仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

【2017.5.6_2130追記】映画『夜は短し歩けよ乙女』見てきました~森見登美彦と「京都学生もの」ほか~

<今回の目次>

1.はじめに

皆さま、連休、いかがお過ごしでしょうか?私は、ずっと気になっていた『夜は短し歩けよ乙女』の映画を見に行ってきました。この作品は、同名の京都を舞台とする大学生たちが登場する小説を手がける作家・森見登美彦氏の原作にした作品です。

 

原作者自身は京都大学大学院の農学研究科で竹の研究を行って修了。国立国会図書館の職員をしながら、数々の幻想的な小説やエッセイを執筆。一時、複数の作品を並行して執筆してたことや多忙が重なったためか休筆した後、作家活動を再開したそうです。現在は、国会図書館を退職して専業作家になっているようです。

森見氏は、同大学法学部出身で、京都の様々な大学の学生が登場する『鴨川ホルモー』シリーズで知られる小説家・万城目学氏と親交があるようです。私は森見氏と万城目氏を合わせて、勝手に「京大”おちゃら系”作家」と呼んでいます(お二人は、決して、おちゃらけた作品ばかり、書かれているわけではありません)。

 

さて、この小説版『夜は短し歩けよ乙女』(以下『夜乙女』)は、2006年に単行本として出版されました。第20回山田周五郎賞を受賞し、2007年の本屋大賞の第2位にランクイン。それから十年ほど経ちますが、根強い人気をほこり、 今年の4月に映画版が公開されました。次の本が原作小説です: 

 

 

主要人物は、京都の大学に通う男子大学生で星野源が演じる「ある先輩」(以下、先輩)と、先輩が思いを寄せる相手で花澤香菜演じる「黒髪の乙女」(以下、乙女ちゃん)。映画版では、乙女ちゃんの大学OB・赤川先輩の結婚パーティーに出席し、彼女に「ナカメ作戦」(なるべく彼女の目にとまる作戦)にてパーティーの別席で彼女を探す先輩、それぞれの語りからスタートします。原作では、結婚パーティーのあった春の夜、夏の下賀茂神社の納涼古本市、秋の学園祭、冬の流行風をひいた人々の病床を、天真爛漫で何事にも物おじせず、好奇心のままに歩き回る乙女ちゃんの1年におよぶ冒険譚を扱っています。映画版では、約90分という時間尺におさめるべく、乙女ちゃんの冒険を「一夜のファンタジー演劇」として演出し、彼女を追いかけて動き回るヒロイン的な先輩の様子とともに、原作のテイストを失わない仕上がりになっています。

 

実は、ヒロイン的な先輩(CV:星野源)には「就活を先延ばしにして大学院に進学」するという設定がついています。しかも、舞台は政令指定都市で最も大学生・短大生などの学生が多い京都市!そういうわけで、本記事では映画版『夜乙女』について、作品の背景、本作とパラレル的な関係にあるとされ、森見氏のもうひとつの「京都学生もの」小説が原作のアニメ版『四畳半神話大系』などと比較しつつ、レビューをすることに致しました。

 

なお、原作小説は前にパラパラと読んだ単行本、それから書店で手にした文庫版に加え、映画を見た後、買った次の次の映画版『夜乙女』のガイド本を参考文献として、参照しました:

 

ネタバレがあるため、まだ映画版や原作をご覧になっていない方は、以下、ご注意ください。それでは、いきましょう!

 

 

2.映画版『夜は短し歩けよ乙女』全体の内容と感想コメント

 2-1.春パート:夜の結婚パーティーと木屋町

粗筋を詳し目にかきます。大学OBの赤川先輩の結婚記念パーティーに出席した乙女ちゃんは、お酒を通じて大人の世界に入ろうと、席で機会をうかがっていました。そこから離れた席には、乙女ちゃんを見つめる先輩、先輩の友人で男女を魅了する眉目秀麗な学園祭事務局長(CV:神谷浩史)願かけで同じパンツを何日もずっと履いたままのパンツ総番長(CV:ロバート秋山竜次)が座り、勝負をしない先輩の様子にやきもき。

 

パーティーが終わると、乙女ちゃんは、夜の木屋町にお酒を求めて歩き出し、春画収集をするおっさん・東堂に出会ったバーでセクハラされておともだちパンチで撃退後、天狗と称する樋口さん、妖艶な美女・羽貫さんに認められ、うまい酒を求めて、三人で京都の繁華街木屋町を歩き回り、よそのパーティーに忍び込んで、美酒を拝借。

 

乙女ちゃんを追いかけてバーの入口に着いた先輩は、黒服に連れ去られてパンツを奪われてしまう。途中、東堂につかまり、やけ酒と春画収集の会に巻き込まれ、なだれこんできた団体に春画を台無しいされる。ピンチな先輩や東堂のもとへ、東堂に金貸しをした富豪の翁・李白が三階建ての自家用車で鴨川河川敷に到着。東堂の借金チャラをかけて、駆けつけた乙女ちゃんと李白は幻の酒「幻の偽電気ブラン」を飲み比べ、乙女ちゃんが勝利するのでした。

 

序盤の春のパートということで、結婚パーティーから、映画一本を通じて登場するメインキャストが次々と出てきます。結婚パーティー後、バーや忍び込んだ詭弁論部のパーティー、還暦祝いの宴会などで、美酒製造の過程を伝えるイメージ、飲んだお酒が身体にいきわたる様子は、製造途中の液体がスケルトンな管を通ったり、流れたお酒が寒色から暖色に変わったりと、パステルカラーを使った舞台風の映像が展開されました。まるで、きらびやかながら落ち着いた色使いで、宝塚劇風にお酒の楽しみを伝えたるような映像あり、お酒好きな人には魅力的な映像美だと思います。このあたり、キャラクター原案の中村佑介氏のデザインや色調をおさえつつ、湯浅政明監督は携わったテレビアニメ「ちびまる子ちゃん」等に近い陰影を使って、目に優しい画面に仕上げているかと。

 

また、寝そべるような姿勢から両腕を前に突き出し、両足で歩く「詭弁踊り」のシーンでは、スカートの乙女ちゃんが加わって、見えそうなパンツにハラハラしつつ、明るく滑稽な表現に笑ってしまいました。このような、序盤のパートのユーモラスさを見て、現実か、幻か、混乱することへの嫌悪感を感じてしまった人には、夏以降のパートを追いかけるのは、少しきついかもしれません。

 

 2-2.夏パート:下鴨納涼古本まつり

李白との飲みくらべに勝利し、鴨川河川敷にいた乙女ちゃんのところへ、下鴨納涼古本まつりのチラシが飛ばされてきます。乙女ちゃんは、幼き日に親しんだ絵本『ラ・タ・タ・タム』を思い出し、古本まつりで探すべく、下鴨神社へ機関車のごとく、歩き出します。

 

李白の自家用車に干してあったパンツを取ろうとして落下し、ノーパンのまま、鴨川河川敷にダイブした先輩は、乙女ちゃんの拳をくらい、気を失います。次に、目覚めた先輩は、謎の情報収集組織の部屋で目を覚まします。傍にいた学園祭事務局長の調査をもとに、絵本『ラ・タ・タ・タム』を手に入れれば、黒髪の乙女と親密になれる!さっそく、古本まつりに向かった先輩。ソフトクリームを2度もぶつけてきた少年(CV:吉野裕行)に変質者に仕立てられたます。

 

出店していた古書店員に先輩は連れていかれそうになったところ、東堂に助けられたことで、闇の売り立て会に出て、春画を手に入れるよう支持を受けました。売り立て会のテントでは、絵本『ラ・タ・タ・タム』を手にする李白が中央に鎮座。彼の出した火鍋の食べきれば、テント内の本はどれでも持って行っていいとのこと。自称・天狗で強力なライバルの樋口さんと共に、先輩は火鍋レースに挑むのでした。

 

一方、羽貫さんや、パンツ総番長のいる氷コタツで一休みした後、乙女ちゃんは、古本まつりに再び挑みます。そこで、売られている古本から値札を引き抜く行為を繰り返す少年に遭遇します。その少年はソフトクリームを先輩の股間に2度もぶつけてよごした、あの少年でした。少年は言います。すべての本は互いにリンクしていて、本のあつまった古本まつり自体が一冊の本のようなものであり、いたずらに高値をつけて本来あるべき場所に行く本を阻むことをやめるため、「古本市の神」である自分は行動していると。本をあるべき場所に戻すため、少年に乙女チャンはともなわれた売り立て会のテントに向かいます。

 

テント内では、辛さと熱さで唇を真っ赤に腫らした樋口さんと、先輩が火鍋に挑み続けていました。ヒートアップする二人は、他の競争相手を圧倒しますが、とうとう樋口さんは倒れてしまいます。勝った先輩は絵本『ラ・タ・タ・タム』を渡され、抱きしめた瞬間、乙女ちゃんによって紐が引かれたテントは、解体。とらわれていた本は鳥のごとく飛び立ち、古本まつりの本棚へ戻っていきます。先輩はゲットした『ラ・タ・タ・タム』に引きずられながらも離さず、古本まつりにやって来たゲリラ演劇に巻き込まれつつ、舞台は晩秋の学園祭会場へ移ってゆきます。

 

夏の古本まつりのパートでは、絵本『ラ・タ・タ・タム』を探して、乙女ちゃんと先輩が騒動に巻き込まれます。 夏パートの最初、乙女ちゃんの想像世界、それから情報収集組織の部屋、中盤に古本市の神が説明した本同士の繋がりを説明したイメージの各映像。これらには、書店で販売された本が実際の装丁のまま、『夜乙女』の世界にマッチするようにデザインされ、画面を飛び回ります。特に、物語の鍵となる『ラ・タ・タ・タム』等のレトロな装丁の本も登場は、本好きにはたまらないでしょう。

 

古本まつりの会場・下鴨神社の一角では、ちゃぶ台に大きな氷を載せた「氷コタツ」がありました。このコタツは夏パート終盤に移り込んだゲリラ演劇が、再び秋パートの学園祭に登場し、情報収集組織と起こす騒動への伏線として、考えるとこができます。ところで、氷コタツではノートPCに向かうパンツ総番長(以下、番長)が、何やら書いている様子。聞けば、以前の学園祭で出会い、上階から降ってきたリンゴを番長と同じタイミングで頭にぶつけた美女に一目ぼれして以来、その美女と出会うことを夢見て、願をかけてパンツを脱がなくなったそうです。

 

 2-3.秋パート:学園祭

次の舞台は、イチョウ舞う京都市内のとある大学(モデルは原作者の出身大学で映画に協力した京都大学)。絵本『ラ・タ・タ・タム』を手に入れた先輩は、露店のテントを構え、絵本を展示し、黒髪の乙女が通りがかるのを待ちます。そこへ、ゲリラ演劇『巌窟王』の一団を追いかけ、やって来た学園祭事務局長と部下たちがテントを潰してしまう。

 

あの情報収集組織は、学園祭の秩序と平和を脅かすとされるゲリラ演劇を追っていた、学園祭事務局長たちであった。乙女ちゃんの情報を提供した代わりに、劇で取り上げられた人物が刺客するとして、ゲリラ演劇の捜査をする事務局長たちに協力することとなった先輩は、パンか米かで争う弁論大会、水着の女子を釣り上げるUFOキャッチャー等、出し物をめぐり始めます。

 

その頃、乙女ちゃんはゲームで手に入れ、防寒にもなるニシキゴイの着ぐるみを来て、夜の学園祭の散策を続け、暖かなコタツに足を入れた樋口さんに声をかけられます。傍らには番長がいて、夏と同じくPCで書きもの中。実は、このコタツは、現れてはすぐ消える通称・韋駄天コタツだったのでした。

 

その頃、地下の部屋で咳を繰り返す学園祭事務局長は、部下からの報告映像で、ゲリラ演劇の上演場所と、韋駄天コタツの設置場所が重なることを発見!ついに、最終上演場所をつきとめ、先輩と共に現場に向かいます。

 

逃げる韋駄天コタツを抜けた乙女ちゃんは、ゲリラ演劇の舞台監督・紀子の誘いで、上演作品『巌窟王』のプリンセルダルマを演じることになりました。脚本を書いたのは、番長であり、ダルマの着ぐるみを着たプリンセスとは、実は番長の思い人・リンゴの美女でした。番長はリンゴの美女に会いたいがため、二人が出会った学園祭でゲリラ演劇を上演することにしたのです。

 

劇は終わりへ向かい、何と最終幕では番長自ら舞台に上がり、プリンセルダルマとラブシーンを演じることが判明。説明を聞いた乙女ちゃんは、やる気満々なものの、調査で内容に気づいた先輩は、最終幕乱入を決意。やがて、おまつりの広場で組まれた壇上には、王様の姿をした番長が踊って歌い、それに応える乙女ちゃんが向き合う。先輩は事務局長の妨害を行って、建物の屋上からボールネットを吊るレールをつたって、壇上に乱入!番長を押しのけ、乙女ちゃんとの演技に興じますが、劇団によって床板が開き、落下した先輩は地面に激突します。

 

再び舞台に上がった番長の前に、リンゴの美女が姿を現しますが、その正体は女装してアイドルを演じた学園祭事務局長でした。胸の高鳴る番長に、局長は逮捕を告げたところ、舞台の向かいで脚立に腰かけていた舞台監督の紀子が、番長に片思いしていたことを告白したが、番長はときめきを優先して振ります。番長の気持ちに、熱に浮かされたように真っ赤な局長は、向き合って口づけをしようとしたところ、先輩が床板をオープン!そこへ、突然、竜巻によって運ばれてきたニシキゴイが番長と紀子に落下し、番長がコイによって、紀子い対して新たな恋に落ち、二人は晴れて付き合うことになったのでした。さて、乙女ちゃんと番長のラブシーンの阻止に成功した先輩は、その頃、舞台の床下でダイブしてきた事務局長の下敷きになり、のびていたのです。

 

正直なところ、京都大学に学会やシンポジウムで、うろうろしたことのある私には、秋パートの学園祭がいちばん、楽しめました。

 

まず、ストーリーの鍵となる韋駄天コタツは、京大の院生に来たところ、伝説として本当に語られているようです。それは、京大が舞台の別の青春小説『左京区七夕通東入ル』にも、出たと思ったらすぐ消えるコタツとして、しっかり描かれています(文系女子から見た理系男子の生態@京都~瀧羽麻子『左京区七夕通東入ル』~ - 仲見満月の研究室参照)。

 

ゲリラ演劇は、ステージを含む舞台装置がやくらのように描写されており、その組み材を瞬時に分解してたたみ、逃亡する学生たち。その様子は、毎年、卒業式のシーズンに京大吉田南構内に出現する「ニセ折田先生像」を彷彿とさせる演出でした。

 

劇団を追いかける学園祭事務局長、および部下たちの情報取集組織は、大画面付きで吹き抜けのアジトっぽい部屋を拠点にしていました。実は、1960年代の学生闘争の時、京大は組織の拠点となっています。今でも、「謎の組織」が京大のどこかの建物の地下にアジトを持っている雰囲気があるそうで(京大院生の情報)、そのあたりを反映させた演出のようでした。

 

学園祭の会場である大学のこうした演出は、おそらく、モデルとなった京大の「自由の学風」というより、いい意味で奔放かつ「無法地帯」の雰囲気をまとわせていました。この雰囲気が、学園祭の大学に「学校の七不思議」を見る者に想起させ、物語を引き立てる役割を担っているのではないでしょうか。

 

  2-4.冬パート:流行風邪をひいた人々の病床

季節は、冬。学園祭事務局長や羽貫さんがうつしたのか、登場人物達のほとんどに風邪が流行し、先輩、それから強いはずの樋口さんまで、風邪にかかってしまいます。風邪の神様に嫌われたと言う乙女ちゃんは、風邪をひいた人々のもとを次々と訪問。その中で、どうやら李白が流行性の風邪の元ではないかということに、つき当たります。

 

吹き荒れる冬の嵐のなか、乙女ちゃんは孤独感に衰弱していた李白のもとを訪ねました。金で腕力も愛も手に入れたものの、一向に満たされなかった人生を送って来た李白に対し、彼女は李白の存在が様々の人たちに繋がっていて、「あなたは誰かと繋がっている」と言って励まします。乙女ちゃんの言葉で体調を回復し、生気を帯びた李白は、風邪薬ジュンパイロを授け、大きな竜巻のもとに「大きな孤独を抱える若者がいる」と言って、乙女ちゃんに出発を促しました。

 

その竜巻のふもとにいたのは、部屋で布団にくるまっていた先輩でした。そこへ、スマホにメッセージが入り、贈り主の局長から乙女ちゃんに住所を教えたから、彼女がお見舞いに行くということを知らされます。とたんに、先輩の中では脳内会議が勃発!病床の脇に置いた『ラ・タ・タ・タム』を開けば、仕掛けで飛び出した「古本市の神」にまで、乙女ちゃんの来訪を告げられます。先輩は大混乱を起こします。

 

先輩の脳内会議場は紛糾。そこへ訪ねてきた乙女ちゃんに対し、分裂した先輩たちは、城と化した建物を固く閉じてしまします。それでも中へ入って来た乙女ちゃんに対し、先輩の分身は欲望をむき出しにして、襲いかかってきました。見舞い先で頂いた、梅干し、浅田飴入りカボチャ漬けを道なき道に撒き、アニメ『不思議の国のアリス』に出てきそうな迷宮を彼女は歩き続けます。先輩を探している途中、落下してしまった乙女ちゃん。その腕をつかみ、救ったのは先輩本体でした。二人は、晴れた京都の空を回転しながら、落ちてゆきました。

 

目が覚めた先輩の頭には、冷えピタが貼られており、傍らには「黒髪の乙女」が看病のため、留まっていました。先輩は、たまたま見つけたからと言って、『ラ・タ・タ・タム』を乙女ちゃんに示します。そして、彼は面白い古本屋があるから、一緒に行こうと誘います。諾と答えた乙女ちゃんは、風邪をひいたのか、その頬は赤く染まっていました。

 

長い長い夜が明け、やって来た朝。コーヒー屋に入って来た乙女ちゃんを、待っていた先輩が迎えたのでした。おしまい!

 

最後の冬のパートで、印象的だったのは、乙女ちゃんの訪問連絡を受け、脳内で展開された先輩の混乱でした。先の脳内の城やラビリンスを駆ける乙女ちゃんは、RPGのダンジョンを冒険する勇者のようで、 視覚的に面白かったです。

 

ラストに出てくるコーヒー屋は、京都市内にチェーン展開するベーカリー・進々堂で、百万遍交差点の東、今出川通りをはさんで京大本部キャンパスの北にある店舗がモデルでしょう。

 

 

3.本作全体へのコメントと他の作品との比較

以上、第2項では映画本編の春夏秋冬のパートそれぞれの内容、および感想コメントでした。ここからは、作品全体に対するコメント、および原作者の別の「京都学生もの」作品、先輩を演じた星野源主演のドラマ版『逃げるは恥だが役に立つ』等の他作品と比較して、コメントをさせて頂きます。

 

 3-1.作品総評と『四畳半神話大系』との比較 

最初に、作品総評を述べます。これは、原作者独特の作風や世界=モリミーワールドと言ったら分かりやすいでしょうか?どこから、どこまでが現実か、ファンタジーか、あるいは登場人物の夢想内容なのか、区別がつかなくなる展開についていける人なら、十分楽しめるでしょう。ここが本作の評価が大きく分かれるところかと思います。

 

 

次に、本作と同名同じ姿ながら別人キャラクターが登場し、パラレル的な関係にあるとされ、森見氏のもうひとつの「京都学生もの」小説が原作のアニメ版『四畳半神話大系』(以下、『四畳半』)と比較してみましょう。全体的に、本作は『四畳半』と比べて、より大衆的なつくりになっていると思いました。

 

  

 

アニメ『四畳半』には、感情変化に乏しくてひねくれてしまい、浅沼晋太郎の演じる「先輩こと私」。その「私」が思いを寄せる後輩の「黒髪の乙女」こと、坂本真綾演じる「明石さん」がメインキャラクターです。パラレルな二作品の主要人物を並べると、

というようになります。『夜乙女』の乙女ちゃんの花澤香奈さん、先輩の星野源さんは、あっけらかんとした喜怒哀楽を表現し、キャラクターデザインを見ると、目に光が入っていることから、明るくて、健康的な笑いを誘う、かわいらしい雰囲気の方向に役作りがされていました(二人とも、愛らしくて、親しみのある演技)。

 

一方の『四畳半』の明石さんを演じる坂本真綾氏の声や態度に鋭さがあり、「私」を演じる浅沼晋太郎氏の演技は捻くれて、擦れた感じが伝わってくる演技。人物デザインは、明石さんはツリ目っぽく、「私」は丸いレンズのメガネで足に便所下駄をつっかけているような、ちょっと者に構えた姿です。こういったところから、暗く、ブラックジョークを誘うような雰囲気の役作りがされていたように感じました。

 

キャストに加えて、二作品の違いは以下のようにまとめられます。 

  • 『夜乙女』:明るい笑いや滑稽さを持ち(詭弁踊り、妄想世界の表現など)、不思議だけど、ドタバタなラブコメ青春ファンタジーに仕上がった、健康的な雰囲気の大衆向け作品
  • 『四畳半』:放送時間が深夜だったためか、妖怪が出てくるような奇譚・伝奇じみた色や描写がされ、生理的な気持ち悪さがつきまとう、マニア向け作品

 

特に、『四畳半』の妖怪が出てくるような奇譚・伝奇じみた色や描写がされ、生理的な気持ち悪さがつきまとうところは、森見氏のもう一つの京都が舞台の「漆黒の作品集」:

に近いものを感じました。『きつねのはなし』は暗く、人体に何かが侵入してくるような、生理的な不気味さを帯びた作品もあり、呪術的な存在の出てくる骨董屋が最初のお話。読んでいて、ゾクゾクしました

 

余談ですが、『四畳半』は次のアニメランキング100位に入っていました。投票や集計の問題点を考えても、ランキングに入ってくるあたり、コアなファンの存在がうかがえます。

ベスト・アニメ100:NHK投票企画で「タイバニ」がワンツー 「まどマギ」続く - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 

二作品を見た私は、それだけ『夜乙女』の健康的で明るい方向への笑いを感じたのでした。あと、乙女ちゃんの好奇心旺盛で、物おじせず、天真爛漫なところは、演者の声やかわいらしい外見とあいまって、先輩でなくとも、惹かれる老若男女は多いでしょう。一方の『四畳半』の明石さんは、クールで厳しいところのあるキャラクターっぽく、好きな人はベタぼれしそうな人でしょう。ちなみに、乙女ちゃんタイプ、明石さんタイプ、両方とも京大の女子学生にはいそうです(あくまで私の想像)。

 

 3-2.ドラマ版『逃げるは恥だが役に立つ』との比較

ドラマ版『逃げ恥』との比較の理由は、『夜乙女』の先輩の大学のモデルが京大であり、先輩が作中で大学院進学をするらしい情報が出ており、かつ演者が星野源氏だからということです。星野源氏が『逃げ恥』で演じた津崎平匡については、次の拙記事で検証しました:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

津崎さんも京大卒であり、分野からし修士卒の可能性が高いと思われます。 加えて、『逃げ恥』も『夜乙女』と勝負ができるくらい、登場人物の妄想ワールドが作中に挿入され、現実と幻が入り混じる点は、共通しています。

 

そういうわけで、主演者がどちらも星野源ということから、両作品を関連付け、妄想して楽しむこともできるのではないでしょうか。つまり、ドラマ版『逃げ恥』の津崎さんの学部時代を描いたのが、本作『夜乙女』の先輩である。乙女ちゃんといい感じまでいったけど、結局は進展がなかった。乙女ちゃんと就活や進学ですれ違ったまま、人生を歩んだ先輩は気がついたら36歳になっており、「プロの独身」と化していた、という妄想展開です。

 

いささか、同人誌の二次的な楽しみ方ではありますが、個人的な楽しみ方としてはありかな、と思っております。

 

 

4. 最後に(2017.5.6_2130追記)

映画版『夜は短し歩けよ乙女』は、見た後に舞台となった京都市内や京大構内(特に研究者向け)を歩いて回ってもよし!作中の映像の演出、陰影のつけ方等を他の湯浅監督作品と比較し、アニメーション制作の勉強をしてもよし!音楽を担当した大島ミチル氏のサウンドを他作品と聴き比べて楽しんでもよし!原作者の森見登美彦氏の他の小説や映像化作品も見て、モリミ―ワールドに浸ってもよし!星野源氏の他の主演作品を探して、本作とのパラレル関係を妄想してもよし!と、様々な楽しみ方ができるでしょう。

 

個人的に私が好きなのは、秋パートの学園祭です。機会があったら、モデルになった京大の11月祭に、今年は足を運んでみる気になりました。

 

ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。『夜乙女』に限らず、お好きな作品をお好きなように楽しむ方法について、見つけられてはいかがでしょうか?

 

(2017.5.6_2130追記)

より映像制作寄りの専門的な映画評の記事を見つけました。特に、湯浅監督のアニメ制作者としてのキャリアと監督してきた作品の違いについて、詳しい考察がなされています。

realsound.jp

 

 

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