仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「推し研究者」に関して考えたこと~ガチンコの論文執筆時は「推したくても推せない話」ほか~

<まずは尊敬し、敬意を払うことが第一歩では?>

1.はじめに

今回は、久々に自分のTwitterのタイムライン上で話題になっていたことについて、自分なりの所感をまとめておこうと思い、はてなブログを開きました。話題の発端は、「「推し研究者」をつくってはどうかな?」という、次のオンライン記事のようです↓

gendai.ismedia.jp

このオンライン記事で工藤郁子さんが書かれたことに関しては、Twitterを中心に敬老の日の9月16日から翌17日にかけて、様々な意見や感想がツイートされた様子。それらの模様は、次のTogetterまとめ記事をお読みいただくと、大まかに把握ができそうです↓

togetter.com

 

本記事では、工藤さんのオンライン記事を私(仲見満月)が一読した後、考えたことをメモ的にざっと書いておこうと思います。 

 

f:id:nakami_midsuki:20190918222045p:plain

 

 

2.そもそも「推し」って何?

人文・社会系で研究論文を書いていた私の習慣として、最初に用語である「推し」の定義を示します。「推し」とは、オンライン辞典Weblio内の『実用日本語表現辞典』によると、

推し
読み方:おし

 

人やモノを薦めること、最も評価したい・応援したい対象として挙げること、または、そうした評価の対象となる人やモノなどを意味する表現。

 

国文法的には「推し」は動詞「推す」の連用形、あるいは、「推す」の連用形を単独で名詞として用いる表現である。

 

近年の美少女アイドルグループのファンの中では自分の一番のお気に入り(のメンバー)を指す表現として「推し」と表現する言い方が定着しており、昨今ではドルヲタ界隈の用語の枠を超えてアニメキャラや球団を対象に「同種のものの中ではこれが一番好き」という意味合いで広く用いられるようになりつつある。

「推し(おし)」の意味や使い方 Weblio辞書

といった解説がされたいた言葉。引用部から、「推し」とは「最も評価したい・応援したい対象」であり、近年のアイドルグループのファン文化から派生した言葉として、より具体的に意味を絞っていくと、その定義は「(複数いるアイドルやアニメキャラ、球団といった同種のものの中で)自分の一番のお気に入り、あるいは一番好きな対象」とすることができそうです。

 

ひとまず、本記事での「推し研究者」とは、応援する側から見て「自分の一番のお気に入りの研究者、あるいは特定の分野に複数いる研究者の中で最も好きな研究者」と定義させてください。

 

 

3.ガチンコな論文執筆時は「推したくても推せない話」

「推し研究者」の定義を説明したところで、次にお話しするのは、推し研究者の応援方法について、です。本記事の読者の方にとってイメージしやすいのは、工藤さんが書かれていたように、「アイドルやゲームアプリを推す場合などで、「ありがとう課金」「運営おつかれ課金」」するのに近い形の方法。すなわち、推し研究者を応援したいから、

  • 「サポーターとして、研究という営みに貢献」するため、「「本を積むことは徳を積むこと」と唱えつつ」、(推し研究者の)「本を買う」
  • 「ときには、コンテンツ(論文)を得る目的でなく、推しの分野・研究領域の存続を願って、本を買う」

(以上、「推し研究者」「推し学者」をつくったら、人生がときめいた話(工藤 郁子) | 現代ビジネス | 講談社(3/5)あたりより再構成)

といった、主にサポーターとして、推し研究者を応援する方法になると思います。

 

その一方、工藤さんが次の本:

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

 

の編著者である荒川優太さんの寄稿記事「「在野研究」はいまなぜブームなのか? 大学の外から学問する面白さ(荒木 優太) | 現代ビジネス | 講談社」をもとに示した、サポーター以外の応援方法には、「研究者というプレイヤー」としての方法もあるでしょう。

 

私の場合は、大学院に行っていた時から学術論文を書いていた習慣により、このプレイヤーとして、推し研究者を応援する方法をとることも一応、今回の話題に関して考えをめぐらした際、「研究者同士では論文において、批判的な読み方をし合う」*1ことをした上で、技術的にはできそうな気がしていました。すなわち、書き手の論文において、推し研究者の論文や著書を挙げて批評をすることで、ある意味、「推しの研究を紹介する形を取って応援するということ」といったイメージの方法です。この方法、実は、なかなか、難しいことなんですよ。

 

院生時代の私は、自分の書こうとしてる論文の先行研究に、憧れの研究者(本記事でいう「推し研究者」)の方の論文や本に紙幅を割いて紹介したくて、改稿を重ねたことがありました。改稿するうち、論文のテーマや明らかにする事項がクリアになっていくのにつれて、どうも、それらに推し研究者の方のご研究が、自分の執筆する論旨に合わなくなっていきました。精神的にはとても切ないんですけど、ガチンコで学術論文を書いていた身としては、書き換えても論の展開上、本文の中で書けることには限界が出てくるんです。物理的な文字数の制約もあるわけで(論文本文にタイトルを入れる形で、言及できなくなってしまったとかですね)。こうったことが実際、私の書いた学術論文には何件かありました。最後には仕方なく、注や参考文献の欄で列挙する程度に留めた文献もあったと記憶しています。

 

何本か書いて投稿し、学術ジャーナルに掲載された論文を振り返ると、面白いご研究をされている「推し研究者」の方について、自分の論文でも言及したかった(推したかった)。それでも、審査がある厳しい学術論文の投稿を考えると、論旨に合わない先行研究は触れることが難しく、ガチンコで論文執筆をしていた時は、「推したくても、どーにもならへんかったんやねん!」ということ、私にはありました。

 

 

4.推し研究者の応援の前提は敬意を払うこと~本のレビューを含めて~

私のやっている応援の仕方には、もうひとつ、研究者の方のご著書をブログやTwitter等でレビューすることがあります。この時、レビューにおいては、先のプレイヤーの研究者の立場で、自分の論文にご研究を挙げる際と同様に、私が心がけていることがあって、それは著者に敬意を払うということ。批判や推す・推さないの前に、尊敬の気持ちがないと、レビューができなかったと思います。

 

ここでの「尊敬」や「敬意」というのは、「推し」の前段階としての話。私は元研究者であり、今もそういう気持ちや姿勢を持っていて。レビューしたご著書には、自分の知識をアップデートしたくて、論文に加えてご著書を読んでることがあります。知らない分野てあれば「学ばせてください」というスタンスを基本として、読んでいく。その上で、本のレビューや書評の記事を書くときは、
 ・どんな読者に合う本か?
 ・特定の話題により突っ込んで知りたい人には、ほかに合わせて読むとよき文献や本は何か?といったあたりを考えて紹介し、リンクを貼ったりすること

に注意し、記事をまとめています *2

 

そのほか、研究内容に限らず、研究者個人を推すことについても、その方を尊敬し、敬意を払うことが前提になるのではないでしょうか。推し研究者を尊敬し、その方に敬意を払って尊重するのであれば、「相手を不快にする、命の危険にさらす、不安な感情を抱かせる」という行動は取ってはいけないでしょう*3

 

そういったこで、つまるところ、「推し研究者」の応援には、尊敬し、敬意を払うことがその第一歩になる。私はそのように考えました。

 

 

5.さいごに

以上、「推し研究者」に関して考えたことをメモ的にまとめました。内容を振り返ると、私の場合、

  • 自分がプレイヤーである研究者として「推し研究者」を応援したくても、ガチンコの論文を執筆している時は論旨によって「推したくても推せない」ことがあったこと
  • もうひとつの応援として「本をレビューする」時は、著者の方を尊敬し、敬意を払うことを前提として、対象になりそうな読者や、合わせて読むべき本を挙げていること

と中心に、 自分なりの応援方法、つまり「推し方」を整理して説明してみました。

 

研究者の推し方には、このほかにも探すとけっこう、たくさんありそうです。工藤さんが書かれていた「推しの分野・研究領域の存続を願って」サポートする方法には、研究者の所属するコミュニティを支援することも、あるんじゃないでしょうか。具体的には、団体や企業が学術的な講座を開いている場合、それらを受講し、経済的にサポートすること等。

 

そのあたり、本記事をお読み下さった皆様にも色々と考えて頂けたら、幸いです。

 

おしまい。 

 

 

 

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*1:こちらのツイート参照。

*2:特に、敬意を持った上で紹介するのは、私がフィールドにした中国前近代の人々の生活や信仰の研究者のご著書です。自分は推し研究者のファンや崇拝者というより、自分が論文を書いていた時に研究者として本気で「批評」して推す・推さないを考えていた時のことをもとに、レビューを書くこともあります。

*3:「相手を不快にする、命の危険にさらす、不安な感情を抱かせる」行為の具体的なものには、推される側が「ストーキングされているのでは?怖い…」と感じる行為が含まれると考えられます。

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