仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

職業研究者であれども「先生」にあらず?!~漫画『椎名くんの鳥獣百科』や『博士の白衣女子攻略論 』で見る研究者のステータスと敬称の話~

<分かりにくいけど、素朴な問題>

1.はじめに~大学教員に送るメール書式の問題を起点に~

2018年7月の第4週後半、進路が前代未聞の関東から九州へ抜けていく台風12号の上陸寸前。時は、日本の多くの大学で前期末の試験が始まり、期末レポートを提出する時期。大勢の教え子から、メールで課題レポートの提出や、試験内容の問い合わせを受け取る大学教員の方々にとって、学生の送ってきたメール1つ1つを読むだけでもストレスでしょう。けれど、指導する立場として、見過ごせないものもあるようです。そういうわけで、私のTwitterタイムラインが、学生から大学教員に送付されたメール書式で色々と賑わっていました。以下、その一部です。

 

  1. ある大学教員は、学生がその人に送ってきた初回のメール冒頭の、宛名に「姓(苗字)様」と書かれており、「けしからん!」(仲見の意訳)とツイートなさっていました。
  2. 別のある大学教員は、課題レポートの添付されたメールの文面を見て、終わりのあたりに「よろしくご査収ください」の一文が入っているのを発見。その人は「就職してからの業務メール並に丁寧な書式で、大学教員に提出物に寄せるメールを書くのも、適切なマナーが実践できているとは、いえないのでは?丁寧すぎる文面は、不適切な場合があると思うんだけど…(仲見の意訳)」とツイート

 

十数年前、学部生だった私の感覚をもとにすると、それぞれのケースについて、

  1. 特定の大学教員に送る初回メールは、宛名に「姓+名+敬称として「先生」」と書き、「様」は使わないほうが無難
  2. メールの終わりの方に付ける一文は「ご査収ください」に比べて、「ご確認、よろしくお願い致します」、あるいは「お読みいただけたら幸いです」くらいを使ったほうが、軽めでより適切

と、アドバイスを学生さんに送るかもしれません。それでも、メールの書き方について分かりにくいという人は、次の拙記事を参考にしてみて下さい:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

さて、学生から来たメール書式を発端に、一部の人たちは大学教員をはじめ、学外の研究所の職員、在野で研究している人まで、メールや書状、対面時の呼びかけや会話といった様々なシチュエーションにおいて、それぞれ、どの敬称を付けて呼ぶべきか、ちょっとした議論になっているようでした。実は、職業研究者については、常に職位や肩書を敬称として付けて呼ぶのが適切とは限らず、けっこう、面倒くさい事情があります。

 

本記事では、そのあたりに関して、職業研究者の1つ・大学教員のケースを中心に、私とその周辺の話をさせて頂きます。

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2.大学教員は職位(役職)名が必敬称になるとは限らない?~十月士也『椎名くんの鳥獣百科』他の漫画と現実の話~

本項の見出しはどういうことかというと、 普段、学内では大学教員に部下や学生が呼びかける時、より立場が上から「教授、准教授、講師、助教…」と並んでいる職位(役職)名を敬称として付けることはしない、という話です。大学教員の職位階層と業務内容については、こちらの本にまとめていますので、ご参照ください:

『仲見満月の研究室』研究室通信 Vol.3.5 #大学教員 の種類と業務 - BOOTH(同人誌通販・ダウンロード) 」

 

ここでは、ある私立大学の生物学系学部が舞台の漫画作品を出して、説明します:

 

この作品は、鳥獣の研究に関わっている青年・椎名了(画像の眼鏡をかけた人物、アラサー)が、勤務・在籍する私立・山裾大学理学部生物学科での日々を描いた物語で、全10巻。

椎名が助教として所属する場所には、その幼馴染で虚弱体質の准教授の花 千歳(35歳、専門はペンギン)、花の同僚で同じく准教授の南 圭一(フクロウが研究対象)、院生の森みなとがいます。その上には学内で「権力争い」を繰り広げる各教授たちがいるようで、話が進むにつれて、海外から研究者がやってきたり、国際学会の描写で学外の動物学者たちと椎名たち山裾大学を取り巻く人間関係が暗示されたり、大勢の研究者たちが登場します。

 

椎名のいる生物学科の主要人物たちの個人的な人間関係は、作品を読んで頂いて各読者にご確認いただくとして、本記事では学内の比較的上層にいると思われる大学教員の前や、公の場で、椎名たちがお互いをどう呼び合っているか、紹介します。例えば、大学教員に昇進の話が出たケースでは、花 千歳もしくは南 圭一について、「花(千歳)准教授」もしくは「南(圭一)准教授」と、「姓名+職位名」で呼ばれていたと記憶しています。一方、院生の森→助教以上の職位の椎名や花は、森に「姓(名前)+先生」で呼びかけがされていたと思われます

(すみません、数年前に読んだ作品で、うろ覚えのところが多いです…)

 

実際のところ、教授会や部局の会議、国際学会等、どの程度のオフィシャルなレベルの場で、どういった呼びかけになるというのかは、分野や大学・大学院、研究室等によって異なるので、不明です。一応、私とその周辺の場合では、ゼミ、院生の私が手伝いで入った授業内、修論・博論の公聴会では、少なくとも、学生→大学教員、もしくは大学教員同士では「姓(名)+職位名」で呼び合うことは、聞いたことがありません。

大抵、「姓(稀に名)+先生」の形になっていました。なお、新入生歓迎会や忘年会等、よりプライベ―トな場において、大学教員同士だと「姓(稀に名)+さん」の呼び合いが発生する場に遭遇したことはあります。が、基本的に普段は、助教から教授までの大学教員は、「姓(稀に名)+先生」で呼ばれていました

 

ややこしいのは、博士研究員、所謂ポストドクター(ポスドク、PD)の人たちです。

ポスドクとは、日本の一般的な大学では職位的として、助教と院生の間くらいのポジションで、大学教員ではありません。そのためか、ポスドクの人たちは研究で通っている(受け入れ)先の研究室では、院生時代の記憶では、学生に近い立場にあり、普段、上司に当たる大学教員からも、下の立場の学生たちからも「姓(稀に名)+さん」と呼ばれていました。ポスドクの場合、別の大学や専門学校等に非常勤講師として教えに行っている場合、その非常勤先では、教える立場の「先生」として受講生に呼ばれます。つまり、ポスドクの人たちは、研究室か非常勤先かといった自分のいる「場」によって、敬称の「さん」・「先生」の両方を付けて呼ばれることがあるといえます。

 

院生の場合、大学や専門学校のほか、私のいた研究室の隣近所の人たちのように、中高等へ、非常勤講師として教えに行っていた人は、

  • 所属研究室:「姓(稀に名)+さん」
  • 非常勤先:「姓(稀に名)+先生」

の2パターンで呼ばれることがありました。非常勤先の中学校から研究室に戻って来たある同期の院生は、「自分が時々、学生が本分なのか、教えるほうがメインなのか、分からなくなる」と、アイデンティティの混乱状態を述べていました。

 

 

3.国公立、企業等の研究職員の場合~香日ゆら『博士の白衣女子攻略論』を例に~ 

続いて、国公立、企業等研究機関の研究職員は、どうなのでしょうか?例えば、大学院の博士課程・修士課程が設置されている国公立の研究所では、上記の大学教員の呼び方が当てはまるところがあるでしょう。

 

官庁の場合、「【第7回 テキレボ 新刊】『なかみ博士の気 になる学術系ニュース』2018年7月 夏号 」収録の映画『シン・ゴジラ』を特殊ですが例にすると、仕事の細かなミーティングでは「姓(稀に名)+さん」が主だと思われます。より正式な場では、官庁の技術官が出てくるニュースで見ると、「姓(稀に名)+(役)職名」で呼ばれていることが多いように感じます。

 

民間企業の研究室等の例は、次の漫画があります: 

 

作品の舞台は、化学系企業の研究室。事務系職員の主人公(画像中央の人物)は、勤務先の研究室で、個性豊かな研究職員たちと日々実験&実験、時にアイスクリームをめぐって化学談義、時に別部署の監査を迎え撃つ。という内容の、ちょっと珍しい理系お仕事四コマ漫画作品です。研究職員には、所持学位は修士号なのに名前は「博士」(ヒロシ)の人物や、企業に在籍しながら博士号取得を目指すヒロシの後輩がいました。企業研究員の日常が少し垣間見える内容となっています。

(ちなみに、全2巻の模様)

 

『博士の白衣女子攻略論』では、管理職には「主任」といったような役職名を持つ研究職員が登場していたように思います。普段は、管理職付きの人に対して、目下の人も目上の人も「姓(稀に名)+さん」と呼ぶようですが、別の話で、その人のいない場面で、管理職の人を話題にする場面では、「姓+(役)職名」の形でその人を呼んでいるところがあったと記憶しています。

 

呼び方と敬称のイメージとして、 研究職員の場合、

  • 多いパターンは「姓(稀に名)+さん」
  • より公の場や、当人のいない場面である人を話題にする場合は、「姓+(役)職名」

の形であるといえそうです。

 

 

4.最後に

以上、大学教員のケースを中心に、 職業研究者の職位(役職、ステータス)と呼ぶ時に付ける敬称の話について、漫画作品や、私とその周辺のことを交えながら、させて頂きました。

 

それで詰まるところ、職業研究者に送る最初のメールでは、冒頭の宛名に、どの敬称を付けたらよいか?という問題への答えで、本記事を終えたいと思います。ポイントは、メールを送る人と受信先の人の関係で、変わってくるかと。

  • 送信者が学生や学内の立場が下の人、受信者が大学教員なら、「姓名+先生」

というのを基本にして考えると、よいのではないでしょうか。なかには、先生付けをすると怒る人もいるので、ケースバイケースで「姓名+様」等と使い分けてみてはいかがでしょうか。

 

今回、紹介したのは一例ですので、そのあたり、ご注意のほど、よろしくお願い致します。

 

おしまい。

 

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