仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

物書きは「素材」が命~ #上阪徹 『10倍速く書ける #超スピード文章術 』を読む~

1.はじめに

「タイトルどおりのスピードで、果たして、書けるようになるのだろうか?」

 

この表紙を見て、そう疑問に感じる方は、いらっしゃるでしょう↓ 

以前から、文章術の本については、ここのブログで複数、紹介してきました。主に、それらは論文や学術書に関する書き方の本でした。本書は、画像の帯にあるように、メールや企画書、ブログやレポート等、ビジネス向きの文章術を紹介したものです。ちなみに、本書を知ったきっかけは、 「西のオカマBSディム」さんがネットラジオで紹介されていたのを聞いたこと:

radiotalk.jp

(「#11 文章を書き綴るオカマ - オカマが気になる一億のコト - Radiotalk(ラジオトーク)、2018.6.24公開)

 

ディムさんは、本職はある企業の営業係長(見た目は一般的なおっさんらしい)で、Webではお悩み相談に答える連載を副業として持ち、本を出す時に速筆を求められたそう*1。必要に迫られて、買った文章術の本のうち、1冊が本書だったそうです。著者の上阪徹さんのやり方で書いたら、BSディムさん曰く、1.2倍ほど文章を書き上げるのがスピードアップしたとのことです。

 

ディムさんのほかにも、上阪徹さんのお名前やお仕事の方式は、クリエイターのライティング講座や、講演会で講師の方が出されることがありました。ライターの第一線で活躍する人たちが紹介するのは、著者の技術で、これは自分も知りたいと思い、本書を「欲しいものリスト」に入れておき、贈って頂いた次第です。サポートして下さった方に還元すべく、今回、この本のレビューをさせて頂きたいと思います。

 

 

2.上阪徹 『10倍速く書ける 超スピード文章術』を読む

 2-1.物書きは「素材」が命~上阪式ノウハウ~

著者の上阪さんが本書で伝授するのは、企画書、メールや報告書から、経営者のインタビュー、企業のルポルタージュなど、ビジネス向きの文章を書くためのノウハウです。その上阪式文章術では、文章の中身は「素材」が命!その「素材」とは、取材で得たもの、書き手の五感で捉えたもの、調べたもの等で、主に次の3つ。


 ①独自の事実
 ②エピソード
 ③数字


それらが揃ったら、一気に頭から最後まで書き上げ、字数調整、読みやすく整えるのは、後から。スピードアップは、そういうことだそうです。ネタ出し、最初の調べものして、素材がそろったらの下書き第1版までは、それでスムーズにいきそうだな、と思いました。上阪式のポイントは、素材を集めるのと、作業としての書く行為は切り離せ!ということ。

 

素材を集めるには、ターゲティングが重要になるそうです。クライアントのオーダーや、載る媒体に合わせて、読む人をとらえる素材の選択や組み合わせを考える、と。つまり、目的をはっきりさせ、読者を細かく絞る作業です。必要があれば、対象読者の触れる物やトレンドをリサーチておくべし。それらが難しいときは、書き手にとって身近な人物を仮の読者に想定し、ターゲットをイメージしながら書いてゆけば、対象とする読者とその周辺の人たちにも届くそうです。ここまで、第2章の「正しい素材を集める2つのルール」で説明されていました。

 

続く第3章「素材をひたすら集める」は、具体的な素材の集め方が解説されています。例えば、「メモだけで素材はどんどん増える」(p.104あたり)では、取材先で自分の五感を研ぎ澄ませ、素材をストックしていく方法が紹介されています。「同じ時間内に、どれだけメモしておけるかが勝負」ということで、経営者のインタビューでは、首座先の「社長室の重厚感は、壁やカーペットの色、テーブルやソファーの特徴」を具体的にメモし、書き手の感覚を素材に置き換えていきます。著者曰く、人は忘れるようにできている生き物。だから、記録しないと仕事に生かせる素材は手に入らないことに気づかされます。

 

記録方法では、メモの書き取りと合わせて、「レコーダーの録音をもとに書き起こす」ことが推されていました。10時間を超えるインタビューでは、ICレコーダーの録音データを専門の業者に贈って、テープ起こししてもらい、それを素材にするそうです*2。また、素材のなかでも「書き手が体験したこと」は、文章の中でインパクトを持つようです。著者によると、誰かから聞いた話ではなく、自分だけが体験しているエピソードであることが重要性を持つんだとか。他の人には出せない、その書き手による説得力が生まれるというのが、その理由です。さらに重要なのは、自分が体験したことは、「自分が完全にわかっていること」だということ。自分が分かっているからこそ、書くときにもスムーズに速く書けるというのです。

 

第3章の後半では、「素材の箇条書き」、およびそれを貯めておく方法が出てきます。素材を集めたら、それをメールにストックしておく。企画の名前をメールの件名に入れ、素材を本文に箇条書きで並べておきます。第2章に出てきた文章の「目的」と対象読者についても、本文の上のほうに掲げると、後々、素材を並べ替えるとき、作業の効率化ができるそうです。素材の管理法は、巻末に出てくるもので、箇条書きした素材を紙にプリントアウトし、付箋を貼っていくことが便利そうです。

 

書くテーマによって、素材を並べ替えたり、組み換えたりする。2000文字を超えるような場合は、文章の主軸になる素材と、そうでない素材を分けて、組み立てて行くことをします。書ける見通しをつけたら、下書きの第一段階として、最初から最後まで、一気に書く(著者によると「粗書き」の段階)。途中で、情報不足で調べたくなった箇所がかれば「★」や「β」などのマークを入れておいて、書き上げた後、マークを入れた箇所に戻り、そこで調べ直して書き足すようにします。

 

「粗書き」に書き足しを経て、内容を整えてゆく。もし、制限文字数を超えてしまったら、仮想読者の興味に合わせて、要らない部分を削る。最後の最後に、誤字や脱字を確認して、仕上げとする。仕上げ一歩手前の文章の削り方は、本書終盤の「実践編」で800字・2000字・5000字の文字数別、企画書、書評やコラムといったタイプ別の文書によって、やり方が説明されていました。

 

こうした書き方の実践には、お手本とする文章のイメージを持っておく必要があるそうです。上阪さんにとってのお手本として、

 ・沢木耕太郎『敗れざる者たち』(文春文庫)

 ・総合週刊誌だと『AERA

の2つが挙がっていました。

 

 2-2.本書の感想と実際にブログ記事でやってみた所感

本書のビジネス向けの文章について、既に物書きの人たちはその一部をしていたと思います。たとえば、「粗書き」→書き足しまでは、私も院生の時に投稿論文を書くのに、やっていた方法でした。論文を書くうち、私の経験では必要な情報が分かってきます。そんな時は、「調べたくなった箇所がかれば「★」や「β」などのマークを入れておいて、書き上げた後、マークを入れた箇所に戻り、そこで調べ直して書き足す」ことをしていました。そういうわけで、学術論文の場合は「粗書き」→書き足しのサイクルを繰り返しによって1本、仕上げる方法が合っていそうです。

 

読者のモチベーションをアップさせる!そうした本書のよい点を挙げると、仕事で文章を書く人の苦手意識を下げることを意識した話の展開がされている点です。本書はビジネスの文章に特化した技術の解説であって、その文章とは、小説のような美文ではなく、分かりやすさ至上主義!であることが、繰り返し、説明されていました。

 

具体例として、著者は文章にリズムを生むために、「です・ます調 」(敬体?)に「である調」(常体)の文を混ぜることを説きます。この書き方はビジネス向けと割り切ったもので、学校教育の国語科で習う「です・ます調と、である調を混ぜてはいけない」作文作法ではありません。そう宣言されているのがポイントで、国語の作文教育において文章を書くのに苦手意識を持ってしまった人に対して、「授業で習った作文と、仕事で使う文章は違うジャンルであり、違う書き方をすればいいんだ!」と安心させることができるでしょう。作文教育によって得たトラウマを緩和する言い方になっています。著者の技量を感じました。

 

読むだけでは分からないこともあって、上阪式の方法で、実際にブログ記事を1本、3500字で書いてみました。それがこちら↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

3500~4000字のブログ記事だと、今まで、私は素材探しやネタ出しから書き上げるのに6時間かかっていました。それが3~4時間に短縮できたように思います。繰り返し上阪式で書くことで、練度によってはタイトルどおり、本に出てくる方法を開始した時より、10倍くらい、スピードアップするかもしれません。ちなみに、本記事も上阪式で書きました。文字数と所要時間は、ラボメシ番外編のピザ回と同じくらいか、少し長い程度です。

 

なお、上阪さんは本書の序盤で「LINEを速く書けて、問題なく相手とコミュニケーショが取れている人なら、十分な素材さえ集められれば、長い文章も速く書けます。」(p.58)と仰ってました。LINEに近いSNSを使っていると、意思疏通に時たま問題が起こってしまう私は、果たして、ピザの記事と本記事では、ここの読者の皆さんに伝わっているでしょうか?伝わっているとよいのですが...。 

 

 

3.最後に

以上、上阪徹『10倍速く書ける 超スピード文章術』のレビューでした。先に上阪式を実践された方で、お悩み相談回答者のBSディムさんは、「エッセイなんて、エピソードが無限に湧き出てくるものではないですからね」と仰ってました(「#11 文章を書き綴るオカマ - オカマが気になる一億のコト - Radiotalk(ラジオトーク))。だからこそ、上阪式の「素材」が命の文章術は、情報が物をいうビジネス向けの文章に最適なのでしょう。

 

こういったビジネス向けジャンルの文章には、著者自身が実際に書いたものを事例として出すことがあります。Web上の文章はQRコードでアクセスできるもの、長いものでは本1冊を使って、素材の箇条書きのやり方を紹介し、その中には面白そうな内容のものがありました。特に、こちらの本について、個人的な興味が強かったです↓

 

ほか、『なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?』(あさ出版)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』(同上)など、本書の読者であれば、引用部分に触れただけで読みたくなりそう。実際に、上阪さんが仕上げた本がどのようなものか、確認する目的で手に取ってみるのも、よいでしょう。

 

この本で、私も精進したいと思いました。おしまい。

 

 

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*1:その本がこちら↓ 

 

ラジオを聴く限り、書きあげるのに死にそうだった様子(画像をクリックすると、本の紹介ページに行きます)。

*2:このあたりのテクニックは、本書のことを呟いた時、私がフォロワーさんから教えて頂いたことがありました。こちらから始まる連続ツイートをご覧ください。

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