「「学費はアルバイトで賄え」 67歳「奨学金批判」に大ブーイング」(J-CASTニュースより)について~約50年間の授業料と物価数値から考える~
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1.2017年2月5日の毎日新聞の投書から
今朝は配信ニュースをいろいろ見ていたところ、先日、Twitterのタイムラインで目にして、RT数がいっているな、と印象を受けていた新聞記事が、こんがりしておりました。
どういう話題かいうと、J-CASTニュースの上記リンク先によると、毎日新聞の今月5日の投書「「みんなの広場:自力で学費勝ち取る気概も=会社員・浜尾幸一・67」 - 20170205_毎日新聞 」において、
1月31日に閣議決定された日本学生支援機構法改正案だ。原則「貸与型」しかなかった同機構の奨学金に「給付型」を加えるもので、2017年度予算案に基金の創設も盛り込まれた。18年度の本格実施へ向け、4月1日から一部の下宿生らを対象に先行実施される。支給基準は現行の貸与型より厳しいが、返済は不要だ。
男性はこの法改正について、「苦学した私から見るといい時代になった」と評価する一方、「健康であれば(学費は)アルバイトで賄える」と苦言を呈した。
という、要は「給付型」の奨学金が加わることを閣議で決めたことに対し、67歳の男性が投書で批判したという内容でした。
先の投書のタイトルと導入部を見ると、「給付型の奨学金を勝ち取るほど、勉強を頑張れよ、若者よ!」という励ましの内容なのか、と私は考えました。が、実際は「給付がないと食事もできないというなら分かる。しかし健康であればアルバイトで賄えると思うからである。」(「みんなの広場:自力で学費勝ち取る気概も=会社員・浜尾幸一・67」 - 20170205_毎日新聞 )という言葉が続き、自分で学習塾を開き、貯蓄してから大学に入学し、その後もアルバイトに勤しんで苦学しつつ、部活にも精を出した経験が自慢のごとく、語られています。この投書に対し、若者の現状を考えろ!とか、時代が違うでしょ?という批判がTwitter上でなされ、「炎上」していたとのこと。これ、実は「私の父親と同じ時代の状況やん!」と正直、現在とこの投書主の方の学生時代の経済的格差に愕然としました。
今回の投書の話題は、大学の学部を対象とする給付型奨学金のことを主にしていると思われます。しかし、日本学生支援機構は大学院生をも奨学金制度の対象としており、大学の学部の給付型奨学金システムは大学院の奨学金制度とも関連があると考えました。今回、この話題を取り上げるに至ったのは、こうした理由によります。
2.この50年間で大学の授業料はどれほど上昇したのか
話題提供元のJ-CASTニュースは、「投書した男性の大学入学時とほぼ重なる50年前と現在を比較してみる。」として、次のようなデータを提示しました。データの情報源は、「総務省の小売物価統計調査」であり、これをもとに私立・国立大学の学費の上昇を表にすると、この50年ほどで次のような変化があったと分かる。
表1:私立大学・国立大学の学費の上昇(「総務省の小売物価統計調査」をもとに) 表作成者:仲見満月
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1967年 |
2017年1月時点 |
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私立大学の年間授業料 |
およそ 7万4100円 |
文系:75万122円 理系:110万963円 |
約50年の間にそれぞれ、 およそ文系10倍・理系15倍に上昇 |
国立大学の年間授業料 |
およそ 1万2000円 |
(文系?・)理系: 53万5800円 |
約50年の間におよそ53倍に上昇 |
以上のような各種大学の大学の授業料変化に対し、J-CASTニュースは
また、2016年の物価は1967年のおよそ3.7倍。
と、この50年ほどの間の物価上昇の数値を挙げた挙げている。この授業料を2016年の物価に換算した数値を提示し、これらを表にまとめると、次のようになります。
表2:J-CASTニュースが1967年→2016年の物価上昇から換算した年間授業料
(「総務省の小売物価統計調査」をもとに) 表作成者:仲見満月
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2016年の物価が1967年の約3.7倍だったことから換算した年間授業料 |
私立大学 |
27万3800円 |
国立大学 |
4万4400円 |
最初の「私立大学・国立大学の学費の上昇」の表と、「J-CASTニュースが1967年→2016年の物価上昇から換算した年間授業料」の表を比較すると、実際のこの50年ほどの各種大学の授業料上昇は、J-CASTニュース側が指摘するように、「大きく上振れしている」。さらに、入学金と初年度納付金については、
17年1月時点の入学費(東京都区部)は、私立大と国立大で22万円から28万円かかり、授業料と合わせて入学時に支払う初年度納付金は、100万円を超えるケースも珍しくない。大学の授業料が一般の物価よりも非常に速いペースで上昇し、50年前に比べれば、他に比べて極めて高い負担になっている。
ということが指摘されています。この実際の授業料の私大学の文系10倍・理系15倍、国立大学53倍という大きな上振れは、大学進学者自身が授業料を負担するのではなく、その親が授業料を負担するようになり、進学者自身よりも親のほうの収入を対象とした結果、大学生の子よりも親の方が収入が多いと目論んだ大学側の姿勢を指摘する声も、Twitter上で目にしたことがあります。
一方、学部卒の大卒初任給については、
1967年の2万6200円が2016年には20万3000円と、10倍近くに上がっているのも事実だ。
というデータも出している。が、この2016年の学部卒の初任給って、日本全国の大学新卒で入社した社会人の何パーセントに当たるのか、J-CASTさんは挙げていない!もっと、挙げてくれたら、深く考察ができるんですけどね…。
3.ブログ管理人の周囲の授業料負担に関する話と私の見方
さて、私の父親は今回の投書主の男性より数年ほど年下で、農家の六男か七男くらい(末っ子ではなく、下にまだ弟が何人かいる)。子だくさんな時代で、兄弟が多いなか、学業成績が割と優秀だったということで(つまり、「お勉強」はよくできたタイプらしい)、親族の支援を受け、その兄弟で唯一大学への進学を果たせた人でした。親族の経済的な支援があっても、生活費はカツカツだったらしく、家庭教師から土木工事、接客業まで、アルバイトに勤しみ、それでも大学では授業に出られる限り、目いっぱい単位をとって(1科目ご当たりの成績はまずまず)、卒業し、東日本の会社に就職したと聞きました。でも、稼ぐのと学ぶことで精いっぱいでサークルや部活に加入する暇はなかったようで、就職してから10年近くは、今の日本学生支援機構の前身組織からの貸与制奨学金の返済が大変だったようです。
この貸与制奨学金の返済は、社会人になってからも負の意味で尾を引いていた。というのは、返済途中で結婚した際、当時の家計的な苦労を母親が私の大学受験の時に語っていたことが印象深かったのです。父も母も口をそろえて「貸与型・返済型の奨学金は、借金だと思いなさい。だから、給付型か学費免除型の奨学金にしなさい」と、散々、言われたので、私は条件は厳しくとも、1月31日の閣議で給付型奨学金の枠を設けられたことには、一歩、教育に対する政府の政策が前進したと評価はしています。
そのような中で、先の苦学生が理想的だと考えていらっしゃる父と世代の近い男性の投書を読むと、肩を落とさずにはいられません。まず、「しかし健康であればアルバイトで賄えると思うからである。」(「みんなの広場:自力で学費勝ち取る気概も=会社員・浜尾幸一・67」 - 20170205_毎日新聞 )というほど、ブラックじゃないバイトって、今の日本にどれほどあるんだろう?あったとしても、バイトかけ持ちで無理をして心身の調子を崩し、休学して療養せざるを得ない人も知っています。そうでなくても、ご両親の失業で、経済的な実家への支援が必要となり、退学・休学して就職していった友人もいて、「実際は「給付がないと食事もできない」どころか、生活を維持するのすら困難な元大学生のいる状況が、現在の日本にはあるんです。
こうした投書主男性のような考えの人は、地方新聞のオンライン記事を読んでいても、自治体の議員の方にもいらっしゃり、自治体による給付型奨学金制度の設置の壁になっているらしいことは、小耳にはさんでいます。現場にいらっしゃる大学の先生方のツイートによると、自分の親世代は経済成長期の就職率がよく、現在ほどPCやスマホによる通信技術等の発達にともなう仕事のスピードがなく、それによる仕事のストレスを今ほど感じない職場環境しか知らないそうです。そして、親世代には、自分のゼミの学生たちが就活で苦戦するのが理解できないし、説明してもよくわかってもらえないと、ぼやかれていらっしゃいます。
投書主や大学の先生方の親御さん世代の方々には、先にJ-CASTニュースが挙げた各種大学の約50年間の授業料の大きな上昇をデータで示し、「大学進学者自身が授業料を負担するのではなく、その親が授業料を負担するようになり、進学者自身よりも親のほうの収入を対象とした結果、大学生の子よりも親の方が収入が多いと目論んだ大学側の姿勢を指摘する声もありますよ」ということを伝えたいです。
4.最後に
今回のJ-CASTニュースに取り上げらた60代後半の男性の投書とそれへのネット上の批判を振り返って、もうひとつ考えて頂きたいのが、授業料を誰が負担するのか?そして、現行の各大学の授業料の減免制度や給付型奨学金を申請する際、その書類には、大学によって申請者以外の誰の所得証明書や課税書類が必要とされることがあるのか?
それは、大抵の場合、申請希望者の両親やそれに近い親族のケースが多いでしょう。この両親や親族に問題があり(いわゆる毒親等)、申請希望者が協力してもらえず、申請希望者が大学進学や授業出席を諦めて休学・退学して働いて学費を貯めないといけないとしたら・・・。
以前、書いた上の記事の最後の一文を書いて、本記事を終えたいと思います。
そろそろ、全体的に高等教育機関の授業料減免や免除、給付奨学金などは、日本も未成人でも18歳前後から、自分の身の振り方くらい、自立してできるシステムに変えていってもいいんじゃないでしょうか?
果たして、この引用部の私の意見が投書主男性の世代の「苦学生」を理想とする方々に、どれくらい届くか、現状で必要とされていると伝わるか、私には分かりません。