「法科大学院問題」を考える~「法科大学院、半数が撤退 立教も青学も…合格率低迷で拍車」(日本経済新聞)~
<今回の内容>
1.はじめに
弊ブログでは、主に文系の研究大学院のことを中心に扱ってきました。今回は、専門職大学院の一つとしても数えられることがあり、「弁護士あまり」の問題とも密接な関係のある、ロースクールこと法科大学院の半数が撤退したという次のニュースを取り上げます:
この日経新聞のオンライン記事を通じて、法科大学院の問題を考えてみようと思います。
2.「法科大学院、半数が撤退 立教も青学も…合格率低迷で拍車 甘い目算、乱立で質低下 」(日本経済新聞)
2-1.導入部
さっそく、新聞の内容を見ていきましょう。長いですので、途中で適度に引用文を切っては、コメントをしていきますね。まずは、ニュースの概要が書いてある冒頭を読みましょう。
法科大学院、半数が撤退
立教も青学も…合格率低迷で拍車 甘い目算、乱立で質低下2017/8/31付日本経済新聞 朝刊
法科大学院の撤退が相次いでいる。来年度に学生を募集する大学院はピーク時のほぼ半数の39校に減った。乱立が教育機能の低下を招き、司法試験合格率は低迷。政府の「法曹需要が増える」との見通しも外れた。大学院を出ても試験に合格できない、合格しても事務所への就職が厳しい――。それが志願者の減少に拍車を掛けている。
「まだ多い。次はどこが募集をやめるのか」(首都圏の法科大学院教授)。2018年度に学生を募集する39校のうち、7校は17年度の入学者が10人以下、10校は定員充足率が5割未満だった。
募集停止は首都圏の有名私大にも波及。今年に入り、立教大と青山学院大が不採算などを理由に18年度からの募集停止を発表した。両校の入学者は10人台、司法試験の合格率は1桁台。立教大の吉岡知哉総長は「いったん志願者が集まらなくなると、立て直しようがなかった」と悔やむ。
一時期、ローカルニュースを読むたびに、 「〇〇大学、法科大学院の募集定員停止」という報道を耳にしたことがありました。オンライン記事では、「来年度に学生を募集する大学院はピーク時のほぼ半数の39校に減った」とありますから、最高の時は、80校ほど全国に法科大学院があったとのではないでしょうか。
次の本によると、例えば大学という業界は、けっこう横並び意識の強いところがあるそうです:
文学部がなくなる日[Kindle版]
つまり、法科大学院を隣の大学法人が設置したら、うちの法人でも法科大学院を設置しましょう!と経営陣が言い出し、同じことが日本全国で起こってしまった。そういうことが法科大学院の乱立の下人として、考えられます。報道では、その乱立が教育の質低下を招き、「司法試験合格率は低迷」。
首都圏の実例を見てみましょう。
募集停止は首都圏の有名私大にも波及。今年に入り、立教大と青山学院大が不採算などを理由に18年度からの募集停止を発表した。両校の入学者は10人台、司法試験の合格率は1桁台。立教大の吉岡知哉総長は「いったん志願者が集まらなくなると、立て直しようがなかった」と悔やむ。
立教と青学の司法試験の合格率は1桁台というのは、経営陣としては、まったく
予想していなかったのでしょうか。
2-2.「予備試験が近道」
余談ですが、学部時代の先輩には、地方国立大学の法科大学院に通って修了後、法務博士の資格を取得、修了後に2度、新司法試験に落ちた方がいました。その方によると、「法科大学院を修了すると、5年の以内にに3回だけ新司法試験の受験ができる」そうで、次の年に司法試験に合格できないと、「法務博士くずれのニート」と自嘲していました。その人は、3年目には国家公務員の採用試験の講座に通い、法科大学院で学んだこととの相乗効果もあったのか、今は官僚をやっておられるそうです。
この先輩の話を思い出して、そもそも、法科大学院とは司法試験の受験者向けの専門職大学院ではなかったのかな?とか、法科大学院に行くのが、司法試験の受験資格を得る正規ルートだと私は認識しておりました。さて、実際はどうだったのでしょうか。
予備試験が近道
「身近で使いやすい司法」を目指す司法改革の目玉として法科大学院は04年度から始まった。試験対策に偏らない内容で、社会人や法学部以外の出身者も対象にした。
しかし、乱立が教育機能の低下を招く。当初は20校程度と見積もられた法科大学院は、ピーク時は74校に上った。文部科学省のある職員は「大学側には法科大学院がないと三流大学扱いされてしまうとの思惑が強かった」と振り返る。
「責任を持って教育しようという意識が希薄」「改善が必要との意識が欠如」。文科省が法科大学院を審査した報告書には厳しい言葉が並んでいる。既に募集を停止した法科大学院を修了した男性は「授業で関係のない話を延々とする教授や進級すら危ない学生も多く、モチベーション維持に苦労した」と話す。
当初は70~80%と見込んだ法科大学院の司法試験の合格率は20%台と低迷している。国立大で約80万円、私立大で100万円以上という高額の学費を2年以上払ってまで通う「うまみ」は薄れ、法科大学院離れが進んだ。
ハッキリと、「 文部科学省のある職員は「大学側には法科大学院がないと三流大学扱いされてしまうとの思惑が強かった」」は言い切っています。これは、2-1で書いたように、大学業界は、法人の経営陣が横並びで隣を気にするところがあり、「右にならえ」という業界のクセがよく表れている一言だと思いました。
そういった外側だけを重視して設立された法科大学院は、中身が散々なことになっても、不思議ではありません。上記のような経済的に、高額な学費を払ってまで、劣化した法科大学院に通うメリットがなくて受験者が減り、結果、法科大学院が全国的に減っていったのは当然のことでしょう。
そうば言っても、私の友人で法科大学院を経て、修了して2年目ですが、司法試験に合格して、今は弁護士の資格を持って、民間企業の法律部門で仕事している人もいます。ですから、部分、部分では法科大学院も、法曹出身者を生み出すことには役立っているとは言えます。
一方で、実は法科大学院に通わなくても、新司法試験は受験できる道が残されていました。その道は、「予備試験」であり、下記のように大学生でも受験できたそうです。
さらに経済的理由などで法科大学院に通えない人の例外ルートだったはずの「予備試験」に多くの大学生が流れ、今では予備試験が最短コースとして使われている。
16年度の司法試験の合格者(1583人)のうち、予備試験組は過去最多の235人。司法試験塾「伊藤塾」の伊藤真塾長は「学生も社会人も優秀な人ほど予備試験狙い。法科大学院は滑り止めにすぎない」と話す。
要は、予備試験は学力さえあれば、法科大学院をすっ飛ばして、最も司法試験の合格に近い、ある意味「近道」と言える選択肢と言えるのではないでしょうか。そうは言っても、予備試験の合格率は14パーセント。実際ン「法科大学院の司法試験の合格率は20%台」よりも、6パーセントは少ない結果です。
2-3.予測が外れて”弁護士あまり”の問題も発生~「訴訟件数は減少」~
法科大学院の乱立を政府が許してしまったところに、実はもうひとつ、「法科大学院のプロジェクトは失敗だった」と私が感じていることがあります。それは以下のとおりです。
そもそも「法曹需要が今後増えるため、弁護士が足りなくなる」という政府の見通しが外れたのが誤算だった。
政府は規制緩和の進展で「行政による事前規制型社会」から「司法による事後救済型社会」への転換を目指した。02年、法曹人口を大幅に増やす必要があるとして司法試験の合格者数を「10年ごろに年間3千人」とする計画を閣議決定した。
政府の方針を受け、司法試験の合格者は増え、07年から13年までは2千人台を突破。02年に約1万8800人だった弁護士は、16年には約3万7600人と倍増した。
政府は、「規制緩和の進展で「行政による事前規制型社会」から「司法による事後救済型社会」への転換を目指した」と言います。
しかし、実際は、
訴訟件数は減少
だが、弁護士の活動領域は想定ほど広がらなかった。訴訟件数は減少し、企業や自治体で働く弁護士は増えたものの規模は小さいまま。弁護士が供給過多になり、政府は13年に3千人計画を撤回、15年に1500人以上と下方修正した。
そう、予測が外れ、いわゆる「弁護士あまり」の問題が発生してしまったのでした。供給過多になった弁護士の背景と、どうにか事務所に就職しようとしたり、訴訟に奮闘したりする新米弁護士の様子は、次の漫画に描かれています:
「弁護士あまり」の結果、法律事務所のほか、よく私が聞く弁護士の就職先は、経営コンサルタント会社、自治体や非営利組織の法務職員、企業の総務課の法律関係担当者ななど、その進路は多岐にわたっています。
3.法科大学院の将来
結果的には、失敗だったとされる日本政府の「法科大学院プロジェクト」。現状に対して、政府も手を打とうとしているようです。
法科大学院の志願者は04年度に最多の延べ7万2800人だったが、現在は1万人を割っている。文科省は法科大学院の統廃合を促すため、15年度から定員充足率や司法試験の合格率などで補助金を最低ゼロに傾斜配分する仕組みも導入した。法務省幹部は「教育の質を担保できない法科大学院が淘汰されるのは仕方がない」と強調する。
「飛び入学や早期修了を」「告示で『3割以上』と定めた社会人と法学部以外の出身者の比率を下げるべきだ」。文科省の諮問機関、中央教育審議会では現在、法科大学院に学生を戻すための議論が進んでいる。
このまま法科大学院離れが続けば法曹界に有為な人材が集まらなくなる。政府は法科大学院の統廃合を軌道に乗せて教育機能を高める改革を急ぐ必要がある。
(伴正春)
政府、そして大学側の努力は認めるとして、もっと私は社会人をはじめ、市民に向けた法科大学院という存在に立ち返り、司法試験の受験だけを目的にした人材を育てなくてもよいと考えました。
先の法務博士の先輩のように、法科大学院で勉強したことに加え、公務員の受験対策講座に通うことで、官僚になってしまった人もいます。公共政策大学院などと役割は重なりますが、大学の経営戦略としては、官僚や公務員の養成課程を設けてもよいでしょう。
その他、自営業者や個人事業主、中小規模の出版社、インディーズレーベルを持っている音楽会社、フリーランスのグラフィックデザイナーやwebライターといった、だまざまな場面で法律が契約の書面に関わったり、土地の利用制限や著作権に関するトラブルについて知る必要があったりする職業の人たち。そうした職業の人たちが、仕事をしていく上で必要な法律の知識を教えるコースについて、法科大学院で担当してもよいと思います。
というか、まさに私はあったら、現在進行形で、頭に入れたい知識がたくさんり、効率よく覚えて、使いこなすために通いたいです。
実際にあったエピソードをしましょう。私が司書課程の授業を受けに、大学院の別部局の授業を受けに行っていた時代のことです。学内で偶然、その当時は家業を継いで、大学院から近い喫茶店の店主になっていた学部時代の同期と出会いました。「お前、何でここにおるんや?」と聞かれたので、「私はここの大学院に通うとるんや。君こそ、何でキャンパス内に居るん?」という、やり取りをしました。彼の話では、授業の時間割の関係か、法学部や法学研究科の経営者向けの法律講座が開講されていたようで、それに通って勉強していたとのこと。
長くなりましたが、本第3項で書いたように、今ある法科大学院については、たとえ開設のきっかけが「大学側には法科大学院がないと三流大学扱いされてしまう」というお飾り的なものであったとしましょう。規模を縮小しながら、法学部や大学院の法学研究科、公共政策研究科などと競合しないように気をつけつつ、学内外のニーズに合わせて、法律に関する講義やコースを組み直して、開講してもよいと私は考えました。
そういうところで、今回は、おしまいです。お読みいただき、ありがとうございました。
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