仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

「アカハラ相談をする時のポイント~学内のハラスメント相談室に持ち込んだ際に注意したこと~」(togetterまとめ)の補足

<本記事の内容>

1.togetterにまとめた経緯

フォロワーの水無月さんが過去にツイートされていらした、「学内のハラスメント相談室に持ち込んだ際に注意したこと」について、引用RTされていました。ちょうど、アカハラ相談を行う時の注意点について、知りたいと思っていたタイミングでしたので、許可を頂き、togetterにまとめさせて頂きました↓

togetter.com

 

カテゴリーを選択する際、学問のほうか、社会のほうか、迷いましたが、広く社会問題として認知して頂きたく思い、カテゴリーを「社会>法律」に選択しました。

 

本記事ではもう一度、私なりにアカハラの相談をハラスメント相談室にする時のポイントについて、コメントをさせて頂きたいと思います。

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2.「アカハラ相談をする時のポイント~学内のハラスメント相談室に持ち込んだ際に注意したこと~」へのコメント

今回のtogetterまとめについて、学内のハラスメント相談室にアカハラ案件を持ち込む時の手順と、ポイントを振り返ってみます。

 

  1. 専任職員宛にメールを出す。
  2. 相談室の閉室後に相談のメールを送る。
  3. 相談中に同じ研究室のメンバーが既に相談していることを知らない振りをして、カマをかける。
  4. 相談中、及びメールで他のアカハラなどの事例について、どんなことがありどういう風に対処されたのか聞く。

(アカハラ相談をする時のポイント~学内のハラスメント相談室に持ち込んだ際に注意したこと~ - Togetterまとめより引用)

 

まず、最も重要なのは、1の相談室に専任でいる職員宛てにメールを出すことです。もとのツイートには、「兼務している大学教員でなく」とあり、この点に気をつけるべき理由は、「所属研究院で以前アカハラを教員に相談したところ、話が教員同士の繋がりから漏れてしまい、握りつぶされた」ということが書かれています。カウンセリングルームや相談室の職員には守秘義務があるにも関わらず、話が教員同士のやり取りで漏れてしまうという事実は、アカハラを訴えるには非常にマズイです。書かれているとおり、「握りつぶされるから」です。以前の「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jpアカハラ発生の背景、そして「3-1.アカハラ問題は学内の大きい組織に報告すると共に、弁護士に相談しよう」に書いたように、訴えを握りつぶされると相談者が一方的に不利になり、その後のアクションが起こせなくなるどころか、被害がひどくなる危険があります。具体的には、次のような危険があります。

実際にアカハラがあったと訴える学生がいても、その訴えを聞くだけで、委員会側は何のアクションも起こさず、さらに訴えてきた学生を部局から排除することも有り得るということです。第1章の「アカハラ自殺」で紹介した日大の行動は、2人の自殺がアカハラによるものであった可能性を黙殺・隠蔽する意図があったと外部の人間に疑われても、おかしくないものでした。ほかに、このような「風通しの悪い」大学があれば、部局の委員会はアカハラを訴える学生を捕捉する方向にはたらいたとしても、不思議ではないでしょう。

 (「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp)

実際、指導教員による学生の放置および指導の放棄・拒否によるアカハラ - 仲見満月の研究室アカハラを受けた方は、アカハラをしている先生が「相談した部署から、部局内で権力のあるV先生に相談内容が漏れ伝わることを恐れて」いて、相談できなかったことがあったのです。

まず、相談する際には、専属の職員に相談の申し込みメールをするよう、気を付けましょう。そして、メールというところも重要です。文字で、送信時間の記録を残せる上、電話の録音に比べて、記録にノイズが入りにくいと考えられます。職員から返信メールが来たら、自分の送信した内容も含めて、PDFデータと共に紙にプリントアウトして保存しておくと証拠になります。

 

2のメールを送るタイミングを閉室後にするというのは、アカハラ相談室が真摯に対応してくれるか、という信頼度をはかる上で重要です。特にハラスメント対応というのは、時に心身ともに追い詰められている人の場合は一刻を争うケースがあります。先日更新した【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~ - 仲見満月の研究室の質問主の息子さんのケースも、早く対応しないといけないケースだと考えられます。水無月さんの場合、メール送信日の翌日の開室後15分後に返信が来たそうで、「対応は早く誠実な印象を受けた」とのことでした。

 

3のカマかけ、4の他のアカハラなどの事例についての対処法を尋ねることは、2を受けて、相談をしている職員が信頼できる人であるかを判断するためだと思われます。正直なところ、早期対応をしてくれる人か、守秘義務を守ってくれる人か、このあたりが非常に重要です。他のアカハラ事例への対処法を喋る人の場合は、イコール自分が相談していることも他の人にも漏らされてしまう危険があるわけです。水無月さんの場合、カマかけは「(良いことに空振りだった。)」で、4については「(コンプライアンス的に答えられないであろう質問をした。具体的には答えられないとの返答だった。)」ということだったそうです。

 

以上の1~4を受けて、水無月さんはこのハラスメント相談室の職員について、誠実で信頼できる人だと判断されたそうです。

 

 

3.まとめ

今回のtogetterまとめについて、改めて反応を見ると、水無月さんの書いておられるようなコツが相談するのにいるとは残念だなぁ、というものがありました。残念なんですが、これが今の日本の大学・大学院の相談室の現実です。

 

付け加えておくと、【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~ - 仲見満月の研究室の「3なぜ大学院の休学退学に指導教員の許可が必要な制度なのか」の鳥取大のケースでは、アカハラが起こって学生が相談した約2年後に「問題発覚と指導教員への処分が数年後になる可能性があること」が分かりました。

そういうわけで、「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jpの「3-1.アカハラ問題は学内の大きい組織に報告すると共に、弁護士に相談しよう」にも書いたように、窓口や相談室だけでなく、

アカハラにあったら、大学全体を仕切る組織の人権問題対策を司るところに行き、記録に残してもらうことを狙えばよいそうです。

次にすべきなのは、弁護士に相談することです。

(「アカハラ」からどう身を守る?学生・院生のためのメンタルヘルス対策 – メンヘラ.jp

ということをしましょう。大学全体を仕切る部署に言えば、記録に残すとともにハラスメントを行った教職員への処分を速やかに下せる可能性が高くなるでしょう。合わせて、法テラスでも、弁護士ドットコムでもいいので、弁護士に相談だけでもするようにいましょう。

 

以上、水無月さんのハラスメント相談室にアカハラ相談を持ち込む時の注意点まとめについての補足でした。

【2017.4.14_1010更新】院生を自分の意志だけで「休む・辞める」ことは難しい?!~日本の大学院の指導教員制度を中心に考えてみた~

<今回の目次>

  • 1.はじめに
  • 2.大学院でアカハラを受けた息子に関する質問(Yahoo!知恵袋より)を例に休学・退学について考える
  • 3.なぜ大学院の休学・退学に指導教員の許可が必要な制度なのか?
  • 4.まとめ

1.はじめに

今回は、13日の次の更新記事と関連する内容となります↓ 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

このレビュー記事で、私は「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』を読み、「ブラック」な研究業界にいる方々に向けて、最後に

そして、究極のところ、「辞める大学や院、学会や研究会がどうなっても知ったこっちゃねえよ」と、心身がギリギリ状態の人は、ドライになって辞めること。ポスドク助教、孤立している教授、准教授や常勤講師といった職業研究者、院生といった立場が弱い人たちは、他の研究機関や学術団体の人たちにも連絡をとり、仲間を一人でも増やして、辞められるように動くこと

『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』は「ブラック」な研究業界にも言える - 仲見満月の研究室

ということを言いました。その中の「仲間を一人でも増やして、辞められるように動くこと」 は、特に院生には重要な手段となってきます。それは、なぜか?

 

それは、大学院を院生が辞めるには、休学や退学に必要な書類には、指導教員の印鑑が要る場合が多く、指導教員との仲が良好でない場合、判子を押すことを拒否されたり、はぐらかされたりして、なかなか、院生の思うように休学・退学にこぎつけないことがあると思われるからです。

 

 

2.大学院でアカハラを受けた息子に関する質問(Yahoo!知恵袋より)を例に休学・退学について考える

レビュー記事の下書きをしていた際、日本の大学院では修士・博士課程とも、院生が休学・退学をする手続きでは、提出する書類に指導教員の承認を得たことを示すことが必要になってきます。この手続きについては、入学する前、日本の大学院は院志望者が大学教員に面会し、事前に研究室への受け入れを許可してもらった後、入学後に再度、指導教員を申請する書類に、受け入れ許可をした大学教員に署名や判子を押してもらい、正式に指導教員になってもらう、というシステムに日本では多くの大学でなっていると考えられるからです。つまり、休学・退学というのは、院生の入学後、大学教員が「私はこの院生について、大学院で責任を持って指導しますよ」ということを指導教員として書類の上で宣言しているわけで、受け持ちの院生が休む時も、辞める時にも、責任者である指導教員に相談・許可を取るという手続きが必要だというのは、当たり前のものとして設定されいると思われます。

 

このシステムは、例えばアカハラを受けた院生が休学・退学をしたい、または心身が追い詰められて生命の危機を迎えた状態で大学院を休む・辞める必要があるケースでは、スムーズに休学・退学の手続きをとる上で障壁となり得るのです。それは、次のツイートに含まれるYaHoo!知恵袋の質問から、分かります。

 

仲見満月@経歴「真っ白」博士‏ @naka3_3dsuki

退学や休学に必要な書類には、指導教員の印鑑が要る場合が多い。指導教員に押してもらえなければ、学歴上、汚点が残るのは事実*1。家族がアカハラ被害者で心身限界で動けないなら法廷で戦う、後の社会復帰のためにも。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

この質問主は、大学院に通う院生の息子の親御さんが2015年5月末に投稿したものと思われます。内容とまとめると、次のようになります。

  • 大学院で先生にアカハラを受けて、息子に自殺の意思があり、連れ帰った
  • 大学側は研究室の変更が可能と言うが、息子は研究室を変えても無理の模様

  →皆さんなら、どうするか?

質問主の方が息子さんから聞いたアカハラ内容は、

  • 質問した年に、1年生、2年生の時から博士になるといった段階からアカハラ、最初は鍛えるためと思っていたが違うようだ
  • いつも言われる言葉で、お前の顔を見るとイライラする、本当に俺を怒らせるのがうまいとか。言われたことを実行すると、そんなこと言った覚えがない、考えればわかるだろうバカなどなど、上げればきりがない。

というものであり、補足を読むと、

  • この先生の下で退学した人1人、自殺した1人
  • 息子は高校の時、日本一厳しい先生にしごかれインターハイ2度行き、精神的にはかなり鍛えられているはず、と思っていた
  • が、研究内容も厳しく毎日夜中の3時頃まで研究室に一人で閉じこもっていて、血圧も100-160、現在夜は眠れない状態になってしまった

このような追い詰められた息子について、

  1. 前期授業料支払わない。
  2. 入学金も返してもらう。
  3. 訴える。

という質問主が考えられ得る3つの選択肢のうち、質問主はどうすべきか?

(以上、大学院で先生にアカハラを受けて、息子が自殺しようとしたので連れて... - Yahoo!知恵袋より執筆者が再構成)

 

ツッコミを入れておくと、「お前の顔を見るとイライラする、本当に俺を怒らせるのがうまいとか。」等の先生からの言葉は、私が見ても明らかに暴言であり、受け続けた息子さんに対するアカハラです!

 f:id:nakami_midsuki:20170413223801j:plain

 

*1:あくまで、就職活動の視点から、「あまりよろしくない」という観点から「汚点」と書き方をしました。ご理解、下さい。 

続きを読む

『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』は「ブラック」な研究業界にも言える

<今回の内容>

  • 1.はじめに
  • 2.本書の内容と「ブラック」な研究業界のこと
    •  2-1.「第3章 がんばらない勇気」
    •  2-2.「第4章 自分の人生を生きるために」
    •  2-3.「第5章 世界は広いんです」
    •  2-4.「最終章 自分を犠牲にしてがんばりすぎちゃう人へ」
  • 3.最後に
  • <関連記事>

1.はじめに

今週頭に発売され、増刷が決定された本があります。本書のプロローグはTwitterで公開され、20万RTされるほどの共感を呼びました。出版後の反応は、即日重版決定! 『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(著・汐街コナ 監修・ゆうきゆう)反響まとめ #死ぬ辞め - Togetterまとめで、その凄まじさを知ることが出来、また、出版元のサイトでは特設ページが作られています↓

special.asa21.com

 

さて、Amazonの「ノンフィクション」本では、4月12日付けで3位になっていたのが、こちらの本書です↓

 

プロローグは、昔、デザイナーをしていた著者がその会社で「90~100時間」となっていた毎日のある夜に残業時間が終わり、毎晩そうしていたように終電を地下鉄の駅のホームで待っていたところから始まります。その日、著者は

 

「今一歩踏み出せば明日は会社に行かなくていい」

 

「一歩 たった一歩 それだけで」

 

「明日は会社に行かなくていい?!」

 

という思いが浮かび、ナレーションが「それは素晴らしいアイディアのように思えました」という言葉が重なります。そうこうしているうちに、電車が到着し、乗り込んだ著者は自分が危ない状態に陥っていたことに気づき、その後、縁故だろうが、なんだろうが、「めちゃくちゃ転職活動した」そうで、事務職に転職したことが本作の中盤で語られます。

 

プロローグの途中で、過労自殺の恐ろしいところは、他の人は「死ぬくらいなら辞めればいいのに」と思うのに対し、本人は「その程度の判断力すら失ってしまうのがブラックの恐ろしいところなのです」と指摘。ブラックな職場にいることで、精神的にボロボロで、生命より精神的に楽になるほうを選んでしまうかも…、といった危険が身に染みました。

 

最初、この本を手に取った時、テーマとしてなかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)にレビュー記事を公開しようと思いました。ですが、読み進めるうち、「ブラック」な研究業界にも同じことが言えるよね?ということに気づいたのです。

例えば、院生時代にいた研究室でのボス先生の研究会や学会の論文集の編集業務をしていた時、私は日付が変わった直後に自転車で川沿いの道を入っていた帰宅途中、「ああ、このまま、ガードレールに当たって川に落ちて溺れたら、明日はとりあえず、編集の仕事をしなくていいんだな」ということを考えていたことがありました。その思考は、本書のプロローグで著者が陥ったのと同レベルで危うかったでしょう。

(おまけに、学生のただ働きのことが多くて、残業代なんて入らなかった…)

 

そうは言っても、私は先輩方は黙々と業務をされているし、口に出して一人で断る訳にもいかなかったため、「科研費の出版部門に落ちたから、最終締め切りが延びました」という取りまとめ役の常勤講師の先生が院生部屋に来た時、研究室メンバーが集まっている真ん前で、ゴチーン!と自分の席のスチール製本棚の柱に頭突きをかましました。言葉で言えない私は「もう、自分はその仕事、できません!」と行動で示し、研究室のメンバーを無言にさせ、ボス先生が常勤講師の先生に院生にこれ以上、仕事をふらないように仰いました。これ以降、口実を見つけては「ごめんなさい」と感じつつ、資料調べのふりをして、雑務から逃げるようにしました。

 

こういう感じで、実は本書に書いてある「ブラック企業」の過労自殺の危険は、研究室での雑務を含み、研究会や学会への参加・事務局の仕事ほか、けっこう、研究業界についても同じように院生や職業研究者を心身の極限にまで追い込む危うさは、同じだと考えられます。

 

そういうわけで、今回は『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』をとおして、実は「ブラック」な研究業界のことを振り返り、これから研究業界との付き合い方を考えてみたいと思います。

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