仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

第六回 #文フリ大阪 の作品書評~宮田秩早『Et mourir de plaisir #吸血鬼 たちの夜の物語集』を読む~

1.はしがき

9月9日に開催された第六回文フリ大阪。そこで買った作品を読んで、批評を書いていこう!というのが、このシリーズ記事です。本日、書評する作品は、サークル「バイロン本社」さんで購入しました、こちらの本↓

 

宮田秩早『Et mourir de plaisir エ・ムリール・デ・プレジール 吸血鬼たちの夜の物語集』バイロン本社、2018年

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キョンシー映画などの作品に関する「ふんわり」した話~それと論考集や吸血鬼の関連作品も少し【'18.9.24、00:27に注釈追記】~ 」に引き続き、ハロウィンを1カ月後に控えているということで、こちらの作品を選んでみました。それでは、行ってみよう!

 

繰り返しますが、ネタバレにご注意ください。

 

 

2.『Et mourir de plaisir 吸血鬼たちの夜の物語集』を読む

18世紀のヨーロッパで、母子で何者からか逃れるように、旅に旅を重ねる第壱話「血族」から、本書は始まります。追っ手によって母親が捕まり、住んでいた館からの出発を経て、最後で「二度目の大戦争」が終わった時点にその子の語りが追いつく過程で、徐々に明らかになっていきます。50年ほどかけて成長した肉体は、30歳を迎える頃に老いをやめ、その身は夜に馴染むようになりました。

 

第弐話「黒い海、祈りの声」以降は、17世紀のオスマン帝国軍が戦いで絡んだアゾフ要塞から、現代のスマフォが出てくるルーマニアの首都ブカレスト。さらに異世界までが舞台となっていきます。本書は、長き時を生きる吸血鬼たちと、彼らに関わりをもった人間たち、神とその従者との連続する「つかの間」を綴った物語集です。

 

異世界ファンタジーである第参話を除くと、第壱話から最終話までは、現実世界を背景にした連作になっており、「血族」の語り部である男性が一応、共通する人物として「幕間の物語」、「終幕の物語」でも話し手をつとめている模様。第弐話、第翅話は彼に関わりを持つ人物達がメインとなるストーリー展開となっています。同一人物らしき吸血鬼の放浪、あるいは彼らの関係者が各話に登場し、最終話を読み終えると、1冊の中で、ひとつの大きな物語として成立している構成だと判明する作りになっていました。

 

第参話は他の連作と違って、少し長めとなっています。始まりは、ある国の種族「祈族」の高貴な血筋に生まれたものの力が弱かった主人公が、魔法を使えない側の種族を思って、建設業に携わっていたところ、太古の時代に関わりを持つ存在と邂逅したところから、語られます。物語の鍵となるのが、主要人物の性別であり、後半に近づくにつれて大きな意味をもっていくことが分かりました。どんでん返しまではいきませんが、なかなか、ストーリー展開として利いた感じです。出てくる人物は吸血鬼というより、血液を摂取して生きる種族といったイメージ。第参話単体で、完結した作品として楽しめますが、実は他の現実世界が舞台の連作群と繋がっているんですよね。

 

話を戻します。連作全体の物語は、小アジア半島や黒海より西のユーラシア各地となっていて、ざっくり「東・中央ヨーロッパ」という感じでした。出てくる地名は、ミュンヘンブカレストあたりは、中高校レベルの社会科の知識で、パッと、ヨーロッパのどのあたりという位置のイメージをできるでしょう。一方、アゾフ要塞は少しマニアックかもしれなくて、私はネットで検索しました。そういったことを調べながら、読み進めるのも、一興かと思います。

 

表紙のイメージでは、10代後半より年齢が上の女性読者が対象の小説という雰囲気。具体的なレーベルだと、『十二国記』が出ていた頃の「講談社X文庫ホワイトハート」(伝奇やファンタジーのジャンル)に入ってそうです。連作群は、現実世界の長い時間と空間が背景にあることや、どこか艶やかで、耽美な雰囲気を本書はもっているように思います。

 

無理やり、私がイメージの近いものを挙げるとするなら、既存のメディア作品シリーズの『BLOOD+』あたりでしょうか?壱話から登場する男性の性格、第翅話の人間にして四十の吸血鬼の外見は、それぞれ、アニメ版のハジを思い浮かべながら、読んでいました。それから、人間世界の戦争を所々にはさんでいるところも、登場人物たちの背負うことになる心の闇を生み出し、『BLOOD+』と重なってくるように感じました。第弐話の穀物商の家の末っ子が戦争を経て直面した「運命」は、シュヴァリエたちの姿が見えるような、苦しい重さをまとうようです。

(執筆された方の中のイメージは、たぶん、だいぶ違うと思いますが...)

 

本書の最終話は、それまでの艶やかで、耽美的な雰囲気をまとったまま、楽器を鳴らし、踊る祭りのような展開があって、終幕となります。

 

本文は全132ページ。私は一気読みにせず、少しずつ、味わうように読み進めました。連作物語集を先に通して読んでもよし。第参話の異世界ファンタジーを先に読み通して、一休みしてから、連作物語集にいっても、よし。いろいろな読み方のできる、素敵な一冊です。

 

 

3.最後に

ところで、本書のタイトルは吸血鬼映画の『血とバラ』の原題だそうです。ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの小説『カーミラ』をもとにし、18世紀のイタリアを舞台にした映画のようです。が、残念なことにイタリア語、フランス語、手に入ってドイツ語の映像媒体しかないようです。英語版はあっても、珍しいようで...。

 

使われた参考文献は、奥付に掲載されており、次のとおり。どちらも学術書と思われます。

 

 

実は「キョンシー映画などの作品に関する「ふんわり」した話~それと論考集や吸血鬼の関連作品も少し【'18.9.24、00:27に注釈追記】~」を書いた後、人間はどうしたら吸血鬼になるのか、いろいろと著者の宮田秩早さんにTwitterで教えて頂き、大変、勉強になりました。本書の舞台となっているユーラシア地域は、宗教面でも人集団でも、モザイク状のレイヤーが地層のように長い時に沿って重なっているような場所。そういったことが、専門書をお読みになり、その知識をしっかりした土台にして作品を書かれたのでしょう。歴史的な事実と、そこに生きてきた人たちが語り継いできた物語は、深さと重みを各作品に与えています。時間ができたら、教えて頂いた文献を調べに行って、上記の文献と合わせて、読んでみたいと思っています。

 

さて、最後に少しお知らせです。

 

吸血鬼ひとすじ!なサークル「バイロン本社」さんでは、小説をはじめ、同ジャンルの映画評論をお出しになっています。来月10月7日の文学系即売会「尼崎文学だらけ」に、ご出展をされるそうです。もし、ご都合が合うようでしたら、本書も手に取ってみられてはいかがでしょうか:

尼崎文学だらけの「バイロン本社」

 

行けない!という方には、BOOTH通販もあるそうです:

takoyakiitigo.booth.pm 

 

という感じで、『Et mourir de plaisir 吸血鬼たちの夜の物語集』の書評、おしまいです。

 

 

<第六回文学フリマ大阪の書評シリーズ>

naka3-3dsuki.hatenablog.com

gray-naka3-3dsuki.hatenablog.jp

 

 

<テーマの近い仲見研の本>

特集は「中東の近現代史を知る」となっています。 後半の『村田エフェンディ滞土録』についての講談録では、近代のオスマン帝国領域の複雑な人集団の背景、宗教的な部分などについても、少し触れています。

note.mu

今月末の関西コミティア53ほか、弊サークルの出展スペース、BOOTH通販(2018年10月2日ごろ受注再開予定)で取り扱っております。

 

 

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