仲見満月の研究室

元人文学系、現・文理総合学系の「真っ白」博士が大学院とその周辺問題を考える

【2017.3.26追記】アメリカでの就職と修士号~「就職に最も役立つ/役立たない修士号」ベストandワースト10 ~

〈今回の記事の目次〉

 0.はじめに

先日、新自由主義に基づく経済政策が、アメリカ国民の「いのち」に危機をもたらすことを伝えた『ルポ 貧困大国アメリカ』(堤未果、岩波新書、2008年)をレビューしました: 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

 

この本の教育に関する章では、学資の借金をして大学に通っても賃金の低い就職先しか見つからない現実が書かれています。著者の堤氏がインタビューした院生の一人・ジェフェリー・クラインは学士号を取得してから一年間、就職活動をしたが、四年制の大学を出た彼には賃金の安い仕事ばかりしかなかった。面接官の一人が言った「せめて大学院さえ出ていればねえ」という言葉を鵜呑みにした彼は、思い切って大学院に入学。修士号を取得して就職活動するものの、アメリカは経験がないと採用されず、専門の政治学の分野では仕事がみつかりませんでした。新卒扱いでもいいからと志望先に頼み込むと、学歴が高すぎて断られました。クラインは結局、大手文具店のフロア・マネジャーとして勤務しつつ、以前の3倍にも膨れた学資ローンの返済に追われているそうです。

 

この学生のように、アメリカでは志望する業界に関係する分野の大学院へ通い、修士号を取得して就職活動したけれど採用が決まらず、今はファーストフード店や雑貨店の店員をしている人も多いという話は、この本の中の話だけではありません。Twitter、アメリカの大学院にいる日本人の留学生ブログ等で、時々、目にすることがあります。ひとくちに修士号といっても様々な分野のものがあり、どの修士号が就職に役立つのか?というデータを、私は探していました。

 

オンライン上のニュースを閲覧していたところ、アメリカの有力経済紙『Forbes』(毎年、世界各国の長者番付を発表している)の日本版サイトに、下の記事が掲載されたのを見つけました。

「就職に最も役立つ/役立たない修士号」ベスト&ワースト10 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

そこで、本記事では、『Forbes』日本版の記事とランキングをもとに、アメリカで就職に最も役立つ、役立たない修士号について、見ていきたいと思います

 

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1.ランキングの算出について

このランキングは、記事によると『Forbes』が、「人気の高い45の修士号に関して実施している「キャリアの中間評価データ」を調査」、各修士号に関連する仕事について、「米労働統計局による推定雇用増加率も考慮に入れてランキングを作成」したそうです。具体的にランキングから分かることは、学位取得者にとって「どの分野が(有形・無形を問わず)最高の条件を保証するのか」ということです。

 

記事を読んでいくと、各修士号に関係する職の雇用増加数に言及されており、まさに、職に就いて収入を得て生活していくために役立つ/役立たない、という観点からのみ、ドライにデータが算出されていることが伺えます。純粋に「就職するには持っておいたほうが有利な修士号はどれか」と知りたい人にとっては、信頼できるランキングでしょう。

 

 

2. 「就職に最も役立つ修士号トップ10」は理系分野の修士号が占める

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(ランキング出典:http://forbesjapan.com/articles/detail/13256/2/1/1

 

まず、役立つ修士号のほうを見ていきましょう。一言にまとめるなら、理系分野、もしくは「文系の中の理系」と言ってもいいような分野の修士号だらけ。学問の名前を見ていくと、いくつかの分野にまたがる分野もありそうなものの、おおむね医療系、統計学系、IT・工学系の3つに分けられそうです。各分野の雇用増加率、やりがいに関する分析は、上のリンクから元の記事をご覧いただくとして、ここで少し、素人の私なりに考えたことを書きます。

 

まず、医療系に関するものは、「3.音声言語病理学」、「4.コミュニケーションサイエンス&言語聴覚障害学」、「5.理学療法」、「8.準医師資格」、「9.作業療法」です。さらに分かると、前2つの言語系、後ろ3つの「○○療法・準医師資格」の医療系となります。言語学は、文系分野の中でも音声データの分析、実験データを扱い、さらにプログラミングともつながってくるため、「文系の中の理系」と言える学問です。脳に関する障害や病気と関わってくる面を持ち、医療の分野とも結びつきやすいと考えられます。日本でもそうですが、やはり、アメリカでも医療系の修士号は就職に強いのかと。

 

次の統計学系は、「1.生物統計学」と「2.統計学」の2つです。もとの記事によると、生物統計学のほうは、統計の分野で働く人々は「データの収集・分析や、ビジネス、工学、医療やその他の分野における現実の問題を解決するのに、統計的手法を役立てている」とのことで、幅広い分野に応用が利くのがランキング1位に入った理由だと考えられます。2位の統計学は、さまざまな分野での応用が利くのかと。

 

3つ目のIT・工学系は、「6.経営情報システム」、「7.コンピューターサイエンス」、「10.ソフトウェアエンジニアリング」の3つ。統計学系とも関係してくると思いますが、現代社会はPCをはじめ、数々のコンピュータによって算出されたデータを利用し、それらが様々なビジネスを成り立たせています。そのソフト面、ハード面を両方支えているのが、IT・工学系の分野であり、我々の生活にはなくてはならない存在と言ってよいでしょう。この分野を学ぶことは、日常的に役に立つということが見えやすいのも、就職に有利な要素だと思われます。

 

以上、役立つ修士号の中身について、素人なりに見解をつけてみました。これらは、理系分野の中でも、現代社会を送る我々を支えるという意味で、実学的だとも言えそうです。

 

 

3.「就職に最も役立たない修士号ワースト10」には文系分野の修士号が目立つ

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(ランキング出典:http://forbesjapan.com/articles/detail/13256/2/1/1

 

こちらを見ていると、非常に頭が痛い…。それは、本ブログで扱うテーマの1つ・文系大学院生の就職の話題とも関係しており、10位の建築学を除いて、ほぼすべてが文系と言える分野の修士号です。それでは、コメントしていきましょう。

 

まず、「1.刑事司法」。訴訟社会のアメリカはよく知りませんが、日本なら法律関係の学問として見ると、司法関係の職業、企業の法律関係を管理する仕事等、人文科学系に比べれば、まだまだ就職がありそうなイメージです。が、刑事司法という狭い分野に限ってしまったことで、雇用先が限られてしまっているのかと思います。

 

「2.スポーツマネジメント」は、すそ野が広く、様々な分野から採用試験を受けてくる人がいるようで、職を得るという面では、非常に競争率が高くなると考えられます。

 

「3.建設管理」に関しては、携わっておられる方々には申し訳ないのですが、こういう学問分野があるということを、初めて知りました。まったく知らないので、コメントできません。今後、勉強致します。

 

「4.図書館情報学」は、アメリカの大学でこの分野の修士号を取得した日本人の先生に聞いたところ、ほかに専門の学位を持っていて、はじめて就職できるというほど、図書館員にはダブル以上のマスターの人がいるそうです。日本の図書館員は、地方の公務員試験だと、司書という専門資格がなくても、採用され、公立図書館に配属されれば、なれます。おまけに、図書館員になっても、専門分野に特化した図書館でない限り、特殊な専門知識や技術を求められることは少ないです。それに対し、アメリカの図書館員になるには、図書館情報学を含む図書館学に加え、それとは別の専門分野が求められることが条件としてあるそうです。先の日本人の先生は、国際関係学で専門学位を取得し、短期間ですが、アメリカの図書館に勤務していたとのことでした。このように、日本とは異なった意味で、アメリカでは図書館員になることが難しいのです。

 

「5.ジャーナリズム」は元の記事によると、2位から5位の中で「キャリア中間点での平均年収が7万5,000ドルを超えた修士号はジャーナリズムのみ」だったことから、就職できると、給与は比較的多いようです。この分野は、政治、経済、国際情勢といった情報を伝えるため、実用的な手法や見方を扱うと考えられます。ちなみに、私の日本人の先輩には、国際関係学で修士号を取った後、通信社で記者となった方もおられます。そういう意味では、トップ4よりは需要があるのかもしれません。

 

「6.美術史」に関しては、正直、意外でした。もっと、このランキングの上位に入っているかと思ったのです。美術史は、美術館の学芸員(キュレーター)、大学や研究機関のほか、修復方面の知識と技術があれば、技術の腕で職を見つけることができるでしょう。腕があれば、フリーランスのキュレーターとして、美術館と組んで企画展を行う人たちもいるそうで、個人的な実力が問われるところでもあります。

 

「7.税務」と「8.初等教育」については、アメリカの状況が分からないので、詳しくはコメントできません。今後、勉強致します。

 

「9.神学」は、アメリカではキリスト教に関する職業の司祭、牧師等の宗教職に就くということでしょう。日本の寺社と同じように、おそらく独自の養成法、就職ネットワーク等があると思われます。が、これ以上は詳しくないので、コメントはできません。また、調べます。

 

「10.建築学」は、建築史やデザイン等の文系・芸術系とも接する理系分野です。建築士としてやっていくなら、建築に関する知識に加え、大きな建築コンペティションに出て、大きな賞を受ける等、設計の腕と仕事をサポートしてくれる人間関係を作るという意味で、自分の実力が問われます。そこは、「6.美術史」と重なってくると思われます。

 

 

以上、就職に役立たないワースト・ランキングを見てきました。コメントした修士号の職業を振り返ると、文系の中でも実用性があり、かつ個人の実力次第で就職がしやすいものがランクインしていると考えられます。また、トップにきているものには、就職の競争率が高かったり、別の専門分野においても学位が求められたりすると思いました。

 

 

4.まとめ

最後に「就職に最も役立つ/役立たない修士号」のベスト&ワーストのトップ10を比較します。改めて両者を見てみると、理系でも文系でも、現代社会で我々が生きていくのを支えるという面において、実用性の高い分野の修士号を持っていると、就職しやすい傾向はあると言えます。加えて、「就職に最も役立つ」ベスト10にランクインした修士号よりも、「役立たない修士号」ワースト10にランクインしたのほうが文系分野の修士号が目立ち、やはりアメリカでも文系の修士号は就職に厳しいという印象を受けました。

 

今回は、『Forbes』日本版の記事をもとに、アメリカにおける「就職に最も役立つ/役立たない修士号」について眺め、コメントできものにはコメントし、私なりに分析を行いました。引き続き、今度は日本における同様のランキングや統計データを探していきたいと思います。

 

 

(2017.3.26追記)アメリカの大学院へ留学を考えている方へ

政治学・歴史学の研究者である岡崎匡史氏は、院生時代、アメリカの大学院に留学していた時の体験を次の本にまとめておられます。

 

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