【ニュース】「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ」(大学ジャーナルオンライン)~主に就職問題~
<今回の内容>
- 1.はじめに
- 2.「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ」( 大学ジャーナルオンライン)の内容について
- 3.今回の大学ジャーナルオンラインの報道等に対するネットでの反応
- 4.その他のネット上での反応~結びにかえて~
1.はじめに
博士号取得者、特に若年世代の博士研究者=ポストドクター(ポスドク)の流動化、秘跡雇用として使われ続ける不安定さ等についての就職問は、以前、次の記事で詳しく取り上げました:
上記の記事では、
河北新報が報じるところでは、博士課程後期修了者が就職難となる「ポスドク問題」には、
国が進めた「大学院重点化計画」による定員の大幅な拡大がある。1993年度の大学院博士課程修了者は約7400人。それが今や1万5000人を超えるまでに増えた。急拡大した「入り口」の一方で、「出口」の充実策は不十分だった。
という、政策の失敗があったと考えられます。「出口」について、国は「ポストドクター等1万人支援計画」と称し、有期雇用の職を各研究機関に打診し、職はできたけれど、任期付きのポストばかりで、不安定な雇用状態のポスドクが増え、「流動研究員」と化したのでしょう。肝心の准教授や教授のポストが増えないまま、「財政悪化」や「少子化」で大幅に予算が削減されていき、現在に至るようです。
Twitterで拾った噂では、団塊世代の大勢の大学教員が退職した後、特に国立大学ではそのポストを減らしていき、若手の就職口が急速に無くなってきている、とのこと。表向き、ポストの削減が分からないのは、学部や研究科の統廃合やカリキュラムの改編を合わせて実施しているとも、私は妄想しております。
(続・博士卒のアカデミックポスト就職の現実~「ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる」(河北新報オンラインより)を起点に~ - 仲見満月の研究室)
Twitter上の噂をもとに、私がした「表向き、ポストの削減が分からないのは、学部や研究科の統廃合やカリキュラムの改編を合わせて実施している」という妄想は、以前として現在も噂に上っております。このポスドク問題について、追加の報道が別媒体で出てしまいました:univ-journal.jp
上記の大学ジャーナルオンラインのニュース記事への反応には、これからの日本の職業研究者のあり方、先日、教育と研究の業務分離の話ほか~「奨学金問題の根本原因は教育・雇用の歪みだ」(東洋経済オンライン) ~ で書いた、大学や大学院における「教育と研究の業務分離」ともかかわってくるため、本記事で取り上げることにしました。
鈍痛の走る両手指、および誤変換のある音声入力によって、読みにくい箇所はあると思いますが、どうか広いお心でお読みいただけると幸いです。
2.「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ」( 大学ジャーナルオンライン)の内容について
さっそく、取り上げるニュース記事を読んでいきましょう。
2017年8月14日
ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ
大学ジャーナルオンライン編集部
文部科学省科学技術・学術政策研究所が博士の学位取得者や所定の単位を修得して退学したポストドクターの雇用状況や進路を調べたところ、大学教員へ進める人が1割以下にとどまることが分かった。正規職に就けないまま不安定な立場を続けることが、若手研究者が不足する現状を招いたと指摘する声もある。
調査は2015年度現在のポストドクターの雇用状況と進路について、2016年度に全国1,168の大学、試験研究機関などへ調査票を送付、うち1,147機関から回答を得た。
それによると、2015年度のポストドクター数は1万5,910人で、前回調査の2012年度から250人減少した。男女別内訳は男性が71.1%、女性が28.9%。平均年齢は36.3歳だった。
国籍は日本が1万1,465人で全体の72.1%を占めた。外国籍が4,445人で、27.9%。外国籍のざっと7割を中国、韓国、インドなどアジア系が占めている。専門分野は理学が36.5%で最多となり、以下工学、保健、農学と続いた。
雇用財源は競争的資金が25.5%を占めたほか、外部資金も11.7%あった。基盤的経費など自主財源で雇用した例は全体の32.7%にとどまっている。
前職は博士課程の学生が29.2%、別の機関のポストドクターが33.2%。進路は同一機関でポストドクターを継続する人が56.5%と過半数を占め、大学教員への転身はわずか9.4%にとどまった。
ポストドクターのほとんどが任期付きの非常勤という不安定な立場になる。日本社会は非正規労働者に厳しいとされるが、ポストドクターが正規職に就くのが非常に厳しい実態があらためて浮き彫りになった。
まず、 「2015年度のポストドクター数は1万5,910人で、前回調査の2012年度から250人減少した。男女別内訳は男性が71.1%、女性が28.9%。平均年齢は36.3歳だった」ということで、男女比は約7:3、平均年齢は36.3歳。
先に私の文理総合系大学院時代の周りの方々の実例を、独身、既婚の各実例を挙げておきます。独身では、留学生の方で、兵役を終えて自国の大学院を修士課程まで修了した後、日本の大学院博士課程に留学し、博士号を取得してポスドクになると、台湾や韓国の方は、このくらいの年齢になっていました。日本人の先輩だと、助教先生たちは、もう数年早く、30代前半で任期付き(業績次第でテニュアへ移行あり、他)の助教職へ移っていらっしゃいました。
既婚者では、社会人の方と学生結婚してから、二人目を配偶者の方、あるいはご本人が出産後、お子さんの預け先を確保して、復帰しようとする方にガクシン特別研究員のポスドクの方がいらっしゃいました。
いずれも、人文・社会学系と理系の境界分野の方々の例です。人文・社会学系オンリーだと、平均年齢よりも少しポスドクの方の年齢が上昇します。理系だと、もう少し年齢が下がって、アラサーから33歳くらまでの人たちがいました。
参考文献として、挙がっている「【科学技術・学術政策研究所】「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」の公表について」の調査結果のPD資料を開くと、様々なデータがグラフ付きで載っていました。
大学ジャーナルオンラインのニュース記事でふれられていることは、次の第3項で取り上げます。
たぶん、この右側の円グラフの「アジア」の出身国や地域の割合は、日本の大学院博士課程に留学してきているアジア地域の出身者の割合と重なると思われます。それこそ、私のいた大学院には、中国人、台湾人、韓国人、インド人がおりまして、日本語か、中国語か、英語のどれかが達者な方々で、優秀な方々も多く、いろいろと個人的に研究業績の点で同じ分野をやっているライバルたちに対し、自分のできなさに危機感を覚えていました。
「【科学技術・学術政策研究所】「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」の公表について」の調査結果のPDF資料には、彼ら外国籍のポスドクの人たちが、その後、どのくらいの割合で日本の研究機関や民間企業に就職しているのか、そういったデータは詳しく追跡して頂きたいところです。特に、日本語と英語が共通語の理系の勤務先になると、日本人のポスドクたちは、ポスドク全体の約3割を占める外国籍の博士号取得者と、少ないアカデミック・ポストを争わなければならないのです。
(まあ、このことは何も理系に限った話ではありませんが…)
3.今回の大学ジャーナルオンラインの報道等に対するネットでの反応
さて、「ポストドクターから大学教員への道険しく、文部科学省調べ」のニュース記事、および「【科学技術・学術政策研究所】「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」の公表について」の調査結果のPDF資料については、様々な反応がネット上でなされていたようです。
その中でも、工学者の吉川英光さんのFacebookでシェアされた際の指摘文が示唆に富んでいました。以下にポイントを整理してから、ポスドク問題に私のほうで言及をしたいと思います。
3-1.吉川英光の指摘について
吉川英光さんのFacebookでシェアされた際の指摘文は、長めの指摘文ですので、箇条書きに整理させて頂きつつ、調査結果のPDF資料のグラフも入れていきます。
- (文科省の調査では)ポスドクが「1.7万人居て、それでも9.4%は翌年大学教員に職種変更している」→吉川さんは「2012年くらいあれば(1-0.094)^12=0.31となり」、粘り続ければ70%くらいは大学に吸収されているのかもしれない、と思った。しかし、「「特任教員」という任期付きの教員ポストに移っているとしたら研究リーダー(PI)には成れ」るが、「パーマネントで」はない、と指摘。
- 「翌年の進路」(図P-7)が不詳・死亡等が11.0%という把握できていない部分が大きい」のは、闇。
- 「前職の分布」(図P-6)では、「毎年3割のポスドクが新卒の博士取得者から供給され、3割はポスドクを継続、残り3割がそれ以外から」の出身者。「その中に大学教員が9.5%」、約1割というのは、翌年の「大学教員9.4%とほぼ同数」であり、ここで均衡している模様。
- 男女比7:3、および「平均年齢36.3歳」というのは、「研究者としてはこの年齢あたりまでで頭角を現せないとその先は厳しいのかな」というのが吉川さんの印象。「ポスドク1万人計画(第1期科学技術基本計画1996-2000)の一番最初の世代がそろそろアラフィフに差し掛かろうとしていますので、年齢分布も気になるところ」。
- 良し悪しはともかく、「ポスドク1万人計画の理念から20年経過してオリジナルのキャリアパスが大体できあがって固定化」されてきている。確実に変化はしているが、「結果的にはグローバル競争に伍することができず、「科学技術力を低落」させた」わけだから、「この状況を放置せず、若い世代の研究環境が論文生産性の向上につながるよう。「軌道修正する」方策が問われていると思う。
以下、仲見満月が吉川さんの指摘文に対し、コメントしてゆきます。
まず、1と3のポスドク→大学教員への大雑把な昇格の成功率は、約1割で10パーセントということが分かりました。ただ、1で示唆されているように、おそらく、成功率の中には「特任教授」といった任期付きの正規職でないポストも多く含まれていると言えるでしょう。
2のポスドクの「翌年の進路」で、「不詳・死亡等が11.0%という把握できていない部分」は、「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jpで書いた、「大学院の博士課程の院生には、音信不通、行方不明になる人が、ポツポツと出てくるんですね」という事実と重なってきます。
より細かく数字を出しますと、メンヘラ.jpの記事の文末註5に紹介した「NAVER まとめ.「世界がもし100人の博士だったら」の行方不明者数に驚く」((オリジナルの出典元は、こちら:http://www.geocities.jp/dondokodon41412002/index.html))の作者不明の童話「世界がもし100人の博士だったら」のラストにある、博士号取得者100人のうち、毎年8人が行方不明者か死亡していること、および、「実際、毎年1000人の博士が行方不明か死亡している」と記されています。この「毎年1000人の博士が行方不明か死亡」という数字は、今回発表された調査結果のポスドクだった人の「翌年の進路」について、「「不詳・死亡等が11.0%」で、具体的な人数として1742人と計上されています。
つまり、博士号取得者とポスドクの人たちが次の進路を目指した結果、どちらも毎年、1000~1700人が行方不明になる、最悪の場合は亡くなっていると言えるでしょう。
4と5の「「ポスドク1万人計画」に関しては、続・博士卒のアカデミックポスト就職の現実~「ポスドク問題/「出口」対策が弱すぎる」(河北新報オンラインより)を起点に~ - 仲見満月の研究室で詳しく触れました。簡潔に私の見解を述べますと、国が進めた「大学院重点化計画」と合わせて、出口としての「ポスドク1万人計画」は、安定した高学歴研究者の雇用増加としては失敗だったし、国の研究基盤を破壊してしまったと言ってもよい、ということでした。現状を鑑みると、軌道修正は国のリーダーを交代させない限り、困難ではないでしょうか。
3-2.吉川英光の指摘に対するまとめ
吉川さんの指摘文を整理し、仲見がこれまで調べてきたことからコメントした結果、次のようなことが分かりました。
- ポスドク→大学教員への大雑把な昇格の成功率は、約1割で10パーセントということ(ただし、成功率の中には「特任教授」といった任期付きの正規職でないポストも多く含まれていると言え、雇用の安定性には疑問が残る)
- 博士号取得者とポスドクの人たちが次の進路を目指した結果、どちらも毎年、1000~1700人が行方不明になる、最悪の場合は亡くなっている可能性があること
- 国が進めた「大学院重点化計画」と合わせて、出口としての「ポスドク1万人計画」は、安定した高学歴研究者の雇用増加としては失敗だったし、国の研究基盤を破壊してしまっており、立て直しは現状の日本では非常に難しいこと
特に、2つ目の行方不明者、死者が1000~1700人の数字には、本ブログで扱ってきたハラスメントに関係する人々、ラボでの長時間拘束による過労、就職口が見つからずに貧困生活を続けた結果の不健康な生活、これらを間接的な原因とする心身への継続的なダメージが少なからず、存在していると考えられます。
以上のような若手研究者の心身を蝕む研究環境、生活実態についても、医療的なケアを施し、次世代の研究者を育てるという意味で、重要な施策になるのではないでしょうか。
4.その他のネット上での反応~結びにかえて~
Twitterや今回のニュース記事への反応を拾ってみると、
- 早急に大学をはじめとする研究職のポストを増やすべき
- むしろ、民間へのポスドクの転職活動を促すべき
- ポスドクの全員が全員、授業指導に向いているとは思わないし、希望していないで研究業務に没頭している人もいるので、大学教員を目指さない人もいるのでは?
といったものが、ありました。博士号取得者の多様なキャリアパスとして、2つ目の施策実行、人材紹介会社への支援は、もっと促進してもよいと思います。
3つ目については、教育と研究の業務分離の話ほか~「奨学金問題の根本原因は教育・雇用の歪みだ」(東洋経済オンライン) ~ で詳しく書きましたように、博士号取得者の誰もが授業で学生を教えるのがうまく、その技術を積極的に高めたり、それを楽しんだりしているわけではありません。逆に、研究業務よりも、指導教員として、学生の成長を促し、教え導くことに喜びを見出し、そちらのほうが論文を書き続ける研究よりも向いていると自覚している方もいらっしゃるでしょう。
そのような視点から、そろそろ、大学や大学院では、教育職員と研究職員のポスト分離を開始してもよいのではないかと、私は考えております。
ニュース記事の参考となった、 「【科学技術・学術政策研究所】「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」の公表について」の調査結果のPDF資料は、本記事でコメントしたこと以外にも、今後の日本の研究業界を考える上で、様々なことが読み取れるでしょう。ぜひ、読者の皆さま、読まれてみてはいかがでしょうか。
今回は、ここでおしまいです。お読みいただき、ありがとうございました。
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