仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

さらに読む!ナカムラケンタ『 #生きるように働く 』の読了した感想

4.これまでの話

これから何を「職業」にするか、悩んでいて、先月から断続的に読んでおりました、次の本:

  

を本日、読了しました。この本の著者は、生き方と働くことがくっ付いたような方々を紹介しつつ、募集されている求人が集まったWEBサイト『日本仕事百貨』の運営者である、ナカムラケンタさんです。本書は、タイトルの「生きるように働く」ことを植物が芽を出して葉を茂らせ、やがて木へと成長してゆく過程になぞらえ、生きることとキャリアが密接にある人に向けて書かれました。どのような内容なのかは、前回の書評記事にまとめております故、そちらをご覧ください↓

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

今回は、本書の「Ⅱ芽が出て、葉が開く」から、最終章の「生きるように働く」までを通して読んだ感想日記をお届けいたします。終盤では、本書全体を通じて何を私が得たのか、少し考えてみたいと思います。


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5.「Ⅱ 芽が出て、葉が開く」・「Ⅲ 根を張り、幹を伸ばす」を読み終えた感想(記録日:2018.11.5) 

Ⅱ・Ⅲを読了しました。著者が「仕事百貨」を始めるにあたり、独立したところから、走り出し、そのWebサイトに載せる求人元に取材で訪ねたところまでの話。大阪でガラスを仕入れて扱う木村硝子店の社長さんは、仕事をする中で、鍛えたガラスに関する感覚が独特で、そこに商人気質が加わり、お話が非常に面白かったです。社員の方々の話は聞くけど、それを仕事に取り入れるかは別な人だけど、ワンマンとは異なる仕事の姿勢がありました。 仕事をするうちに、目指していたグラフィックデザインの方面から、衣裳づくりのほうへシフトした伊藤佐智子さんのお話では、眠って夢の中でも仕事をしているのが印象的でした。伊藤さんは「すそを10センチ、上げる」と寝言に出した、まさに「生きるように働く」様子が窺えます。伊藤さん曰く、仕事も人生の一部なのに、よくオンとオフというように、切り替えができるもんだな、という。私なんかも、研究や仕事、興味の方向が密着している感じで、服飾の方のような感覚で、オンとオフのメリハリはつけるのが難しかったです。

 

Ⅱ→Ⅲへと読み進めるにしたがい、著者ナムカラさんが「仕事百貨」で求人元に行き、取材と記事執筆のインタビューを含む仕事術や、人が働くことの中心にいることで、他者に真似されにくい形の仕事をし続けるモットーが登場してきます。前者は実践的な部分を含み、後者はブルーオーシャンより更に見つけにくいけれども、行き着き、やり方を磨けば継続できる「オアシス」的な場所と表現され、色々と勉強になりました。とはいえ、そういったことの背景には、「競争したくてもよい、したくない」という著者の希望があり、それ故に見方によっては、「オンリーワン、すなわち、その場所ではナンバーワン!」と呼んでいい生存戦略が存在します。強いライバル選手のいるリングに上がらないなら、別のリングに上がるわけです。別の場所でやっていくため、試行錯誤を重ねたナカムラさんは、その過程を「チューニング」と表現されていました。

 

Ⅲには、試行錯誤やチューニングについて、目の前のことに取り組んでいくことで、現在がある。そういった取材先の中には、北陸地方のカフェや、島根県の事業者の方のお話など、たくさん、出てきます。私には到底、真似できることではありませんが、とりあえず、本書を最後まで読み進めましょう!

 

ちなみに、ナカムラさんが建築業界のご出身のせいか、まちづくりや、地域産業の経済圏の話が出てきます。私の身近にも、歴史的な都市の計画事業、近代の公共政策の研究者がいたので、このあたりの見通しの立て方やプランニングは、感覚で読んでしまい、面白かったです。

 

 

6.「Ⅳ 枝を張り、葉が茂る」・「Ⅴ 森になる」を読み終えた感想(記録日:2018.11.9) 

Ⅳ・Ⅴを読了しました。樹木の枝が茂り、増えていって、やがて森になっていくように、本書の話の筋は、人と人との繋がりの方向にのびてゆきます。

 

Ⅳでは、「仕事百貨」の新しいオフィスを求めて、ナカムラさんたちは、東京の虎ノ門付近の再開発の隙間の土地を見つけて、「しごとバー」や様々なイベントを開ける場所を想定し、「リトルトーキョー」という活動拠点をつくっていく話が出てきます。様々な縁を頼りに、自分達の思い描くことを形にしていくプロセスは、失敗しながらも、理想的なものに終わらず、ちゃんと地に足をつけて実現させる努力の賜物のように感じられました。途中の「顔が見える」から、沖縄のゲストハウス「月光荘」に行ったときのエピソードがはさまり、また違った視点を読者に与えてくれます。

 

Ⅳ→Ⅴに進んでいくと、経営やプロダクトのデザインがひとつの軸となり、最後に人の集まる場を試行錯誤した末のナカムラクニオさんが店主をしているブックカフェ「6次元」の現在が伝えられます。本書に登場する順序が前後しますが、先に食品スーパーの話をしましょう。その経営デザインの例では、食品スーパーマーケット「福島屋」が売り上げをのばすため、肉や魚、野菜、それさら惣菜の部門と手を組んで、各部門で仕入れられる素材を加工し、惣菜のコーナーで販売することが紹介されていました。そのメリットは、スーパーで売っている物のイメージが買いに来た人に伝わりやすい等、あるようです。プロダクトの例では、紙の加工品を行う「福永紙工」が、一社員の気づきのもと、商品試作を紙で作ったことにより、商品自体を紙で作り、販売していく道へ進んでいきます。会社の近くの「つくし文具店」との付き合いもあって、自分たちで商品を企画することに。紙のオブジェをお土産やプレゼントに買って行ってもらえるプロダクトにまで、押し上げる結果になっていきました。

 

Ⅴに登場する「自分で映画館がつくれる」という、消費者向けの映画の自主上映会を助けるシステム「popcorn」も、ある種のサービスをデザインする話。このシステムは、映画を仕事にしたい!と訪ねてきたMさんと、著者が面接でブレーンストーミングが出発点でした。面接で出た話の内容について、著者が映画配給にも明るい人で、クリエイター向けクラウドファンディングの『MotionGallery』の運営者に相談して、「popcorn」がリリースされました。Ⅴの後半に出てくるナカムラクニオさんの話は、クニオさん一人では読者目線だと「こけそう」な感じだった店の「6次元」が、お客さんの提案を取り入れていることで、だんだんと人が集まっていく場が整っていく様です。その過程から、店主は掬えるものを掬い上げ、イベントをするなどの方向を決めていくことを、私は「人々の場の設計」と捉えました。そして、再び東京R不動産のお話でⅤは閉められます。

 

デザイン、つまり設計することは、著者が携わってきた建築や不動産から、「仕事百貨」の運営を経て、本書を貫く一本の柱になっている。Ⅳ・Ⅴを読んで、そのような考えに至りました。

 

 

7.最終章「生きるように働く」(記録日:2018.11.9) 

Ⅴに引き続き、「popcorn」が赤字になっている現状があり、ナカムラケンタさんが相方と「どうしたらいいんだろう?」と考えている話から、取材先のだるま糸で有名な横田株式会社の京都は大徳寺付近の工場で、工場長の山崎陽一さんに仕事のお話を伺った体験にシフトし、全体のまとめとなります。

 

だるま糸の工場では、染色データをもとにして、欲しい色を求めて染料を組み合わせ、調整をかけるそうですが、なかなか、少ない回数で求める色は出ないんだとか。たしかに、染料には天然の素材を使ったものがありますから、難しいんです。山崎さんは、

「ぶれている色を直そうとして、一回で決まるとき。これはすごい楽しい。自分の感性が合っていたんだ、って感じるんです。あとは一発で想像どおりに色がでたときとか」

(本書p。229)

とおっしゃいます。それに対して、著者は「仕事のや大変なところとやりがいは紙一重なのかもしれない」と書いていて、この点は名言だと感じました。

 

だるま糸の話から、また「popcorn」のサービスをどうしようか?と著者が考えているところで、本書は終わりを迎えます。

 

 

8.全体のまとめ

以上、ナカムラケンタさんの『生きるように働く』を読み終えました。全部で240ページくらい。

 

巻末には、本書に登場する仕事人の方々のプロフィールがまとめてありますので、読み進めるなかで、登場人物のことが分からなくなったら調べられるのは、便利でした。このプロフィールの使い方として、もうひとつ思い浮かんだのは、本書を読んだ人が何か新しい事業をしようと考えた時、登場人物である仕事人の方々がいる場所が分かるので、会いに行って関係を築ける、ということです。早い話が、本書の巻末は大きな「名刺ファイル」みたいなイメージ。

 

本書の対象読者には、中堅社員の30代から働き盛りの40~50代の方だと思われます。それに対して、私は10代後半から20代初めの若年層にこそ、むしろ読んで、自分の人生のロールモデルを得るカタログとして本書を使ってもいいと考えました。なぜかというと、登場する仕事人の中には、10代のうちに面白いことをしている成人のところに遊びに行き、人間関係を作っている人もいたから。私の経験から言うと、ある程度、信頼の置ける人たちがいる場所での出会いは、早いうちから積んでおくことで、財産になります。

 

さて、弊ブログは院生や研究者の方向けに開設しているので、ここでもう一度、そういった学術業界の目線で本書を見てみましょう。幾度も出ていますが、著者は建築学専攻の出身であり、大学院までの建築プランの立て方、「仕事百貨」を開始して以降のまちづくりや場所づくりの事業をしているクライアントとの話が出てきます。そのあたりは、都市計画とか、建設関係のことに大学院で取り組み、そういった人たちが仕事をしようとした時、仕事のイメージを描くもとになると思います。そもそも、本書には「仕事や経営をどう設計するか」という試行錯誤のプロセスが登場していて、読む人によっては、かなり実践的なのではないでしょうか。

 

そういうわけで、私が本書を読んで得たのは、やりたいことを具体的に落とし込んで実行していくための「イメージ」がひとつ。生きることと仕事は、無理にオンとオフで頭を切り替えることはせず、繋げて考えていてよい、ということが、もうひとつでした。ナカムラさんたちの活動について、本書に近い雰囲気の本で知りたい方は、「シゴトヒト文庫」や登場する方々の本を読まれるのもよいかと:

 

 

 

 

 

 

本書の装丁に関しては、緑のザラザラした素材の紙がカバーに使われていて、本尾テーマに合致した素敵なものですが、やっぱり、外出先で作業の合間にパラパラ捲るという読み方はできませんでした。ページに使われている紙は手触りがよくて軽いコミック紙っぽく、捲りやすい。でも、外側のくるみ表紙とカバーが華奢で、どうも耐久性はハードカバーの本ほどは高くなさそう。持ち歩いて読むと本を傷めることになりそうで、私はずっと自宅で読んでいました。

 

最後に、生きるように働くことの一つの形として、ご案内です。今月の18日、大阪の難波御堂筋ホールで、ノンフィクション中心の実用実学書の同人イベントに出展いたします。弊ブログで書いてきたことの一部を同人誌にまとめ、頒布する即売会です。詳細は、次のリンク先にまとめてありますので、ご覧ください:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

おしまい。 

 

 

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