仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

メモ「日本の戦国時代を読む」~『 #世界の辺境とハードボイルド室町時代 』と星海社新書【 #刀剣乱舞 #FGO 】

<お題「#おうち時間」 その2>

1.引きこもりのと日本戦国期の文献読み~はじめに~

家にいる時間が前にもまして長引いていた2020年の前半、私は積読本の中から日本戦国期の文庫や新書を引っ張り出し、読んでいました。きっかけは、FGOで昨年の夏にあった「ぐだぐだファイナル本能寺」のイベント。これは、現実世界の日本戦国時代がもとになった「各地の戦国大名が全部、信長」な世界で天下統一を目指す、戦略シミュレーション的な要素を持つイベントでした。イベントのストーリーを進めていくと、ゲットできるキャラクターが長尾景虎で、現実世界では上杉謙信として有名な戦国武将です。このイベントで長尾景虎が好きになり、そこから日本の戦国時代の本を買い、読むようになりました。

 

日本の戦国時代に興味を持つうち、とうとう、ゲーム『刀剣乱舞』に手を出してしまいました。半年くらいプレイし、今の推し刀のキャラクターは、次郎太刀と脇差の骨喰藤四郎です。最近はイベント「慶長熊本」で連れ回すうち、弱いこともあって、なかなか、前へ進めませんでした。少し、話が脱線しましたが、私はこういったゲームではキャラクターのプロフィールを読み、現実世界の人物や刀剣にまつわるエピソードを調べては、彼らの生きた(いた)時代をイメージすることを楽しんでいます。

 

もともと、私が研究対象にしていたのは中国前近代の生活文化史・歴史人類学的な分野で、その時代に生きていた人たちの暮らしや精神性を知りたいと思い、調べていました。最近、日本の戦国時代のことを調べていると、やはり、戦乱の中を生きる人々の食生活やメンタリティが気になり出します。そのあたりを知るのに、とっつきやすくて、大学で歴史学を齧った私の欲求を満たしてくれる本を探すうち、こちらの本にたどり着きました↓

 私が買った文庫版は、帯付きでこんな感じ↓

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本書は、アフリカのソマリアをはじめとする辺境地域を取材し、伝えるノンフィクション作家の高野秀行さんと、室町時代の人々の暮らしをフィールドにしている歴史学者の清水克行さんが、己の専門の知見や体験談をもって「ガチでぶつかった奇跡の対談本」です。家に引きこもっている今年の2~4月に、笑ったり、泣いたりしながら、最後のボーナストラック対談、解説まで全体で450ページ近くある本文を読みました。本作で、高野さんは清水さんのよく知らないソマリアソマリランドのことを、清水さんは高野さんのあまり知らない日本の室町時代のことを中心に語り、理解を深めていくのが内容的なコンセプト。のはずが、突き詰めると「(対談者たちにとって)世界の辺境地域のソマリアソマリランドと、過去の世界である日本の室町時代は案外、似ているところがある」と2人が認める展開になっていました。

 

本書は、対談者がお互いに自分の専門でない事柄について、語り合い、質問をし合って理解を深めていくタイプの本であり、話の展開によっては、どちらか一方が講師で、もう一人が生徒になる感じでした。日本の戦国期をよく知らない私が読んでも、スーッと入っていました。率直にいうと、面白かったです。

 

また前置きが長くなりましたが、今回は本書こと『世界の辺境とハードボイルド室町時代』の私から見たポイントを前半でコメントします。後半では、本書の読後に手に取っると理解が深まりそうな星海社新書の日本戦国期の本の紹介ができたらと思います。

 

 

2.『世界の辺境とハードボイルド室町時代』を読む~歴史の中の日本人のあり方と歴史学的な気づき~

 2-1.内容に関する感想コメント~世界の辺境と室町時代から現代世界へ通じること~

簡単な内容は先に説明したので、ここでは本書を読んで発見したことや、個人的に面白かったところを挙げて、コメントしていくことにします。

 

まず、最初のツッコミとしては、本のタイトルに「室町時代」と入っていながら、最初のほうに鎌倉時代の話が出てくること。日本史では中世に当たるという鎌倉時代室町時代は、歴史の流れでは繋がっているので、室町時代を知るには鎌倉時代のことふも触れたほうがよい、というのは分かります。具体的な話は、この2つの時代における法と秩序について、また現代に通じる命の賠償問題のことが説明されていました。命の賠償問題では、基本的に、中世の日本人は自分側の人間が殺されれば、殺した側の人間を殺して、ドローにするという感覚があったんだそう。大雑把にいうと、この頃の考えでは「人の命は別の人の命で贖い、金銭で償えるものではない」というもので、「その精神的な部分は現代日本人にも受け継がれているところはあるんじゃなか?」と。この説明に、私は納得しました。

 

次に気になったところは、室町時代後半の戦国期から織田信長豊臣秀吉による「織豊政権」の時代を経た後、徳川の江戸幕府に至るまでの武装解除にまつわる政策のテーマ。戦うことを生業としていた足軽らに見られる戦乱の気風を含めて、天下統一がされた時代にどう武装解除へ持って行くか、という問題が為政者にはありました。ポイントは、銃や刀剣と結びついた戦乱の暴力的な人々のメンタリティを変えていく方法。

 

例えば、豊臣秀吉が行った「刀狩り」では、実際に各家にある武器を回収したのではなく、持っている武器を確認した後、返却していたんだとか。為政者側が民の武器所持の状況を調査することにより、トラブルが起こった時に民が簡単に銃や刀を持ち出せないよう、精神的なブレーキをかける意図があったんじゃないか、ということが指摘されています。また、第5代将軍徳川綱吉が出した「生類憐みの令」は、例えば、戦国の血気盛んな精神性と結びついたような「犬肉を食べる」ことを禁止したり、鳥銃を登録する制度を強化したりすることで、人々のメンタル面から暴力性を取り除き、江戸幕府が治安を維持する目的があったんじゃないか、と。

 

こうした説明は、今まで自分が気づかなかったものであり、たいへん面白かったです。あとは、食まわりの話が興味深かったです。食事については、室町時代の人は味よりも食べた量を重視していたようで、食べたものの献立で品数は分かるものの、それぞれの料理の味は記録にあまり残っていないようです *1。飲食との関係は、当時の仏教も関係して様子。

 

高野さんと清水さんとの会話にソマリだけじゃなく、インドや東南アジアの話で仏教宗派の違いが出てきたり、宗教施設がアウトローな人々にとって一種の避難所的な「アジール」(聖域)になっていたり。そこから、現代の韓国では、寺院や教会がアジ―ルになっている話が登場。徴税や土地制度と国民性のあり方については、タイでは日本のように共同体や世帯に税金をかけるのでなく、個人単位で徴税する話がありました。タイで共同体に課税すると農民の逃散を招くんだとか。どこでも農産物がとれる土壌の良さがタイにはあり、それを聞いた清水克行さん曰く「日本中世の庶民が知ったら移住してきそうだよね」と。そのツッコミに、私は苦笑いするしかありませんでした。本当に死活問題ですよ。こういう感じで、2人の対談は世界の辺境と室町時代におさまらない部分があって、面白かったです。

 

さすが、呉座先生が自著『日本中世への招待』で、本書をオススメ本に挙げるほどだな、と本記事を書いていて感じました。

日本中世への招待 (朝日新書)

日本中世への招待 (朝日新書)

  • 作者:呉座 勇一
  • 発売日: 2020/02/13
  • メディア: 新書
 

 

 2-2.歴史学関係の気づき~中国史が専門の人や日本史学の入門者におすすめのポイント~

 続いては、本書を読んで分かる日本史学まわりのことです。

 

まず、歴史学で使う文献史料のあり方と手法について、大学で中国史を齧った私にも分かるところがありました。例えば、活字化された史料の量と研究する上での論文の書きやすさのこと。清水さん曰く、日本史研究の中で、出てくる文献(古記録や古文書)が活字化され、くずし字が読めなくても論文が書ける時代というのが、日本中世史だそうです。

 

国史だと、活字の文献史料が(爆発的に)増えるのって、宋代なんです。この時期、印刷技術が改良されて、活字の本の生産量が増えました。次の元代をはさんで、明清期は蘇州あたりの江南地域で出版業が盛んになり 、本の流通量が一気に増加。科挙四書五経の本や娯楽の書籍も刷られてたみたいです。

 

中国に比べて、日本の活字印刷の本の流通が増えた時期というと、私は江戸期を思い浮かべました。なので、自分のイメージでは、日本中世というと手書きの記録や書状が主で、くずし字の史料が読めないと困るんじゃないかと考えていました。それらのくずし字の史料が現代で活字化(≒翻刻?)されているのは、研究のしやすさの程度がイメージしやすいんです *2

 

一方、中国の宋代、明代、清代は、先のような印刷技術と出版業の背景があって、それ以前よりと活字の史料が多く、専門の研究者は、文献を読むのが追いつきません!活字の文献が多いということは、1つの史書や作品につき、バージョンが複数ある可能性が高くなるということ。いわゆる版本の問題。中国の歴史学や古典文学の分野で、ある程度の版本知識が要るのは、こういった事情があるんです。

 

史料の事情が分かると、対象地域が違っても、研究しやすさの理解にも繋がるのではないでしょうか。取り扱う史料の種類や事情は、時代や地域にもよりますが、自分の研究対象地域の基本的なことが頭に入っていると、ほかの地域の事情のイメージはしやすいです。そういう意味で、『世界の辺境とハードボイルド室町時代』は、中国の歴史を研究されている方にもオススメです。

 

そのほか、日本史学の入門者にとっては、第4章に入ると、網野善彦さんのスゴさを清水克行さんが話すシーンがありました。研究手法については、最近の日本史学者は民俗学的な聞き取り調査を取り入れている人がいて、オーラルヒストリーのことに少し、触れられています。その関連で、民俗学者宮本常一が村落に古く伝わる慣習を聞き出すため、実践していた方法が出てきて、ある種の伝統的な日本の共同体のあり方が窺えて面白かったです。こうした話は対談のあちこちに出ていて、日本中世史の入門者には有り難いんじゃないでしょうか。

 

そうそう、清水さんの話には、ご自身の経歴から歴史学の大学院生や研究者のキャリアに関する話が出てきました。本書の第5章では、博士課程を満期取得退学した後、既に結婚して高校で臨時講師をしていた清水さんが、一般向けの本を書くようになった経緯が語られていて、知りたい人には欲しい情報だと思います。

(そのあたりの関連記事↓

大学院に行きたいと思ったら知るべき「初歩」のこと~大学院の進学システムと就活~ - 仲見満月の研究室

 

忘れちゃいけないのが、脚注の情報。一般人の読者が知らないソマリアや、日本史の用語、各章に登場する歴史学者の解説が、本文下の脚注に出てきます。日本史学の入門者が「この研究者、誰?」と感じても、最低限、読んだら本文内容を理解するのに困らない説明があって、助かる!もっと知りたくなったら、脚注の事項をネット検索したり、出てきた本を読んだりすることもできるでしょう。

 

 2-3.小結

だいたい、本書を読んで面白かった部分と、歴史学やっている・始める人には有用そうなところは、覚えている限り、挙げられました。一点、注意することがあるとすれば、現代日本の歴史政治状況に高野さんと清水さんがコメントしてい箇所でしょうか。

 

感染症対策の政策や様々な法案の審議をめぐって、批判されている日本政府の状況を知っている人が読むと、けっこう、精神的にしんどくなるかもしれません。私の場合、色々と3月の新興感染症を取り巻く状況が重なり、本書のレビューをしてくても文章への出力が苦しく、ノートPCを畳んだことがありました。特に、本書の終盤とボーナストラックのあたり、読んでいるとキツかったです。

 

 

3.むすびに『世界の辺境とハードボイルド室町時代』読了後の『刀剣乱舞』ユーザー向け推薦書~星海社新書の日本戦国期タイトル~

最後に、この対談本を読み終えた後に読んだら日本の戦国時代に対する理解が深まる新書を簡単に紹介しときます。今回は、合同会社志学者の代表取締役で編集者の平林緑萌さん(墨子の研究者でもある人)が担当された、星海社新書の本2つに触れることにしました。

 

今福匡上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』2018年

上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩 (星海社新書)

上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩 (星海社新書)

  • 作者:今福 匡
  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: 新書
 

FGOで私が好きになった長尾景虎こと、上杉謙信の生涯について、歴史ライターの今福さんが『上杉家御家書』や『上越市史』はじめ、様々な論考や図録などを参照しつつ、綴った評伝です。章の見出しが、謙信の生涯における各年代ごとの名前(景虎、宗心、政虎など)になっていて、謙信のたどった波乱に満ちた生涯が窺えました。ところどころ、謙信のイメージについて、後世の創作部分と文献史料で確認できる情報とを分けて検討した箇所があり、そこは学術的に信頼して読めます。ゲームの『刀剣乱舞』ユーザーには、p.104あたりに太刀の「山鳥毛」が上杉謙信に渡った経緯が検証されていて、読むと面白いかもしれません。

 

●大石泰史編『全国国衆ガイド 戦国の”地元の殿様”たち』2015年

エディターの平林さんが担当した星海社新書のうち、「分厚くて自立する本」の1つがこの『全国国衆ガイド』で、全部で494ページ。最初、タイトルにある「国衆って何?「こくしゅ」って読むの?」と考えた私が調べたら、国衆は「くにしゅう」と発音し、サブタイトルにある「地元の殿様」を指す言葉なんだとか。 じゃあ、「”地元の殿様”って、具体的に誰がいるんだろう?」と目次を見ていると、上杉謙信と関連のある一族では第4章の北陸地域(東部)に、

などが項目に出てきます。各氏には見出し下に家紋が入っていて、鎌倉時代と戦国時代の領地や本拠地(?)の変遷や移動、仕えた主君や敵対した一族の名前が出てきて、その氏の人々の歴史が簡潔に説明されていました。各章末には、地域ごとの合戦や用語のパートがあって、パラパラ捲るだけでも楽しい!最近は『刀剣乱舞』の推し刀の勉強で、刀剣の持ち主たちを探して、辞書を引く感じで読んでいます。巻末に、氏を五十音順に並べた索引があったら、もっと便利だったかもしれません。そうはいっても、日本全国の国衆をある程度、一括して読めるという意味で、本書は価値があるでしょう。p.468~469の「和暦西暦対応表」は、便利。もちろん、巻末には文献リスト付きで、学術的な信頼性があり、もっと知りたいひとにも対応しています。

 

以上、2冊。星海社新書には、このほか、戦国時代の人物の伝記や列伝、研究の最前線を取り上げた本が出ているようですので、また見つけて読んでみたいと考えています。

 

今回は、ここまで。おしまい!

*1:お酒に関しては、室町時代に作られていたお酒には濁り酒があって、室町の将軍には飲み過ぎて慢性的なアルコール中毒で健康を害したとか、酒税をかけることで食糧となる米の量を確保したかったとか。

*2:余談ですが、江戸時代が専門の日本史研究者で、くずし字が読めなくても論文を書いている方がいたと聞いて、学部生の時の私は驚きました。本書を読んで、活字化された史料の存在を知り、謎が解けたように思います。

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