仲見満月の研究室

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レポ「 #明石市立天文科学館 で藤村シシン講演会とヘラクレス冒険劇を楽しむ」~主にヘラクレスをめぐる星座論争 in #古代ギリシャプラネタリウム ~【 #FGO 関係】

<主に藤村シシン講演会「ヘルクレスをめぐる古代ギリシャの星座論争」の後編>

 4.前半までのお話~藤村シシン講演会のアルゴー号をめぐる星座論争~

本記事は、明石市立天文科学館で2020年2月8日に開催された「古代ギリシャプラネタリウム」のヘラクレスに関する星座の講演会&演劇のレポート記事の後半です。最初に前半の内容をポイントを挙げ、振り返っておこうと思います。

 

本シリーズの前半に当たる「アルゴー号をめぐる星座論争」編:

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レポ「 #明石市立天文科学館 で藤村シシン講演会とヘラクレス冒険劇を楽しむ」~ アルゴー船をめぐる星座論争 in #古代ギリシャプラネタリウム ~【 #FGO 関係】 - 仲見満月の研究室

では、古代ギリシャギリシャ神話研究家の藤村シシン先生の講演会のことで、アルゴー船にまつわる星座論争について、科学・神話・歴史の結びつきから語る講義のレポートをしました。

 

ヘラクレスも登場する黄金羊の毛皮を求めた冒険譚には、英雄たちが乗船した船が星座となったアルゴ座(現在は4つの星座になっている)が存在します。その星座に関して「どうして船の半分しか星座になっていないのか?」という論争が昔からなされていたそうです。そのクエスチョンを主軸に、藤村先生は、

  • 星座を作った人たちと、輸入した星座に付ける神話を作った人たちは違う
  • 星座を作り出したメソポタミアバビロニアと、それを輸入して神話を作った古代ギリシャとでは、歴史的に時代の差が大きい
  • 旧アルゴ座の作られた時代の船はフェニキア人の乗っていた船の頭が垂直のフォルムのものであり、それが旧アルゴ座のモデルとなった。
  • 時代が下り、船の形が変わった後、モデルの船の形を知らない後世の人々が「なぜ、あの船は尻の部分しかないのか?」と疑問に感じ、論争が起こった

 (レポ「 #明石市立天文科学館 で藤村シシン講演会とヘラクレス冒険劇を楽しむ」~ アルゴー船をめぐる星座論争 in #古代ギリシャプラネタリウム ~【 #FGO 関係】 - 仲見満月の研究室

といったことに重点を置いてお話をされました。 聞いていた私には、星座も後世の歴史を経て伝えられる道具や技術であり、後世の人たちがその事物に物語を作り上げる歴史的な過程を知れて、面白かったです。

 

この後編では、講演会部分の主題にある「ヘラクレスをめぐる星座論争」の講義部分をレポートした後、星座イベントの第2部に当たる冒険劇のコメントも少しまとめました。先におことわりとして、本シリーズ記事はTYPE-MOONが発売しているFate作品群に馴染みのある方に向けたものです。基本的に登場する人物名はFateシリーズでの呼称に沿ったものにしました。例えば、ヘラクレスの名前は、イベントチラシではヘルクレスと表記されていますが、Fateシリーズではヘラクレスと呼称されています。よって、本記事および続編の記事では「ヘラクレス」と呼ぶことに致しました。ただし、星座の「ヘルクレス座」については、日本での正式名が「ヘルクレス座」のようですので、この名前で通します。Fate作品群に登場しない人物については、原則として高校世界史Bの教科書に出てくる呼称を使うことに致します。ただし、講演や劇のタイトルにおける表記は、そのままとさせて頂きます。

 

もうひとつ、お願いがございます。正直に申し上げますと、お恥ずかしながら私はギリシャ神話のヘラクレスの話をあまり知りません(ヘラクレス冒険劇へのコメントが少ないのも、このため)。ヘラクレスは、自分が好きなFateシリーズの原点「stay night」から登場しているキャラクターなのに、今まで彼に関する神話や伝説をきちんと履修しないまま、ここまで来てしまいました。ですので、ヘラクレスにまつわるエピソードの説明が中途半端なところがあります。そこで、もし、彼の神話や伝説を知るのによい本や映像作品がありましたら、記事末にリンクした匿名メッセージサービスを通して教えて下さい!よろしくお願い致します。

 

それでは、ヘラクレスをめぐる星座論争のレポへ入りましょう!

 

 

5.ヘラクレスをめぐる星座論争~~藤村シシン講演会の後編~

 5-1.夏の夜空が舞台~後編の導入~

前半では、「2―3.牡牛座と牡羊座の話~ずれる春分の問題~」のところで、古代ギリシャは春が一年が始まることをお伝えしました。後半のヘラクレスをめぐる星座の話では、(日本の)夏の夜空が舞台となります。そこに浮かぶ「夏の星座」全体のイメージはこんな感じ↓ 

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(画像:夏の星座イラスト - No: 1129461/無料イラストなら「イラストAC」

 

ヘラクレスの星座論争では、この画像の中央やや東(右)あたりの

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と、その周辺のいつくかの星座が登場します。ヘラクレス座の北のりゅう座、西のこと座、南のへびつかい座について、シシン先生が触れられたので、少し頭の隅に置いておいてください。

  

 5-2.論題その1:「ひざまずく者」は誰なのか?~ヘラクレステセウスetc~

講演者は、現在では「ヘルクレス座」とされている星座について話をします。この星座は、その形状から「ひざまずく者」を意味する「エンゴナース」と呼ばれ、古来、様々な人物が当てはめられていきました。ヘラクレスも、「ひざまずく者」の候補者の一人でした。その理由は、りゅう座が「ひざまずく者」の近くにあり、その星座がヘラクレスの退治した竜であるとされたことです。

 

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 (イラスト:「ひざまずく者」とりゅう座、仲見満月が描いたもの)

 

「ひざまずく者」には、テセウスだという説もありました。「ひざまずく者」の近くには、こと座(琴座)があって、音楽の師匠を殴り殺すような荒々しいヘラクレスよりも、琴に優れたテセウスの可能性のほが高いというのが、その理由です。

 

このほか、「ひざまずく者」には、プロメテウスやアトラス等、たくさんの説がありました。

 

 5-3.論題その2:ヘラクレスはどの星座なのか?~へびつかい座、ふたご座etc~

「ひざまずく者」にヘラクレステセウスらを当てはめる一方で、「ヘラクレスがどの星座なのか?」という議論もあったんだとか。ヘラクレスが当てはめられる星座は、「ひざまずく者」以外にも候補が複数あって、その1つが、蛇を抱えたポーズのへびつかい座でした↓

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(イラスト:へびつかい座、仲見満月が描いたもの)
 

へびつかい座(蛇遣い座)は、現在ではギリシャ神話の有名な医者アスクレピオスの姿とされています。この医神はアポロン神の息子で、蘇生薬で死人をよみがえらせてしまったがゆえ、冥界神ハデスが抗議をし、ゼウスの雷霆に貫かれて死んだ人物とのこと。思わぬところで、FGOで最推しの名前が登場し、聞いていた私はリクライニングシートから体を起こしかけました。というのはともかくとして、「へびつかい座アスクレピオス」には否定説もあります。アスクレピオス像は、次のイラストのような姿をしていて、だいたいは、蛇の巻きついた杖を持っており、両手で蛇を直接かかえているわけではありません。

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(イラスト:アスクレピオス像、仲見満月が描いたもの)

この星座の人物に呈して、「へびつかい座の人物は、両手に抱えた蛇と戦っている人物ではないか?」と考える人がいました。そして、蛇を操っているのではなく、蛇と戦っているのであれば、この星座の人物はヘラクレスを表していると考える人もいたんだとか。私はヘラクレスのことを知らないので、『ギリシアローマ神話辞典』: 

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  • 作者:高津 春繁
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を大人しく捲り、10ページ超のヘラクレスの項目に「十二功業」を発見。その中に含まれるのが、複数の蛇の頭をもつ「レルネーのヒュドラ」を退治するエピソードです。ヘラクレスの力を試す目的で、ゼウスの正妻ヘラがヒュドラ飼い育て、ヒュドラはアーミューモーネーの泉の近くに棲み、平原に出ては家畜や土地を荒らす。ヘラクレスは甥のイーオーラスに戦車を操縦させ、火を使ってヒュドラをおびき出し、「真ん中の蛇の頭は不死で、それ以外の頭は潰すと増えて生える」ことを考え、苦闘の末、近隣の森に放った火の燃木で増殖して生える蛇頭の根っこを焼き潰し、不死の頭は切り落として埋めることにしました。切り裂いたヒュドラの内臓に矢を浸し、毒矢を作ったとされています。

 

ざっと辞典の記述を読んだ後、私は「ヒュドラへびつかい座の蛇に当たるのか?」と考えました。しかし、ネットで検索したところ、この物語のヒュドラは後にみずへび座になったとされ、「それでは、別の冒険でヘラクレスが倒した蛇やそれに類する怪物が、へびつかい座の蛇なのか?」と思考をめぐらしましたが、適当な答えは見つかりませんでした。

 

ほか、ヘラクレスが当てはめられる星座には、ふたご座があるそうです。シシン先生曰く、ふたご座の双子にはカストルポルックス以外に、ヘラクレスアポロンだという考え存在しました。つまるところ、夏の夜空には、「「ひざまずく者」がヘラクレスだ」とか、「いいや、へびつかい座の蛇をかかえるような人物こそ、ヘラクレスだ」とか、人々がそれぞれ、ヘラクレスだと考える星座がいっぱいあったことになります。

 

 5-4.ヘラクレスをめぐる星座論争まとめ

藤村先生が仰るところでは、古代ギリシャヘラクレスといえば、個人個人が別々の星座を指して呼んでいました。Aさんがヘラクレスだと認識する星座は、Bさんにとってはヘラクレスではなかったということです。こうした話は他の星座についても同様であり、古代ギリシャには1つの星座に様々な説があり、また否定説も沢山ありました。

 

古代ギリシャにあった様々な説をまとめ、整理したのがアルゴ座の星座論争でも登場した、2世紀の天文学者プトレマイオスだったのです。

 

古代で星座を使うのは、航海で船の進む方向を知るくらい目的だったため、星座1つに様々な考え方があっても問題はありませんでした。しかし、時代が下るにつれて天文学が発達し、学術的な議論のため、星座に対する認識や考え方を統一し、一緒にみんなで話せる必要が出てきました。つまり、プトレマイオスが星座の話をまとめたのは、天文学の議論を大勢の人たちとする必要に迫られていた背景があったんですね。

 

 

6.藤村シシン講演会「ヘルクレスをめぐる古代ギリシャの星座論争」の全体まとめ

講演会の最後、藤村シシン先生はアルゴー船やヘラクレスをめぐる星座論争のしめくくりとして、星座の歴史から、人々の生活や天文学の議論をしたいという欲求の変化が分かってくると仰いました。また、星座をかえることはできなくとも、古代ギリシャの人々のように、星座にまつわる物語をカスタマイズすることはできるとも。

 

「先人たちのように、令和の日本で暮らす人たちにも、新しい星座を作ってもらいたい。地上の人々が、その時代にどういった考えを持っていたのか、分かるから」。その言葉で講演会は終わりました。

 

 

7.演劇「ヘルクレスの冒険」について

 7-1.設定やあらすじ

古代ギリシャプラネタリウムの第2部は、演劇「ヘルクレスの冒険」 の上演です。ストーリーは、添乗員のいる宇宙船に観客たちが乗り込み、古代ギリシャにタイムスリップし、ヘラクレスの誕生に立ち会う場面から始まります。ゼウスが手を出した女性アルクメネに何度も呼びかけ、彼女が生んだ男児が後のヘラクレスなのですが、それに気づいた正妻の女神ヘラが(成長した)ヘラクレスに試練を課す。ここまでが、導入部です。

 

今回の冒険では、「十二功業」のうち、「ネメアのライオン」と「レルネーのヒュドラ」のそれぞれを退治する2つのエピソードが取り上げられました。「ネメアのライオン」を退治するエピソードは、『ギリシアローマ神話辞典』によると、ネメアの谷に棲む怪物ライオンは近隣の人や家畜を襲う獣であり、その近くを通りかかったヘラクレスが猛獣を退治するというもの。彼は弓矢、棍棒を使い、2つの穴の入口のある洞穴に逃げ込んだ獅子と激闘の末、殺して肩に担ぎ、ミュケーナイまで持って帰りました。演劇では、ヒュドラ退治の物語と繋げるためか、甥っ子役の俳優にもライオン退治で演じる役を与え、2つの冒険が繋がるように演出されていたと思います。

 

 7-2.感想や気づき

ヘラクレスのことを知らない私は、導入部のヘラクレス誕生のシーンで緊張していました。ストーリーが進むにつれ、アルクメネたちが「アナと雪の女王」のテーマソングを歌ったり、(ヘラが差し向けたらしき)緑のヒュドラの登場シーンでは(出演者が劇を盛り上げるため)観客にロックバンドのQueenの「ROCK YOU!」をBGMに手拍子をするように促したり、ギリシャ神話を知らない人でも楽しめる工夫がありました。観客には親子連れの方も多く、子どもが楽しめる演出でした。

 

会場ホール中央には、ドーム型の天井に夜空を映し出すプロジェクターが設置されており、上演中は、その周囲がステージになりました。プロジェクターを中心に役者がぐるぐる走り回り、360度、どの角度での観客席からでも作品を楽しめるようにされていました。

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 (画像:プロジェクターを背景に、観客席にの写真撮影に向き合う出演者の皆さま)

 

 7-3.アフタートーク~主にかに座の話~

上演終了後、シシン先生によるアフタートークの時間が設けられ、主にヒュドラ退治の応援側で登場したカニのことが語られました。ヒュドラのサポートでカニは出て来たものの、ヘラクレスに踏みつぶされてしまい、すぐに退場したんだとか。カニは死後に星座に引き上げられ、かに座になりました。

 

その後、デュオ二ソスらがロバを夜空に引き上げたのだが、その位置はかに座の上に重なる位置。かに座は星座になってからも、踏まれ続けたのでした。ちょっと、私は可愛そうに感じてます…。

 

 

8.今回の古代ギリシャプラネタリウム全体のまとめ

藤村シシン先生の講演会と演劇まで、だいたい、見て聞いてきた内容のレポートは書き尽くしました。最後に、今回の星座イベント全体を通して、気づいたことを記しておきます。

 

講演会という名のレクチャーで、相変わらず、シシン先生はご自身が楽しく、気持ちよさそうに喋っていらっしゃったのが印象的でした(始終、ニコニコされていた)。休憩時間、劇終了後に、出待ちの人たちが大勢!プログラムが全部終わった後、天文科学館のスタッフの方の案内で待機列ができるほどで、人気のある方なんだと実感しました。

 

会場の明石市立天文科学館は、「日本標準時の基準となる東経135度子午線」の通る明石市にあり、前から行って見学してみたい場所でした。星座イベントの休憩時間中、売店に行って「軌道星隊シゴセンジャ―」なるキャラクターのグッズを見つけ、頭に疑問符を浮かべた私は、思わずクリアファイルを買ってしまいましたし、何やら、館長さんも面白そうな方だそうで。

電車の乗り間違えで、到着がギリギリだった私に職員の皆さんが親切に案内をしてくださり、この場で改めてお礼申し上げます。 今度は、ゆっくり見学したいな~。

www.am12.jp

明石市立天文科学館

 

そうそう、明石市立天文科学館の売店といえばもう一つ買ってよかったものには、季節ごとの星座クリアファイルがあります。私が買った「夏の星座」のクリアファイルは、夏の夜に出ている星座をパッと確認するのに便利で、本記事に載せた星座のイラストを描くのに参考にしました。Fateシリーズのギリシャ系サーヴァントが好きな人にとっては、夏の星座だと

など、登場キャラクターの星座が載っていて、推しグッズになるのではないでしょうか?FGOアスクレピオスが最推しの私は、夏の星座のを買いました。オリオンが好きな方には、「冬の星座」のクリアファイルがよいかもしれません。

 

古代ギリシャプラネタリウムのイベント全体のまとめは、こんな感じ。今回、参加された方によると、明石市のほか、兵庫県内にはギリシャ神話がモチーフの展示や、モニュメントがある自治体があるそうです。相変わらず私は多忙ではありますが、時間を見つけて足を運べたら楽しそうだと思いました。

 

さて、そろそろ、PCのキ―ボードを叩く手を止めることにします。もし、今回のシリーズ記事のことで、ご指摘やご感想、ギリシャ神話、古代ギリシャの関連で、おすすめの本や映像作品がありましたら、次の匿名メッセージが投稿できるサービスで教えてください:

marshmallow-qa.com

 

おしまい!

 

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