。当時、学部生に近い立場にいた者としては、たとえ入門書であっても、高価で、かさ張る学術書が教材であれば、利便性が低く、使い勝手のよい媒体のものを欲しいと思う人がいることは、否めませんでした。私自身、学部の授業補助をしていた時代に、今回のようなことが起こるのではないかと、うっすら、危惧をしていたのです。

 

過去に書いた拙記事の

naka3-3dsuki.hatenablog.com

には、学部向けの授業で入門書として使われることの多い新書でさえ、かつては600円台のものが少なくなかったのに、現在では1000円台のものも珍しくなくなったことを指摘しました。より経済格差が広がった現在の日本社会においては、高くて手が出せない学生が増えているかもしれません。

 

新書を除く入門書のなかには、学術書で2000円以上の本が教科書指定されることは、今でも少なくないでしょう。情報学系の院生の同期が社会人になって教えてくれた話では、使ってたプログラミングのテキストは、分厚く、一冊3000円から、高いと7000円くらいする本もあったとのことです。私もブログの執筆で、アクセス解析やサーバーの勉強で読んでいる参考書には、3500円のものがありました。

 

自分が院生の頃、授業補助をしていた時は、 絶版になり、古本屋で高額な本を教科書に指定する先生がおられました。学部生が調達できるか、心配だったこともあります。その先生は後に、授業で使う文献はご自身の所有する学術書をコピーして配布するようになられ、テキストが手に入りづらい問題は改善されたように思いました。

 

ただし、もとの学術書が厚くて、かさ張るものだと、コピーして配るものも厚く、正直、大講義の授業準備で複写するほうは大変でした。コピー室で複写しながら、電子書籍版で授業のテキストや参考書が出て、販売すればいいのに、という一言が頭をかすめたことはあります。先のTogetterまとめには、ネット上で某村の騒動の時、「「大学の教科書高いねん。これを電子書籍で見せてくれよ」って嘆いてる学生さんいた」ことを言っていた人がいて、それは私が授業補助をしていた時に思い浮かんだことと合致していました。

 

事件の再発防止には、

とか、Togetterまとめコメントにあるように、

といった対応が考えられます。院生時代、とっていた図書館学の授業には大学図書館での業務に携わっていた先生方がおられ、その時、伝えていればと、少し後悔しております。

 

現状、不便であっても、本が買えなくても、今回のように、公共の知的財産である図書館の本を刻むのは「器物破損」に当たるそうで、かつ盗み出すことは、犯罪です。決して、やってはならない行いです。一方で、今回、実際に事件になったことをみて、先の学生ような人たちが一定数いたとすれば、電子データを取り引きする「闇の場所」が発生している可能性は十分あり、一刻も早く、関係者は対処すべきでしょう。某村の騒動を踏まえて、電子版は無料にはせず適性な価格で販売し、決して無料にはしないことを書き添えさせて頂きます。

 

 

4.最後に

九州大学側は学内で調査をした後、警察に被害届を出すと報道されています。ですが、現時点で判明しているだけでも、できるだけ早く、被害状況をまとめて、届け出たほうが新しい被害を出さないためにも適切だと私は考えました。

 

なお、今回の被害状況から、大学側は学生がやった可能性が高いと、にらんでいるようです。現段階で、報道を調べた限り、どんな人物が「犯人」であるかは、私には判断できません。言えることは、外部の人物の犯行があった可能性も否定できない、ということです。昨今の大学図書館は、外部の人物が入ろうとすれば、すんなりと入れる機会もあるには、あるのです。例えば、オープンキャンパスの図書館見学会や、地域貢献に力を入れているところは、学外の人たちが申請書を書いて許可されたり、入館カードを発行されたりしていれば、その大学に所属していない人であっても、入館だけできるようにしています。

 

今回のような事件を根本的に防ぐには、現段階で、学生たちに手の届く価格やシステムを採用し、使い勝手のよい媒体やスタイルのテキストや入門書を提供する、柔軟な対応が社会的に求められていると考えられます。適正価格を設定した上で、有料で教材の電子版の提供を進めつつ、セキュリティシステムの強化をしていくべきでしょう。

 

このあたり、日本全体の大学等の研究教育機関や図書館・出版業界で、協力して取り組まなければ、闇の取り引き場所は静かに広がっていき、被害が増えていく危険があり得ます。広がり方よっては、業界全体の衰退や、図書館の利用しにくさを上げざるを得ず、教育や研究の分野に悪い影響を与えかねない事態になりそうです。

 

九州大学は特定の人たちを犯人だと先入観を持たず、報告をまとめて、警察に被害届を出すべきでしょう。日本の図書館のためにも、九州大学、更には関係する業界の方々には迅速に動いて頂くことを申し上げて、本記事を終わりに致します。

 

おしまい。

 

 

5.('18.4.26_1845続報)「九州大学図書館から本盗んだ疑い 大学院生逮捕」(NHKニュース)

 

九州大学図書館から本盗んだ疑い 大学院生逮捕

4月25日 14時08分

 

九州大学の図書館から本を盗んだとして24歳の大学院生が逮捕されました。九州大学では図書館の専門書などおよそ80冊が捨てられているのが見つかり、一部は電子データ化された可能性もあるということで、警察は関連についても調べることにしています。

 

逮捕されたのは福岡県糸島市前原中央の九州大学大学院生、大高史寛容疑者(24)です。

 

警察の調べによりますと、大高容疑者は4年前からことし2月ごろまでの間に、福岡市西区にある九州大学付属図書館から本2冊を盗んだ疑いが持たれています。


24日夕方、大学から被害届が出され、警察が本の内容などを基に捜査を進め事情を聴いたところ、盗んだことを認めたということです。

 

九州大学によりますと、先月、図書館の専門書など78冊が同じキャンパスにある学生寮のごみ置き場に捨てられ、このうち36冊は背表紙だけの状態で見つかっていました。

 

何者かがページを機械で読み取って電子データにしていた可能性もあるということです。

 

警察は本を盗んだ動機などを調べるとともに、捨てられていた本との関連についても捜査することにしています。

 

学長「学生への倫理教育を徹底」


九州大学の久保千春学長は「大変遺憾であり、関係者の皆様に深くおわび申し上げます。このようなことが再度起こらないよう学生に対する倫理教育を一層徹底してまいります」というコメントを出しました。

 

九州大学附属図書館の宮本一夫館長は「本学の学生が逮捕されたことに非常に衝撃を受けています。勉学を志す者として、あってはならないもので、この事態を大変重く受け止め、図書館活用の重要性を学生に認識させるとともに対策を強化してまいります」とコメントしています。

(後略)

 (九州大学図書館から本盗んだ疑い 大学院生逮捕 | NHKニュース

 

利便性とコンパクト化にも、動いて欲しいと思います。教育を徹底しても、限界はあるでしょう。宮本一夫先生、中国の先秦史や考古学をされていても、デジタルデータの重要性、分からないでしょうか。

 

 

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