NHKラジオドラマ『 #暁のハルモニア 』で聴く欧州の三十年戦争~それから #並木陽 の歴史小説の紹介~
<耳で聞くドラマと学術研究の形>
1.NHKラジオドラマ『暁のハルモニア』を聴く~欧州の三十年戦争~
1-1.はじめに
今週前半は、 Togetterの「若手には過酷な論文集の出版事情~日本の学術出版のシステムとその問題~」の作成、関連ブログ記事を書き、液晶画面を眺め、目が非常に疲れていました。以前からPCやスマホで目疲れがあり、眠る間際に朗読作品を聞いていたこともあり、オーディオドラマを聞きたいと思っていました。
それで、学術出版の件が一段落した後、前から気になっていたラジオ作品を少しずつ、聞いていました。その作品はこちらです:
(聴き逃し | NHKラジオ らじる★らじるの配信あり)
作者は、西洋史を題材に歴史小説を書かれている、並木陽さん。NHK-FMで今年の8月末より、1回あたり15分、全10回の「青春アドベンチャー」枠で放送のラジオドラマです。実は、同じ枠のラジオドラマで並木さん原作の『斜陽の国のルスダン』を(聞き逃し分も含めて)放送のことをだいぶ経ってから知り、今回は絶対、逃さないぞ!と思って、聞き始めました。以下、少し内容紹介をいたします。ネタバレは自己責任でお願いしますね。
1-2.作品の主な内容
作品の舞台は、1600年代の宗教的な対立に、各地の王侯貴族たちの争いが絡んだ「三十年戦争」のヨーロッパ。天文学者である父親の死の真相を調べていた、プロテスタントの青年ヨアヒムは、父と関わりのあった天文学者ケプラー(おそらく画像左の人物)を探す途中、幼馴染でカトリック司祭の青年イザークと再会します。旅の途上、2人は、ケプラーの唱える思想を「危険」とし、彼を追うカトリック一派の手先ガブリエラと遭遇し、彼女をまきました。直後、追っ手から逃れるケプラー本人と出会います。3人は学問の話に花を咲かせながらも、ヨアヒムは父親が病死であったことを天文学者から聞きました。気候のためか、身体を病み、死期を悟ったケプラーは自身の研究成果の暗号が記された記録をヨアヒムに託し、息を引き取ります。
同じ頃、イザークは(オーストリア)皇帝の宮廷にいる伯父に連絡を受け、解任をされていた傭兵出身の元司令官ヴァレンシュタイン公のもとに出発。ケプラーを看取ったヨアヒムは、次の目的地に向かうところで助けた貴族の方伯とその夫人アマ―リエ・エリザベートに世話になり、その城にしばらく滞在します。アマ―リエに惹かれながらも、ヨアヒムは目的地に向かう途中、ケプラーを追っていたガブリエラたちにつかまり、妖術師の疑いで裁判にかけられてしまいました。
一時は弁護人として現れたイザークに助けられるも、再度の捕縛と拷問を受け、縛られて河にしずめられてしまいました。一方、イザークはヴァレンシュタイン公に気に入られ、従軍司祭として司令官に復帰した帝国軍に付き添います。ヨアヒムは河から引き上げられ、スウェーデン軍に救助され、治療を受けました。意識を取り戻したヨアヒムの傍らには、戦場で保護して助手にした少年ルディと、スウェーデンの宰相オクセンシェルナ伯爵、そして「北欧の獅子」とも呼ばれた国王グスタフ2世アドルフががたたずみ、彼の回復を喜びます。医師でもあったヨアヒムは、しばらくスウェーデン側に滞在することになり、いずれは国王の娘で幼い王女クリスティーナの教師として本国に渡ることを要請されました。スウェーデン側にとって敵に当たる、帝国軍では「北欧の獅子」を倒す戦略を練りながら、野心を燃やすヴァレンシュタイン公と、傍らに控えるイザークの姿がありました。
敵味方に分かれた幼馴染のヨアヒムとイザーク、ケプラーの託した暗号の暗号の謎は、どうなるのか?
ここまでで、区切りがよいため、内容紹介を終わりにします。私の聴いたのは、少し先の第8回ですが、話の展開が「三十年戦争」らしく複雑になっていきますので、気になる方は続きをお聞きください(最終回は放送済みで、聴き逃し配信中)。
1-3.作品に関するコメント
拝読した並木さんの『斜陽の国のルスダン』に比べると、ストーリーの展開にメリハリがあって、聴きごたえのあるドラマ作品でした。ルスダンの小説が中世グルジアなのに対し、『暁のハルモニア』のほうは、
といった前知識が、私にはそろっていたこともあるのか、すっと話に入っていきやすかったことも、楽しめる方向に大きく作用した気がします。ヨアヒムとイザークを除き、主要人物のヴァレンシュタイン公やグスタフ2世アドルフあたりは、高校の世界史Bにも太字か、それに準じる扱いで教科書や資料集に出てきたと思います。これ、世界史の勉強にもなる作品で、高校生におすすめしたい!
一方で、方伯とか、ティコ・ブライエとか、聞いたことのない爵位や人物名が出てきて、戸惑うシーンもありました。
まず、方伯は現在のドイツあたりの貴族が持つ称号です。当時、欧州に広がる宗教改革後の世界では、それぞれの貴族や領主がプロテスタント、カトリックに分かれて、利益が絡む中、勢力同士で戦っているとはいえ、作品の後半では、戦局の変化もあって同名が瓦解していく様は、非常にリアルでした。フランスなんて、カトリック教国なのに、スウェーデン側につくし、クリスティーナ王女は女王に即位後、ヨアヒムとの会話で、後年のカトリックに改宗する兆しがセリフに出ていたしなぁ…。ちなみに、ある領邦の方伯アマ―リエは、実在する人物のようです。
ティコ・ブライエ(おそらく画像右の人物)は、実在したデンマークの天文学者で、助手ポジションであったケプラーの研究が花開く土壌を作った人として、Wikipediaに紹介されていました(ティコ・ブラーエ - Wikipedia)。ラジオドラマ内では、ブライエが手をつけた女中がいて、その女性がヨアヒムの母親だという設定のようです。序盤の山場は、ヨアヒムは自分が庶子とはいえ、母から聞いた父親の死に疑問を抱き、真相を知りたいと、死期の迫ったケプラーに問うシーンです。そこで、ケプラーは自分がブライエに対して複雑なものを心の内に持っていたことと、ブライエは病気で亡くなったことを伝えた上で、息を引き取ります。ここらへんのケプラーの思いは、「ヨハネス・ケプラー - Wikipedia」を読むと、プラハで皇帝抱えの学者をしていたブライエに雇われた際の肩書を「自分は共同研究者で、助手ではない」と言っていたあたりに表れているようで、面白かったです。
学術研究の面から本作を見ると、 当時の学者は現代のように分野の細分化がおこるまえの世界にいたせいか、天文学や数学、化学、更には占星術といった存在が非常に近く、それでお抱え研究者になったり、王侯貴族の家庭教師ができるのは分かります。その一方で、ヨアヒムが医術まで心得、それで方伯のもとに滞在し、スウェーデン軍に雇われるとこまでいくとは、然るべき学校や大学で学んだとはいえ、すごいな、と。
歴史学のほうでみると、近世の傭兵がどういう形で戦争に関わっていたのか、報酬に何をどんな形で望んでいたのか、少し窺えるように思います。ヴァレンシュタイン公のように、元は小貴族だったけど、傭兵隊長から戦争でのし上がり、一時的に公爵位を手に入れるところまで行けること他の傭兵にもあった。そうであれば、まったく状況は違うでしょうけれど、例えば、少し時代が重なるところのある、日本の安土桃山時代の足軽とその役割や出世と比較すると、また面白いことが分かってくるかもしれません。
演者の方々については、ヨアヒムとイザークの声はハリがあって、ハスキーな青年の声で、聞きほれそうになりました。アマ―リエ役の方、ヴァレンシュタイン公やオクセンシェルナ伯爵といった役には、舞台やミュージカルの方面でご活躍の俳優が配役され、声と音だけで展開される演劇独特の魅力を感じました。非常に聴きごたえの作品で、私が普段よく見ているアニメとは違った楽しさを知りました。
残り2回ほど、これから拝聴する予定です。
2.作者・並木陽の歴史小説のこと
さて、ここからは作者の他の歴史小説を少し、紹介いたします。並木さんはラジオドラマ以外には、主に西洋史に取材した歴史小説を執筆されています。販売は、主に文章系同人誌即売会、一部の作品はアマゾン等のオンライン書店で取扱いがあるとのこと。居になるものをピックアップ!
<アマゾンでの取扱い作品>
●ノーサンブリア物語
7世紀のイギリス。群雄割拠のブリテン島で、国を滅ぼされた王女アクハは敵国の王妃となり、国を追われた王子のエドウィンは再興を思って諸国をめぐる旅に出る。いわゆる「アングロ・サクソン七王国」の時代を描いた作品であり、アルフレッド大王くらしか知らない私には、読んでみたいシリーズ。アーサー王伝説や「ローランの歌」にも、登場する地名が章見出しに見えます。上巻のアマゾン在庫、復活してほしい!
●斜陽の国のルスダン
イスラーム世界と接する、キリスト教の東方正教の一国で、南カフカスにあるグルジア。母のタマル女王の御代に絶頂期を迎えた後、モンゴルの侵略に斃れた兄王を継いで、即位したルスダン女王は、懸命に立ち向かってゆく。幼馴染のディミトリスの平穏な関係は、結婚で彼を夫にしたことで難しくし、新たに出現した敵との交戦は、一枚岩でない諸将の人間関係で崩れ、首都陥落を迎える。スピーディーな展開は、さらっと読めるも、そこには、もの悲しさが刻まれています。こちらでレビューをしました。
アマゾン在庫、復活して!
並木さんは「茎韮の花」を寄稿。執筆対象は珍しい日本に材をとったもの。
<明日9日の第六回文学フリマ大阪で委託頒布される本2種>
アマゾンでの頒布がなく、なかなか私は買えませんでしたが、明日の文フリ大阪で委託頒布されるということです!タイトルリンク先に、並木さんのサークルWEカタログ、サムネイルのほうが文フリ大阪の委託先サークル・バイロン本社さんのカタログになっています。私は頑張って買いたい!
10世紀の東フランク王国の庶子ヴィルヘルムの生涯と母より聞きし東方の物語、19世紀のバイエルン選帝侯女アウグステをめぐるナポレオンの継子に嫁ぐ運命の縁談—。様々な時代から選ばれた作品の歴史短編集。
②青い幻燈
19世紀のパリはラテン区で暮らす、画家の卵や、お針子たち、「芸術家」たちの群像物語。「永遠の孤独と引き替えに芸術家の魂の充足を約束しようという謎の紳士」の存在は、私も気になるところです。
<アリスブックスでの取扱い作品>
●竜と人のアンソロジー:心にいつも竜を
並木さんの寄稿作は「暗黒竜フェルニゲシュ」。ハンガリー民話をもとにした、竜と人との愛憎劇だそうです。特設サイト「心にいつも竜を(ここドラ) - えすたし庵(主催)」。
3.最後に
ラジオドラマの批評と紹介、作者の他の気になる作品は、上記で全部です。いかがでしたでしょうか。
欧州のあちこち、いつの時代をも書かれていますが、書くための資料はどこで、どういったものを用いられているのか、ちょっと興味のあるところではあります。機会があれば、ご本人にお会いして、いろいろと質問したいな、と思ったところで、おしまい!
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