仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【ニュース】「ネット学術誌 チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ」(毎日新聞)

1.はじめに

一昨日の「【ニュース】「大学図書館、電子媒体の資料費が初めて紙媒体を超す」(大学ジャーナルオンライン編集部) - 仲見満月の研究室」に続き、本日はネット上の学術誌とそこに掲載された論文等の研究成果に関するニュースです: 

mainichi.jp

 

昨今は紙媒体を持たず、オンラインだけで展開する学術誌が増えてきており、なかには共有性が高い利点がある一方で、審査が不十分となり、論文の信頼性が問題視されているものもあるようです。具体的な事情を毎日新聞のオンライン記事で見ていきましょう。

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2.「ネット学術誌 チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ」(毎日新聞)を読む

さっそく、オンライン記事を読んでいきましょう。

ネット学術誌
チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ

毎日新聞2018年4月2日 19時37分(最終更新 4月2日 22時33分)

 

 インターネット専用の学術誌の中で、別の研究者による内容のチェック(査読)が不十分な論文を載せる質の低い学術誌が急増している。研究者から徴収する掲載料を目的として運営している業者もあるとみられ、学術的に妥当とは言えない成果に「お墨付き」が与えられることで誤解が広がる恐れもある。日本の科学者の代表機関「日本学術会議」は対応策を検討する。【鳥井真平】

ネット学術誌:チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ - 毎日新聞

 

研究者が論文を投稿し、レフェリーの査読を経て、その論文が掲載されることになると、掲載料が発生します。このあたりのシステムの詳細は、弊ブログの過去記事の

等、それから2018年5月に出す『なかみ博士の学術系ニュース』の巻末コラムで書いていますので、そちらをご覧いただくとして、ここでは掲載料のことを少し、つっこんでお話致します。掲載料は私が知っている限り、論文の著者側が請求を受けて支払うことが多いのです。論文1件あたり、著者はウン万を請求されることがあります。掲載料は掲載誌および掲載論文の質を維持するための維持費や、学会によっては査読者に審査の少額の謝礼といった用途で使われているようです。

 

その掲載料システムが、「徴収する掲載料を目的として運営している業者もあるとみられ、学術的に妥当とは言えない成果に「お墨付き」が与えられることで誤解が広がる恐れもある」と、今回の記事で指摘されました。悪い言い方をすれば、「掲載料さえ払ってくれれば、どんなレベルの論文だって載せる」業者が運営するオンラインジャーナルが混じっている可能性があるわけです。もう少し背景や事情について、毎日新聞の続きを読んで見てみましょう。

 

 ネット専用の学術誌は「電子ジャーナル」と呼ばれる。1990年代末から急速に広がり、自然科学、人文科学など分野を問わず世界中で利用されている。誰でも論文を閲覧できるオープンアクセス(OA)型のものが多く、成果を広く共有できるメリットもある。

 

 一般的な学術誌は、投稿された論文を複数の専門家に査読してもらった上で掲載の可否を判断。研究者側に掲載料の負担はなく、主に読者の購読料で出版費用をまかなう。一方、一般的なOA型は研究者が支払う掲載料を運営費に充てる。

ネット学術誌:チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ - 毎日新聞

オープンアクセス型の電子ジャーナルは、少しずつですが、増えてきているようです。大学や大学院、各種研究機関が運営している学術リポジトリも、OA型であり、機関内で発行している学術誌の論文を電子化して公開しています。そのOA型と絡んで、問題が指摘されているのが、「ハゲタカジャーナル」です。

 

しかし、首都大学東京の栗山正光教授(図書館情報学)によると、電子ジャーナルには査読がずさんで、掲載料を払うだけで論文を掲載できるものも多い。専門家は掲載料目的の粗悪な学術誌を「ハゲタカジャーナル」と呼んでいる。

 

 著名な研究者を無断で編集委員名簿に加えて権威付けをしたり、学術誌のランクを示す指標「インパクト・ファクター」を偽ったりしている事例もある。2013年ごろから年に数百誌以上のペースで増えているとみられるという。米科学誌「サイエンス」の編集部などが13年、内容に明らかに誤りのある論文を電子ジャーナル304誌に投稿したところ、157誌がそのまま掲載を認めた。

 

 こうした粗悪な学術誌に日本の研究者が論文を投稿するケースも少なくない。国立情報学研究所は14年、米国の研究者が「粗悪」とみなした学術誌1300誌以上のリストに基づき、東京大や京都大などの主要大学44校の研究者の投稿状況を調べた。すると、過去1年間にOA型の電子ジャーナルに投稿した研究者の回答865件のうち、99件(11・4%)がリストに含まれる雑誌への投稿だった。

ネット学術誌:チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ - 毎日新聞

先に指摘した、掲載料を払えば、杜撰な査読によって掲載が決まり、信頼性に乏しい論文が掲載されてしまうのが、「ハゲタカジャーナル」です。 「著名な研究者を無断で編集委員名簿に加えて権威付け」するとか、「インパクト・ファクター」を上記の方法でいじって偽るとか、悪質なジャーナルが含まれています。2013年、『サイエンス』が試みた「調査」では、「内容に明らかに誤りのある論文を電子ジャーナル304誌に投稿したところ」、その51%が掲載を認められました。

2014年の国立情報学研究所の調べでは、日本の研究者で「東京大や京都大などの主要大学44校の研究者」のうち、11.4%が「米国の研究者が「粗悪」とみなした学術誌1300誌以上のリスト」にあるタイトルに投稿していたとのこと。私には頭が痛くなりそうな結果です。

 

「ハゲタカジャーナル」については、文科省科研費との関係から、「こうした雑誌への掲載料が国の科学研究費補助金科研費)で支払われている事例があるとみて関心を寄せている」ようです。論文を投稿するのを防ぐ対策などについて、「日本学術会議は、科学者はどうあるべきかを議論する科学者委員会の分科会で、審議課題とする方針」であり、これからマニュアル策定が始まる段階のようです。大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)への取材では、

 粗悪な学術誌のまん延について、質が担保されていない論文が流通するリスクがあることを指摘し「学術への信頼をむしばんでいくため、学術界全体の問題として対策が必要だ。問題ある学術誌は淘汰(とうた)されるべきだ」

ネット学術誌:チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ - 毎日新聞

という意見を、毎日新聞は報じています。

 

 

3.最後に

「ハゲタカジャーナル」の一部に関しては、「著名な研究者を無断で編集委員名簿に加えて権威付け」するところは、2016年に起こった、WELQの医師慣監修を受けた医療や健康に関する各種オンライン記事を含む問題を思い出します。電子ジャーナルで、例えば医療分野の「粗悪な」質のものが含まれているとすれば、早く対処しなければ、医療分野全体に対する信頼が低下することにも繋がるだけでなく、人間の健康と直結する分野だけに危惧されることは少なくないでしょう。

 

日進月歩で電子ジャーナルが増加している学術業界では、一刻も早い対応が求めれています。私ができる対策としては、一定水準以上の評価が定まっている紙媒体のジャーナルを選んで、投稿していくことぐらいで、日本学術会議には特に力を入れて対応して頂きたいと思いました。

 

おしまい。

 

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