仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

返還前後の香港を見つめた日本人~星野博美『転がる香港に苔は生えない』~

 

 

 単行本があったんですが、現在、絶版になっている模様。なので、文庫版だけリンク張ってあります。この本も、実は単行本のほうの装丁が好きな私です。

 

 数年前、どこかの古書店チェーンで見つけ、感じるものがあり、購入。大学で現代中国史の授業をとったとき読み始め、今に至る。

 

 前のこの記事↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

と合わせて読むと、現代中国がより分かりやすいと思います。

 

(内容のレビュー:以下、ネタバレ注意)

 

 著者は、カメラマン・ノンフィクション作家。幼い頃、中国に憧れて育った少女は1980年代後半、20歳で香港中文大学に留学。その後、仕事で大陸の中国と関わりながら、いつかの香港再訪を夢見る。

 

 本書は、返還前の香港へ再び渡った著者が香港中文大学に通いつつ、生活するうちに出会った下町の人々、かつての同級生たち、大陸から密航してきた中国人家族、そして大陸と台湾の間で揺れる男など、背景に計り知れないものを抱えた「群れ」、香港と向き合った記録である。

 

 単行本も文庫版も、とにかく厚い!どっちも600ページ前後。それだけ、著者が人と出会い、彼らと重ねた時間を丁寧に書き綴っている。

 

 

 例えば、哲学科の院生でコラムニストの文道の場合。生まれは香港、育ちは台湾。国共内戦の国民党闘士だった祖父によって、「古き中国」の詰まった屋台で育てられる。荒れた思春期を送った文道は香港に返され、勉強の末、香港中文大学へ進んだ。

 

「僕が今考えていること、ものの見方、それらはすべて香港で発生した。だから僕は香港人だと思う。」

 そう答える文道は、ニューヨークに5年間しか住んでいない「ニューヨーカー」に共感する。

 

 こんな彼らと過ごす日々の中、所詮、日本から来て香港を去りゆく存在の著者。だからこそ、著者は交錯する香港に立会い、自分の感情にひきつけ、生々しく複数の"生き様"を書くことができたのだろう。

 

 

 香港が返還されて、今年で13年目。イギリス領から中国領となった香港の今と返還当時を本書で振り返るのもよいでしょう。

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