仲見満月の研究室

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大学図書館の役割って何だろう?資料の価値はどう決まるの?~高知県立大図書館の件の続報や振り返りまとめ~('18.12.30、12時台の更新)

<今回のもくじ>

 1.はじめに~図書館総合展の告知を含む、長い前置き~

本記事は、先週17日、高知県立大の移転に絡む、永国寺図書館の蔵書の除却問題について、取り上げた次の記事の続編的な位置づけになります:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

8月の第3週の金曜から昨日まで、この問題についての様々な立場からの意見、背景を説明したブログやツイートを目にしました。そのなかで、私自身、学生特有の大学図書館の使い方を忘れていたり、法律的な視点から見た大学図書館の位置づけに気がついていなかったり、問題を考えるのに欠けていた部分が多く、反省いたしました。

 

8月18日には、高知県立大学より学長名義で、今回の永国寺図書館の蔵書除却の件について、オンライン上に公式的な説明が出ました:

 ●「高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について|重要なお知らせ - 高知県立大学ホームページ

 (掲載日:2018年8月18日更新、高知県立大学

 

Twitterの私のタイムラインでも何院かの方が仰っていたように、公式的な説明を読むと、現状、大学という一教育機関の図書館として4万冊近い蔵書の処分はやむなしの判断だったように思います。一方で、前回の「蔵書や資料を納める施設の移転と引継問題~「高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数」(高知新聞)~ 」にも書いたように、同様の問題は施設の移転にともない、日本全国の大学付属の博物館、そして、大学図書館でも資料の保存や管理の面では、実は出ていたようですし、私の考えでは、今後も出てくることが予想されます。悲しいことですが、現場で働く職員の方々には意見はできても、上層部の決定があれば、所蔵していた資料の処分について、決定権がないところは少なくないと考えられます。

 

また、センセーショナルな報道のされ方であったとはいえ、今回のように新聞で取り上げられることあがなければ、施設の移転にともなう大学図書館の保存・管理の問題は、広く知られることはなかったかもしれません。これを機会に、大学図書館を含めた日本全国の図書館の問題について、関係業界の方々が少しは考えて下されば、というネット上でみかけたコメントは、私も思いました。

 

ちょうど、今年の10月末から11月初めに、図書館業界の教育・学術的な公開イベント「図書館総合展 | 図書館とともに進める まち・教育・情報の未来」が予定されています*1ご興味のある方は参加されて、図書館の色んなことを考えるきっかけにしては、いかがでしょうか。

 

で、高知県立大の件は、大学より説明が出ましたので、一区切りつきました。しかし、私の懸念事項として、全国の大学図書館、広くみれば他の図書館については、これから問題は出てくるかもしれないよ、ということは残っています。今回は高知県立大の公式的な説明を中心に、この件について補足しつつ、改めて、大学図書館の役割を私なりに見つめ直し、施設の移転にともなう大学図書館の保存・管理の問題を再考してみたいと思います。


f:id:nakami_midsuki:20180820085638j:image

 

 

2.「高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について」の説明と大学図書館の役割

 2-1.約3万8千冊の資料を除却することなった経緯

まず、高知県立大が図書館の資料を除却するまでの経緯について、 前回の拙記事「2-1.蔵書3万8000冊の処分の経緯」」において、私は高知新聞のニュース記事「高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数|高知新聞*2をもとに、以下のように書きました。

  1. 永国寺キャンパスの図書館が2017年の春に新設される時、「旧館よりも建物が小さい」せいで、全部の蔵書を新しい図書館に「引き継げない」ことになった
  2. 1を受けて、「約3万8千冊に及ぶ図書や雑誌を焼却処分にしていたこと」が今月16日までに判明
  3. 蔵書には、戦前の郷土関係の本や、現在は古本屋でも入手が難しい絶版になった本、「高値で取引されている本」が多数含まれていた

【'18.8.20_1155見出し追加】蔵書や資料を納める施設の移転と引継問題~「高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数」(高知新聞)~ - 仲見満月の研究室) 

上の部分に引き続き、「上記の概要に続き、高知新聞は「焼却せずに活用する方策をなぜ取らなかったのか、議論になりそうだ」と、言葉を受け加えています」と、私は書きました。

 

高知県立大は「平成29年4月の新図書館への移転に向け、平成25年度以降、約4年にわたり慎重な討議を重ねてまいりました」*3と説明しています。新図書館への移転をふまえた計画であることが窺え、それについて長期間にわたり、除却につちえも話し合われていたことが分かります。結果として、4万冊近い資料を除却することになったことについては、資料を入れておくスペースが旧図書館より狭くなった背景が、続きの説明にありました。ネット上では、「本を入れる空間が旧図書館より小さくなるのは、設計ミスでは?」、「司書職員は意見しなかったのか?」といったコメントがあり、その点は私も謎でしたが、県立大の示した次の箇所で答えを得ました。

本学の蔵書は、歴史的には高知女子大学高知短期大学、旧高知女子大学保育短期大学部の図書を統合しつつ、このたび高知工科大学の一部の図書を含めたものであり、永国寺キャンパスの整備にあわせて新図書館を新しく開館いたしました。この新図書館は、広さを約1.5倍としたうえで、旧図書館にはなく、近年求められているディスカッションルームや集いスペースなどのグループ学習室を新たに設置し、座席数も大幅に増やすなど、大学図書館としての機能を充実させました。

(「高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について|重要なお知らせ - 高知県立大学ホームページ」)

 

そう、大学図書館には、まず、学生同士で集まって授業のグループ発表の準備をするため、声を出して資料を広げ、話し合いながらレジュメを作ったり、スライドを作成したりするための部屋が必要なんでした!ごめんなさい、そのあたりのことは、忘れておいました。

 

自分の経験上、例えば、教職ゼミでは班をつくって、学校教育の現場で起きている問題を発見し、資料を調べたり、アンケート調査を実施したりして、ゼミ発表を行うことがありました。日によっては、16時から予約を入れておき、数時間、ぶっ続けで作業しながら、発表準備をします。講義が間に入っている人、空腹になった人は途中で抜けることもありますが、長い時で5~6時間くらい、連続で籠るときもあったと記憶してます。図書館の会議室を使って、貸出の手続きをいちいち、とらずに館内で本をたくさん広げて、仲間と議論をしながら長時間の作業ができるのは、非常に有り難いことでした。

 

大学によりますが、私のいた学部は、学部ごとの談話室や専攻別の共同研究室が使えても、建物のセキュリティ上、19~20時くらいまでに施錠されるため、時間になると追い出され形で別の場所に移動し、プレゼンの準備をすることになります。図書館がしまった22時以降や、仲間のスケジュールによっては、メンバーの自宅に集まり直して、道具や資料を持って、作業再開をしました。私の部屋は狭くて、資料の本を床に広げて見ながら読むのが不便で、別の人の家にお邪魔したら、何回か、お隣さんがやって来て「うるさいんですけど…」と言われ、落ち着かなかったことがあります。

 

他の授業では、B4以上の大型本を広げて、プレゼンの準備をすることもあり、そういう時は、図書館から借り出して作業をするのは、大変だったと思います。以上のような理由で、館内には資料を広げて、学生が複数人で話し合いをしながら授業準備をできる部屋が必要なんです。

 

 2-2.ラーニング・コモンズと大学図書館の役割~学習支援の環境について~

こういったグループ学習室の他に、大学図書館には、大型本の閲覧台、論文DBの使い方や文献の探し方を質問できるスタッフのいる部屋といった、学生の学習支援をするための環境をひっくるめて「ラーニング・コモンズ」と呼ぶ施設が備わっています。大学は、学校教育法において定義される教育機関*4教育機関です。大学は、文科省の出した「大学設置基準」*5によると、

第36条 大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる専用の施設を備えた校舎を有するものとする。ただし、特別の事情があり、かつ、教育研究に支障がないと認められるときは、この限りでない。
 一 学長室、会議室、事務室
 二 研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室等とする。)
 三 図書館、医務室、学生自習室、学生控室

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=331M50000080028&openerCode=1#H

と、有する専用の施設の第三項に図書館が挙がっています。つまり話をまとめると、大学図書館は、学生の学習支援をその役割に持っていることが当然ということです。

 

この時点で、大学図書館の課せられた役割を考えると、学生の学習支援の環境を整える目的で(要望もあったそうですし)*6、蔵書スペースを減らさざるを得ないというのは、仕方ないと私は考えました。その上で県立大は、

一方で、蔵書の収蔵能力は旧図書館と同程度を保ちつつ、将来も増加し続ける蔵書のことも考慮し、大学として慎重に検討を行い、3.8万冊程度を除却するという決断を

(「高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について|重要なお知らせ - 高知県立大学ホームページ」)

なさったわけです。

 

 2-3.大学図書館の蔵書処分のプロセスと除却本の古書市場おける価値~元大学図書館の職員による多忙な現場、および古書店の中の人から見た県立大の件~ 

さて、ここからは高知県立大が除却する本を決めていくプロセスを見た後、他の元図書館の職員が見た現場、それから古書店のほうから見た処分対象となった蔵書の問題に触れていきます。

 

県立大の公式説明によると、次のようなプロセスで、除却する本を決め、作業を進めていったとのことです。

  1. 複数の司書と分類ごとに専門性のある教員が、破損により補修不能であるものや重複しているため保存の必要がないものなど学内規程に定める除却の基準に基づき、除却候補リストを作成
  2. 全学の教員に確認する工程を繰り返すなど、時間をかけて手続き的にも慎重に行った
  3. 1~2の結果、重複図書約18,700冊、雑誌約12,700冊、書籍約6,600冊、合計約3.8万冊を除却することを決定
  4. 3の決定後、池図書館への配架移転や教員研究室、学生研究室への移管などを行い、大学としての有効活用にも努めた。

 (「高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について|重要なお知らせ - 高知県立大学ホームページ」をもとに再構成)

 

プロセスの1~2については、 高知新聞が伝える、

同大総合情報センターは「新館が小さいがために除却せざるを得なかった。学内の承認を経て、大学図書館として必要ないものを中心に、教員に十分チェックしてもらって適切に処置した」としている。

高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数|高知新聞

という箇所と矛盾はありません。また、除去決定され、焼却された資料についても、「2014~16年度中に断続的に13回に分けて、業者に委託して高知市の清掃工場に運び込み、司書らが立ち会う下で焼却したという」(同新聞)のとおり、慎重に、そして丁寧に職員の方々が処分に向き合っていたことが窺えます。

 

県立大の件が話題になっていた中、元大学図書館の職員という「増田さん」(筆者、自称・私立大の図書館の中の人)により、通常だけでも現場の忙しさは、大変なものだということを伝える記事が投稿されました:

anond.hatelabo.jp

 

増田さんによると、有限の図書館の書架において、「蔵書を廃棄するまで」に取られる作業は、「購入・整備と同じ」く、「定常業務のひとつ」だそうです。通常の手順は「購入→開架→閉架→検討→廃棄」で、増田さんの記事により詳しいことがありましたので、紹介いたします。

  1. 購入図書は新着図書コーナーを経て開架へ配架。
  2. 開架に配架されている図書のうち一定期間(うちは3年)貸出利用されていない図書は閉架に移動。
  3. 閉架に配架された図書で閲覧申請があったものは開架に戻す。
  4. 閉架に配架された図書でさらに一定期間(うちは5年~20年)閲覧申請がない図書を図書館職員が廃棄リストを作成※。
  5. 大学図書館委員会(各学科の図書担当教員)に廃棄リストを提出し承認を得る。
  6. 各研究室に廃棄リストを配布し、欲しい本があれば研究室に譲渡。
  7. 廃棄。

(オプション)

文化祭や各種イベント時に来館者へ「ご自由にお持ち帰りください」譲渡。←やっても一般書以外はほぼ持ち帰りなし。
専門の古本屋に蔵書印削除や廃棄等の手間賃を差っ引いて箱単位で買い取ってもらう。←事務手続き多め。新設図書館開設時には忙しくてやってらんない。
 ※図書館職員の廃棄選定基準

  複本、新訂版有無、電子版有無、利用頻度、連携先図書館・国立国会図書館所蔵有無

 (高知県立大焚書記事問題を元大学図書館の人視点から

 

大学図書館では、通常手順で1~7の作業を繰り返しています。しかも、貸借、書庫への入庫手続き、レファレンス業務、学外からの資料に関する問い合わせ業務およびそれへの対応、学生に向けた論文や新聞のデータベース活用講座の実施等と並行してやるんですね。学園祭などのイベント時、リサイクルコーナーに除去する本を出したり、専門の古書店に引き取ってもらったり、するときの事務手続きは多い…。私は目まぐるしく感じました。

 

更に、「図書の価値を決めるもの」に、大学図書館に蔵する資料の基準に関係することが書いてありました。

大学にもよるだろうけど、本当の貴重書・重要度の高い図書は図書館にはなく研究室にあったりする。

 特定専門分野の第一人者が定年退職し、後任研究者がいないと研究室所蔵図書の価値がわかる人がいなくなり、あえなく廃棄処分になるケースも何回か経験してきた。

 大学図書館にとって図書の価値基準は教育・研究対象関連であるか否かである程度決まってくる。 

 (高知県立大焚書記事問題を元大学図書館の人視点から

 

貴重書や重要度の高いものは研究室所蔵になっている、といのは半分、事実です。

というのは、大きな大学の図書館になると、一定以上の研究業績が認められる卒業生やその法人の所属研究者などの著書や蔵書を引き取り、丸ごと保存・管理するケースが例外としてあること*7が1つ。ある程度の規模の大学だと、中枢となる大きな図書館に、学部や学科別の図書館、資料室が繋がる「図書館機構」として、大学図書館が組織化されているところがあり、貴重書や重要度の高い資料の分類・配置の場所が分かれていることが、もう1つあります。

 

ここからは少し、資料のことをお話します。大学図書館には、人文系からすると、資料(史料)には一次、二次の区分けがあります。私がかじった歴史学の東洋学分野では、ざっくり例を出すと、一次史料といえば文字の刻まれた甲骨や金属器、竹簡・木簡などの出土文献、故人の生前の経歴や業績を記した墓碑など、生の文献史料がそれに当たります。二次史料では、『史記』や『漢書』、『三国志』など正史で、一次史料をもとに編纂された伝世文献を指すことがあると思われます。

(厳密な定義は、学派や個人個人で異なる場合あり)

 

高知県立大で焼却処分された資料の具体的なものの一部は、高知新聞が伝えるところでは、

 こうした「完全焼却された図書」のうち、郷土関係は、土佐藩国学者、鹿持雅澄が著したものを大正、昭和期に発行した「萬葉集古義」(1922~36年)をはじめ、「自由民権運動研究文献目録」(84年)、10年がかりで全国の自然植生を調べた「日本植生誌」の四国の巻(82年)など年代やジャンルをまたいで多数。満州中国東北部)やシベリア抑留、戦地などから引き揚げてきた高知県を含む全国の戦争体験者の話をまとめた連作もある。

 

 また、複本を処分した1万8773冊についても、県内の他の図書館にほとんど残っていない郷土の希少本、戦前や戦中の古い本、自治体や大学、企業などの歴史をまとめた年史物、人気のある歴史辞典や国語辞典、市場で入手希望が絶えない絶版本などのタイトルが並ぶ。

 

 幸徳秋水植木枝盛中江兆民、馬場辰猪、寺田寅彦の全集や日記のほか、高知市民図書館発行の「土佐日記の風土」(87年)と「西原清東研究」(94年)、県文教協会発行の「土佐及び紀州の魚類」(50年)、県内戦没学生の「運命と摂理 一戦没キリスト者学徒の手記」(68年)、岡上菊栄女史記念碑建設会の非売本「おばあちゃんの一生:岡上菊栄傳」(50年)などがある

高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数|高知新聞

といったものでした。一次・二次の区分でいうと、例えば、土佐藩国学者の著書や、幸徳秋水植木枝盛中江兆民らの日記で、手書きのものであれば「一次」、手書きの著書や日記を活字に起こして、編集を加えて出版したものであれば「二次」になるでしょう。ゆえに、「大正、昭和期に発行した「萬葉集古義」(1922~36年)」や、思想家や運動家らの全集は、手が加えられ、活字化されて編集されていると考えて、ひとまず、二次的な資料として、ここでは扱います。それ以外の「自由民権運動研究文献目録」(84年)、体験者の体験談をまとめた本、「県文教協会発行の「土佐及び紀州の魚類」(50年)」、「自治体や大学、企業などの歴史をまとめた年史物、人気のある歴史辞典や国語辞典」についても、説明の便宜上、二次的なものと致します。

 

貴重書か否か、資料の重要度については、研究分野でどう扱うかにもよりますが、今回の件では、古書市場で出回っている数や価格がそれを決めることがポイントです。ここで挙がっている資料の古書市場における流通量や価値については、古書店の中の人・閻魔堂さんがnote.muの次の記事に詳細を書いていらっしゃいました:

note.mu

 

ざっくり言うと、閻魔堂さんが挙げて説明された資料で、複本(ダブり)のないものは、

  • 萬葉集古義」
  • 「研究文献目録」の類
  • 「平和の礎」
  • 各種学校の歴史をまとめたもの

でした。どれも二次的な資料であり、古書市場ではたくさん出回っていて、価格が10年のうちに大きく下がっているとのこと。また、オンライン上で提供されているものの紹介リンクも合わせて、書かれていました。閻魔堂さんとしては、市場に供給される量が過多なものがあったり*8、文献目録の類はアップデートしてく必要があったり、学校史は各々のサイトで公開されている年表を見たり、そういったことを書かれていました。結論としては、県立大の今回の処分は、古本屋から見ると適切だったと仰っています。

 

歴史学を含む人文学の私からすると、閻魔堂さんの見方とは違ったことが見えます。上記の本のうち、二次的な資料であっても、あるいはオンライン上で確認できる内容を含む資料でも、

  • 出版年や重版によるバージョン違いで、文字の移動、記述の訂正等がある
  • オンライン上の情報は書き換えられることがあり、永久的なものではない

といったことがあります。人文学は、特に、情報を紙に固定して残し、その(僅かな)違いから読み取れることに重きを置く分野が多いので、二次的な資料であっても、紙が大きな意味を持ちます。目録についても、然りです*9。他の分野は分かりませんが、少なくとも歴史学において、資料(史料)の改訂版や新訂版は、古いバージョンの上位互換的な位置にならないケースはあるんです*10

 

それから、「よその大学図書館や古本屋にあるから、そっちで閲覧や購入をしてくれ」という意見は、学生にとって高額な学術系の本を所有するのが難しくなっている昨今にとって、けっこう、酷です。電子データについては、300ページのPDFファイルの文献で、容量が重く、閲覧端末がフリーズ!…使い勝手が悪いことは私が経験済みです。

 

資料の価値の話*11については、文字数の関係上、このあたりで終わります。

 

2-3のまとめをすると、これまで述べてきたことから、県立大の大学図書館では、多忙な現場で職員の方々が、煩雑な手続きがともなう古書市場の価値が低いものを多く含む除却資料について、可能な限り、厳選して作業を進めた、という事実が浮かび上がってきました。

 

 2-4.除却した資料の他者への引き渡し案のこと~焼却処分の代替になったの?~ 

上記のプロセスに加えて、除却する資料の選定、それから引き渡しは、一部、情報が著重複しますが、

  1. 複数の司書と分類ごとに専門性のある教員が、破損により補修不能であるものや重複しているため保存の必要がないものなど学内規程に定める除却の基準に基づき、除却候補リストを作成
  2. 全学の教員に確認する工程を繰り返すなど、時間をかけて手続き的にも慎重に行った

という手順で行われました。これらの動きについて、ネット上では、「学生たちや学外の人たちに引き渡しをする機会を設けてもよかったのでは?」という声がありました。それでころではない現場では、忙しく、時間的にも人出としても、大学教員以外に本を引き渡す余裕は、なかったのでしょう。あっても、除籍する印鑑のついた本を学外に出すのは、煩雑な手続きが待っています。事実、私がいた研究室で管理し、その研究科の大学図書館の蔵書検索システムに登録された資料を、そこの所属を離れる大学教員が引き取るには、「すげー面倒くさい手続きが待っている」ことを私は聞いたことがありました。

 

現場の忙しさと、除却資料を学外に引き渡す時に発生する煩雑な手続きのせいか、どうも、大学図書館では学外に除却資料を出す機会は非常に限られているようです。機会が少ないということは、そういった手段を取れるということを発送しなくなることに繋がるのかもしれません。ここらへんは、私の憶測でしかありません。

 

ですが、先週土曜日、18日に出された別の高知新聞のニュース記事:

 ●「本焼却の高知県立大、古本募金で図書費集め 対応ちぐはぐ」高知新聞

(2018.08.18 08:40付、高知新聞

には、図書館運営責任者(同大の山田覚総合情報センター長(看護学部教授))への一問一答を読むと、大学図書館の上層部に「学外に除却資料を出す手段を取る」ということについて、思い至らなかったと思われる箇所がありました。

 

このニュース記事の話は、他大学でも取り組まれている「古本募金」を、高知県立大の図書館でも導入することになったところから始まっています。古本募金は、キャンパス内に設置された回収箱に、学生や大学職員たちが不要になった本やDVD、CDを入れて、それを回収した古本業者が値段を付けて買い取り、その金額を大学側に寄付するシステムです。国立大学だと、神戸大学京都大学岡山大学広島大学高知大学などで実施されているとのこと。学外に除却資料を出す手段を取る」ということについて、大学図書館の上の人が思いつかなかったと窺えるのは、以下のところでした。

(※著作権のことを考慮し、仲見満月が高知新聞の元記事をもとに、該当箇所を再構成しました。気になる方は、無料登録で全文を読める元記事をご確認ください)

 Q、本を大量に焼却した理由は?

 A、あの時は、大学の印を押したものを外に出すっていう発想はありませんでした

 Q、戦前戦中の本、それから戦後に出たけれど、今は殆ど残っていない本を焼いて処分しています。致し方なかったのでしょうか?

 A、…今、初めて知りました。自分が判断したのではなく、然るべき制度を作り、判断したんです。

 Q、焼かないで頒布するとか売るとか。他館の実践は以前からありますよね?十分な調査を行い、検討はなさったんでしょうか?

 A、うーん、分かりません。気付きませんでした。繰り返し申し上げましたように、大学の印があったものを(学外に)出す行為には非常に抵抗がありました。ただ、今は違っています。… 

(「本焼却の高知県立大、古本募金で図書費集め 対応ちぐはぐ」高知新聞、2018.08.18 08:40付をもとに、仲見が文意をもとに再構成。Qが天野氏、Aが山田覚合情報センター長の発言)

 

高知新聞の天野氏は、「高知県立大学では、この募金で得た寄付金で「大学図書館の書籍購入費に充て」ているとしている。しかし、その事実は、蔵書の大量焼却の動きと合わせると、対応に整合性が少ないのではなかろうか?」といったことを指摘してます。

この整合性の少なさについては、

  • 天野氏が問題にしている「戦前戦中の本や、戦後でも現在はほとんど残っていない本」について、図書館学が専門でない人物(看護学部教員)が、同大の図書館責任者をしていること

が大きいです。

 

同大の図書館の総合情報センター長の山田覚さんは、同大の「山田 覚(研究者情報) - 高知県立大学ホームページ」によると、もとは経営工学のご出身で、看護情報のシステムを管理に関することがご専門の看護情報学研究者と呼んでいい経歴をお持ちでした。少なくとも、大学図書館の資料管理に絡む図書館情報学とは離れた分野の方ではあるようで、図書館司書の資格も持ってなさそう…*12。大学教員に資料の引き取りをする発想はあっても、現場の人ではないようだから、人文科学的な図書資料の保存・管理の方向では判断できなくても、仕方なかったでしょう。

 

除却処分された各資料の古書市場での価値について、山田さんは、先の閻魔堂さんの書いたような事情は、もっと把握していなかった可能性があります。私の調べた範囲では、トップが図書館学分野の研究者や、たたき上げの図書館職員でない限り、今回の除却判断の結果になったのは、仕方がないとしかいえません…。

 

前回の拙記事で、私が「こういうことがあったら、よかったのにな」と考えていたことは、独立・在野の研究者で、例えば、地元の郷土史家や、必要だという人がいたら、譲れば役立てられたかもしれないのに、ということです。もっと言葉を足せば、

同センターは、大学教員が本を引き取る機会を設けたのに対し、「学生や地域住民は対象外」だったことは認めている様子。時に、歴史学の分野では、郷土資料から新史料が見つかって、これまで言われてきたことに対して、見方が変わることはあり得ます。『正伝 岡田以蔵』のように、郷土資料を多く用いた評伝を知る者として、もし、県立大や同センターに郷土史家を知っている人がいたら、もう少し変わっていたのかな?

蔵書や資料を納める施設の移転と引継問題~「高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数」(高知新聞)~ - 仲見満月の研究室

ということを考えていました。

 

あとは、地方の公立図書館に引き取れる余地があれば、それはそれで、日本の図書館世界では理想的なことであり、地元に資することになるでしょう。郷土資料の保存だけであれば、県立図書館、さらには国立国会図書館に寄贈すればよいですけど、どこも既に所蔵しているでしょうね。受け入れは難しいことも知ってます*13。個人的に在野研究者が所有してもいいけど、それもお金と空間、人手に余裕があるのが前提です。

 

 2-5.小結

ということで、長々と高知県立大の大学図書館の件について、公式声明を中心に、続報を長々とまとめながら、私なりの考えを加えました。大学図書館の役割上、ラーニング・コモンズを増やしたら、蔵書スペースを狭くせざるを得なかったのも、4万冊近い除却処分の資料を出す判断をした結果についても、多忙な現場では、苦渋の思いをした人たちがいたでしょう。除却処分した本については、古書市場で価値が低いものが含まれており、学外に出すにも煩雑な手続きが待っていることが分かりました。

 

現場の大学図書館よりも、Twitterで言っておられる方もいますが、色々と最終的に決定をした大学の上部の人たちについて、個人的に「もう少し、どうにかならなかったんでしょうか?」と思うところが残りました。

 

 

3.最後に~あとは海外に引き取ってくれるところを探すしかない?~

高知県立大の案件は、全部、2-5までに書きました。じゃあ、他の大学はどうかというと、ネット上で見かけたものでは、関西のある中堅的な大学では、キャンパス内の施設移転の計画を練りに練って、用地獲得の上、大学図書館が持っている資料、大学の構成員の要望も取り入れながら、資金積み立ても10年かけて行い、取りまとめ役の方によると、満足のいく形で新図書館への移転が進みそうとのことです*14

 

限られた日本の各大学の図書館では、これから、県立大のような問題は増えてくるでしょう。残るは、国外に引き取ってくれる研究機関があれば、どうにか話を繋げて、引き渡すルートくらいかな、と。日本に関する基礎的な文献を揃えにくいアジア地域の研究者の話では、需要はあるようです。私が知っているところでは、中国の地方にある国立大の日本学を研究する人たちは、やはり、日本の古典文学や思想、歴史に関する文献があると助かると言っていました*15

 

海外に引き取り手があっても、現場にマンパワーと時間がなければ、どうにもならんよなぁ~。どうしたらよいんだろう…。と考えはいますが、私には、これ以外のよい方法はありませんでした。

 

今回の件を一過性のものとはせず、大学図書館を持つ大学の上の人たちには、もっと、真剣にキャンパス移転と施設移転にともなう所蔵資料の問題について、対応方法の調査と処分に取り組んでください!と申し上げて、終わりにします。

 

おしまい!

 

4.高知県立大から調査報告や議事録の公開かありました('12.12.30、12時台の更新)

今のところ、今月の27日が最新の更新になっております。除却の経緯について、当ブログでは一応、リンクをお知らせします。

「高知県立大学等永国寺図書館の蔵書の除却について」(最終更新:'18.12.27) http://www.u-kochi.ac.jp/soshiki/1/oshirase1.html

 

<本記事と関係の深い記事>

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ブロトピ:今日の学問・教育情報

ブロトピ:ブログ更新しました

ブロトピ:読書に関するこんな記事 

*1:なお、このイベント内のブースでは、図書館に関するテーマ限定の同人誌即売会としょけっと – 図書館をたのしみたい人向け 同人即売会」が開かれるそうです。私は参加できませんが、ご都合の合う方は、ぜひ同人誌を作ったり、フリーペーパーを持参したりして、出展の参加されてみてはいかがでしょうか。二次募集があるかもしれません。公式Twitterはこちら:としょけっと (@tosyoket) | Twitter

*2:2018.08.17、08:45付、高知新聞。無料会員登録で全文、読めます。

*3:高知県立大学永国寺図書館の蔵書の除却について|重要なお知らせ - 高知県立大学ホームページ

*4:詳しく説明すると、

学校教育法に基づく、大学は「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的(第83条1項)」とし、「その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする(第83条2項)」高等教育機関で、異本的には「学部を置くことを常例」とし(第85条)、「大学の修業年限は、四年」(第87条)です。大学を卒業すると授与される学位は、学士です(第104条)。

専門職大学の創設に関する私見~キャリアの多様性における「学位」授与の重要性~ - なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

となります。

*5:昭和31年文部省令第28、最終更新:平成29年5月1日公布(昭和31年文部省令第28号)改正のもの。

*6:ちなみに、Twitterほかで挙がっている、ラーニング・コモンズの問題については、活用と騒音のテーマでは、同大学のリポジトリに「図書館のラーニングコモンズの活用と騒音課題」の論文が出ています。

*7:詳細はこちら:続・死後の人文学者の蔵書問題~「「先生の学問体系失った」 桑原武夫氏蔵書、無断廃棄」(京都新聞)を中心に~ - 仲見満月の研究室

*8:古書店として引き取った後に一ヶ月に1000冊を選定・処分することがあるらしい、です(高知大学蔵書の処分は適切だったのではないか|閻魔堂|note参照)。またよくいわれることに、非売品の本でも出版数自体が多ければ、市場価格は低いことが挙げられます。

*9:英国の演劇研究者の方が仰っていたことのほうが、分かりやすいです:http://ux.nu/jrQy1

 そのほか、電子化された資料には、サーバの容量の制限か、紙媒体の頃の一部の内容がカットされているケースがあるそうです。詳しくはこちら:http://ux.nu/1STCY

*10:なお、一次的な資料については、前回の拙記事で説明しました:

それから、古文書の保存については、紙の素材や記録に使われた墨といった、マテリアル的な部分も含めて、貴重な過去の資料とされることがありす。例えば、紙の素材と墨の成分を調べたら、どこから取り寄せた筆記用具で書かれ、高知の人たちはどこで材料を調達していたとか、分かることもあるでしょう。特に生活史や経済史の分野からいえば、保存するなら、デジタルデータと紙の資料は両方、とっておくべきかと。

蔵書や資料を納める施設の移転と引継問題~「高知県立大学で蔵書3万8000冊焼却 貴重な郷土本、絶版本多数」(高知新聞)~ - 仲見満月の研究室

*11:辞書や事典類について、例えば、日本史学専攻の人がよく利用している『国史大辞典』(『國史大辞典』、高知県立大焚書 知の機会奪う 職員「移行へダイ

エット」|高知新聞に見えます)は、閻魔堂さんの報告には、

燃やされた、とある「国史大辞典」も高知県立大学図書館が所蔵しており閲覧できるようになっているようです。現時点でも一般用が1セット、持ち出し禁となってるものが3セットあるようです。(高知県立大学の資料検検索システムリンクあり、高知大学蔵書の処分は適切だったのではないか|閻魔堂|note

とありました。「一般用が1セット、持ち出し禁となってるものが3セットある」という所蔵量や配架された位置については、利用者にとって最適か否か?という疑問は残りますが、合計4セットを残したところは、学習支援の視点からは現場が努力されたと私は考えました。

*12:看護関連の分野でも、私が知っている範囲では、文献学と関わりのある本草学、鍼灸を含む東洋の医学研究者であれば、また対応が変わっていたとは思います。うーん、今回の件は、高知県の他の公立大との統合の影響が出たのかな…。

*13:国立国会図書館を除き、今の日本の図書館が蔵書を減らさず、運営を続けるのは平常ではないと、自称・原現役の司書の方がツイートされています:http://ux.nu/mgX3X

*14:詳しくは、こちらに始まる連続ツイートをご覧ください:http://ux.nu/xuooO

*15:実際に、日本の文学研究者が某国立大を定年退職をする時、処分に困った膨大な本を、送料込みで中国の大学の図書館が引き受けてくれた話は、あるようです:http://ux.nu/ZZSKy

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