仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系のなかみ博士が研究業界の問題などを幅広く考えるブログ

歴史上の人物の伝記と人気スマホRPG~「「FGO効果」で…ついに4刷目へ 大反響『正伝 岡田以蔵』の版元に聞く」(ねとらぼ)~

<人物伝と人気スマホRPG

1.はじめに

昨日18日、人気スマホRPGFate/Grand OrderFGO)』の第2部第2章が配信開始となり、ネット界隈でちょっとした騒ぎになっていたようです。今回のアップデートでは、北欧神話に関連するキャラクターが新規サーヴァント*1として登場しました。例えば、シグルドやワルキューレが実装され、ガチャでは、既に登場済みのブリュンヒルデがピックアッップ対象になっています。先週末に突然、実装されたナポレオンについては、第2章のサブタイトルにある「快男児」との関係から、私はプレイしていないものの、世界史の教科書をめくりながら、ナポレオン戦争が今回のストーリーにどう絡んでくるのか、楽しみになっていました。

 

盛り上がっているFGOですが、古今東西の人物がキャラクターに登場するということで、意外なところでその影響が出ているというニュースをキャッチしました:

nlab.itmedia.co.jp

(青柳美帆子「「FGO効果」で続々重版、ついに4刷目へ 大反響『正伝 岡田以蔵』の版元に聞く」、2018.07.18、11:15、ねとらぼより)

 

ニュース記事によると、先月13日に配信され始めたイベントで、日本の歴史上の人物達が多く登場し、サーヴァントとしてストーリーに絡む「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」(以下、「帝都聖杯奇譚」) をきっかけに、幕末の人物の伝記や関連書籍が急に重版されていった、ということ。その主な人物は、新規実装されたサーヴァントで、★3のレアリティで暗殺者クラスの「岡田以蔵」です。本記事では、この『ねとらぼ』のニュースを通じて、歴史上の人物の伝記および人文社会系の版元が人気スマホRPGからどのような影響を受け、著者はどういった方でどのような内容を書いているのか、など、ニュース外の情報を加えながら、見ていきたいと思います。

 

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2.「「FGO効果」で…ついに4刷目へ 大反響『正伝 岡田以蔵』の版元に聞く」(ねとらぼ)から分かる人文社会系の版元が受けた影響ほか

今回、FGOイベントによる効果で売り上げが伸びたのは、ニュース記事のタイトルに入っている次の本です:

 

ニュースをチェックした18日の夜は在庫がなくて、中古品しかなかったのが、本記事を書いている19日の午後には新品在庫が復活しておりましたよ、アマゾンさん。でも、またすぐに売り切れちゃいそうで、注文するタイミングがつかめないですよ~。読みたいのにな…。さて、この本は、ニュース記事の筆者・青柳さんによると、「幕末に「人斬り以蔵」として恐れられた岡田以蔵の謎多き生涯を、一次資料からまとめあげた伝記」です。私が知っているところでは、岡田以蔵土佐藩郷士で、司馬遼太郎の小説に取り上げられた幕末でも有名な暗殺者というくらいでした。

 

版元は、「戎光祥(えびすこうしょう)出版」で、日本史や城郭、神社や神道、鉄道や銭湯、ミステリーまで、幅広いジャンルながら、人文系中心の書籍を出している出版社と見られます:歴史、城郭、神道など書籍の出版・販売|戎光祥出版株式会社

 

インタビューでお話をされた編集長の丸山裕之さんは、私が少し調べたところ、どうやら、ご自身は日本の室町時代がご専門であり、学会で発表されたり*2、複数の学術誌に論文を発表されたり*3している、現役で活動されている方のようです。ご経歴は不明ですが、出版者のお仕事をされつつ、研究の成果ををコンスタントに上げておられる印象から、在野に近い立場の職業研究者といってよいかもしれません*4

 

そのように現役の日本史研究者でもある丸山さんによると、出版社の公式Twitterにて、「『FGO』に岡田以蔵が出てきているから、そちらの出版社さんの伝記を宣伝したほうがいいのでは?」と、すすめられたそうです。「FGOの「帝都聖杯奇譚」を楽しむ人たちに、会社で出している幕末の人物達の本が届け~!」(仲見による意訳)とツイートで宣伝しました。ニュースを読んでいて、文芸作品やサブカルの本も出している出版社なので、社員さんにはFGOのプレイヤーがいるのかな?と私は思いましたが、丸山さんどはじめ、社員の方々にプレイヤーはいなかったようで、少し驚きました。

 

先月13日の最初ツイートは1000RTを超え、日本各地のオンライン・現実の書店ともに、在庫がスッカラカンになったようです。丸山さんたちは緊急会議による重版を繰り返しますが、『正伝 岡田以蔵』は売れ続け、以蔵の命日に当たる7月3日には2刷で1000部の追加重版が決定しました。ゲームや漫画といったメディア作品の影響で、この会社の本が重版となったというのは、今回が初めてだそうです。

 

以前、弊ブログでは「【2016.12.2追記】Why academic books are very expensive ?~研究成果としての学術書の出版とその問題~ 」で、学術書の価格帯や出す部数について、触れたことがあります。研究の成果として出される学術書の最低価格帯は、3000~4000円。それに対して『正伝 岡田以蔵』は1600円台で、「授業で使う教材の話~大学・大学院の教科書をめぐる問題~」の説明を借りれば、「1500~2000円の価格帯で、一般文芸書ほど」で、学術系の書籍では「○○選書クラス」ではないでしょうか。乱暴に言えば、現役の日本史研究者が編集長をつとめる人文系ジャンルに強い出版社では、「一般向けの学術要素のある伝記」と私は捉えました。研究の成果としての学術書は、よく読まれると私が考えている政治学系で500~1000部であり、他の分野の本は一般向けでも、出版から4年経てば絶版することも珍しくないようです。『正伝 岡田以蔵』を日本史の学術系要素のある書籍としてみれば、出版4年目にして2刷で1000部の追加重刷というのは、人文社会系のジャンルではスゴイことなんです。

 

 

3. 『正伝 岡田以蔵』の著者はどんな人?本の内容は?

ニュース記事を途中まで読んだところ、著者の松岡司(まもる)さんのことが、私は気になりました。編集長のように、現役の研究者なのか、大学や大学院で日本史を専攻されていたのか。私自身、文理総合系大学院出身の博士ですが、人文系のテーマで博士論文を書いたこともあって、松岡さんの学術的なバックグラウンドに関心を持ったのです。

 

先の『正伝 岡田以蔵』のアマゾンページの「著者略歴」によると、松岡さんは、

昭和18年(1943)、高知県佐川町生まれ。法政大学大学院日本史学専攻修士課程中退。佐川町立青山文庫館長を経て、現在は執筆や講演活動を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

正伝岡田以蔵 | 松岡 司 |本 | 通販 | Amazon

とありました。岡田以蔵と同じく、高知県出身の方で、修士課程で日本史学を専攻されていたことが分かります。青山文庫館長や、執筆、講演活動をされていることから、歴史学の基礎的な手法を修められた後、民間で歴史研究を進められているように感じました。ネットで少し調べたところ、「「龍馬研究への提言」刊行 高知市の歴史研究家・松岡司さんら論文|高知新聞」等から、例えば、幕末の土佐藩士に関する文書の真偽をめぐる研究論文を郷土研究のグループで出している刊行物に載せておられました。

 

意欲的に研究活動をしておられる松岡さんは、どのような立場で著書を書いておられるのでしょうか。その著者が本を書いたスタンスについては、使った参考文献の種類と数を見ると、ある程度は分かる、と私は学部時代に文献に関する授業で習ったと記憶しています。そのあたりを知るため、私は松岡さんの次の著書を少し、覗いてみました*5

 

中岡慎太郎は土佐出身の志士で、坂本龍馬たちと薩長同盟に尽力した人物です。明治維新を目前に、1867年末ごろ、京都の近江屋で坂本龍馬と同席していたところ、何者かの襲撃を受け、亡くなりました。この本は、その激しい生涯をつづった評伝です。中岡慎太郎の生い立ちから、彼に関わった人物達の回顧録や著作集を引用しつつ、時に読者に語りかける調子の文章で書かれ、また、ある時は史料(資料)の調査で赴いたところの描写をはさむ感じで、話が進んでいきます。巻末の「主な引用・参考文献」には、旧土佐藩大名家に伝わると思わしき史料集、地元の『高知県史・近代史料編』ほか、『高杉晋作全集』といった同時代の志士たちの文書を集めた出版物など、様々な文献が挙がっていました。文献の構成が分解されて並べられているところもあり、文献リストから丁寧な調査手続き、丹念な執筆をされていることが窺えました。

 

人物伝ということで、学術誌に掲載されるものとは別の方向で、例えば、中岡慎太郎は走るのが速かったとか、生前の特徴や性格を記述しておられます。私の受けた印象では、歴史学的な手法を用いて文献に当たりながらも、取り上げられている人物を等身大の人間として描き出すところは、物語に近い雰囲気で、一般読者に読みやすいのではないでしょうか。

 

 

さて、今回の『正伝 岡田以蔵』は、どんな内容なのでしょうか?ニュース記事の丸山編集長によると、戎光祥出版の「歴史書」は「史料に基づいた最新の研究成果を分かりやすく読者の方に伝えることをモットーとし」ており、『正伝 岡田以蔵』もそのモットーに沿いつつ、以蔵の

  • 食べ物の好き嫌い
  • くせのある身体の動き
  • 女性経験について

といった、現在だとプロフィールに載りそうな人間臭いところまで書き出しているとのことです。

 

メディア作品のユーザーは、キャラクターの特徴や性格、趣向に魅力を感じますから、FGOだとサーヴァントのもとになった実際の人物がどうであったのかは、非常に気になるところです。本書は、そのあたりを突いたものであり、そういった意味で買う人が後を絶たないのでしょう。

 

 

4.最後に

丸山さんの「観測」では、FGO経由で以蔵に興味を持ち、『正伝 岡田以蔵』を買ったという人は、ほとんどが若年世代の女性だそうです。ブームになり、読者層の広がりには社員の皆さんも驚いているようですが、たぶん、FGOの以蔵の「中の人」が吉野裕行さんという、人気声優だというのも、大きいと私は思っています。

 

この本に加えて、戎光祥出版では『図説 坂本龍馬』も売れ行きが好調だそうです。「帝都聖杯奇譚」において、以蔵と「坂本龍馬」は因縁や複雑な関係にあったという設定です。実装された「坂本龍馬」は、クリア報酬の配布対象の★4レアリティで騎兵クラスのサーヴァントであり、傍には、龍馬に助けられた縁で、人間の女性姿で控えている龍に似た存在のオロチ「お竜さん」がいます。ここらへんの設定の元ネタを探して、『図説 坂本龍馬』も読んでみると、また楽しさが違ってくるのではないでしょうか。

 

以上、『正伝 岡田以蔵』の版元にFGOが与えた影響の様子と、その本の著者や内容について、見てみました。FGOは、新サーヴァントが登場するたびに関連の専門書やメディア作品がベストセラーになるという、私にとっては、人文系の方面に興味を持つ人達を増やしてくれる有り難い効果を出すゲームです。様々なアクシデントやトラブルも聞きますが、第2部は最後まで続いて完結して欲しいな、と思いました。

 

おしまい。

 

 

 

 

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*1:ユーザー、すなわち主人公がマスターとして共に戦う一種の使い魔的な存在。古今東西の神話や歴史上の人物が召喚される他、広く読まれている著名なフィクション作品の登場人物が召喚されることもある。

*2:CiNii 論文 -  足利義教と朝廷--「恐怖之世」の再検討 (2008年度駿台史学会大会 研究発表要旨)

*3:CiNii Articles 著者 -  丸山 裕之

*4:ちなみに、丸山さんご自身は、次の室町時代に関する本を戎光祥出版より、出されています:

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