仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【2017.5.6_2130追記】映画『夜は短し歩けよ乙女』見てきました~森見登美彦と「京都学生もの」ほか~

<今回の目次>

  • 1.はじめに
    • 2.映画版『夜は短し歩けよ乙女』全体の内容と感想コメント
    •  2-1.春パート:夜の結婚パーティーと木屋町
    •  2-2.夏パート:下鴨納涼古本まつり
    •  2-3.秋パート:学園祭
    •   2-4.冬パート:流行風邪をひいた人々の病床
    •  
  • 3.本作全体へのコメントと他の作品との比較
  • 4. 最後に(2017.5.6_2130追記)
  • 5.関連する記事

1.はじめに

皆さま、連休、いかがお過ごしでしょうか?私は、ずっと気になっていた『夜は短し歩けよ乙女』の映画を見に行ってきました。この作品は、同名の京都を舞台とする大学生たちが登場する小説を手がける作家・森見登美彦氏の原作にした作品です。

 

原作者自身は京都大学大学院の農学研究科で竹の研究を行って修了。国立国会図書館の職員をしながら、数々の幻想的な小説やエッセイを執筆。一時、複数の作品を並行して執筆してたことや多忙が重なったためか休筆した後、作家活動を再開したそうです。現在は、国会図書館を退職して専業作家になっているようです。

森見氏は、同大学法学部出身で、京都の様々な大学の学生が登場する『鴨川ホルモー』シリーズで知られる小説家・万城目学氏と親交があるようです。私は森見氏と万城目氏を合わせて、勝手に「京大”おちゃら系”作家」と呼んでいます(お二人は、決して、おちゃらけた作品ばかり、書かれているわけではありません)。

 

さて、この小説版『夜は短し歩けよ乙女』(以下『夜乙女』)は、2006年に単行本として出版されました。第20回山田周五郎賞を受賞し、2007年の本屋大賞の第2位にランクイン。それから十年ほど経ちますが、根強い人気をほこり、 今年の4月に映画版が公開されました。次の本が原作小説です: 

 

 

主要人物は、京都の大学に通う男子大学生で星野源が演じる「ある先輩」(以下、先輩)と、先輩が思いを寄せる相手で花澤香菜演じる「黒髪の乙女」(以下、乙女ちゃん)。映画版では、乙女ちゃんの大学OB・赤川先輩の結婚パーティーに出席し、彼女に「ナカメ作戦」(なるべく彼女の目にとまる作戦)にてパーティーの別席で彼女を探す先輩、それぞれの語りからスタートします。原作では、結婚パーティーのあった春の夜、夏の下賀茂神社の納涼古本市、秋の学園祭、冬の流行風をひいた人々の病床を、天真爛漫で何事にも物おじせず、好奇心のままに歩き回る乙女ちゃんの1年におよぶ冒険譚を扱っています。映画版では、約90分という時間尺におさめるべく、乙女ちゃんの冒険を「一夜のファンタジー演劇」として演出し、彼女を追いかけて動き回るヒロイン的な先輩の様子とともに、原作のテイストを失わない仕上がりになっています。

 

実は、ヒロイン的な先輩(CV:星野源)には「就活を先延ばしにして大学院に進学」するという設定がついています。しかも、舞台は政令指定都市で最も大学生・短大生などの学生が多い京都市!そういうわけで、本記事では映画版『夜乙女』について、作品の背景、本作とパラレル的な関係にあるとされ、森見氏のもうひとつの「京都学生もの」小説が原作のアニメ版『四畳半神話大系』などと比較しつつ、レビューをすることに致しました。

 

なお、原作小説は前にパラパラと読んだ単行本、それから書店で手にした文庫版に加え、映画を見た後、買った次の次の映画版『夜乙女』のガイド本を参考文献として、参照しました:

 

ネタバレがあるため、まだ映画版や原作をご覧になっていない方は、以下、ご注意ください。それでは、いきましょう!

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成立過程が歴代王朝の正史・明清の国家的編纂事業に似た「中国版Wikipedia」"Chinese Encyclopedia"計画(engadget日本版より)

<長い中国の歴史と"Chinese Encyclopedia"計画の繋がりについて>

  • 1.はじめに
  • 2.「中国政府、中国版Wikipedia構築のため2万人を雇用へ。」について
    •  2-1.ニュース記事の内容
    •  2-2."Chinese Encyclopedia"計画と歴正史の成立過程および明清の国家的編纂事業の類似点
      •  2-2-1.中国史の王朝交代における正史編纂の意義と"Chinese Encyclopedia"の関係
      •   2-2-2.明清の国家的編纂事業と"Chinese Encyclopedia"計画の関係
  • 3.まとめ
  • 4. 余談:その後『清史』編纂はどうなった?

1.はじめに

2017年の”黄金周”の後半初日3日、私は二度の中国訪問体験を中心にして、次の記事を書きました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

書く過程で、中国の近況を調べていたところ、中華人民共和国政府が「2万人もの人員を投入」して、中国政府公式のオンライン百科事典を構築させるらしい、というjapanese.engadget.comのニュース記事に遭遇。ざっと読んで、ツイートしました: 

仲見満月 👻経歴「真っ白」博士‏ @naka3_3dsuki
成立過程が歴代王朝の正史を彷彿とさせます:
中国政府、中国版Wikipedia構築のため2万人を雇用へ。2018年公開に向け30万以上の項目を掲載 - Engadget 日本版

japanese.engadget.com

 

ツイートしたところ、思った以上に反応がありました。現在、中国史自体は私の専門ではありませんが、自宅の本をあさって再読したところ、ちょっとニュース記事について書けそうな感じ。今回の中国政府の"Chinese Encyclopedia"は、中国歴代王朝の正史の成立過程、それから明の『永楽大典』や清の『四庫全書』等の国家的編纂事業と人の使い方・編纂と同時期に情報統制が行われたこと(特に清朝)が似ているように思い、ちょっと頑張って書いてみることにしました。

 

f:id:nakami_midsuki:20170504170324j:plain

 (イメージ画像:漢文)

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2000年代後半以降の二度の中国訪問時の体験談と職業研究者を目指す人に向けた留学・就労メモ+補足で本紹介

<今回の目次>

  • 1.5月の祝日と東アジアの国々
  •  2.「タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ 一方通行の学生交流、このままでは情報格差が広がるばかり」(JBpressより)
    •  2-1.ニュース記事の内容
    •  2-2.2000年代後半以降の二度の中国訪問から考えたニュースに対するメモ
    •   その1.トイレ等の衛生面のこと
      •   その2.街中の交通ルールや地下鉄の乗車マナー等について
      •   その3.インターネット事情
      •   その4.2-2のまとめ
  • 3.職業研究者を目指す人に向けた中国での留学・就労メモ
    •  3-1.中国の大学在籍時、一本は査読論文を日本語以外で出すこと
    •  3-2.中国にいる間、その分野の有力者と人間関係をつくっておくこと
  • 4.まとめ
  • 5.補足:中国とその周辺を知るための気になる本の紹介
    •  5-1.2010年代以降をメインに中国とその周辺を知る
    •  5-2.改革開放期から2000年代までの中国と在外チャイニーズについて知る

1.5月の祝日と東アジアの国々

ゴールデンウィーク、皆さま、いかがお過ごしでしょうか?同じ時期、5月の頭は中国ではもメーデーから一週間ほどの間、連休になるそうです。 "黄金周"と呼ばれます。

 

ついでに言うと、大陸中国では端午の節句は旧暦で祝いますから、昨年、上海を訪れた時、街中のカレンダーでは、6月の頭のあたりが端午の節句らしき祝日になっていました。今月のTop記事の画像は、上海のデパートで、ウルトラマンシリーズ50周年を記念した展示であり、端午の節句まで展示されるようです。

 

一方、韓国は新暦の5月頭にこどもの日があるらしく、中国や日本ほどの連休はないようです。それでも、院生時代、5月の頭に韓国に調査で行ったときは、 こどもの日は祝日だったように記憶しております。詳細は、次の拙記事をお読みください:

naka3-3dsuki.hatenablog.com 

こうした居住地域と、近隣の諸国との祝日の違いは、実際に訪問するか、滞在して長期間、住まない限り、なかなか肌感覚として感知することはできないでしょう。特に、私の研究のような、生活の中の文化や主観の違いは、現地に行かなければ分からないことが沢山あるでしょう。外国に滞在することは、時に母国より近隣諸国のほうが、ある面で自分に合っている・合っていない、キャリアにおいて利益をもたらす・不利益を出す。といった、新たな生き方のヒントを見つけるきっかけになるでしょう。

 

前置きが長くなりました。今回、キャッチした次のニュース記事を読み、日本人の院生や院卒者が職業研究者を目指すキャリアにおいて、中国で活動する際のポイントを考えました。 

jbpress.ismedia.jp

 

f:id:nakami_midsuki:20170503035623j:image

 (イメージ画像:タブレットPCの中の上海)

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