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仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

元文系院生・伊能まゆみの生き方~ベトナムで農業支援事業~

修士 大学院 進路 進学 留学 海外 生き方 文系

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(画像:ベトナム北部ラオカイ省サパの棚田 *伊能まゆみさんが支援している地域ではありません)

 

こちらの記事で少し書いていた、海外はベトナムの農業支援事業で活動する日本人女性・伊能まゆみさん。もともと、伊能さんは東京の私立大学文学部で歴史を学ぶ女子大生でした。今回は、伊能さんの経歴を出身大学のサイトページ、下の漫画でたどりつつ、文系院生の生き方の一つとして、紹介したいと思います。

www.meiji.net

 

ヤマザキマリ『ヤマザキマリのアジアで花咲け! なでしこたち2 』

(MF comic essay)、メディアファクトリー、2013年

f:id:nakami_midsuki:20160712120803j:plain(以下、なでしこ漫画と呼称)

 

 

 

1.伊能まゆみさんの経歴

上にリンクを貼った出身大学・明治大学の紹介記事(以下、明大の記事と呼称)によると、伊能さんは次のような経歴の方のようです(以下、略歴を活躍する卒業生 – 伊能 まゆ – | MEIJIN~活躍する卒業生~ | MEIJIN - Meiji.net(メイジネット)明治大学より少し記述を加えて転載:)

 

現職:特定非営利活動法人 Seed to Table 理事長

 

〈略歴〉

1974年生まれ 東京都出身
1997年 明治大学文学部卒業
1997年 ハノイ国家大学ベトナム研究・文化交流センターへ留学後、NGOや大学機関の事業・調査に現地調整員・通訳・翻訳・調査者として携わる
2000年 一橋大学大学院社会学研究科(修士課程)入学
2003年 一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了
2003年 日本国際ボランティアセンター(JVCベトナム事務所に赴任
2005年 JVCベトナム事務所 代表就任
2009年 JVCを退職後、任意団体Seed to Tableを設立
2010年 特定非営利活動法人NPO法人)となり、理事長に就任
2013年 酪農学園大学特任教員に就任 

 大学入学と留学のきっかけ

伊能さんは1974年、東京都葛飾区金町で生まれ、育ちます(某漫画の腕まくり警察官のいる派出所のある、人情あふれる下町だと執筆者は勝手にイメージ)。すくすく育ち、1997年にフランスの歴史を学ぶため。明治大学に入学します。 なでしこ漫画によれば、漫画「ベルサイユのばら」を読んでいて、「フランスをはじめ、世界の歴史に興味を持」ったのが、そもそものきっかけだった様子。

 

入学後の時代背景として、「ちょうどバブルがはじけて就職氷河期だと言われていたので教職課程を受け、アジアの歴史、地理学、国際関係論、政治経済についても学ぶ機会を得まし」て、アジア各国の歴史や社会に自分が深く理解していないことを発見。アジア各地への旅を経て、ダイナミックなその動きに触れます。大学卒業後、縁があってベトナムに留学(以上、明大の記事より)。

 

ここで執筆者が思うに、不況が世の中を襲うと、文学や歴史の学科にいる文系学部生は、教職課程を受ける人が多いです。特に、伊能さんのいた歴史学だと社会科の免許を取るべく、地歴・公民分野の授業を受講する機会に恵まれます。その中の一教科がきっかけで、教員志望だった人が別の分野に転向するというのも、ままある話。

 

ベトナム留学から一橋大学大学院へ、そしてJVCベトナム事務所赴任と仕事 

ちなみに、留学しやすいと聞いたのが、たまたま、ベトナムだったからという理由だそうで…。貯金をはたき、ひとまず、3年間ベトナムに滞在したそうです。その期間中、伊能さんはハノイ国家大学の当該センターで学び、NGOや大学機関等で調査者として携わります。その傍ら、農村を訪れ、「農家の皆さんにコメの作り方などについて教えて頂き、農業が非常に科学的で、おもしろいということに気がつき」、また、逞しい農業従事者の方々に感銘を受けるという、農業を色んな角度から学んだそうです。

 

日本に帰国後は、「一橋大学大学院へ入学した後、中国と国境を接するカオバン省のヌン民族の村で共有林の管理をテーマにフィールドワークを実施」し、「何とか修士論文を書き終え」、日本国際ボランティアセンター(JVC)というNGOベトナム事務所へ赴任し、北部の山岳地域にあるホアビン省にて農村開発・環境保全事業を担当することになりました」とのこと。

 

 少し、コメントすると、農業に関する研究をするといっても、土壌開発や品種改良といった理系方面ではなく、伊能さんはベトナム少数民族の村での共有林の管理をテーマとした文系の社会学からアプロ―チしています。一口に農業といっても、農地の分配や管理といった社会制度的な面、それから豊作になるようにという祈りを捧げたり、豊作を感謝したりする祭祀等は当地の風習や信仰といった民俗と結びついていることがあります。そういった文化的なものから研究し、当地の背負っている社会的・歴史的なバックグラウンドも含め、農業を向上していく現実的な手法を模索する上で、伊能さんの学んできたことは大いに役立ったと思われます。

 

JVCのベトナム事務所時代、伊能さんは、「対象地域の実情を理解するために村人や地方行政の職員の皆さんと対話をすることに注力し」ます。ここで、本や開発セミナーとは違った現状に気が付き、「きちんと現地で実情を確認し、現地の人々の視点・立場に立って事業を計画することの重要性を学」んだそうです。

現地の人たちと話をするにも、やはり、言語や文化的なことを知っていないとコミュニケーションに難儀すると考えられます。担当する事業では実務はもちろん、やはり意思疎通のために、現地の様々な歴史や風習をしっていることが大切だと、私は思いました(以上、明大の記事参照)。

 

ちなみに、どうして伊能さんが農業に関わっているのか?なでしこ漫画によると、幼少期に保育園の園長だった母親のもと、「地元の新鮮な無農薬野菜を食べて」成長した伊能さん。食べることが大好きになり、そこから食と安全のかかわりに興味がわいて、ベトナムでの農業支援事業へと繋がっていったそうです。

 

 

2.NPO法人Seed to Tableの設立と活動 

 2009年3月、JVCベトナム事務所の閉鎖が決まったことから、伊能さんは自らNPO「Seed to Table」を設立します。下がその団体のサイトです↓

seed-to-table.org

 

 団体名の由来は、

2つあります。1つは農家の暮らしを良くしていくためには、農家が協力して良いものを作り、加工し、直接「食べる人」へ届けていく仕組みを作る必要があると思ったからです。もう1つは「たね」が農家にとって、自然にとって、さらに私達の健康にとっても大事な問題であると気がついたからです。そのため「Farm to Table=農園から食卓へ」ではなく「Seed to Table=たねから食卓へ」にしました。

 というもの(明大の記事より)。幼少期、無農薬野菜で育ち、食べることが大好きになった伊能さんならではの団体名だと思います。

 

現在、伊能さんはこのNPOで、環境に配慮した農法を紹介し、良質の農産物を消費者へ届ける仕組みづくりを通じて、貧困層や小規模農家が、農業・農村で生計を立てていけるよう、支援を行っています。 

 

Seed to Tableは現在、4つの事業をベトナム国内の2つの地域でしてます。

 ①北部山岳地域のホアビン省での活動

少数民族のムオン族が住む棚田の美しい地域で、水の流れと使い方を改善したり、水質調査や無農薬調査を実施したりしつつ、現地の生物や植物を調べて「自然と暮らし博物館」を集落ごとに設置する準備をしているそうです。

また、前職時代からの農家の人たちと一緒に、在来種を守る取り組みを行うほか、消費者・行政職員・流通業者と協働グループをつくって、「透明で公平な有機農産物の流通の仕組みづくりに取り組」んでおられます。

 将来のビジョンとしては、上記の事業を元として、青年が中心となって、森や川の害を行い、高床式家屋での宿泊、各村の有機農産物を使った食事提供、自然と文化を生かしてエコ・ツーリズムを展開させていく予定とのこと。

 

村を出て、ハノイなどへ出稼ぎ行ったものの、給与で生活できず都会になじめなくて戻ってい来た若者たちは、「同じ苦労をするなら、村にいて家族を助けながら暮らしたほうが楽しい」と話す。伊能さんたちは、ムオンの民族の「心」と「経済」を支えるため、村の自然環境や伝統文化を守りつつ、次世代が安心して子育てしていける仕組みをこの地域につくっていくことに挑戦してます。

 

 ②南部のメコンデルタにあるベンチェ省での活動

この記事を読んでおられる読者には、中高の地理の授業で、メコンデルタといえば東南アジアの一大農業地域として習った方もいらっしゃるのではないでしょうか。 伊能さんたちが担当するベンチェ省は、その地域中ではメコン川の最下流にあり、気候変動が激しい影響を強く受けるうえ、ベトナム戦争中の枯葉剤が散布された地域。近年は、多くの小規模農家が経営難で土地を手放し、日雇い労働者になるなど、貧富の差が拡大しています。

執筆者は、豊かな農地のあるメコン川流域というイメージでいたのですが、伊能さんの話を聞くと、現代史の中で国際社会上、大きなターニングポイントとなったベトナム戦争による負の部分の大きさを感じました。

 

 この地域で、Seed to Tableは貧困世帯を対象に、様な取り組みをしています。

 その1.持続的農業の技術研修

 その2.村ごとに「アヒル銀行」や「牛銀行」を設立:

  貧困世帯が食料を自給し、現金収入を得ながら生活を改善していけることが目標。

「アヒル銀行」や「牛銀行」は村の代表からなる「村づくり委員会」が村ごとに管理しています。中には20羽のアヒル肥育から始め、次第に羽数を増やしながら家庭菜園で収穫した野菜を売り、節約したお金で水田を購入し、貧困から脱却した世帯もあります。

アヒルを使った水稲同時作では、村で説明会を開き、成功した農家の人に話をしてもらうなど、地道にこの農法を広めようと試みています。ですが、説明どおり、実践できる家は、なかなか、ないようです。また、別の農法で稲作をしていたものの、不作で困窮した農家の人がアヒルの水稲農法をしたいと伊能さんに相談しても、貸付金の関係で行政職員が渋り、それを伊能さんが説得にかかる。そういったことの連続で、スムーズに農業生産が向上することは少ないようです。

(そもそも、村役場の貸付金帳簿の管理自体が大雑把で、伊能さんが険しい顔で説明を求めることもあるんだとか)

 

こういった農業支援の活動と同時に、食の安全と人の健康を守るため、有機農業に取り組み、また有機野菜を学校で販売しつつ、品質のよいものの販路を拡大しようと奮闘しておられます。

 

 取り組みや事業の発信と資金について

直接的な農業支援、そして有機農業でとれた農産物の販売事業のほか、Seed to Tableでは、現地の自然環境の在来種を紹介するイベント開催、消費者が現地を訪れて生産者の農家と交流する場を設ける活動をしています。時には、協力している農家と共に国際会議で、ベトナムの現状を訴えたり、日本をはじめイタリアや韓国、東南アジア諸国の農家や流通業者と経験交流を重ねているそうです。

 

なお、Seed to Tableの資金は、日本の外務省や民間企業から受け取る助成金で、NPOの運営と支援活動に充てているとのこと。

 

3.まとめ

先にコメントしたように、伊能さんがベトナムに行くきっかけとなったのは、そもそも、日本のバブル経済が弾け、教職課程をとったところから始まっています。きっかけは、文系学部生にはあるある!というものでしょうが、そこから、日本と考え方や制度が異なるベトナムに飛び込んで、そこから数年の滞在を経て、日本に一旦、帰国して大学院社会学研究科修士課程で修士論文を書き(この間、2001年から一年間、ベトナム少数民族ヌン族の村で暮らす)、修了後にJVCベトナム事務所で働き始めます。事務所が閉鎖になると、今度は自分でSeed to Tableを立ち上げて、事業継続。

 

明治大学の文学部を卒業後、ベトナムに3年間滞在し、そのまま現地で仕事を続ける道もあったのだと思います。でも、伊能さんには、ベトナム滞在中の3年間で、農業事業へ入っていく上で、きちんと手法を学び、その方法を見通すために進学を選んだのかもしれません。一橋大学大学院社会学研究科修士課程を選び、苦労しながら修論を完成させて修了後は、JVCで仕事を得てベトナムに戻ります。

 

修士課程の2年は、手法を学び、それを現地に戻って実践していくには、ちょうどよい時間だったのかもしれません。また社会学というのは、伊能さんのように、修士課程を修了した後にコンサルタント業、NGONPO等の支援団体の職員、公務員になる人がいて、大学院で身につけた知識や手法、技術を生かしやすい分野なのかもしれません。

 

そう仮定すると、今回の伊能さんのように、目的や現場が先にあって、そのためにどういったことを修得したらいいのか?と逆算的に考えて、文系大学院の修士課程に進学するという人は、「勉強」・研究と就職・仕事が結びついていることになります。

 

また、途中でも書いたように農業はその土地の歴史的・社会的な成り立ちと繋がったシステムの中で営まれているものです。支援事業をしていくには、現地のこういった文化的な背景を理解して人々とコミュニケーションを取り、エコ・ツーリズム事業などの新しいことをやっていく上で協力していくための力量が求められます。そういった意味で、伊能さんが学部で学んだ歴史学は、Seed to Tableの活動に役立っていると言えます。あんまり、生かす場所がないと言われる分野の歴史学ですが、このように、生かそうと思えば生かせる現場はあるという例だって、伊能さんのようにあるのです。

 

もし、これを読んでいて、NPO団体等でこういう目的で働きたいという文系学部生がいたら、今回、紹介した道を選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか?

 

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