仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

18世紀チベットの半農半牧を営む医者見習いと異国の花嫁の愛しい日々~ #泉一聞 『 #テンジュの国 』(KCデラックス)~

今週のお題「読書の秋」

 

1.はじめに

ちょっと、忙しくなりそうなので、消化した積読本のレビューをしておきたいと思います。 「異国の暮らしで、徐々に夫婦になっていく~漫画版『 #北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 』1巻( #PASH! コミックス)を応援する~」に引き続き、今回は、ユーラシア大陸が舞台の「夫婦もの」漫画です↓

 

  

現在、2巻まで出版されている本作は、『別冊少年マガジン』で連載中とのこと。別マガといえば、そろそろ、最終章に突入したという『進撃の巨人』、田中芳樹氏の原作小説を荒川弘氏がコミカライズした『アルスラーン戦記』で知られます。私のイメージでは、掲載作品の幅が広く、対象読者が少年・青年の枠におさまらない月刊漫画誌です。戦争、ダークファンタジー、サスペンス、ギャグのジャンル作品が並ぶ、そんな別マガのなかで、ほのぼのとした(日本の読者から見ると)異国の日常を描いた作品が、この『テンジュの国』でしょう。

 

毎度ですが、以下、ネタバレにご注意ください。

 

 

2.本書の導入部を中心とした内容紹介

物語は、18世紀のチベット、とある「山間の村でのお話」 。医者見習いで13歳のカン・シバ(第1巻の青い服を着た少年)は、飼い犬のセンゲを連れ、薬草の採集に出かけたり、畑の草取りをしたり、家畜のヤクを放牧したりして、過ごしていました。そんなある日、村に行商の一隊が異国からやって来ます。リーダーらしき男性の背中には、花嫁と思わしき女性が籠に入れられ、背負われていました。そんな様子を見ていた医者見習の少年が、馴染みのテンジンさんの話し方や顔色かを見ると、たいぶお疲れの様子。カン・シバは彼に五根薬用バターを渡したいと思い、帰宅すると、行商の一隊が自宅に宿泊することになっていました。

 

 

さっきのリーダーらしき男性は、モシ・バオルと名乗り、次に登場したのが娘でモシ・ラティ(第2巻の鮮やかな紋様の服を着た少女)。一隊のもてなしに追われる家族をよそに、カン・シバは五根薬用バターの残りがないか、自分の父親デレク・カンドに尋ねると、切らしてしまったとのことでした。父親に相談すると、疲労に効く肉と黒糖スープをすすめられ、カン・シバはさっそく、作りに取り始めました。途中から、作っているところにやって来たモシ・ラティと話つつ、できたスープをテンジンさんに届けます。違う土地からこの村に嫁ぐというラティは、父親に習ったという村の言葉で、自分のことを話します。「ラティさんは、貴族に嫁ぐのかな?」と考える少年。

 

自宅の広間では行商の人たちがくつろぎ、カン・シバの妹ぺマも加わって、ちょっとした宴会になっていました。疲れた人のことを考え、少年は席を外し、五根薬用バターを作り出します。そこへラティがやって来て、手伝い始めました。ひと休みするため、仮眠をとったカン・シバが目覚めると、バターを丸めるラティがいました。翌朝、次の土地へ旅立った一隊を見送ると、なんと、花嫁らしき少女が残っているではありませんか。

 

慌てふためく少年に、父親は一言、告げました。

 

「大丈夫だろ カン・シバ お前と結婚するんだから」

 

と。

 

 

3.ストーリーに対する感想や作品世界に関するコメント

本記事の冒頭で触れたように、本書は、ユーラシア大陸が舞台の「夫婦もの」漫画です。先日の記事で紹介した『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 1 (PASH! コミックス)、「夫婦ものジャンル」では割と有名な『乙嫁語り』より、本書は100年前のチベットの村に、異国から花嫁が嫁いでくるというもの。『北欧貴族と~』と『乙女語り』の主要人物の妻のジークリンデとアミルが「妻が年上で頼りになるし、何より腕っぷしが強い!」のに対し、今作のラティはカン・シバと同い年で、腕っぷしも先のお嫁さんたちほど強くなさげな印象を受けました。

 

第1~2巻では、行商たちの都合があるようで、二人の結婚式は、だいぶ先に予定されているようです。そのため、2巻までカン・シバと少女は婚約者であると称される一方、ラティのほうは少年を「旦那様」と呼んでいました。こういった描写から、本作においてもキーワードには、「お試し結婚」や「契約結婚」が挙げられるのではないでしょうか。つまり、恋愛よりも婚約者(とその家族)の生活が先で、ズバリ、私はこう申し上げたい。

 

カン・シバとモシ・ラティの二人が暮らしのなかで、時にハプニングを経て、心の距離を近づけていく過程を見られるのは、いいぞ!

 

と。高山病で行倒れた男性に遭遇する回では、ラストに馬上のカン・シバが婚約者を引き上げて、馬に乗せるシーンがあり、照れて愛らしいラティは必見でしょう。話の展開では、1巻末から2巻にかけて、カン・シバをよく知る幼馴染の少年のジグルと、少女のリンツェンが出てきて、二人の関係にひと波乱ありそうな…。特に、ラティがリンツェンの存在にヤキモキする場面は、可愛らしいですね。

 

ちなみに、二人の名前ですが、1巻の巻末によると、

  • 一部の名家を除いてチベット人には苗字がなく、カン・シバとは、カンが「雪」、シバが「四・四月」を意味する(※カン・シバは、チベットでは一般的な名前ではないらしい)
  • モシ・ラティはチベット族ではなく、モシが苗字に当たる

ということです。医者見習の少年のネーミングは、なぜか、『乙嫁語り』のカルルクが前近代の人集団の名前からとられたらしいことを、思い出しました。

 

物語が展開する場所は、カン・シバと一家の住む村とその周辺の山岳地帯が主となっています。主人公の家が医者業をしているということで、野営する道具を持って、二人とぺマが目薬の材料である植物を取りに行く回や、ぺマと喧嘩してケガした男の子の切り傷を治療する場面があり、そのほか、薬草好きのカン・シバによる薬の説明が入ることが絶えません。ハッキリ言って、情報量が過多!しかも、故郷で染物が大好きで、機織り大好きなラティは、草木からとれる染料に詳しく、婚約者の蘊蓄に付いていけてる!色々と凄い二人です。

 

情報量の多さについて本作は、『北欧貴族と~』といい勝負で、『乙女語り』には勝っていると思われます。情報量が多いといえば、草木の生え方、衣裳の紋様、室内の家具や敷物などの柄の描き込みは、『乙女語り』ほどではないものの、けっこう細かいのではないでしょうか。こういった自然環境や生活文化に関するものは、著者がアレンジするにしても、参考になる本があるはずだと思います。また、それぞれの巻末ではチベットの言語や風習、信仰に関する解説ページがあり、 参考文献には何を使われているのか、私は非常に気になるところです。

タイトルに入っている「テンジュ」は、果たして「天珠」=チベットで作られる瑪瑙に特殊な加工をして作られたビーズを指すのか?といったことも書いて、お便りで色々と著者に質問したいほどです*1

 

ところで、最新の2巻まで、特に18世紀チベットの政治的な情勢は、出てきません。現実世界だと、当時のチベットは中国大陸の清朝の統治範囲にはあったと思われます。あるオンライン書店のレビューには、カン・シバとラティの子孫の世代くらいで、起きるらしき「悲劇」を思い、これからの展開を切ないと感じるものがありました。そのあたり、『乙嫁語り』はスミスさんが旅立ち、その後のカルルクとアミルの暮らす場所で起こった争いに比べて、『テンジュの国』はまったく描写がないんです。

 

そういった当時の情勢も含めて、2019年1月に発売予定の第3巻に入るストーリーでは、どういった展開が待っているのか?単行本読者の私は、気になっています。

 

 

4.最後に

以上、『テンジュの国』 第2巻までのレビューでした。もし、この記事を読まれて、本作に興味を持たれた方に向けて、第1話を試し読みできる場所のリンクを貼っときます↓

 

pocket.shonenmagazine.com

(↑第2話は公開が終わっていますが、いちばん下の第1話のボタンを押すと、ビューワーが立ち上がって、読めます)

 

comic.pixiv.net

 

Pixivコミックのほうは、ログインすると、左側にpixivコミックの編集部に感想を送れるフォームが出現しますので、余裕のある方は、感想を送ってあげてください。反響がないと連載が続きにくい作品があるそうですので、応援すると本作の連載が続きやすくなるかと思います。(私は送りました)

 

感想を送るのに余裕のない方は、各ページのツイートボタン、Facebookのいいね!ボタンで、共有して応援することもできます。

 

執筆管理人の多忙につき、そろそろ、このへんで終わりに致します。お付き合い下さり、ありがとうございました!

 

おしまい。

 

 

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*1:(時間的な余裕がないため、今は難しいところですが…。)

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