仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

日本の研究職雇用の諸問題と法をめぐる話~着任予定者の内定取り消しに関するtogetterまとめを振り返る~

<今回の内容>

1.はじめに

本記事は、先月末に起こった「着任予定者の内定取り消し案件」について、概要を告知した下の記事より詳しく、振り返ることを目的としております。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

本記事では、振り返りによって、日本の研究職雇用の問題を明らかにし、改善する契機となることを目指します。それでは、内定取り消しの話題に移りましょう。

 

 f:id:nakami_midsuki:20170329190215j:plain

 

 

2.着任予定者の内定取り消し問題~2つのtogetterまとめより~

 2-1.「着任予定者の内定取り消し案件」の概要

すべての始まりは、Twitterに大学教員のMiyakawa先生が、日本の大学の教育・研究職について、着任経験のあるTwitterユーザーに対し、着任日までに機関長から正式な採用内定通知を受けたか、受けなかったらメールや電話で通知はあったのか、という内容の質問をアンケートでされたことでした。

 

アンケートの質問内容と選択肢、および結果、アンケートの動機につきましては、次のtogetterまとめ①の最初のページにまとめらています。

 

まとめ①

togetter.com

 

まとめ①のアンケートがとられた経緯のあらましを書きますと、次のとおりです。

27~28日、この春からある大学の常勤職に着任する予定の方が、内定取り消しに遭ってしまい、法的な手段に出るため、相談した先の別大学の先生(Miyakawa先生)がされたアンケートのツイートが、問題提起となりました。

(【告知】派生記事追加:togetterまとめ「若手研究者の日本のアカポス採用の現状に関する問題」 - 仲見満月の研究室)

Miyakawa先生によりますと、

というご事情が相談者の方からされていたそうです。

 

内定通知書の有無、あるいは着任予定先だった大学の送付メールや研究室の鍵の受け渡しなどは、実質、雇用の意図がある証拠になるのか?日本の大学のシステムや慣習上、それらはどうなっているのか?尋ねられたところ、Twitter上で数百件単位で、反応がありました。そういった声が、まとめ①になり、私のツイートも一部、入っております。

 

まとめ①に集まったメールが膨大で、すべて追い切れていません。ただ、言えることは、内定通知書、あるいはそれに相当すると思われる書類を出す研究機関があるところ、ないところ、着任予定者の要求があれば出すところ、と様々なようです。とびとびで読んだところ、内定通知書を採用予定者に送った後、内諾書を送ってもらう機関もあるようです。

 

本ブログで度々、言ってきましたように、昨今の大学・大学院ほか研究機関は国公立私立と、国からもらえるお金が減って来ています。そういうわけで、

仲見満月@経歴「真っ白」博士 (@naka3_3dsuki)

引用したKimura先生のツイートのように、予定のポストが消滅、あるいは大学の上層役員の決定で覆ることは、他にも聞いたとがありました。これは何も大学だけでなく、業績悪化の東芝等の一般企業も同じかと。https://t.co/HVJgofbHoz

というように、採用先である研究機関の都合次第で内定取り消しなんて、 簡単に起こっています。

 

実際に、私の先輩が新設予定の学科の常勤職に採用された先輩が、採用先の法人が財政難となったことで先輩の着任予定の学科の新設の話が消え、内定取り消しに遭ったことがありました。その時の詳細な話、および内定取り消しをされ、今まで若手研究者は泣き寝入りするしかなかった、という事情は、次のまとめ②に書きました↓

 

まとめ② 

togetter.com

 

 2-2.大学・大学院等における内定通知とその周辺の仕組み

実は、まとめ①に含まれる私のツイート、他のツイート者の方々が言っておられるとおり、内定した人は採用先の大学等から「こちらが許可を出すまで、ご家族や親族にも内定の話をしないで下さい」と言われることがあります。

何で採用予定先が許可するまで、内定者は口外してはならないのか、という事情については、研究職=アカデミックポストに落ち続け、「アカポスを逃しが亡霊」を自称する私には明確には分かりません。この段階では、口約束ということになるそうで、証拠がないと、内定成立と見なすのは法的に難しいようです*1

 

ただ、私が引用ツイートさせて頂いたnext49さんのツイートのように、一般の企業は雇用契約書を内定者に渡すのが一般的だけど、公務員は雇用契約書が送られず、辞令が交付されるというシステムになっているようです*2

どうやら、国立大学は公務員のこうした内定に関するシステムの延長線上にあると、next49さんのご指摘どおりだと、考えられます。

 

なお、大学ごとの内定通知書や雇用契約書あたりのシステムについて、next49さんが情報を集め、発信される活動をされておられます。こういった活動は、文科省の取り組みまで行っていないので、ご協力して頂けたら、私も助かります。よろしくお願い致します。

 (訂正:×百貨→百科)

 

また、各大学での研究職の採用決定のシステムについては、まとめ①のほうで詳しい情報が多数、挙がっています。ご参照ください*3

 

 2-3.内定取り消しには然るべき手段を取ることで現状が変わる

ところで、小耳にはさむところでは、内定者が採用先の許可なく口外してしまい、それが発覚すると、内定を取り消される事態があるらしいです。それは、教授や准教授といったポストから、ポスドクまで、です。

上のツイートで言ったように、内定者にも家族がおり、配偶者の方の仕事はどうするのか、内定者だけ単身赴任にするのか、子どもは内定者と配偶者のどちらと一緒に暮らすのか。あるいは、家族で一緒に引っ越すなら、配偶者の転職や子どもの転校の問題も出てきます。引っ越し先の物件を探して契約するほか、今まで配偶者がいた職場、子どもの学校のそれぞれの人たちとのお別れ、事務手続き等、必要になってきます。それ故、採用先の許可を待っていた場合、内定者だけでなく、その家族の生活に大きな問題が起こる恐れがあります。

 

加えて、研究機関の財政難や上層部の決定等の採用側の様々な都合により、今回の「着任予定者の内定取り消し案件」のような、着任直前の内定取り消しが起こることがあります。先に挙げた内定者の家族の話を例に挙げれば、内定者の勤務先に合わせて、家族は新しい職場、新しい学校を決めて手続きや挨拶を済ませ、新生活に向けて準備万端なところに、内定取り消しとなる。

 

内定取り消しになった場合、内定者は着任先で受けるはずであった雇用上の待遇や給与を失うだけでなく、その家族の生活にまで大きな損失が出ると考えられます。

 

「着任予定者の内定取り消し案件」では、この案件がTwitter上で議論された時点で、取り消し寸前状態であった方が、労働問題が専門の弁護士に相談され、法的な手段をとられ、きちんと雇用されるよう、動かれるようです。 たとえ口約束であったとしても、内定先から着任予定の部屋の鍵をもらう等、物的証拠はあるため、まとめ①のコメントによれば、弁護士が動けるだろう、とのことです。

 

今までの日本の研究業界、特に大学・大学院等の研究機関は、まとめ②のツイートのとおり、「日本の研究業界って大学は特に、人脈が物を言う特殊な世界」であり、時に法律を捻じ曲げてしまう人も、残念ですが、おります。大学の自治を守る、という言葉がありますが、それは日本の法律内の話です。大学は治外法権の場所ではありません。まとめ①のコメントにもありましたが、被雇用者側は、地裁・高裁・最高裁での裁判を受ける権利があります。加えて、採用側が内定通知を示す物的証拠があり、それが法廷で認められれば、勝訴できるらしいとのこと。

 

加えて、まとめ①のコメントを追っていたところ、河野太郎議員にMiyakawa先生が今回の案件についてデータをまとめてご連絡をされたようです。その後、直接、河野議員から返事があったそうで、文科省に話をするという動きがありました。

 

今回の案件の内定取り消しされた方は、おそらく、法的に動けるだけの判断ができる方なのでしょう。それに対し、若手研究者は、まとめ②のツイートで言ったように、立場が弱く、内定取り消しに遭うと泣き寝入りするしか、実質、ありませんでした。まず、経済的に裁判ができる余裕がなく、裁判をしている時間とお金があれば、少しでも研究業績を積み、新しい内定を取れるように行動したい、という人が多くても不思議ではなりません。法的に訴えたとしても、

という恐れがありました。まとめ②のコメントでご指摘頂いたように、今後のキャリアを考え、泣き寝入りすることは、内定取り消しという不法行為を黙認することとなり、泣き寝入りと黙認をしないとしょうない、という考えをする人がいる限り、内定取り消しはなくなりません。

 

今回の案件では、自身の受けるデメリットがあるとしても、内定取り消しに法的な手段をとって雇用してもらえるように動かれている方、その方から相談をされアンケートと実例の情報を集めらる等して動かれたMiyakawa先生。Miyakawa先生のツイートに応じる形で、リプライや情報を提供し、議論をされたTwitterユーザーの皆さん。まとめ①・まとめ②のコメント者の方々。動いた人たちの行動は、泣き寝入りするしかなかった若手にとては、非常に有り難い変化です。

 

内定取り消しに対し、然るべき手段をとることで、若手が「この内定取り消しはおかしいです!」と声を出しやすくなったという意味で、大きな意味があります。私は、

 

研究職の内定取り消しに対する今回の新しい動きは、小さなものかもしれません。ですが、現状に対して、おかしいと考えていた人たちが声を出し、現状を変えていくうねりとして、特に若手研究者にとっては、その一人として私はよい方向に捉えています。

 

 

3.まとめ

研究職の内定取り消しに関する今回の案件とtogetterまとめを含む動きを通じて、私はこの動きがもっと大きくなり、アカデミック・ポストの雇用について、次のように変化することを望んでおります。まとめ②と重なりますが、その中のツイートを取り上げて、本記事を閉めさせて頂きます。

*1:まとめ①の中のこのページ内のツイート参照:https://togetter.com/li/1094951?page=3

*2:https://twitter.com/next49/status/846388056902946817を元に情報を整理

*3:出版されている本で、大学教員の採用・人事に関するものとして、次のものがあります:

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